勇還のラストリゾート 本編・プロローグ
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236:勇還のラストリゾート 魔島への闘志
国王の依頼を果たせるのか!?
プロローグ
目的は捕まってしまった勇者の救出と、魔王側との全面戦争を回避すること……。
「元々は王族がバカンスのために使っていた島のようだが、今はその面影もないな……。よし、俺達はここでアンタらの帰還を待つとしよう。何かあったら使いを寄越してくれ。全面的に協力するかンな。つーわけで……検討を祈るぜ、渡り鳥商隊ご一行!」
レグナスの言葉を背に受け、フィナは改めて気合いを入れ直し、***を含む仲間達と共に島への一歩を踏み出した!
「思った以上に邪悪な気配が満ちていますね。ご覧ください、お嬢様。私のハート型の心がプルプルと脈打っております。これは、この地が危険であることの何よりの証拠……!」
「同意するぜ。見てくれ、お嬢。俺の内臓筋もさっきから小刻みに痙攣してやがる。こりゃ間違いなく、やばいことが起こるぜ」
「……クレマ、ピベリー。できれば視認できるものを探知機代わりにしてほしいな」
テンションが全く変わらない二人に、不安感と安心感を同時に覚えるフィナ。すると、その時……。
「ッ!みんな、気を付けて。囲まれてるみたい……」
周囲にある木々の内側から漂う、複数の獣の視線。それらはフィナ達を敵対勢力と認識すると、一斉に姿を現した。
「グルラァ……ッ!島に上陸した人間は全て排除せよとの命令だ……。魔王殿に刃向う愚人どもよ、覚悟するがいい。貴様らの旅路は、このルーヴの牙によって断たれる運命にあるのだッ!!」
フィナ達を囲む獣の群れ。そのリーダーらしき者は、なんと人語を口にしていた。
「……じ、人語を理解する魔物なんて聞いたことがないわ。かなり高度な知性を持っているみたいね」
「グルラァ……ッ!口を閉じろ、小さき人間よ。我々はこことは異なる世界より召喚された、誇り高き魔獣の一族!矮小な生命力しか持たぬ人間に知性を言及される謂れはない。身分を弁えよ!」
勝利を確信した笑顔で、フィナは指笛を吹いた。すると……フィナ達から一定の距離を置いて移動していた数十人ほどの護衛隊達がすぐにかけつけ、フィナ達を囲んでいた獣達を囲んだ。
「グルァ……ッ!?別働隊を仕込んでいたとは、なかなかの策士……。いいだろう、相手にとっては不足はない!かかれ、誇り高き魔獣達よ!」
野太い声と共に、周囲の魔獣達が一斉に戦闘態勢に入る。それを確認したフィナ達と護衛隊達も、迎撃態勢に入る。
「みんな!敵味方、どちらに犠牲を出しても和平への道は潰えてしまうわ!だから……契約通り、命を奪うのも、奪われるのもナシよ!これは戦争ではないのだから!」
敵の命を奪わず、撃退と無力化のみを許す……。戦いの渦中ではかなりの難題ではあるが、フィナはそれができる実力を兼ね揃えた傭兵達を、あらかじめ掻き集めていたのだった。
「お父上と同じく、無血での戦いを為そうというわけですね。その慈愛溢れる想いを現実にするため……お嬢様、私も力を貸しましょう!行きますよ、ピベリーさん!」
「おうよ!マッスルパワーフルスロットルでムキムキに暴れるぜェ!!」
>>無力化する<<
ランキングに関係なく、一定数の【兌換メダル】を集めると役立つアイテムが貰えるみたいね!
どんなお客さんが相手でも、怯えたりしないんだから!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるんだって!
大きな島を旅するんだもの。「土地力」も自ずと溜まっていくはずよ!
商隊の皆と協力すれば、怖いものなんてないわ!
旅商人に相応しい姿になれるといいんだけど……。
強い敵を倒せば多くの【兌換メダル】貰えるみたいね。 敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるわ。積極的に活用していきましょ!
クエスト?
ふぅん、なかなか面白そうね……!
