天罪サクラメント_プロローグ
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story by 間宮桔梗
202:天罪サクラメント 天令の翼

開始前

隠し事とは……!?
罪サクラメント 天令の翼
プロローグ
ゆっくりと目を開くと、そこは空の上。
雰囲気からして、どうやらここは天界……の、かなり隅っこに位置する場所らしい。

「わわっ、危ない!避けて避けて~ッ!」
突然、***めがけて、槍を持った一人の少女が中空から突っ込んできた。驚きのあまり、***は思わず尻餅をついてしまう。
「あ、あぶなかったぁ。急ブレーキしてなかったら、君を槍でヒュボォ~って貫いちゃってたところだったよ……。あ、大丈夫?怪我ない?」
少女が差し伸べた手を取り、***はゆっくりと立ち上がる。
「……?君、なんだか不思議な感じが……っと、自己紹介が遅れたね。私、ジニーって言うの。戦天使団(せんてんしだん)っていう、天界でもかなりマイナーな部署に所属してるんだけど、知ってるかな?って、マイナーなんだから知ってるわけないか。あはは」
戦天使団。天界に危険因子が発生した際に、天界騎士や本部の天使よりも先に率先して出動する、いわゆる先遣隊のようなものらしい。
「……やっと見つけた。さあ、ジニー。なにを隠しているのか話して。あと、飛翔の靴飾りを返して」
「はわっ、リ、リエル!?どうしてこんなところに……」
ジニーの背後から颯爽と現れたのは、巨大なハンマーを携えた、精悍な顔つきをした一人の少女。
「戦天使は二人一組での行動が基本。ジニーは私のパートナー。そして、ジニーは私になにも言わず、一人で下界に向かおうとしてる。だから気になって追いかけてきた。理由の説明、以上」
「うっ。え、えっと、その。たまには下界をお散歩するのもいいかなぁ、みたいな……」
「長期戦闘の準備をしっかり整えて、任務用の次元ゲートを通ってのお散歩……ふぅん。ずいぶん物騒な外出なのね。で、なにを隠してるの?」
鋭く、それでいて美しい瞳でジニーを睨みつけるリエル。
「ナ、ナニモカクシテマセンヨ……?」
「わかったから何を隠しているのか教えて」
「隠してないって言ってるのに!?」
……どうやら、ジニーにはリエルを連れていけない理由があるらしい。
「~~っ、ごめん、リエル。今回だけは一人で行かないとダメなの!執事のヒューイにもそう伝えておいて!」
「……あ!待ちなさい、ジニー!」
ジニーは***の手を取ると、小さな翼を大きく広げ、勢いよく空を飛んだ。
「な、なんだか巻き込む形になっちゃってごめん!でも、私一人じゃリエルに追いつかれちゃいそうで……。次元ゲートまででいいから、一緒に来てくれると嬉しいわ!」
……どうやら、断れる状況ではないようだ。強引に腕を引っ張られながら、***は戦天使の少女ジニーと共に、下界へと続く次元ゲートへと向かうことになった。
「あ、そうだ。これ、リエルの靴飾りなんだけど預ってもらっていい?これを取られちゃうと、リエルの飛翔速度が上がってすぐ追いつかれちゃうと思うの。私だと落としそうだから、あなたが持っていてくれると嬉しいな!」
***はジニーから、リエルの靴飾りを受け取った。
「それじゃあ行きましょ!れっつらご~ご~!」
>>ゲートへ向かう<<

準備バッチリ!それじゃあ、ゲートまでよろしくね!
まずは500kmぐらい進んでみよっか。
大丈夫、飛んでいけばすぐだから!
これ、持っててほしいな。
私だと、戦いに夢中になって落としちゃいそうだし。

飛翔の靴飾りを1個手に入れました。
それじゃあ行こっ!れっつらご~ごご~!!
ゲートへ向かう
まずは500kmぐらい進んでみよっか。
大丈夫、飛んでいけばすぐだから!
これ、持っててほしいな。
私だと、戦いに夢中になって落としちゃいそうだし。

飛翔の靴飾りを1個手に入れました。
それじゃあ行こっ!れっつらご~ごご~!!
ゲートへ向かう
エピローグ

「観念するんだ、ジニー!リエルから聞かせてもらったぞ。上級天使からの密命を受けて、一人で危険な任務に赴こうとしているらしいじゃないか」
ジニーの執事であるヒューイは、眉をひそめながら眼鏡の位置を正す。
「長年執事として仕えてきたこの僕に一言の相談もないとは、君も偉くなったものだな。罰として、早朝と朝と午前と昼前と昼過ぎと夕方のおやつは抜きだ!」
「ええっ!?そ、そんな殺生なぁ……!」
お願い、それだけはやめて……と、涙目になりながらヒューイの腕にすがりつくジニー。
「どうしても嫌なら、この僕を連れていけ。放っておくと君はなにをするかわからないからな」
「……!そ、それだけはダメ!だって、この任務は危険……」
「ジニー。もう遅いわ」
振り向くと、そこには凛とした目つきでジニーを見据えるリエルの姿があった。
「……任務内容を話したくないなら、それでもいい。私は勝手についていくだけだから」
ヒューイとリエルの二人に迫られ、ジニーはたじろいでしまう。
「うぅ……。や、やっぱりダメ。今回だけは一人で行かせて。ね、一生のお願い!」
両手を合わせ、二人に懇願するジニー。すると、ヒューイとリエルは……
「一生のお願いなら昨日使ったばかりじゃないか。『今日だけ夜食のケーキを許して。一生のお願い』と」
「……私も昨日された。『夏休みの休暇報告書を書くの手伝って。一生のお願い』って」
「ぅわあわああああっ!ス、ストップストップ!私が悪かったからそれ以上言わないでぇ!」
観念したのか、ジニーは顔を真っ赤にしながら大きくため息を吐く。
「……二人になにを言っても無駄なのはよくわかったわ。でも、私は止めたからね?その……どうなっても、知らないからね?」
……渋々といった様子で、ジニーはヒューイとリエルの同行を承諾する。
そして***も、この戦天使の行く末を見守るため、しばらく彼女達と行動を共にするのだった。
203:天罪サクラメント 進淵の格

