千夜一夜物語_解放の夜語
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story by 間宮桔梗
プロローグ
207:千夜一夜物語 解放の夜語
プロローグ
「うおっ、久しぶりに帰ってきてみりゃすげぇ人だかり……。そういや、今日からしばらくグランドバザー祭だったな。ま、貧民街在住のオレには関係ねぇけど」
翌日。因縁の相手であるダルナフを追い、アリババ一行は大規模なバザーが開催されている王都へとやって来た。
『好都合だな。こんだけ人がいればダルナフの息が掛かってる連中もごまんといるだろうぜ。ヤツらがご主人とモっちゃんを見つけてくれりゃ、向こうから仕掛けてくる可能性はグッと高くなる』
「――名付けてオッサン爆釣作戦……と、ハフィズは作戦名をつけてみル」
「イヤな作戦名だな……って、オレとモルジアナは釣り餌かよ!まぁ、モルジアナがいいならオレはそれでもいいけどさ。お前はどうだ?」
アリババの問いに、モルジアナは表情一つ変えず、淡々と答える。
「……私は、壊れた道具。自分の力で物事を決めることができません。アリババ様に……お任せします」
「お前なぁ。あんだけ強いんだから、もっと自分に自信を持てっつの。あと“アリババ様”はナシ。呼び捨てにするか、すんげぇ可愛い声で“アリババ君♪”って呼ぶか、どっちかで頼むぜ」
「…………。では、アリババ君……」
抑揚のない声で名を呼ばれ、顔をしかめるアリババ。期待していたものとは大きくかけ離れていたようだ。
『はいはい、イチャコラするのはそこまでね。とにかく、まずは情報収集を』
「ア、アラジン!あなたはアラジンでは!?信じられない……。まさか生きていたなんて!」
アラジンの言葉を遮って現れたのは、大きなカバンを背負った一人の青年。
「ああ、やっぱりそうだ!ほら俺ですよ俺!ガキの頃、貧民街で世話になった……。あなたのおかげで俺、なんとか平民になれて、今は運び屋として仕事をしているんです。俺、どうしても感謝の言葉を伝えたくて」
『あー。ちょっと落ち着きなよ俺俺クン。残念ながら人違いだ。アラジンなんて人間、俺にはまるで心当たりがない』
「そ、そんなバカな。どこからどう見ても……って、あれ。言われてみれば若すぎるような?確か、アラジンが失踪したのはもう十五年以上も前……。あ、わかった!あなた、アラジンの息子さんでは!?」
『はっはっはー。面白いコト言うねぇ俺俺クン。悪いけど俺はアラジンでもアラジンジュニアでもないんだなこれが。じゃ、そういうことで。行こうぜ、ご主人』
しかし、青年は諦めきれず、アリババ達の進行方向に立ち塞がる。
「……いや。その皮肉な物言いと、勝手に人にあだ名をつける癖。間違いない、やっぱりあなたはアラジンだ!ねぇ、そうなんでしょう!?」
『いいかげんにしてくれよ、サリム……じゃない、俺俺クン。あんまりうるさいと、うちの美人剣士モっちゃんがガブッと君を丸呑みしちゃうよ?』
しません……。と、小声で言うモルジアナ。
突然、青年は剣を抜き、アラジンに向かって振り下ろしてきた。咄嗟にアリババが剣を抜き、青年の刃を受け止める。
「っぶねぇな!町中で剣なんか振り回すなっつの!アラジン、大丈夫か?」
『おお、さすがご主人。斬られても煙みたいにすり抜ける体質の俺を庇ってくれるなんて、感謝感激恐悦至極』
「…………先に言ってくれよなぁ、そういうの」
呆れるアリババ。しかし、青年の方は真剣な目つきのままだ。
「誰だか知りませんが、邪魔をしないでください!俺はなんとしても彼の正体を突きとめなきゃいけないんです!」
「うへぇ、引き下がる気ゼロかい……。ちっ、しょうがねぇ。ハフィズ、モルジアナ。悪いけど人払いを頼んでいいか?こいつはオレと***で止めてみせるから……さ!」
''>>引き下がらせる<<
ランキングに関係なく、一定数の【サウザンドメダル】集めると役立つアイテムが貰えるらしい。タダで!!
いいぜ、やってやる!かかって来いよ大将!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるんだってよ!すげぇな!
「土地力」?宿敵をとっちめるために必要な力なら、どんどん溜めていこうぜ!