使命を果たす
暗刃買収バトル
作戦が上手く嵌り、魔獣達を撃退することに成功したフィナ達。しかし、フィナは一つ気掛かりがあるようだ。
「『我々はこことは異なる世界より召喚された』って、あの魔獣言ってたよね。口ぶりからして、召喚したのは魔王側だとは思うけど」
「そうですね。だとすると、魔王かその仲間に召喚術を使う者がいると考えるのが妥当かと。となると、勇者様が戻らないのも合点がいくかもしれません」
「……?クレマ、それってどういうこと?」
フィナの疑問を受け、魔術に精通しているクレマが見解を述べる。
「勇者様は卓越した戦闘能力だけでなく、精霊や妖精といった存在の加護をその身にいくつも宿しております。それゆえに、あのお方は“この世界”において無類の強さをほこっている。ですが、異界の存在が干渉しているとなれば話は別です」
その見解を聞き、フィナは一つの結論に辿り着く。
「“この世界の加護”では、異界から召喚された者の攻撃を防ぐことができなかった……。ゆえに、勇者様は敵の掌中に落ちてしまった可能性がある、ということ?」
「左様でございます。が、数百とある勇者様の加護を掻い潜るのは、いかに異界の者といえど困難。よっぽど強力な存在が勇者様の前に立ち塞がったか、或いは魔王自体にそれだけの力があるのか……。どのみち、勇者様は敵の手に落ちたとみて間違いないでしょう」
「……!じゃあ、もしかしたら勇者様はもう……」
「いいえ。先ほど申し上げた通り、勇者様は多くの精霊の加護をその身に宿しております。仮に勇者様が命を落としていたとしたら、誰でも感知できるほどに大地がざわめいているはず。それがないということは、勇者様は間違いなく生きているということです」
クレマはフィナを安心させるためではなく、ただ純粋に事実を述べているだけ……ゆえに、フィナはその言葉をすんなりと受け入れることができた。
「わかったわ。とにかく、まずは手掛かりを見つけないとね。予定通り、護衛隊の人達にも協力してもらって、手分けして島を探索しましょう。私達は北の方を探るわ」
こうして、フィナ、***、クレマ、ピベリー。そして護衛隊の精鋭達は、国王から受け取った島の地図を持っているフィナを中心に、薄暗い密林の中へと足を踏み入れていくのだった。
「ッ!?俺の胸鎖乳突筋がピクついてる……?おい、そこにいるのは誰だ!?出てきやがれ!」
そして、森に入って数時間が経過した時。ピベリーの筋肉探知機が一人の人影を捉える。
「……意味不明。けど、見つかってしまったのなら仕方がない」
すると、森の奥から一人の小柄な少女が姿を現した。少女は有無を言わさずナイフを抜き、戦闘態勢に入る。
「私はニーナ。話は聞かせてもらった。オマエ達は勇者の仲間。そして、私は勇者を暗殺するために送り込まれた者。ならば、オマエ達は敵。敵は倒す。全てはお金のために。お覚悟」
「…………。あ、えっと。暗殺者さん、なんだ?ちなみに、誰に雇われたの?」
……突然の展開に、フィナは苦笑しながら暗殺者を名乗る少女に声を掛ける。
「依頼人は、かつて勇者に壊滅させられた盗掘団のリーダー。報酬額がものすごく高かったから、私は彼の依頼を引き受けてこの島に来た。が、途中で勇者を見失い、途方に暮れていたらオマエ達が現れた……しかし、仕事には守秘義務がある。依頼人のことも私のことも、これ以上話すことはできない」
「……ほぼ全部喋ってるね。でも、私達はあなたと争う気はないわ。というより、私達より早くこの島に着いていたのなら、色々情報を持っている可能性があるわね。今はとにかく手掛かりが欲しいわけだし……」
フィナは仲間達を納得させると、改めて暗殺者と向き合う。
「ニーナさん。あなたの目当てはお金なのよね?なら、その盗掘団のリーダーが提示した額の三倍の報酬を払うわ。だから、その依頼を取り消して、代わりに情報をくれない?」
