時の契約者と漆黒の炎_prologue
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263:時の契約者と漆黒の炎 蒼黒の業火
プロローグ
「……間違いありません。マテリア様はこの遺跡群のどこかにいるはずです!マテリア様の麗しく美しい気をメラメラと感じます!ええ、感じますとも!」
「ずいぶんと古びた遺跡のようだな。一体、ここはどんな場所なんだ……?」
ローランの問いに、カーマインは考える仕草をしながら答える。
「詳しいことは赤の一族も知りません。古くから牙の民が守っている不可侵の領域で、古代人を祀っていたという言い伝えがあるくらいでしょうか。マテリア様なら、もう少し詳しいことを知っているかもしれませんが……」
「なるほどな。なんにせよ、マテリアを見つけるのが最優先か。なぜ、マテリアはマスターブックと共にこの遺跡群に姿を消したのか……。その意図を知れば、この遺跡の謎も解けるかもしれない」
「……?ローラァンさんは遺跡探索の趣味でもあるのですか?」
「そういうわけじゃない。ただ、妙な空気を感じてな。あまり長居をしない方がいい……そんな気がするんだ」
二人が会話をしていると、イフリータが足を止め、周囲を警戒し始める。
「……囲まれてるわね」
イフリータの発言から数秒後、その者達は各々の武器を手に姿を現した。外見からして、先ほどのバオルと同じく牙の民の者達のようだ。
「わわッ!?外の人間がいっぱい……!もしかして、学者先生のお友達だったりするのかな?かなかな?」
グリーズと名乗った少女の間延びした声を合図に、牙の牙の民達は戦闘態勢に入った。
「……カーマインと同じで、話が通じる相手じゃなさそうね。こうなったらもう、戦うしかないわ!」
「ああ。カーマインと同じで、話が通じなそうだからな。行くぞ、イフリータ!+++!」
イフリータとローランは息の合った動きで、敵陣へと攻め込んでいく。
「って、ちょっと!あ、あなた達、あたしのコトそんな風に思っていたのですか!?」
……実は、+++もちょっと思っていた。が、+++は口にはせず、カーマインと共にローランとイフリータのあとに続くのだった。
>>追求する!<<
ランキングに関係なく、一定数の【ルインズメダル】を集めると役立つアイテムが貰えるぜ。
争い事は避けられそうにない、か……。
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使うと、すぐにLv80になれるぞ。
「土地力」は重要な力だ。積極的に溜めていこうぜ!
コンビネーションは大事にしていこうぜ。
動きやすければそれでいいさ。
強い敵を倒せば多くの【ルインズメダル】が貰えるようだな。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれる。
こまめにチェック、だな。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれる。
こまめにチェック、だな。
遺跡謎解きバトル
戦いの末、+++達はグリーズ達を無力化させることに成功する。+++達は敵が持っていた捕縄用のロープで彼女達を縛り、マテリアの気配を頼りに先に進むことにした。
「ん?今、あの壁の向こうで大きな音がしたな。よし、行ってみるか」
ローランを先頭に、+++達は音が聴こえた方へと向かう。するとそこには、遺跡内部へと続く小さな入り口があった。
「さっきの音は、この入り口の扉が開いた音だったようだな。ということは、たった今、誰かがここを通った……ということか?」
「……マテリアの気配もこの先からするわね。行きましょ」
……+++達が入り口をくぐると、扉は音を立てて閉まってしまった。一瞬にして辺りは暗くなったが、イフリータとカーマインが松明の代わりに魔術で火を灯してくれたおかげで、視界は悪くない。
「ほう?牙の民の追手かと思ったが、どうやら違うようだね。もしよければ、お互いの素性を明らかにしておきたいのだが……」
すると、石造りの通路の奥から、発光する杖を片手に携えた、一人の魔術師らしき男が姿を現した。
「……!気を付けて、ローラン。この人……強いわよ」
「ああ、見ればわかる。だが、今回は話が通じる相手のようだ。ここは提案に乗っておこう」
ローランは自らの素性とここに来た理由を、魔術師風の男に説明する。
「……なるほど。確かに、僕よりも先にここを通った者がいることは間違いないだろう。それらしい痕跡もあったからね。」
「ただ、その人物が君の言う、赤の一族の少女なのかどうかまでは測りかねるが……」
「今度はこっちの番だ。あんたは一体、何者だ?牙の民に追われているということは……もしや、あんたが“学者先生”とやらなのか?」
「その認識で合っているよ。僕の名前はハミルトン。親しい人は僕のことをハミルと呼ぶんだ。」
「だから君達は、僕のことをハミルトンと呼びたまえ」