プロローグ

「お待ちしておりましたわ!」
下界へと続くゲートに辿り着いたジニー達の前に、一人の戦天使が立ち塞がる。
「フン。誉れ高きパンテーラ家の一族であるこのわたくしを待たせるだなんて。レディとしてマナーがなっていないのではなくって?ジニー」
「あ、あなたはロズレィ!どうしてあなたがこんなところに……」
どうやら、このロズレィという少女はジニーと同期の戦天使のようだ。
「フフ……。こっそり聞きましたわよ。なんでも、上級天使から“ギヌンガの淵に封印されているクリスタルの回収”という、秘密の任務を受けたんだとか。このうえなく腹立たしい事案ですわ、実に!」
「……!ど、どうしてそのことを知っているの!?」
「教えてあげる義理はありませんわ。そんなことより、ジニー」
余裕げな笑みを浮かべたまま、ロズレィは発言を続ける。
「確か、天使学校ではわたくしの方が成績は優秀でしたわね。戦天使に配属されてからも、戦績はわたくしが上。ま、当然ですわね。なぜならわたくしは……誉れ高きパンテーラ家の一族なのですからねぇ!」
キラキラとしたオーラを纏い、家柄を自慢しながら高笑いを上げるロズレィ。
「だというのに、今回はあなたが選ばれた。本来選ばれるべきなのは、誉れ高きパンテーラ家の一族であるわたくしのはずなのに……。こんなの、納得できるわけがありませんわ」
徐々に怒りの感情を露わにしながら、ロズレィは壁に立てかけてあった巨大な斧を手に取る。
「ゆえに、わたくしはあなたと決闘をしにきましたの。あなたを倒せば、上級天使もわたくしの方が優れていると認めるはず……。そういうわけだから、ジニー。わたくしと決闘なさい!」
「ええっ!?ち、ちょっと待って!今はそんなことしている時間は……」
「言い訳無用!なんなら、そこの冥界出身の下賤な戦天使と共に挑んできても構いませんわよ?」
ロズレィがそう発言した瞬間。ジニーの瞳が暗く、深く沈んでいった。
「……ロズレィ、今の発言だけは許せない。リエルに謝って」
「事実を言っただけですわ。だって、リエルは正当な天使の血を引かない、穢れたものが入り混じった戦天使なのでしょう?だったら……あら?」
すでに、ジニーは槍を構えていた。
「……ジニー、あれはくだらない挑発よ。いちいちムキになる必要なんかないから」
その様子を見たリエルは、どこか呆れた様子でジニーに声をかける。
「わかってる。わかってるけど、リエルをバカにしたことは事実だもん。だから、止めないで」
「いいえ、あなたは全然わかっていないわ、ジニー。“誰があなたを止めたの?”」
リエルはハンマーを構え、鋭く静かな視線でロズレィを睨む。
「ま、待つんだ二人とも!彼女は名家パンテーラのご令嬢だぞ?下手に手を出せば、貴族院からどんな処分が下るか……」
「大丈夫よ、ヒューイ。大怪我させないよう、気を付けて戦うから!」
&color(#f6b26b){「それは大丈夫とは言わないだろう!おい、リエルからもなにか言って……って、話を聞かないか君達!」
}
ヒューイの静止も空しく、ジニーとリエルはロズレィと戦闘を始めてしまった……。
「フフフ。このような機会に恵まれたことを、神に感謝しないといけませんわね。さあ、かかってきなさいな!あなた達を、我が聖斧の錆にして差し上げますわ!」
>>決闘開始<<

位置登録はこまめにしましょう!土地力は戦天使の魔力へと変換されますので!
そこに下界へのゲートがあるのに……!
ガ~っと突破して、下界へ向かいましょう!
全力で任務をこなす。それだけよ!
天は囁いているわ。皆で一致団結しようって……!
戦天使は攻め時を見極めなさいって、教官によく言われたっけ。
ぐわ~っと進んで、こう、ガガ~っと決めるの!わかってくれた!?
翼を広げたら、もう止まらないんだから!さぁ、行っくわよ~っ!
エピローグ