「…………。私は誇り高き暗殺者ニーナ。依頼人から請け負った仕事は必ず果たす女」
「んー。その依頼者の盗掘団のリーダーって多分、ディロって名前よね?あの人、一ヶ月前に騎士団に捕えられたから、報酬は払えないと思うけど」
「え、ウソ!?あっ。じゃなくて……で、でも、その。暗殺者としての、あの、えっと……」
これはもう一息かな……。そう判断したフィナは、微笑を浮かべながら暗殺者の買収を試みるのだった。
買収開始
空腹解消バトル
交渉の末、フィナは暗殺者ニーナを陥落させ、仲間に引き込むことに成功した。そして、フィナは凄まじい額の前金を支払ったあと、うっとりと目を輝かせるニーナに情報を求める。
「先ほど伝えた通り、私は勇者を暗殺するためにこの島にやって来た。そして、野営中の勇者をこっそり仕留めようとした。けど……勇者には一人、仲間がいた。そいつが周囲を警戒していたせいで、私は近づくことすら叶わなかった」
「……仲間?勇者様は一人でここを訪れたわけじゃないの?」
「うん。見た感じ、単純な強さだけなら勇者に勝るとも劣らないぐらいの使い手だったと思う。聞き耳を立てていた限りでは、師弟関係っていう雰囲気だった」
そんなニーナの言葉に、スクワット中のピベリーが首をかしげる。
「そういや、勇者様は新たな人材の育成に力を入れてたな。自分にもしものことがあったら王国がマズイから、戦士をスカウトしたり、騎士達に直に稽古をつけたりさ。んで最近、やたらと強い戦士を一人連れ歩いてたんだとか」
「そう、なんだ。じゃあ、ニーナの話が正しければ、その人はまだこの島にいる可能性が大きいってことね。もし魔王側の手に落ちていないのなら、なんとかして合流したいけど……。ニーナ、とりあえずその人と勇者様が野営していた場所まで案内してもらえる?」
快く頷いたニーナはグループの先頭に立ち、慣れた足取りでフィナ達を森の奥へと案内した。すると……
「……!何かいるわ。皆、注意して!」
突然、周囲をビリビリと振動させるほどの重低音が森の奥から聴こえてくる。しかも、その音は物凄い速さでこちらに近づいてきていた。
隠れている暇は……ない。フィナはすぐに仲間達に号令を出し、敵の奇襲に備える。
「…………。人間か?ああ、人間のようだ。しかも王国騎士がいるということは、勇者殿の救助に訪れたといったところだろうか。そうであると助かるのだが」
パンをかじりながら現れたのは、槍を持った傭兵らしき一人の女性。そして、彼女こそニーナの言っていた“勇者の弟子”のようだ。見たところ、怪我などはしてないようだが……。
「初めまして。私、国王の命令で勇者様を救出しに来た旅商人のフィナって言うの。あなたは……?」
「ああ、申し遅れた。自分はイヴリークという者だ。勇者殿の付き人兼弟子として、国王から魔王を制圧する任を授かった勇者様にお供を……していたの、だが…………ぐふっ」
「……!ち、ちょっと!?大丈夫!?」
パンをかじり終えたイヴリークは、言葉の途中で地面に倒れてしまった。同時に、先ほどの大きな重低音がイヴリークの腹部から鳴り響いた。どうやらこれは魔物の鳴き声ではなく、彼女の腹の虫だったようだ。
「……すまない、が……食糧を分けて、頂けないだろうか……。魔族との戦闘中に、非常食を獣に奪われてしまって……さっきのパンが、最後の食糧だったのだ。そして、下手をすると最期の晩餐に……」
「わ、わかったわ。クレマ、私の食糧を彼女に」
承知致しました……と頷き、クレマはイヴリークに干し肉とパンと水を分け与えた。すると、イヴリークの顔色はみるみると回復していく。
「ああ、助かった。あなた達は命の恩人だ。ぜひ、しっかりとお礼をしたいところだが、今はこちらの現状、を……伝えるの、が……先…………ぐふっ」
「わあっ!?ま、また!?」
腹の虫と共に、イヴリークは再び地面にバタンと倒れた。