一致団結!ってか?
誇りを持って戦い続ければ、必ず真の強さってのに辿り着けるはずさ。
強い敵を倒せば多くの【サウザンドメダル】が貰えるらしいな。敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるぜ。
こまめにチェックしておこうぜ。
イベント掲示板をみる
クエストか。
要するにお使いだろ?受けて立ってやろうじゃんか!
標的を追う
蛇商交渉バトル
「……よし、なんとか撒いたみたいだな。にしてもあいつ、アラジンのことを知ってる風だったけど。なぁ、お前ってもしかして」
『よくある名前さ、アラジンなんて。ま、それはともかく。今の騒ぎで否が応でも目立つことができたわけだし、オッサン爆釣大作戦は成功の兆しっつーことで、こっちはこっちで動くとしようぜご主人。丁度、良い感じの裏通りに入ったみたいだしさ』
青年から逃げているうちに、アリババ達は人気のない閑散とした通りまで来ていた。
「おや?この世界の人間が二人に、この世界ではない人間が一人。そして、人間ではないものが二人。いやはや、実に奇妙な五人パーティだことで」
すると……。片手に妙な杖を持った怪しい男が一人、路地裏からゆらりと現れる。
「この“蛇眼の杖”を通して見りゃあ、複雑な事情を抱えたご一行様であることは一目でわかりやす。ふむ……。どうやらアンタ達には“探し人”がいるようで。ほうほう、しかもこりゃなかなかの大物ときた」
そう言うと、男は一枚の絨毯を地面に敷き、ドカリとその上に腰とカバンを下ろす。
「お客さんは運がいい。あっし、そいつがどこに出没するか知っておりやすぜ。いやね、表向きはよろず屋を生業としちゃあいるんですが、本業は“こっち”でして」
アラジンの話によると、この男“蛇眼商ジョルジ”は行商人の間では有名な情報屋らしく、情報の信憑性も非常に高い……。が、その分、情報料も高くつくのだという。
「お客さんが金を持ってねぇのは一目見りゃわかりやす。つーわけで、ここは物々交換といきやせんか?そうさねぇ……。そこの、人の形を古代文明の遺産を頂けりゃあ望む情報を差し出しやすぜ」
ジョルジの指先は、アリババの隣に立っているハフィズに向いていた。
「はあ?そりゃアンタ、ハフィズを差し出せってことか?じゃあいいや。行こうぜ、皆」
しかし、ハフィズはその場から一歩も動かない。
「――取引成立。ワタシは彼の物になる。代わりに情報求む……と、ハフィズはアリババの役に立つことをしてみル」
「っておいハフィズ!お前なぁ、言葉の意味わかってるのか?だいたい、あいつの情報が真実かどうかも怪しいもんだろ」
「――肯定。しかし、指輪を悪しき者の手に渡さないためならワタシはどうなっても構わなイ。取引に応じても問題無し……と、冷静に判断してみル」
「問題ありありだっつの!ダーメーだ。アリババ許しませんっ」
『ご主人。口調がオカンみたいになってんぜ……』
口論になるアリババとハフィズ。しかし……。
「……あの。私に、まかせて頂けませんか?」
そう言うと、モルジアナはゆっくりとジョルジの方へと踏み出す。
「ジョルジ、さん。私が持っている“とある人物”と、その周辺に関する情報と提供します。代わりに、私達が捜している人物の居場所を教えてください……」
「ほう、なかなか肝の据わった美人さんだ。が、情報は常に等価交換でなけりゃあならない。お嬢さんの持つ情報があっしにとって価値のないものであった場合は、あっしの貴重な時間を消費させたペナルティとして……。お嬢さん、あなたの身柄を頂きましょうか」
「てめっ……。時間を消費してんのはこっちも同じだろ!モルジアナ、こんなふざけた商談に乗る必要ないからな!」
モルジアナはアリババの方に振り返ると、首を横に振った。
「アリババ君。どうか、私を……信じてください」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、アリババは思わず言葉を失ってしまう。
「……っ。交渉が失敗したら、オレはどうなるかわからない。だから、絶対成功させろな」
「はい。ありがとうございます……アリババ君」
モルジアナは自分の身を賭け、交渉勝負に挑むのだった……!