「くそ、見ていられない……。ジニー、リエル!ロズレィ嬢は僕が食い止めておく!」
「なっ。ど、どきなさい!わたくしが用があるのは、あちらの二人ですわ!」
戦いに割って入ったヒューイは、二つのトレイを巧みに使い、ロズレィの攻撃を受け流す。
「あとで必ず合流する!君達は先にゲートをくぐって“ギヌンガの淵”へ行くんだ!」
ヒューイの身を案じるジニー。しかし、彼の強い意志を汲み取ったリエルは、ジニーの腕を強く引っぱり、ゲートを起動した。
「…………あの。ごめんね、リエル。その……巻き込んじゃって」
転送空間の中で、ジニーはリエルに謝罪の言葉を口にする。すると、リエルは感情を表に出さず、ゆっくりと両目を閉じた。
「……ギヌンガの淵。天界と冥界の狭間にある世界ね。好戦的な冥界人の一派と、天界を追放されながらも堕天には至らなかった“偽天使”が住んでいる危険な地。つまるところ、そんな危険な場所に私をつれていきたくなかったってところかしら?」
図星だったらしく、ジニーはしゅんと縮こまってしまう。
「顔を上げて、ジニー。さっき、私のために怒ってくれたから、私を置いていこうとしたことはチャラにする。それに……ギヌンガの淵には冥界人がいる。ある意味、私にとっては都合がいいわ」
どういうこと……?と、ジニーは当然の疑問を口にする。
「話したことがあると思うけど、私は元々冥界人だったの。けど、先天的な死病にかかっていて、寿命は僅かしかなかった」
「あ、その話なら覚えてる。確か、リエルのお父さんが天界と契約を結んで、大天使様がリエルを戦天使に転生させてくれたのよね。そのおかげで病も治って、今はこうして私と一緒にいられる……。えへへ、リエルのお父さん、いい人よね」
「…………本当に、そう思う?」
その声は……ほんの僅かではあるが、震えていた。
「父さんは……本当に、私の病を治すために私を手放したのかしら。もしかしたら、病を持って生まれた私が邪魔だったから捨てただけなのかもしれない。そう思うと、私は……」
不安げな瞳で俯きながら、リエルは続ける。
「冥界人だった頃の記憶は、転生した時にほとんど失ってしまった。もちろん、父さんの顔だって覚えていない。だから、私は……一度、父さんに会ってみたい。会って、本当のことを聞きたい」
冥界人に会えれば、父の手がかりが見つかるかもしれない。そんな淡い希望を、リエルは胸に抱いているようだ。
「……まぁ、そう上手くいくとは思っていないけど。とにかく、私はジニーの任務を勝手に手伝うから。そもそも、ギヌンガの淵にジニーを一人で向かわせようとする上級天使の命令自体も変な気がするし」
「……っ。そ、それは……」
なにかを言いかけ、口をつぐむジニー。
どうやら、まだ隠していることがあるようだが……問い詰めても、ジニーを精神的に追い込んでしまうことを理解していたリエルは、それ以上の詮索をすることはなかった。
204:天罪サクラメント 天冥の戦


プロローグ

「……ここがギヌンガの淵。なんだか、すごく綺麗な場所。思ってたのと全然違うかも」
「ジニー、油断してはダメ。あそこ……誰かいるわ」
リエルが指を差した先にいた人物は、すでにこちらの存在に気付いていたようだ。
「……!お前達は」
その男は、***と……そして、リエルを交互に見つめ、うっすらと驚愕の表情を浮かべる。
「あ、あれ?あの人が持っているハンマー、なんだかリエルのハンマーと似ているような気が……」
「……。そんなことはどうでもいい。お前達は偽天使……ではなく、戦天使のようだな。なにをしにここへ来た?」
男の問いに、リエルは警戒しながら口を開く。
「その前にこっちの質問に答えてもらえる?あなた……冥界人よね。どうしてこんなところにいるの?」
「答える理由はない……と、言いたいところだが。お前達が情報の開示を約束するのであれば、こちらが先に情報を与えることに異論はない」
「ふむふむ、なるほどねー。つまり……。リエル、どういうこと?翻訳プリーズ」
照れ笑いを浮かべるジニーに、リエルはため息を吐いてから答える。
「……あの男が先に自分のことを話すから、こっちも素性を明かせってことよ」
「あ、そういうことか。じゃあ大丈夫、それでいいわよ!」
オルクスはジニーの言葉を了承の意と受け取り、淡々と語り始める。
「……オレはオルクス。囚人として冥界の監獄に服役中の身ではあるが、とある指令を受けてここにいる」
……。どうやら、それ以上のことを語る気はないようだ。
「……重要なことは何一つ明かさないわけね。そうくるなら、こちらも話せる情報は限られてくるけど」
「構わない。ただ、こちらが名と目的に関して口にした以上、お前達にも同様の内容を語ってもらうぞ」
……ジニーはリエルと顔を合わせ、互いに頷く。
「私、ジニーって言うの。こっちは相棒のリエルよ。私達、この世界にあるマナクリスタルっていうのを探しに来たんだけど、なにか知らない?」
ジニーの言葉を聞いたオルクスは精悍な顔つきのまま……ゆっくりと、巨大なハンマーを構えた。
「……クリスタルが目当てか。となれば、お前達がオレの敵であるということに疑いの余地はない」
静かな気迫を感じ取ったジニーとリエルも、慌てて各々の武器を抜く。
「立ち去る気は……ないようだな。いいだろう。ならば、この炎槌ディス・パテルで、お前達を塵一つ残さず焼き潰してやる……ッ!」
オルクスと戦う

ランキングに関係なく、一定数の【戦天使メダル】を集めると役立つアイテムが貰えるんだって!
こうなったらもうシュババ~っとやるっきゃない……!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるんだって!戦天使もこれにはびっくりだよ。
冒険に「土地力」は不可欠!いっぱい手に入れようね!
ギュンギュン強くなって、リエルの足を引っ張らないようにしないと……!
戦天使に相応しい姿にペカペカ~って大変身しちゃうんだから!
強い敵を倒せば多くの【戦天使メダル】が貰えるんだって。情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるから、
こまめにチェックチェ~ック!
イベント掲示板をみる
クエストかぁ。
少しでも冒険を円滑に進めるなら、やっておくべきだと思う!
クリスタルを探す
破天荒天使バトル