「……ぐっ。勇者殿にも、よく呆れられるのだが……自分は、信じられないほどに……燃費が悪くてな……ああ、ダメだ……あと十秒も、もちそうに……ない」
真っ青になっていくイヴリークの顔色。このままだと本当に餓死してしまいそうだ……。
「食べ続けないと死んじゃうとか、そんなモグラみたいな……じゃ、なくて!ク、クレマ、とにかくありったけの食糧をこの人にあげて!なんなら、馬車の中にある食糧をぜんぶ渡してもいいわ!」
とにかく死なせるワケにはいかない……!その一心で、フィナは腹ぺこ戦士に食糧を与えるのだった。
食糧を与える
急襲砕人バトル
結局、イヴリークはフィナ達が積んでいた食糧の四分の三をたいらげてしまった。
「貴殿達は命の恩人だ。自分で力になれることがあるならば、力を貸そう」
イヴリークの話によると、勇者は「期日になっても私が戻らなかったら、危機を伝えに王国に戻れ」と彼女に言い残し、単身で魔王のいるアジトへと乗り込んでいったようだ。
そして、期日を迎えたイヴリークは勇者の言葉に従い、乗って来た船へ戻ろうとした。が、道中で魔王の部下や魔獣に襲われ、撃退することは叶ったものの、空腹で死にかけていた……そんな時にフィナ達と出会った、ということらしい。
「事の経緯はわかったわ、イヴリークさん。ということは、あなたは途中まで勇者様と一緒だったのよね……じゃあ、魔王のいる場所を知っているってこと?」
「ああ、もちろんだ。もし貴殿達が勇者殿を奪還するというのなら、自分が案内しよう。伝令役を任されたとはいえ、本心を言うならば、自分は勇者殿と共に戦いたいと願っていた。そして……その願いが、貴殿達のおかげで叶うようだ」
……こうして、勇者の弟子であるイヴリークを仲間にしたフィナ達は、彼女の案内の下、危険な森道を進んでいくことになった。
「シシシ。来たな、ニンゲンども!必ずここを訪れると思っていたゾ!三日ぐらいず~っと悶々としながら待ってたから来てくれて嬉しいゾ!」
そして、魔王のアジトが目の前にまで迫った時。一人の魔族がハンマーを片手に、自信満々といった様子で立ち塞がった。
「オイラは自称魔王ことエスプレア様に使える四天王の一人、フィワンだゾ!今、魔王様はちょいと忙しい。だから、この先に侵入者を通すワケにはいかないんだゾッ!さあ、一対一でいざ尋常に勝負!」
刺々しいオーラを発しながら、フィワンは自信げな笑みと共にハンマーを構える。どうやら、話し合いが通じる相手ではないらしい。
「……愛ゆえに、戦いは避けられないようですね。お嬢様、我々にご指示を」
クレマの言葉を受け、フィナは困り顔になりながらも、小さく首を縦に振った。
「なるべく交渉とかで済ませたいけど、今回は難しいみたいね。よし、ピベリーとイヴリークさんは前衛で、クレマがそのフォロー。私と***さんで後方を支援するわ。ニーナは隙を伺いながら、臨機応変に立ち回って!」
フィナの指令と共に、仲間達は一斉に戦闘態勢に入る。その様子を見たフィワンは、ニタリと歯を見せながら笑みを浮かべたあと――
「…………ん?もしかして、皆でいっぺんに挑んでくる感じ?一対一じゃなくて?」
ポカンとした様子で、フィナに質問をした。
「えっ?ま、まぁ、私達も急いでいるし。全力で相手をするつもりだけど……」
「むぐっ。ま、参ったゾ……。オイラ、一対一の戦いは得意だけど、複数を相手にする時は他の四天王と一緒のことが多かったから、あんまり自信ないゾ……」
さっきまであんなに自信たっぷりだったのに……と、心の中で呆れるフィナ。
「ま、まぁいいゾ。きっと、なるようになるんだゾ!さあ、かかってこい!オイラのハンマーで魂ごとペシャンコにしてやるんだゾ!だが、一対一で戦いたくなったらいつでも言うんだゾ!」
半ばヤケになりながら、フィワンはハンマーを大きく振りかぶった……。
数で攻める
三人衆撃バトル