情報屋と交渉する
船上海獣バトル
「根負けしやしたぜ、お嬢さん。容姿だけでなく心も美しいたぁ驚いた。んじゃまぁ商談成立ってことで、ここは一つ」
ジョルジの話によると、ダルナフはグランドバザーで秘密裏に行われるブラックマーケットに参加するらしい。しかし、ブラックマーケットに入場するには会員専用の手形が必要なのだという。
『……そりゃ参ったね。裏の世界で発行される手形を今から手に入れるなんて不可能に近いぜ、ご主人』
「うーん。だったら、持ってるやつから貰うとか?なぁ、手形を持ってる人物に心当たりはないか?」
モルジアナとの交渉戦で気を良くしたのか、ジョルジは追加料金を求めず情報を提供してくれた。
「七つの大海を踏破した旅人、シンドバット。裏世界にも顔が効く彼の元には手形が届いているはずでさぁ。とはいえ、彼はつい先日王国を発って、西の海へ冒険に出ちまいやした。今から追いつくのは無理でしょうねぇ」
それを聞いたアラジンは、ニヤリと不敵に微笑む。
『チャンスだ、ご主人。ブラックマーケットに出なかったってことは、シンドバットは手形を持っている可能性が高い。早速会いに行くとしようか』
「ちょっと待てって。シンドバットはもう海に出ちまったんだろ?今から会いに行くのは不可能なんじゃ……」
『お忘れかい?ご主人が指にはめているのは、不可能を可能にする魔人の指輪。もっとも、叶えられる願いは一つだけ。そして、叶えられるのはあと二回だけだがね』
「……あ、そうか!魔法の絨毯なら余裕で船に追いつける!確かに、今が使う時なのかもしれない……」
***、モルジアナ、ハフィズからも了承を貰い、アリババはアラジンに願いを口にする。
「魔人よ。魔法の絨毯で、シンドバットの元まで連れて行ってくれ!」
『ほいほい来た来たいらっしゃい。お安いご用だぜ、ご主人!』
アラジンが取り出した空飛ぶ絨毯に乗り、アリババ達はシンドバットのいる西の海へと飛び立った。
――その頃、シンドバットの船は……
「あ~んっ、いいじゃないですかぁ。スキュラと一緒にディープでエキセントリックな海底デートをしましょうよぉシンドバット様ぁ~♪」
海の怪物スキュラが持つ触手の足にグルグル巻きにされてしまい、今にも沈もうとしていた。
「は~っはっは!人外にも惚れられてしまうとはさすが私!うむ、モテる男というのは実に忙しい!君もそう思わないかね?」
バカ言ってないで早くなんとかしてください!と、必死な形相で訴える女性乗組員。
「なんとかしたいのは山々なのだがね。船を守りながら海獣を退けるという芸当は私一人では不可能なのだよ。より刺激を求めるため、今回の旅は傭兵を雇っていない。つまり、圧倒的戦闘員不足なのだ。は~っはっはっは!」
絶望する乗組員達。しかし、シンドバットだけは豪快に、楽しそうに笑っている。
「安心したまえ君達。私は世界に愛された男。すなわち、天運は我が掌中にある。さあ、空を見上げるがいい。どうやら……天が、使者を送ってくれたようだ」
空から降ってきた五人の使者、もといアリババ達は、甲板に着地すると同時に各々の武器を構えた。
「よう、あんたがシンドバットだな。ちょいと話があるんだけど、今はそれどころじゃなさそうだな……。とりあえず加勢させてもらうぜ!」
「実にありがたい申し出だ。では、お言葉に甘えるとしよう!」
乗組員達を船室に避難させたシンドバットは三叉槍を構え、アリババの隣に立つ。
「も~ぅ、あたしとシンドバット様の恋路を邪魔するなんて許せなぁい。こうなったら、皆一緒に沈めてあげるんだからぁ!」
恋路を邪魔する
海幻侵霧バトル
スキュラの撃退に成功したアリババは、シンドバットにブラックマーケットの手形を譲ってもらえないかと尋ねる。
「命を助けてもらったんだ。そのぐらいお安い御用さ。ついでに、君達を王都へと送ってあげよう。なぁに、私の船なら明日の朝には到着しているだろう。今日は我が船で宴に耽り、明日のためにゆっくりと休みたまえよ!」
シンドバットの言葉に甘え、アリババ達は盛大な歓迎を受けたあと、朝まで船室で休むことになった。
「…………。あ、***さん。えっと……。こんばんは、です」