「あうっ。こ、この人強い……。ていうか、なんでさっきから私ばっかり狙ってくるのぉ!?」
ジニーの言う通り、オルクスはリエルには目も暮れず、ジニーばかりを執拗に狙っていた。
「イェ~イ!なんだか苦戦しているようねぇオルオル!ここはやっぱり、パンク偽天使サンディちゃんの加勢が必要って感じかしら!?」
サンディと名乗る少女はオルオル……もといオルクスに話しかける。様子から察するに、どうやら二人は旧知の仲のようだ。
「……偽天使ですって?」
真っ先に疑問を覚えたのはリエルだった。
偽天使……天界を追放されながらも堕天には至らなかった“はぐれ天使”のこと。
「行き場所を失った偽天使達はギヌンガの淵を根城にしているという情報は知っていたけど、まさか……冥界人と組んでいるなんてね」
「別におかしなことじゃないわ。ギヌンガの淵は天界と冥界の狭間にある世界で、冥界人にとっては重要な拠点。あたし達は警備の手伝いをする代わりに住む場所を与えてもらった。どう、パンクでしょ?」
「……サンディ。それ以上余計なことを話せば、お前を解雇するようニクス陛下に要請することになるが」
「イェ~イ!オルオルってほんと味方にも容赦ないわよね。そういうの、パンクでいいと思うわ!恰好もパンクファッションって感じだし!」
鼻歌を口ずさみながら、サンディはオルクスの隣に立つ。
「さてさて、要するにこの戦天使達は侵入者ってワケよね。あたしも元戦天使だし、因縁のライバルってやつかしら。うんうん、なかなかパンクな展開じゃない!」
そう言うと、サンディはリエルに向かって武器を構えた。
「待て、サンディ。青髪の方には手を出すな」
「……え?でも、さすがに二人相手じゃキツイでしょ?オルオルはあっちの槍の方を相手にするので手一杯みたいだし」
「オレ一人で十分だ。お前は持ち場に戻れ」
「……フッ、オルオルったら照れ屋さんね!パンクでキュートなサンディのことを心配してくれるのは嬉しいけど、ここは偽天使のプライドに賭けて引けないわ!どいてちょうだい、オルオル!」
「どくのはお前の方だ、と言っている。退かないのであれば……」
武器の矛先を、ジニーからサンディへと向けるオルクス。
「ち、ちょっとオルオル。もしかして、あたしと戦う気なワケ!?」
「この一帯を指揮しているのはオレだ。命令に従わないのであれば、相応の罰を与える」
「そ、そんな……。そんなの、最ッ高にパンクじゃない!いいわ、こうなったらまとめてかかってきなさい!実はあたし、オルオルとも一度戦ってみたかったのよ!」
そして、サンディの攻撃対象もリエルからオルクスへと入れ替わったようだ……。
「ねえ、リエル。これってアレかな。仲間割れ……みたいな?」
「……偽天使の多くは好戦的とは聞いていたけど、ここまでとはね。あのオルクスっていう男に少し同情してしまう自分がいるわ」
なんにせよ、とリエルは続ける。
「この機を逃す理由はないわね。理由はわからないけど、オルクスは私を攻撃してこない。それを利用して陣形を組んで、偽天使の方を先に倒しましょう」
「えええ……。い、いいのかなぁ。なんだか戦天使っぽくない戦い方だけど」
頭をひねりながらも、ジニーは偽天使との戦いに挑むのだった……!
パンクに戦う
冥彷監戦バトル

「あ……あなた達、パンクすぎぃぃい!」
猛攻に耐え切れず、サンディは目をグルグル回しながら気絶した。
「ふぅ、なんとか勝てた……。って、あれ?あのオルクスって人、いつのまにいなくなってる?」
「……仲間を呼びに行ったのかもね。となれば、状況は最悪かもしれないわ」
「うーん。けど、あの人そんなに悪い感じには見えなかったんだけどなぁ。それに、なんというか……リエルと***のことを妙に意識してたっていうか」
「……そうね。けど、今はとにかく先に進みましょう。冥界人と偽天使がこの辺りを警備していたということは、目的のクリスタルはそこまで遠くにはないはず」
リエルの案に賛同し、ジニー達は周囲の様子を伺いながら、ギヌンガの淵を探索することにした。
「うえぇ、本当に侵入者いたんだ……。う~ん、まだ眠いんだけどにゃあ」
そして、探索を開始して数時間後。空の上から、やけに眠そうな声が聴こえてきた。
「でもまぁ、冥界の存続のためだし。ていうかニクス様のためだし。ふあぁ……眠すぎてどうにかなりそうだけども、ちゃちゃっと片づけないとねぇ。う~、それにしても眠い……」
「……冥界の存続のため?ね、ねぇ。それってどういうこと?」
不安げに尋ねるジニーに、浮遊する椅子に乗った冥界人は気だるげに応える。
「あれ、なんも知らないの?そりゃクマっ……困ったにゃあ。んじゃ、このマクベアーが簡単に説明したげる。この世界にあるマナクリスタルはさ、天界と冥界の両方にエネルギーを放出してるんだよ」
欠伸をしながら、淡々と語るマクベアー。
「ま、天界側には別のエネルギー源があるみたいだから無くてもクマら……困らないだろうけど。冥界は小さい世界だから、ここのクリスタルがないと崩壊しちゃうんだよね」
「……!そ、そんな。そんなの私、聞いてない……」
ジニーが上級天使から受けた任務は『マナクリスタルの回収』というシンプルなもの。
しかし、上級天使はマナクリスタルというものがどういうものなのか……いくら問い詰めても、その一切を語らなかったのだという。
「落ち着いて、ジニー。彼が真実を言っている保証なんかどこにもないわ。私達を動揺させるためのウソなのかもしれない」
「彼って……。ボク、これでも女の子なんだけどにゃあ。それに、ウソも言ってないんだけど……。ま、どっちでもいっか」
大きな欠伸をすると、マクベアーはゲームのコントローラーらしきものを手に取った。
「どのみち、ボクの仕事はマナクリスタルに近づく人達を無力化して捕えること。ちゃちゃっと仕事を終わらせて、いっぱいゲームしていっぱい寝よっと。それじゃ、バトルという名のゲームスタート、ということで」
ゲームスタート
守幻闘士バトル