「……ちょっとウザイわねこいつ」「ええ。イラっときました」と、ひそひそ話をするイフリータとカーマイン。が、そんなことはお構いなしに、ハミルトンは続ける。
「僕は魔術師であると同時に考古学者でね。以前からこの遺跡のことを調べていたんだ。」
「だが、書物での研究に限界を感じ、牙の民の目を盗んで、遠路はるばるここを訪れたというわけさ。」
「彼らには申し訳ないけど、ね」
「……命の危険を顧みず、研究のためだけにここを訪れたのか?」
「むっ。“だけ”というのは語弊があるね。僕にとって、知的好奇心を満たすという行為はベーシックニーズなのさ。」
「それ以外のことは全て二の次で構わないとさえ思っている。ああ、だからと言って人としての心を軽んじているわけではないよ?」
「ただ、ヒューマニストかと言われると首を横に振るし、モラリストかと問われれば否定するだろう。」
「自分を客観視し、それをあえて言葉という形で表現するのあれば……オプティミストというワードが最も適していると言えるね」
「……話長いわね、こいつ」「ええ。しかも何を言ってるのかよくわかりません」と、ひそひそ話をするイフリータとカーマイン。すると、ローランがあごに手を添えながら口を開く。
「楽観主義者、か。哲学的に解釈するのであれば、最善であり最も幸福な生き方だな。その思考に至るには、育った環境が大いに関係してくると聞く。」
「才覚と環境がピタリと当てはまる状況というのは、なかなか巡り合えるものではない。さぞ、実りある時間を歩んできたのだろう。羨ましい限りだ」
「ローラン、こいつの話わかるの!?」「テキトーなこと言ってませんか?」と、大声でツッコミを入れる赤コンビ。
「ほう?どうやらただの騎士ではないようだね。気に入ったよ……ならば、ここは一つ、謎解き勝負でもどうだい?」
「謎解き勝負、だと?」
「ご覧の通り、この先は行き止まりだ。」
「しかし、周囲には意味ありげな石のスイッチや燭台、壁に刻まれた古代文字、左右で形状が異なる石像、魔法陣が描かれた台座といったオブジェクトが溢れている。」
「これらの仕掛けを解かなければ、僕達は先に進めないということだ。つまり……」
「先に解いた方が勝ち、というわけか。四対一になるが、構わないか?」
「ああ、もちろんだとも。そうだね……負けた方は、勝った方の言うことを一つなんでも聞く。まぁ、報酬に深い意味はないよ。」
「僕はただ、知的好奇心をくすぐる駆け引きを楽しめればそれでいい。どうだい?」
「……いいだろう。どのみち、先を急ぐ身だ。競争意識を持った方が、案外早く謎が解けるかもしれないからな」
こうして+++達は、どちらが先に仕掛けを解けるか、ハミルトンと勝負をすることになったのだった……。
漆黒幻者バトル
「……やはりこれは、古代魔法文明時代に使われていた文字だね。そして、町が炎に包まれたこの壁画……となると、この遺跡は……む?」
「あぁ、すまない。壁画に記されていた歴史に想いを馳せていて、勝負のことをすっかり忘れていたよ。おっと、扉が開いているね。では、先に進むとしようか」
「はぁ!?なに勝手に仕切ってんのよ!言っておくけどねぇ、ここを開けたのは私達であって……ちょ、ローラン?」
苛立つイフリータの肩に手を置き、ローランは冷静な声色でハミルトンに言葉を投げかける。
「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く、だったな。なら、あんたが解読した“壁画に記されていた歴史”について教えてくれないか?」
「もしかしたら、マテリアが……俺達の仲間がここを訪れた理由と関係があるかもしれないからな」
「お安い御用だよ、騎士君。とはいえ、僕らはお互いに牙の民に追われる身だ。先に進みながら話すとしようじゃないか」
+++達はハミルトンとローランを先頭に、扉の先の石造りの回廊を進んでいく。
「僕が解読したのは、あくまで歴史の序章にすぎないが……この遺跡が何のために存在したのかは理解できた。」
「どうやらこの遺跡は、元々は古代の魔法研究施設として機能していたようだね」
「魔法研究施設……?古代の者達が、ここで魔法を研究していたのか?」
「ああ。しかし、それ以上に興味深いのは、この遺跡……いや、この森にかつて三つの種族が住んでいた、ということだ。赤の一族と、白の一族。そして……」
『……黒の一族。漆黒の衣を纏っていた彼らは、調停をもたらす存在として、この地に住んでいました』
回廊の奥にある広間から、男の冷たい声が響く。その姿を見た瞬間、ローランとイフリータ……そして、+++の表情が驚嘆へと染まる。
『久しいですね。ローランさん、イフリータさん。そして……栞の旅人さん。まさか、このような場所で再会を果たすとは思っていませんでした』
……仮面の男。以前の冒険で、+++とローラン達の前に現れた謎多き者。かつて、この男は赤の一族のイフリータと、白の一族のフィーユを利用することで、マスターブックを開こうと企んだ。
+++達の活躍もあり、その企みは阻止できたものの、男は他の世界へと姿を消した。以来、この男と邂逅することはなかったのだが……