追いつめられたフィワンは涙目になりながら、ハンマーを置いて戦線から離脱した。その後、周囲の安全を確保し、フィナ達はイヴリークに案内され、ついに魔王のいるアジトへと辿り着いた……。
「魔王はこのお城……お、お城っていうか、なんかハリボテだけど。とにかく、この裏側の森の中にいるのね。確かに、禍々しい気配を感じるわ……」
最終決戦の地を前にした一同。フィナは一度大きく深呼吸をし、クレマは愛のおまじないを唱え、ピベリーは高速スクワットを始め、ニーナは仕事が終わったあとのお金を計算し、イヴリークは非常食のパンをモグモグと口に運び……各々はしっかりと準備を整える。
「ところで、フィナ殿。交渉に失敗した場合、おそらく即戦闘になると思われるが……。お察しの通り、魔王側は勇者様を捕えるほどの力を持っていると思われる。その力で攻められてしまえば、我々に抗う術はないだろう。何か妙案はあるのだろうか?」
イヴリークの問いに、フィナは腕を組みながら答える。
「“魔王は王国を攻めてこないのではなく、勇者様が来たことで不都合な事態が発生して、攻めることができなくなった”というのが私達の推測なの。その“不都合な事態”を取引に使うことができれば、魔王を無力化することは百パーセント可能よ。一応、秘策は用意しているから」
けど……と、悩ましげに眉をひそめるフィナ。
「この秘策が使えるかどうかは状況次第ね。少なくとも、魔王と直接交渉できる状態に持ち込まないと」
「ふむ。つまり、魔王との交渉は必ず成功させねばならぬということか……。承知した。ならば、我々はフィナ殿を魔王の下に連れていくことに全力を尽くすとしよう」
そして、最後の作戦会議を終えたフィナ達は、ついにアジトへと乗り込んだ。しかし、その入り口は……
「あら、どうやらフィワンはやられてしまったようね!」
刺々しい盾と棍棒を持っている少女と……
「クックック。しかし、ヤツは四天王の中では最弱……」
杖を持った、魔術師らしき者と……
「どうやら、残りの四天王であるわたくし達が打って出るしかないようです」
巨大な剣と、漆黒の鎧を着込んだ女剣士の三人によって塞がれていた。
「悪いけど、ここから先は誰も通すなってプレアたん……じゃなくて魔王様が言っていたわ!通りたければ、力ずくで押しのけてみなさい!!」
「待って!あなた達は魔王の部下なのよね?私達は戦いに来たんじゃなくて……」
……が、フィナの言葉を聞き入れることなく、三人は同時に戦闘態勢に入る。
「自己紹介が遅れたわね!あたしは四天王の中で三番目に強い戦士、ツーセルよ!」
「クックック。魔術師のアスリィドという。四天王の中では二番目に強い」
「そして、わたくしが四天王の中で一番強いフォーミュラです。以後、お見知りおきを。では、戦いを始めましょう……!」
問答無用……と言わんばかりに、四天王達は容赦なく襲い掛かって来た。
「残念ながら、話の通じる相手ではなさそうですね。お嬢様、彼女達を退けなければ魔王との交渉は不可能でしょう」
「……せめて、魔王が話の通じる相手であることを祈るしかないか。よしっ、そうと決まれば、まずはこの戦いをサクッと終わらせましょう。ふふ~ん、三年分の貯金を費やして購入した戦闘用アイテムと、対魔族用の高級スクロールの束を使う時が来たようね……!」
リュックから大量にアイテムを取り出し、自信げな笑みで戦闘態勢に入るフィナ。それを合図に、仲間達も各々の武器を構えたのだった……。
四天王を迎え撃つ
勇刃魔操バトル
「ムッフッフ。四天王達を倒し、魔王であるワガハイのもとまで辿り着くとは……。なかなかやるではないか。ワガハイ、ちょっとビックリなのだ!」
そして、森の奥へ進んだ先で待っていたのは、魔王を名乗る小柄な魔族の少女と……
「くっ、殺せ!早く私を殺せ!」
淀んだ力で体を拘束されている、勇者の姿があった。
「ワガハイは魔王エスプレア。人間界を支配する者なのだ。ご覧の通り……人類最強と名高いと聞く勇者は、ワガハイが召喚した魔人の手によって完全に拘束されているのだ。同じ目に遭いたくなければ、今すぐここから立ち去るのだッ」