「ありゃ?なんで帰還の指令が……。ま、別にいっか。ふあ~ぁ、とりあえず帰ったらゲームして寝よっと。じゃあね、お二人さん」
気だるげな様子で意味深なセリフを言い残し、マクベアーはその場から飛び去っていった。
「……?妙な状況ね。かなり長く足止めをされていたはずなのに、敵の援軍が来なかった。それどころか戦いを放棄するなんて。ねえ、ジニーはどう考え……ジニー?」
物憂げな様子のジニー。どうやら、なにか心配事があるようだ。
「あのマクベアーって子が言ってたこと、本当なのかな?クリスタルを持っていったら、冥界がなくなっちゃうって話」
「さあ、わからないわ。あなたに密命を与えた上級戦天使は、クリスタルに関しては何も語らなかったの?」
「……うん。いくら聞いても機密事項だからって言われて。私も、ちょっと変だなとは思ってたの」
「だったら、私に相談してくれればよかったのに。それとも……私じゃパートナーとして頼りない、とか?」
「ち、違うの!そうじゃなくて……」
ジニーは慌てて問いを否定すると、重々しい空気を纏いながら、真実を語り始めた。
「任務のことを誰かに話したら、堕天させるって言われたの。私だけじゃなくて、話した相手も一緒にって……。それだけ重要な任務だって言われて、何も話せなかった……」
堕天。それは、天使にとって最も重い罪。死しても付きまとう苦の烙印。しかし……リエルは、普段と変わらないトーンで言葉を紡ぐ。
「言ったはずよ。私はただ、ジニーについていくだけだって。もしあなたが堕天するのなら、私も一緒に堕天するつもりだし。そもそも、私は戦天使に執着があるわけじゃないしね」
「で、でも!私の都合でリエルを巻き込んじゃったら……」
「“私を巻き込む”っていう考えは捨てていいわ。あなたは、天界に来て孤独だった私を救ってくれた……。その時から、私はなにがあってもあなたにずっとついていくって決めているの」
それに……と、リエルは続ける。
「仮にさっきの刺客が言っていたことが本当だとしたら、あなたに命令を下した上級戦天使の方が間違っているってだけじゃない。違う?」
……その発想は、ジニーにはなかった。というのも、天界に住む戦天使達には“同胞である天使の言葉を疑ってはならない”という教えが刷り込まれている。
しかし、冥界出身であるリエルにはその刷り込みがない。ゆえに、リエルは普通の天使では思い当たることのない結論に到ることができた。
「ジニー。真実っていうのは、最後のピースをはめるまでわからないものよ。その最後のピースが、今まで築いてきた未完成の真実を覆すことだってありえる。だから、この先どうするかはあなた次第」
そして、私はあなたの選択が絶対に正しいものと信じている……と、リエルは自分の想いの全てをジニーに伝える。
「……ありがと、リエル。なんか、吹っ切れたかも。ていうか、うじうじ悩んでるなんて私らしくないよね」
すっかり明るくなったジニーは、改めてリエルと***と向き合う。
&color(#ff9bb7){「うん、決めた!私、自分が納得するまで任務を続けてみる!そして、必ず真実を見つけて、自分の意志でなにが正しいかを見極めてみせるわ!」
}
迷いを吹っ切ったジニーは、リエルと***と共に、新たな一歩を踏み出すことを選んだ。
「……!ねえ、リエル。この気配って」
そして、再び探索を続けていると――
「ええ、なにか強力な力を感じるわ。もしかしたらクリスタルの気配かも……。それと、厄介な連中の気配もするわね」
ジニー達の前に立ち塞がったのは、あらゆる異界の者達の幻体だった。どうやら、何らかの防衛機構が働いているらしい。
「……来るわよ、ジニー!」
幻体達はジニー達を敵とみなし、一斉に襲い掛かってきた……。
幻体を倒す
熾弾銃隊バトル