その日の夜。寝つけなかった***が夜風を浴びようと甲板に出ると、モルジアナの姿を見かける。
「***さんも寝つけなかったのですね。私も……。なんだか、色々と考えてしまって」
モルジアナは***と共に、夜の海を眺めることにした。月明かりに照らされたモルジアナの表情は、初めて会った時よりもどこか柔らかい印象を受けた。
「……アリババ君は、なぜ私を気遣ってくれるのでしょう?砂漠で倒れた時も助けてくれて、私を許してくれて。一度は命を奪おうとした相手を、どうして信用できるのでしょうか?」
それに……と、モルジアナはどこか不安げに続ける。
「私……自分がわからないんです。私は今、アリババ君と共にかつて仕えていた主を追っている。反逆と知りながら、アリババ君に手を貸しています。けど、どうして自分がそんなことをしているのか……」
何も言わず、彼女の話に耳を傾ける***。その反応に、モルジアナはどこか安心感を覚えたようだ。
「ただ、流されてそうしているだけなのか。かつての主の元から解放されたかったのか。そこに自分の意志があるのかどうか……不安になるんです。自分がいつ、どのような行動に出るのか、自分自身でわからないから」
すると、彼女は何かを決心をしたのか。視線を海から---の方へと向ける。
「***さん。かつて、私は自分が大好きだと思っていたはずの人達の命を……この手で、奪ってしまったことがあります。その時から、私は自分がわからなくなってしまったんだと思うんです」
誰にも語ったことのない過去を語り始めるモルジアナ。その声色には、後悔や恐怖といった負の感情が込められていた。
「もし、私がアリババ君を裏切るようなことをしてしまった時は。その時は私を……。いいえ、こんなことを頼むのは失礼ですね。忘れてください。では、霧も濃くなってきましたし、そろそろ中に……」
「……!君達、こんなところにいたのか!急いで中に入るんだ!この霧は普通の霧じゃない!」
突然、船室から飛び出して来たシンドバットの声が甲板に響き渡る。同時に、海面には撃退したはずのスキュラが現れた。
「あ~ん、シンドバット様ぁ♪胸のDOKI☆DOKIが抑えられなくてぇ、お友達と一緒に夜遊びしに来ちゃいましたぁ♪」
すでに甲板は蠢く濃霧に覆われている。そして、その中心部から現れたのは、こちらに敵意を向ける幻体達……。
「……ッ!すぐにアリババ君達を」
「もう遅いよ、モルジアナ君。この霧はスキュラの魔力によって作られた幻結界。甲板の外側からの加勢は期待できない。霧の外に出るには、スキュラの魔力が尽きるまで戦い続けるしかない」
私とモルジアナ君と、***君の三人でね……と、笑みを浮かべながら冷や汗を流すシンドバット。
「女性を戦わせるのは極めて不本意だが……。すまない、もう一度だけ力を貸してほしい!このままでは、今度こそ船を沈められてしまう!」
モルジアナと***は顔を見合わせると互いに頷き、船を守るため再び戦うことを決意するのだった……!
船を守る
成金少年バトル
「……!***、モルジアナ、大丈夫か!?」
***達は幻体達と一晩中戦い続け……朝になる頃、スキュラの撤退と共にようやく霧が晴れた。同時に、アリババが心配そうな表情で駆けつけてくる。
「ごめんな。オレがもっとしっかりしていれば……。ほんとサイテーだ」
「……?なぜ、謝るのですか?」
「なぜって……。オレ、お前達が危険な目に遭っていることに気付かないで船室でグースカ寝てたんだぜ?普通にありえねぇだろ」
後悔の言葉を口にするアリババ。すると、***とモルジアナと共に一晩戦い続けたシンドバットが汗を拭きながら横やりを入れる。
「まぁまぁ、おかげで君は一晩休むことができたんだ。ここは彼女に感謝すべきだろう。あ、そんなことよりモルジアナ君。よかったら私の女になってくれないか?このシンドバット、君のように強く凛々しい女性に目がないのだよ」
「っておい、どさくさに紛れてなにナンパしてるんだよ!だいたいモルジアナはオレの……。オ、オレの、ほら、アレだ。ツレだからなっ」
そんな他愛のないやり取りをしていると、ようやく船が王都に到着する。
「では、私は失礼するとしよう。明日までは王都にいるだろうから、なにか用があったら声を掛けてくれたまえよ」