不敵な笑みを浮かべながら、魔王エスプレアは実に偉そうな態度でフィナ達に退去を命じる。
「……魔王エスプレア。一つだけ教えて。どうしてあなたは、人間界を支配しようとするの?」
そんなエスプレアに対し、フィナは冷静な面持ちで質問を投げかけた。
「フッ、構わないのだ。ここまで来た褒美に教えてやるのだ……」
エスプレアはやや俯きながら、どこか悲しげな表情で口を開く。
「ワガハイは……元々、魔界の片田舎でそこそこの地位を持っていた貴族だったのだ。が、事業に失敗して借金を払えず、すんごく怖い金貸しから逃げるため、仲間を連れて人間界へとやって来たのだ。そして、これから人間界を支配し、再び貴族の地位に返り咲く予定なのだ。どうだ!参ったか!」
何か大きな理由があるのだと思っていたフィナは、ある意味で予想外な返答にポカンとしてしまう。
「…………えっ。そ、そんな理由?」
「むむっ、そんな理由とは失礼なッ。これはワガハイ達にとって死活問題なのだ。ゆえに、ワガハイは勇者という脅威に対し、我が家に伝わる上級魔人を呼び出す召喚石を後先考えずに使ったのだ。たった一つしかない、と~っても貴重なものだったのだぞ。どうだ!参ったか!」
しかし……と、エスプレアは再び自信げな笑みを作りながら言葉を続ける。
「さすがは勇者。召喚した魔人の力をもってしても、肉体の自由しか支配することができぬとはな。とはいえ、肉体を支配できれば十分なのだ……。勇者サイフォンよ、剣を抜くのだ!」
すると、勇者は苦悶の表情を浮かべ、手を震わせながら剣を抜いた。
「か、体が勝手に……!くっ、殺せ!貴方達の言いなりになるぐらいなら、死んだ方がマシよ!」
「ムッフッフ。さあ、勇者サイフォンよ!この者達をちゃちゃっと倒してしまうのだッ!」
「くっ…………く、くっころおおおおおおッ!」
……どうやら、勇者との交戦は避けられないようだ。
「……なあ、お嬢。魔王のヤツ、何か様子が変じゃないか?表情筋の動きから察するに、必死に何かを隠しているって感じがするんだが」
そんな時。冷静に状況を見ていたピベリーが、自分の考えをフィナに伝える。
「ええ。私の商人としての目も違和感を感じているわ。どうやら、まだ何か裏があるみたいね……。そういうことなら」
首を縦に振り、決意を新たにするフィナ。
「みんな。厳しい戦いになるとは思うけど、まずは勇者様を止めましょう!その間に私は魔王を説得して、なんとか交渉する流れに持ち込んでみるわ!」
……こうして、フィナ達は勇者と魔王を同時に相手にすることになったのだった。
勇者と魔王を止める
風淵魔人バトル
「むぐっ。し、しまった……。魔人を制御するための魔力が、もう……」
仲間達に勇者を止めてもらっている間に、フィナと***はピクピクと痙攣しているエスプレアの下へ駆け寄る。
「せ、制御するための魔力……?それって、どういうこと?」
「……召喚した魔人を制御するには、召喚者であるワガハイが常に魔力を魔人に注ぎ続けなければならないのだ……。だ、だが、ワガハイの魔力はもう空に等しい。このままだとワガハイの命は尽き、魔人を制御することもできなくなるだろう……」
かと言って、魔人に魔力を注ぐことをやめてしまえば、魔人はエスプレアの言うことを聞かなくなる。結果として、勇者は自由になってしまい、それどころか、召喚した魔人が自分に牙を剥く可能性すらあった。
「要するに、あなた……ずっとジリ貧の状態だったのね。というより、ドジっていうか……」
「ぬぐうっ。そこまでハッキリ言われると、ちょっぴり傷つくのだ……」
エスプレアが王国を攻められなかった理由。それは、勇者を捕えるために召喚した強力な魔人に魔力を注ぎ続ける必要があり、魔力を注ぐことをやめてしまえば、身の破滅を招く恐れがあったから……だった。