「あー、アー。こちらリーダーのエルシャ!北E6地点より、ターゲットAとBがマナクリスタルのガーディアン達を全員討伐したのをバッチリ確認したよ!オーバー」
『こちら側面射撃手ルフェル。南東G8地点からも確認済みです。いつでも出撃できます。オーバー』
『……こちら狙撃手クロエル。北西B11地点からも捕捉完了。ガム食べながらリーダーの合図待ち。おーばー』
苦戦しながらも、幻体を倒すことに成功したジニー達。しかし、そんなジニー達の様子を遠くから伺う者達がいた……。
「こちらエルシャ!う~ん、それにしてもさすが戦天使だね。とてもだけど、あたし達だけじゃガーディアンは倒せなかったもん。それに戦い方もかっこよかったし!う~サインもらえないかなぁ!オーバー」
『こちらルフェル。リーダー、私語は謹んでください!我々の任務はターゲットからマナクリスタルを回収すること。そして、抵抗の素振りを見せた場合は武力制圧を実行することです。お忘れなく。オーバー』
『……こちらクロエル。ターゲットAがマナクリスタルを獲得したのを確認。ガムの味も薄くなってきたし、さっさと交渉に行って来い、アホリーダー。おーばー』
「こちらエルシャ!わ、わかってるって。二人して怒らなくてもいいのに……。でも、安心して。巧みな交渉術ですぐにクリスタルは回収するから!行くよ、ルフェル!」
無線での会話を終えると、エルシャとルフェルの二人は浮き島から飛び立ち……ジニーとリエルの目の前までやって来た。
「……!あなた達は……偽天使、かしら?」
二人の存在にいち早く気付いたリエルが、すぐに警戒の態勢に入る。
「どうもどうも!安心して。確かにあたし達は偽天使だけど、この世界の住人じゃなくてイオフェル様の使いだから。つまり、お二人の味方ってこと!」
イオフェル。その名は、ジニーに密命を下した上級戦天使の名前だった。
「ど、どういうこと?イオフェル様は、偽天使とも繋がりがあるってこと?」
「……上が黒なのはこれで確定ね。ジニー、彼女にクリスタルを渡してはダメよ」
ジニーは小さくうなずくと、クリスタルを懐にしまった。
「あれ?も、もしかして、ますます警戒されちゃった感じ……?」
「こ、このアホエルシャ……じゃなくて、リーダー。巧みな交渉術は失敗のようです。ここは予定通り、武力制圧に乗り切るしかないかと」
『こちらクロエル。いつでも狙撃できる。ガムの味もなくなってイライラしてきたから、もう撃つぞ。おーばー』
交渉を諦めた三人の偽天使達は、各々の銃をジニーとリエルに向けた。
「ど、どうしよう、リエル。このままじゃ……」
……先ほどの幻体との戦いによって、ジニーとリエルはダメージを負っている。とてもだが、同時に三人を相手にできるほどの状態ではない。

しかし、次の瞬間。優しい光がジニーとリエルを包んだかと思うと、二人の傷は瞬時に塞がった。
「ジニー、リエル!無事か!?」
……どうやら、二人に追いついたヒューイが癒しの術を使ったようだ。
「ヒューイ!?ど、どうしてここに」
「必ず合流すると言っただろう。ロズレィ嬢を落ち着かせるのに少し時間が掛かってしまったが……と、悠長に話しているヒマはなさそうだな。二人とも、まだ戦えるか?」
当然、と言わんばかりにジニーとリエルは武器を構え、ヒューイと共に偽天使達との戦いに挑むのだった……。
一気に攻める
冥界女王バトル

「こ、こちらエルシャ!予想外の反撃につき戦線離脱を提案!オーバー」
「こちらルフェル!リーダーの提案に異議なし!クロエル、持ち場から撤退してください!オーバー」
『……こ、こちらクロエル。ハンマーを持った冥界人の襲撃を受けたので、すでに撤退済み。おーばー』
……三人の偽天使達が去っていったのを確認したジニーは、先ほど懐にしまったマナクリスタルを取り出す。
「ジニー、どうするの?」
リエルとヒューイに見守られながら、ジニーは決心を固めた。
「決めたわ。マナクリスタルは…………ここに置いていく」
「……それは、堕天する覚悟ができたっていうこと?」
「そうじゃない。リエルの言った通り、私にはまだ真実が見えていないわ。けど、このクリスタルが重要な物ってことは確かだと思う。だから、簡単に持ちだしちゃいけないと思うの」
「懸命な判断ですね。しかし、クリスタルの場所を知られた時点で……もう、手遅れなのです」
冷淡な声と共に現れたのは、冷たい雰囲気を纏った一人の少女。
「そんな、まさか……。どうして彼女がこんなところに……!?」
「おい、口を慎め三下!このお方をどなただと心得ていやがる!?行き場のなかった俺のような偽天使達に居場所を与え下さった、誇り高き死の女神ニクス様だぞ!」
リエルの態度が気に喰わなかったのか、少女の隣にいる偽天使の男は怒りの声を上げる。
「艶美にして純美。端麗にして秀麗。ありとあらゆる才を兼ね揃え、少々マニアックな人間界の本を好む冥界の女王。そして、やがては俺のお嫁さんになってくれると信じて――」
「ゼフォン。静かに」
「ハッ!?こ、これは失敬!」
ゼフォンと呼ばれた男を一瞬で黙らせたニクスは一歩、また一歩とジニー達へ近づいていく。
「すでにご存じかと思いますが、そのクリスタルは冥界の存続に関わるもの。しかし、この地は天界と冥界の狭間にある世界。公に領地として占領することはできない……。ゆえに、我々冥界人は行き場を失った偽天使と共に、ひっそりとこの地を守ってきました」
囁くように語るニクス。彼女の言葉には、思わず聞き入ってしまうような不思議な力があった。
「もし、天界側がクリスタルの重要性を知りながらも奪取を試みるのであれば、こちらも抗戦しなければなりません。たとえ戦争に発展することになっても、いたしかたのないこと」
「ま、待ってください!私達はもう、このクリスタルを持ち出すつもりは……」
ジニーの問いに、ニクスは首を横に振る。
「言ったはずです。クリスタルの場所を知られた時点で、すでに手遅れであると。冥界の存続を揺るがす異分子は早急に排除しなければなりません。それは、女王である私が直々に行うこと……」
冷徹にそう言い放ち、ニクスは巨大な鎌をゆらりと構えた。
「……行きますよ、ゼフォン。あとは手筈通りに」
「承知!っーことだァ。せいぜい俺がいいところを見せられるよう足掻いてくれよ、戦天使ども!」
全力で足掻く
熾戦天使バトル