そして、シンドバットにブラックマーケットの開催場所を教えてもらったアリババ達は、ついにブラックマーケットの会場へ入り込むことに成功した。
「うっへぇ。なんつーか、見るからに“あくどいことやってますよ~”って感じだな」
『一概にそうは言い切れんぜ、ご主人。確かにここは違法品やら反吐がでるようなモンが取引される闇市場だが、輸入禁止の香辛料やら薬草なんかも出品される。そういったもんが医療や錬金術といった文明の発展に貢献しているのもまた事実さ』
指輪の中に姿を消しているアラジンが、テレパシーでアリババに語りかける。
「その文明とやらは、貴族様や裕福層の平民にしか縁が無いのが現状だけどな……。にしても、ダルナフの野郎はどうしてブラックマーケットに参加してるんだろうな?」
アリババが頭をひねっていると、隣にいるモルジアナが口を開く。
「あの人……。ダルナフは、アリババ君の持っている指輪とは別の指輪を探していました。もしかしたら、その指輪がここに出品されているのかもしれません」
もう一つの指輪。その存在は、アラジンとハフィズですら把握していない代物のようだ。もし、その指輪が古代アルーザ文明のものだとしたら……。
「おっとぉ?なにやら貧乏くさい家畜どもがいるねぇ。ん~相応しくない、この場に相応しくないなぁ。ここは人間が来る場所であって、家畜どもが来る場所じゃないってパパが言ってたからなぁ」
アリババ一行が不安を感じていると、突然猫を連れた貴族の少年が声を掛けてきた。が、絡むと面倒だと判断し、アリババ達は華麗に少年をスルーする。
「おい、僕ちゃんを無視するな!お前達がパパに楯突く家畜どもなんだろ?裏切り者共々憲兵に突き出してやってもいいけど、それだと手柄を独り占めできないからね。このジャミル様が、直々にお前達の相手をしてやる。さぁ、表へ出ろ家畜ども!」
ジャミルと名乗った少年が手を叩くと、どこからともなく二人の従者が現れる。どうやら、かなりの手練れのようだ。
「パパに楯突くって……。な、なぁモルジアナ。もしかしてこのガキ」
「はい。あの少年はダルナフのご子息にあたる人です。そして、彼の言う裏切り者とは……。やはり、私のことだと思います」
まさかの展開に、アリババは思わず言葉を失う。
「――オッサン爆釣作戦失敗。ただし、オッサンジュニアの爆釣には成功……と、ハフィズは経過報告をしてみル」
『ははっ、笑える話だねぇこりゃ。まぁせっかく釣れたわけだし、オッサンジュニアを人質にして本命を引っ張り出すってのもアリなんじゃないかね?ご主人』
ノリノリな自動人形と魔人。アリババは一瞬、どっちが悪役なのかわからなくなるが……。
「……人質にするかどうかはともかく、向こうはやる気満々って感じだな。へっ、上等だ!受けて立ってやるぜ!」
受けて立つ
占星予言バトル
「ぶふぇぇえん!か、家畜ごときが僕に楯突くなんてぇ!パパに言いつけてやる~っ!」
涙と鼻水をまき散らしながら、ジャミルは護衛と共にその場から逃亡を始める。
「……お、これチャンスじゃね?あの成金坊やを追えば、そのままダルナフのところに行けるかもしれないぜ」
アリババはジャミルを追い、立ち入り禁止区画となっている廊下を進んで行く……。が、その途中で一人の少女とぶつかってしまう。
「うわっと、とぉ!?す、すまん、大丈夫か?」
占い師風の少女は尻餅をつくと同時に、持っていた水晶玉を数個、地面にぶちまけてしまう。アリババ達はすぐにそれを拾い集め、少女に手渡す。
「わっ、拾ってくれてありがと!あ、でも……。あなたの方こそ大丈夫かな?」
「ああ、この通り怪我もない。んじゃ急いでるから、またな!」
「あっ、そうじゃなくて……。これから怪我すると思うけど大丈夫かな?って意味なんだけど」
少女の発言により、再び走り出したアリババ達の足が止まる。
「ダルナフ様からもらったこの水晶はね、古代アルーザ文明の魔法アイテムなんだ。水晶に触れた者の運命を持ち主が操作できるようになるっていう。あ、今キミ達……。水晶に触ったよね?」
「……!お前、ダルナフの刺客か!」
剣を抜き、占い師風の少女をにらみつけるアリババ。