「…………。ねえ、魔王エスプレア。あなた、もちろん死にたくないわよね?そして、魔人がもたらしたこの状況をなんとかしたいと思っている。そうよね?」
魔王側に起こった“不測の事態”を理解したフィナは、リュックから一枚の無地の羊皮紙と、小瓶の中に入った、ぼんやりと薄く輝くインクを取り出す。そして、インクを浸した羽ペンで羊皮紙にサラサラと文字を書いていく。
「取引よ。私達ならこの状況を打開することができるわ。ただし、それにはあなたの“承認”が必要不可欠。この内容をよく読んだら、この羊皮紙に血印を押して」
「む……?『魔王エスプレアとその部下達は、二度と人間界を侵略しないことを誓い、渡り鳥商隊の一員として、フィナ・ハーシュが許可を下すまで働き続けることを約束する』だと?な、なんだこれは!こんなの、あまりに不平等ではないかッ!だいたい、こんな紙一枚にどれほどの拘束力が……」
「ふふ~ん、拘束力はあるのよね。だってこれ、砂漠地帯の古代民族が五百年に一枚しか作れないっていう、呪術的な力を帯びた特殊な契約書だもの。だから、これには絶対的な行使権があるの」
フィナ曰く、この紙一枚を手に入れるために、国を一つ建てられるぐらいの出費があったらしい。
「私の仲間になれば、あなた達が勇者様に狙われることはなくなる。つまり、人間界での身の安全は保障されるってこと。そうすれば、魔力の維持を解いて魔人を自由にしたところで、拘束が解かれた勇者様にあなたが襲われることはないわ」
「む、むぐぐぐぐっ。し、しかしワガハイには人間界侵略という目的が……」
「魔力を注ぐのをやめれば、あなたの命は助かる。加えて、あなたが呼び出した魔人も私達が何とかする。悪くない話だと思わない?」
そう言うと、フィナは真剣な表情になり、改めてエスプレアの目を見た。
「ここに来る途中で、私はあなたの部下達と会ったわ。皆、あなたのために命を投げ出す覚悟だった。でも、このままだと勇者様か、或いは魔人の手で殺されちゃうかもしれない。この契約を結べば、その両方からあなた達を救ってあげられる。それとも……部下達のことなんて、どうでもいい?」
「……ッ!口を慎むのだ、人間!ワガハイはたま~にドジをやらかすが、仲間を見捨てるような腐った心は持ち合わせておらぬ…………契約成立だ、人間ッ!どうだ!参ったか!!」
契約書に血印を押すと同時に、魔人への魔力の供給を断つエスプレア。すると、凶悪な気配を漂わせる存在が、森の奥からユラリと現れる。
『フフ、ようやく枷から解放されましタ。私は生命力の源たる魂を喰らうことを生きがいとする魔人、パズズ。ああ、まさかこんなにも芳醇な魂を持つ者達が集まるとは……いやはや、実にありがたいことでス』
エスプレアの制御から解かれた魔人は勇者を術で拘束したまま、ニヤリと狡猾な笑みを浮かべる。
『上級魔人たる私の力をもってすれば、最も脅威であるこの勇者なる者を拘束したままでも、あなた達全員を倒すことは不可能ではなさそうでス。そうと決まれば、死にたい者から順番に……』
「おっと!そいつは海の男として、ちょいと見過ごせねぇ案件だな!」
……フィナ達の背後から現れたのは、レグナス率いる海賊団の精鋭達だった。アジトに突入する直前、フィナは『何かあったら使いを寄越してくれ』というレグナスの言葉を思い出し、彼らに加勢を求めていたのだった。
『ほう、なかなかの手練れが揃っているようでス。さすがにこの人数が相手では、勇者の拘束に力を割きながら戦うことは不可能でしょウ。ならバ……』
パズズは勇者の拘束を解き、その分の魔力を自身の体へと還す。
『持てる力の全てを持って、あなた達の命を喰らい尽くすとしましょウ……ッ!』
「そうは問屋が卸さないわよ、魔人さん!私達だって易々とやられるつもりはないんだから。さあ、行くわよ、皆!」
襲い来る魔人に対し、フィナ達は最後の戦いに臨むのだった……!