「一つ、問います。なぜ、あなた達は……反撃をしてこないのですか?」
ジニー達はニクスとゼフォンの攻撃を凌ぐことに集中し、反撃の隙を見つけても決して攻撃を行わなかった。
「……私は、冥界の人達と争う気はありません。確かに、私はさっきまで取り返しのつかないことをしようとしていました。でも、パートナーのおかげで、それが過ちであることに気付くことができた……」
だから、戦わない……と、ジニーはニクスの目を見てハッキリと宣言した。
「それがあなた達の戦い方ですか……。ふふ。あなたの言った通りになりましたね――――オルクス」
ニクスが名を呼ぶと、近くに身を潜めていたオルクスが姿を現す。
「……オレのような囚人兵の言葉に耳を傾けて頂き、心より感謝致します。ニクス女王陛下」
跪き、ニクスに感謝の言葉を口にするオルクス。状況が飲み込めず、ジニーとリエルはお互いに顔を見合わせる。
「すみません。あなた達が正しき心を持つ者かどうか、試させて頂きました」
どこかはにかんだ様子で、ニクスは事の全容を語った。
「あなた達がクリスタルを求めていることはオルクスから聞かされていました。無論、冥界側はクリスタルを守るために抵抗するつもりでしたが……。彼はあなた達を信じ、黒幕をおびき出すためにあなた達を泳がせることを提案したのです。そして、この作戦は……成功したようです」
ニクスが空を見上げると同時に、その場にいた者達全員が上空へと視線を向ける。
「フン……。まさか、冥界の女王が推参するとは。これはさすがに予想外だったな」
「……!イ、イオフェル様……」
そこには、数名の部下を連れた上級戦天使、イオフェルの姿があった。
「ジニー。使えぬヤツだ。単細胞である貴様ならば、何一つ疑問を持たずに我が命令を遂行すると思っていたが……。やはり、自ら表舞台へ出ることで生じるリスクを背負ってでも、己の力で成し遂げるべきだったか」
「イオフェル様、教えてください!どうして、このようなことを……!?」
冷徹に言い放つイオフェルに、ジニーは声を荒らげながら言い寄る。
「愚問だな。戦天使とは天界の繁栄のために身を尽くすもの。この世界のクリスタルに秘められたエネルギーは、天界に膨大な恵みをもたらす。となれば、それを手に入れるのは戦天使として当然の務めだ」
「で、でも。そんなことをしたら冥界が……」
「冥界など知ったことではない。仮に冥界と戦争に発展したとしても、天界の兵力の方が格段に上。恐れるに足らん」
顔色一つ変えず、巨大なキャノン砲を構えるイオフェル。
「さて、話は終わりだ。天界の者達に感づかれる前に、ここにいる者達全員を消去しなければならんのでな。まずは……我が計画を狂わせるきっかけとなった、貴様からだ……!」
イオフェルは左腕で精製した聖炎を巨大なキャノン砲に装填し――その銃口をリエルに向け、引き金を引いた。咄嗟のことに反応できず、リエルは思わず目を閉じる……。
「…………っ、オルクス!?あなた、どうして……」
リエルを庇い、オルクスはイオフェルの攻撃を正面から受けた。
「……よそ見を……するな。次が来るぞ……!」
ハンマーを壁にしたことで致命傷は避けていたが、オルクスの傷は思った以上に深い。
「させないわ……!」
リロードを終える前に、ジニーはイオフェルに飛びかかっていた。
「チッ、あくまでも刃向うか……。いいだろう。ならば、この上級戦天使“熾炎のイオフェル”が、お前達を直々に火葬してやる!」
イオフェルと戦う
エピローグ