「わっ、怖い顔。そんなに怖い顔をしてると……。上から重い石ころが降ってくるかもしれないよ?」
「はあ?なにを意味のわからないこと、を……っ、い、いっでぇ!?」
石ころと呼ぶには少し大きい石の塊が、突然アリババの頭へ落下。瞳に涙を浮かべながら、アリババはその場にうずくまった。
「――分析完了。かの水晶玉を“天操水晶”と認識。持ち主の予言は現実となり、水晶に触れた者に降りかかる」
しかし……と、ハフィズは続ける。
「運の要素が大きく、脅威度の高い予言は不発に終わったり、持ち主に返ってくることもたまにしょっちゅうある……と、ハフィズは情報を引っ張り出してみル」
「いつつ……。た、たまにしょっちゅうって結局どっちだよ……」
頭をさすりながら、アリババはしっかりとツッコミを入れる。
「わっ、今の石ころで決まりかと思ったのに意外と丈夫だね……。じゃあね、次の予言は……わ、うわわっ!?」
「……予言する隙は、与えません」
次の予言が読まれる前に、すかさず攻撃を加えるモルジアナ。
「ナイスだモルジアナ!よし、このまま一気に攻め込んで水晶を奪ってやろうぜ!」
水晶を奪う
因縁決着バトル
「足止めご苦労様です、ヘレン……。さぁ、あとは私達に任せてください」
ヘレンとの戦闘中に現れたのは、アリババ達が探し続けていた男……。ダルナフだった。
「ご足労感謝しますよ、アリババくぅん。そして、モルジアナ。私の命令通り、ちゃんとアリババくぅんをここまで連れてきてくれたのですね。では、約束通り……。あなたを奴隷から解放してあげましょう」
気が付くと、会場には何人もの人だかり……。その人だかりが全てダルナフの部下だと気付く頃には、アリババ達はすでに包囲されてしまっていた。
「モルジアナが、オレをここまで連れて来た……?ど、どういうことだ!?」
「アリババくぅん。私はね、君を高く評価しているのですよ。武と知に長け、折れない信念を持っている。そう、君は私に持っていないものをたくさん持っている。そして私もまた、あなたにはないものを持っている。それはあなたが最も欲している二つの力……財力と権力です」
表の世界と裏の世界。その両方を牛耳る男ダルナフは、ニコリと笑みを浮かべながらアリババに手を差し伸べる。
「モルジアナにあなたをここまで連れて来させたのは、邪魔が入らない場所であなたを確実に仲間に引き入れるためです。さぁ、私の力さえあればこの国はあなたの望む形になる……。私と一緒に、世界を変えませんか?」
その問いに、アリババが何かを言いかける……が、真っ先に口を開いたのは、アリババの隣にいるモルジアナだった。
「ち、違う。私、そんな命令知らない。自由になる約束なんかしてない……!」
「静かにしていなさい、モルジアナ。それ以上喋ると……。また痛い目に遭わせんぞ?」
「……っ、アリババ君、お願い。私を…………。私のことを信じて!」
肩と唇を震わせながら、必死に声を絞り出すモルジアナ。
すると、アリババは微笑を浮かべながら剣を抜き――
「今さら疑うわけないだろ。仮にお前に裏切られたとしても、オレは何も後悔しないぜ」
その切っ先を、迷うことなくダルナフへと向けた。
「どうせお前の仲間になったところで、この指輪が手に入ればオレを斬り捨てるんだろ?オッサンそういうヤツだもんな。クズの中のクズの、本物のクズってヤツ」
「……ふむ。切ないものですねぇ。せっかく穏便に済ませようと思ったのに。しかし、こうなってしまっては仕方がありません……。お前ら、このクソガキ共を始末しろ。奴隷の女も一緒にな」
アリババ達を囲んでいるダルナフの部下達が一斉に武器を抜く。多勢に無勢と理解しつつも、アリババは最期まで抵抗することを決意した。その瞬間……。聞き覚えのある笑い声が周囲に響き渡る。
「はっはっは!情報屋からとっておきのネタを買ってみれば、こんな面白いことになっているとは」
そこには、私設傭兵団を引き連れたシンドバットが立っていた。
「フッ、***君とモルジアナ君にはまだ借りを返していなかったからね。さあ、団体様は我々が引き受けよう。君達は本命の相手と存分に遊びたまえ!」
「なっ……!まさか、あのシンドバットを味方につけているとは……。えぇい、来なさいニルギリス!逃げる時間を稼ぐのです!」