魔人を滅す
エピローグ
『バカな!に、人間ごときにこの私ガ、ァ…………ッ!!』
その猛攻に耐え切れず、魔人は自らを人間界に繋ぎ止めるだけの力を失い、この世界から消滅……。一人の犠牲もなく、フィナ達は勝利を手にしたのだった。
「……さて。となれば、あとは魔王を仕留めるのみね。魔王エスプレア、覚悟ッ!」
「ひょええっ!?ま、待つのだ勇者。ここはお互いに歩み寄り、平和的な解決方法を……」
問答無用……と言わんばかりに、剣の切っ先をエスプレアに向ける勇者サイフォン。
「待ってください勇者様!実は、彼女はもうウチの従業員で……」
フィナはエスプレアとの契約書をサイフォンに見せ、慌てて事情を説明する。すると、サイフォンはゆっくりと剣を鞘におさめた。
「……そう。そういうことなら、私から言うことは何もないわ。魔族達の今後については、貴方と国王に任せましょう。それにしても、まさか商人が王国を……いいえ、世界を救うなんてね」
仲間達と勝利を分かち合ったあと、サイフォンはフィナに激励の言葉を贈る。
「私は平和のため、勇者としてずっと一人で剣を振るってきた。けど、いつしか人々は私だけを頼るようになり、自ら戦うことを放棄するようになった……そう思っていた。だから私は“自分一人でなんとかしなければならない”という使命感に駆られ……焦りすぎたあまり、敵の掌中に落ちてしまった」
けれど……と、サイフォンは付き物が落ちたかのような、優しい表情でフィナに片手を差し出す。
「それは私の一方的な思い込みだったようね。世界には貴方のような勇気のある商人や、魔人を相手にしても怯むことのない海賊。そして、勇気ある者と共に戦う者達がいる。私がいなくても……いや、勇者がいなくても、きっとこの世界は大丈夫でしょう」
「こ、光栄です、勇者様!その……少しでもお力になれたのなら、何よりですっ」
少し緊張しながら、フィナは差し出された手を握り返した。
「さぁて。んじゃ、船に戻ろうぜ!酒はた~っぷり積んであるからよ!王国に着くまで宴と行こうじゃねぇか!」
レグナスの言葉に、一同は歓喜の声を上げる。そして、次々と仲間達が森を離れていく中……。
「…………ムッフッフ。よし、この隙に逃げ」
「はーいストップ、エスプレア。契約、忘れたとは言わせないわよ?あなたは私についてくるの。そうね、まずは国王に謝りに行きましょ」
「言ったでしょ?あの契約書には呪術的な拘束力があるって。これを仕入れるために財産をほとんど使い果たしたんだから……。その分、あなた達にはた~っぷり働いてもらうからねっ」
商魂逞しいフィナの笑顔に、エスプレアはとうとう観念した。
「……人間界で一番怖いのは勇者でも国王でもなく、商人だったのだ。ええい、しかしワガハイは諦めないのだっ。フィナとか言ったな……必ずやお前の寝首を」
「あ、エスプレア。リュック持って?」
「はい!喜んで……っておい!このワガハイを荷運び役にするなど……ぬ、ぬわああああっ、体が勝手にぃ!く、くそぉ……覚えておくのだ、フィナとやらああぁぁ!!」
…………その後、フィナの説得もあり、エスプレア率いる魔族達はなんだかんだで人間界に居場所を得ることができた。
エスプレアは文句を言いながらも、次第に渡り鳥商隊の一員としての生活が板につき、現在は部下達と共に魔族ならではの商品を企画・開発するようになったという。
……そして、数か月後。
「さあ。まだまだこれからね……!」
冒険の舞台となった島の立地が様々な国との貿易に適していたことから、フィナは国王からその島を報酬として受け取り“商人の島”として開拓を始めた。
「お父さん。いつか、必ず会いに行くから……待っててね」
大きな夢を胸に、フィナは店を開いた。世界中から集まった様々な商品を取り扱う彼女の店は、多くの人々を幸せにするだろう。
「あっ。いらっしゃいませ、***さん!丁度、あなたにピッタリな素敵な商品があるわ。ゆっくり見てってね!」
この世界は、もう大丈夫だろう……。***はフィナの店で買い物を楽しんだあと、再び新たな世界へと旅立つのだった。
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