「バ、バカな!この私が、こんなところ……で……」
ジニー達と冥界人達の猛攻を凌ぎ切れず、イオフェルはその場に膝をつく。すかさず、ジニーはイオフェルの喉元に槍の尖端を突きつけた。
「…………なにを、している。なぜ、トドメを刺さぬ?」
イオフェルの双眸をしっかりと見つめながら、ジニーはその問いに答える。
「イオフェル。あなたを天界に連行します、あなたには、天界から正当な裁きが下るでしょう」
「……やはり単細胞だな、貴様は。我が裁かれるということは、結果として我に手を貸した貴様も裁きの対象になるということだ。それでも貴様は」
「覚悟の上です。途中で踏み止まったとはいえ、私があなたの言葉に疑問を覚えず、判断を誤ったのは事実。相応の罰は受けるつもりです」
覚悟を決めたジニーの言葉を、イオフェルは小さく嘲笑う。
「笑わせてくれる。リエルよ、貴様はいいのか?ジニーが罰を受けることになれば、貴様も同様に罰を受けるのだぞ?」
「単細胞はあなたの方ね、イオフェル。私はジニーと共に歩むことを決めているわ。ジニーが罪を背負うというのなら、私はそれを一緒に背負うだけ。彼女が堕天するのなら、私も一緒に堕天する覚悟よ」
二人の確かな結束力を、イオフェルは「くだらない」と一蹴する。
「言っておくが、私は自分のしたことに微塵の後悔もない。全ては停滞しつつある天界の繁栄を願ってのこと。そう、私は……誰よりも天界のことを愛しているのだ。そのためなら堕天の汚名をも背負う覚悟だ。貴様らと同じように、な」
……胸中を明かしたイオフェルは敗北を認め、武器を地に置いた。
「必要とあらば、天界の方には私自ら進言をしましょう。あなた達は自らの力で過ちに気が付き、事の収束に貢献を果たした、と」
「……!あ、ありがとうございます!」
ニクスの言葉に、ジニーは歓喜する。それは自分自身にではなく、自分のせいで罪を背負ってしまったリエルの負担が少しでも軽くなることへの喜びだった。
「……オルクス」
一方。リエルは、自分を庇って傷を負ったオルクスの手当をしていた。
「あなたが裏で動いてくれていなかったら、私達は無事ではすまなかったわ。それに、下手をすれば天界と冥界が戦争になっていたかもしれない。全部、あなたのおかげ」
ありがとう……と、リエルは心からの感謝の言葉をオルクスに告げる。
「……礼を言われる資格など、オレにはない。お前達二人が真に判断を誤るようであれば、オレは容赦なく鉄槌を下していただろう」
そう言いながらも、オルクスの表情はどこか柔らかかった。
「ねえ、オルクス。あなた、もしかして……………………いいえ、なんでもないわ」
手当てを終えたリエルは立ち上がると、ジニー達の方へ戻ろうとする。
「さようなら、オルクス。その……いつか、また……」
「リエル」
去りゆくリエルの背中に、オルクスは言った。
「身体に気を付けろよ」
リエルは振り返り、オルクスの目を見つめる。
「うんっ」
満面の笑みでオルクスに手を振ると、リエルはジニーとヒューイの元へと戻っていった。
「それじゃあ、天界に帰ろっか!これからどうなるかわからないけど……。最高のパートナーのリエルと、最高の眼鏡執事ヒューイがいてくれれば、きっと大丈夫!」
「……そうね。帰りましょう。私達の天界に」
「そこは普通に執事でいいだろう!まったく、君というヤツは……そうだ、***からも何か言って……おや?」
ジニー達の歩む道に確かな意志を見出した***はその場を去り、新たな旅路へと向かうのだった……。

――冥界・カオスプリズン内――
「ニクス女王陛下の進言もあり、二人の戦天使は謹慎処分のみで罪には問われなかった模様。報告は以上です、ハデス殿」
ギヌンガの淵での戦いから数週間が経過し、オルクスは隣の監獄にいるハデスにギヌンガの淵でのことを報告する。
「うむ、ご苦労。それで、ニクスたんは……我が娘の手腕はどうだった?」
「冥界の女王として相応しい力を身に着けていると思います。このまま経験を積んでいけば、必ずや素晴らしい指導者になることでしょう」
屈託のない意見を口にするオルクス。しかし、ハデスの表情はまだ渋いままだ。
「娘は……ケガをしていなかったか?」
――父親として、娘の身が心配なのだろう。気持ちはオレにもわかる。
そう思いながら、オルクスは再び口を開く。
「今回の件の主犯であった上級戦天使との戦いにおいて多少の傷は負っておりましたが、大きな怪我はありません。現在は回復されているかと」
「そうか……。それで、娘は我輩についてなにか言っていたか?」
「……いいえ、特になにも」
「むぅ、そうか」
少し考える仕草をすると、ハデスは言った。
「娘に変な虫はついていなかったか?」
「娘のことばっかりかアンタ」
経過報告のはずが、完全に私情になっていることに気が付き、オルクスは敬語という概念を一時的に忘却の彼方へと追いやった。
&color(#ff9900){
「な、なんだ。娘のことを心配してなにが悪い?」}
「悪いとは言っていない。しかし、アンタは愛情が深すぎる。ハッキリ言わせてもらうが、ニクス女王陛下の手腕は現時点で全盛期のアンタ以上だ。心配する要素はどこにもない」
「むぐっ!オ、オルクス、貴様ァ……我が娘をベタ褒めしおるか!褒めて遣わす!」
このオッサン……と、心の中でぼやくオルクス。
「ああ。娘と言えば、貴様も自分の娘と会ったのだろう?それで、どうだったのだ?」
「……アンタに語る必要はない」
「でも貴様、アレであろう?誓約上、自ら正体を明かすことはできんのだろう?辛くないか、それ」
「娘には信頼できる仲間がいた。それで十分だ」
「いやぁ、我輩だったら無理だな。いやもう絶対無理。誓約とかどうでもよくなって正体明かすパターン。絶対そうなる自信あるもん、我輩」
世間話をするつもりのないオルクスは、すでにハデスの話を聞いていなかった。
「むむ。おい、オルクスよ。まだ報告は終わっていないぞ。『娘に変な虫はついていなかったか?』という質問に応えよ」
心底どうでもいいと感じるオルクスだったが……ふと、思い当たる。
「そういえば、ゼフォンという偽天使が陛下のことを嫁にしたいと言って…………あっ」
――言わなければよかった。
そう思った頃にはすでに遅く、ハデスは血走った眼で鉄格子をぶち破り、牢屋から飛び出していた。
「ちょっとそいつ塵に変えてきます」
「よ、よせ。アンタが脱獄したらニクス女王陛下の評判が……」
結局、ハデスを落ち着かせるのに二日かかったという。そして……この日以来、オルクスはハデスに敬語を使わなくなった。

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