どこからともなく現れたダルナフの従者が、アリババ達の進路を塞ぐ。しかし、アリババ達の勢いは止まらない。
「今さら逃げようったって無駄だぜ、ダルナフ!ここで決着をつけてやる!」
決着をつける
千獄魔人バトル
アリババ達はニルギリスを倒し、ついにダルナフを追いつめた。
「チィ……。そもそも、私を捕えてどうするというのです?仮に私を告発したところで、暴かれる罪などたかが知れている。その程度で世界を変えることができると、本気でお思いですか?」
息を切らしながら発せられるダルナフの言葉を、アラジンは鼻で笑い飛ばす。
『諦めな、とっつぁん。アンタ、プリンセスの一派が率いるレジスタンスに妨害されて法務省までは掌握できてないんだってな。宰相だろうが裏世界の首領だろうが、法廷に出ちまえばただの人間。一度でも尻尾を捕まれれば、芋づる式に罪は暴かれるだろうよ』
「……切ないですねぇアラジン。魔人でありながら人間の価値観でしか物を語ることができないとは。この指輪があれば、法だの罪だのといったものはゴミ屑同然になるというのに……。ニルギリス、今です!」
「な!?し、しまった!」
ニルギリスは突然立ち上がると、アリババに突進……刺突は回避できたものの、魔人の指輪を奪われてしまう。そして指輪をダルナフに渡すと、彼女はその場から姿を眩ませた。
『はん、読み違えたな。今さら指輪を奪っても無駄だ。確かに俺は魔人だが、願いを叶える力を持っているわけじゃない。そう、俺はポンコツ魔人なのさ!』
「読み違えているのはあなたの方です。なぜ、私が罪に問われる危険を冒してまでブラックマーケットに参加したか。その意図を汲み取れなかった時点で……お前らグズ共の死は確定していたんだよ」
すると、ダルナフは魔人の指輪とは別の、真っ黒な指輪を空に掲げる。どうやら、あれがモルジアナが言っていた“もう一つの指輪”のようだ。
「俺がブラックマーケットで手に入れた“解放の指輪”には、古代アルーザ文明の遺産に内包されているリミッターを解除する力がある。そして今、俺の手元にはアリババから奪った魔人の指輪がある。あとは……わかるよなぁ?」
『……!まさか、てめぇ!』
二つの指輪が激しく輝く。
「さぁ、限界を超えた魔人よ!その力を全て俺に寄越せ!この俺に、神にも等しい力を与えるのだ!」
次の瞬間、空が闇色に染まり、周囲に砂嵐が吹き荒れ始める。そして、ダルナフの体は禍々しい煙で覆われた。そして、三つ目の“願い”を叶えてしまったアラジンは……完全に姿を消してしまった。
『おお、これは素晴らしい!無限に力が溢れてきます!これが真の魔人の力……。ク、ククク。ではまず、手始めに……アリババ、お前からだ!』
ダルナフの人差し指から、魔力を帯びた高速の弾丸が放たれた。避ける間もなく、アリババは弾丸に……
「……ッ!?ハ、ハフィズ!おい、しっかりしろ!」
……貫かれる直前。アリババを庇ったハフィズがその攻撃を受け、地へと倒れる。ハフィズの損傷はひどく、心臓部であるコアがむき出しになっていた。
「……!ダルナフ、あなたという人は……ッ!」
怒りに身を任せ、ダルナフへと飛びかかるモルジアナ。しかし、その剣はダルナフの体には届かない。
『モルジアナ。お前は後でたぁっぷりと再教育してあげます……心も身体も、隅々まで徹底的にな!』
モルジアナは不思議な力で吹き飛ばされ、壁に激突……頭を強く打ち、そのまま気絶してしまう。
「――通達。アリババ――ワタシ、ノ――コア――アルーザ文明の力――宿って、いル――あの指輪で――力、ヲ――解放――――シ、テ――――」
機能を停止しかけているハフィズの視線は、気絶しているモルジアナの手に向けられている。
その手の中には、ダルナフが持っていたはずの“解放の指輪”が握られていた。どうやら、吹き飛ばされる直前に奪っていたらしい。
「で、でも!これを抜き取っちまったら、お前は……」
「――アリババ。あなたなら、でき――ル――あなたに、使ってほし――――コアが停止する――前――ニ――お――ね、が――――イ」
葛藤の末……アリババは歯を食いしばりながらも、震える手でハフィズのコアを抜き取った。そして、モルジアナが持っている指輪を使い、コアに眠る力を解放した。
『ほう、仲間を失ったというのにまだ抵抗する気ですか……気に喰わねぇな。あぁ気に喰わねぇなぁ!』
「……ダルナフ!お前だけは、絶対に許さねぇ!」
莫大なエネルギーをその身に纏いながら、アリババは剣を構える。
「***。これが最後の戦いになると思う。頼む……。力を貸してくれ!」
魔人を倒す
エピローグ
「バ、バカな。魔の力が、相殺されただと……!?」
ハフィズの力を受け取ったアリババの反撃に遭い、人間の姿に戻ったダルナフ。しかし、アリババの消耗は予想以上に大きく、あと一歩のところで地に膝をついてしまう。
「ぐっ……。アリババ……アリババぁ!お前さえ、お前さえいなければ……お前さえ!!」
護身用のナイフで、動けないアリババにトドメを刺そうとするダルナフ。しかし、ダルナフは背後から何者かの剣撃を受ける。
「……往生際が悪いぜ、とっつぁん。いいかげん舞台から降りてくれや」
「がふっ……。バ、バカな。お前はさっき、消滅した……は、ず…………」
驚愕の表情を浮かべながら、ダルナフは地へと臥した。
「ア、アラジン!?お前、なんで生きて……。つーか、その体は……?」
「ダルナフは“魔人の力を全て寄越せ”と俺に願った。結果、魔人の力を失った俺は本来あるべき人間の姿に戻った……ってことなんだと思うぜ。もっとも、自動人形ちゃんは元に戻らないようだが……」
目を覚ましたモルジアナと共に、損壊したハフィズの元へ駆けつけるアリババ。しかし、いくら声をかけてもハフィズに反応はなかった。
「落ち込むのは早いぞ、アリババ君」
一行に重い沈黙がのしかかった、その時。ダルナフの部下達との戦いを終えたシンドバットが颯爽と現れる。
「彼女は古代文明の自動人形なのだろう?ならば、治す方法に心当たりがある」
以前の冒険で、シンドバットは自動人形達が暮らしている島を訪れたことがあるのだという。そこは今でも古代文明が栄えている秘境……しかし、辿り着くのが最も困難な島でもあった、とのことらしい。
「無論、命の保証はできない。それでも、もし君がそこへ向かうというのであれば、私の船を一隻と地図を渡そう。返答は明日までに…………。いや。その目を見る限り、待つ必要はなさそうだね」
アリババの瞳には、すでに光が宿っていた。
「アリババ君。私も、連れていってくれませんか?私、ようやく自分の気持ちがわかったんです。私は、仲間と……あなたと共に在りたい。許されるのであれば、これからも……ずっと」
「願ってもないことだ。むしろ、オレから頼もうと思っていたくらいだよ。アラジンはどうするんだ?」
「行きたいのは山々なんだが、俺にはどうしても会わなきゃならない人がいてね。だから、まぁ……。ここでお別れ、だな」
少し名残惜しそうにしながら、アラジンはゆっくりと口を開く。
「君は魔人だった俺を解放し、モルジアナを奴隷という立場から解放した。そして、あのまま遺跡で朽ちるはずだった自動人形をその責務から解放し、極めつけに王都を悪党の手から解放した。君は本物の解放者……。まぎれもなく英雄だ」
「それは違う。オレ一人じゃ何もできなかった。皆の力がなきゃ、オレはとっくに死んでたからな……。今になって思うよ。“世界を変える”ってのが、いかに傲慢な願いだったかを」
どこか遠くを見るような目で、アリババは空を見上げる。
「一部の人間の自分勝手な行為で無関係の人々が苦しむ……。オレはただ、それが気に喰わなかっただけだ。国のためとか、皆のためだとか。そんな大層な理由があったわけじゃないんだと思う」
「……案外、そういうヤツが英雄に相応しいと俺は思うけどね。まぁ、君がそう言うのなら……。一人の友人として、俺は君を見送るとしよう」
アラジンは微笑を浮かべながら、アリババに手を差し伸べた。
「必ず戻って来いよ、アリババ」
「……ああ。またな、アラジン」
繋がれる二人の手。その光景に希望を見出した***はこの世界をあとにし、新たなる旅路へと踏み出すのだった……。
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