「……できれば会いたくはなかったがな。なるほど、マスターブックを盗んだのはお前だったわけか」
『ふふ。そう睨まないでください、ローランさん。マスターブックは私にとっても大切なものなんです』
マントを翻し、仮面の男は微笑を浮かべる。
『あなた達が数多の物語世界を旅している間、私もまた、多くの世界を旅してきました。』
『そして、私は一つの真実を知り、ある目的を定めたのです。それを達成するためには、マスターブックを開くことが必要不可欠なんですよ』
「あんたの目的なんか、今はどうだっていいわ!マテリアは……あの子はどうしたの!?」
『相変わらず血の気が多いですね、イフリータさん。彼女は今ごろ、私が召喚した精霊と戯れている頃でしょう。まだ生きているとは思いますが、時間の問題でしょうね』
「……ッ、だったら、すぐにそこをどきなさい!」
怒りに身を任せ、火の玉を仮面の男へと投げるイフリータ。しかし、男は軽々とその攻撃を回避する。
『まぁまぁ、慌てないでください。この体はあくまで分身。本体の私は、遺跡の最奥でマスターブックを開くための準備をしている最中。』
『早い話、あなた達を足止めするために、この分身を遣わせたという所存でして……』
仮面の男はゆらゆらと浮遊し、マントの中から黒い栞を取り出す。
『まぁ、私を倒しても倒さずとも、どのみちあなた達は死ぬことになるのですがね。』
『この先に進み、絶望を味わって死ぬぐらいなら……案外、ここで死んだ方が楽かもしれませんよ?』
酷薄とした殺気が仮面の男から放たれる。反射的に、+++達は各々の武器を構えていた。
『ふふ。あの時よりも、ずっと強くなっているようですね。いやはや、しかし……宿敵との対峙というのは、やはりいいものです。』
『物語世界を守るために戦う英雄達……私の愛する、私だけの敵との戦い。楽しまずにはいられませんよ。そして、何より……』
黒い栞から“過去に+++の前に立ち塞がった敵達”を召喚する仮面の男。
『栞の旅人さん。この段階であなたを消すことができるのは、私にとって大変都合がいい。戦いという過程を楽しみながらも、あなたの命だけは確実に奪いたいものです……』
対して+++は、“過去に仲間となった者達”を召喚し、仮面の男との戦いに挑むのだった。
敵を倒す!
炎精援護バトル
『……やはり、この体では限度がありますね。まぁ、仕方がありません。』
『どのみち、死する運命が決定づけられているあなた達に、私を止めることはできません。では、またのちほど……会うことがあれば、また会いましょう』
分身は不気味な笑みと共に霧散し、消滅した。
「……ヤツの言葉の真意も気になるが、今はマテリアの下へ向かうのが先だ。急ぐぞ!」
「それなら僕もついていこう。おそらく僕が求める答えは、あの男の正体にあるようだからね。安心したまえ、足は引っ張らないさ」
ハミルトンを仲間に加え、+++達はローランを先頭に、さらに遺跡の奥へと進んでいく。
「マテリアの気配が近いわ!この壁の先みたいだけど……扉が見つからないわね」
周囲には、先ほどの部屋と同じように意味ありげなオブジェクトがある。
「ふむ、どうやら今回も仕掛けが施されているようだね。どれ、ここは僕が……」
「そんなことをしている暇はありません!見たところ、この壁は先ほどの扉よりも薄い様子……となれば、学者先生!どいてくださいませ!はぁぁぁああッ!!」
カーマインは炎を拳に纏い、凄まじいパンチで壁を粉々に破壊した。
「おおおッ!?き、貴重な遺跡になんということをするのかね!?君は今、雄大なる歴史を破壊したのだ!」
「あぁ、多大な損失だ……損失という名の崩壊……歴史というロマンの崩壊だ……ヒストリー・イズ・デッド……ベリー・サッド……」
「あ……!マテリア様!マテリア様ぁぁあ!!」
真っ青になっているハミルトンを華麗にスルーしたカーマインは我先にと飛んでいき、広々とした正方形の空間に足を踏み入れた。
「……数名の生体反応を検知。交戦対象の仲間と判断。加勢を警戒し、ギアを上げまス」
そこには、虚ろな表情をした短髪の少女と……
「む……。キミ達、来てくれたのか」
傷だらけになりながら剣を構えている、マテリアの姿があった。
「マ、マテリア様!あぁ、麗しのツルツルお肌に傷が……!あの少女ですね?あの少女にやられたのですね!?つまりあの少女に一発ぶちかましてやればいいのですねッ!?」
「落ち着くのだ、カーマイン。こんなもの、たいした傷ではない。しかし……あのメニスという少女に関しては、たいした使い手であると称賛を送らざるを得ないだろう。」
「魔術によって作られた精霊のようだが、驚異的な再生能力を持っているようだ」
そう言うと、マテリアは剣を大きく振り上げ、刃に魔力を集中させる。
「あの再生能力を突破するには、大きな一撃を決めるしかないだろう。すまないが、時間を稼いではもらえないだろうか……?」
マテリアの提案に、+++達は首を縦に振った。
「よし。カーマイン、お前はマテリアの傍にいてくれ。俺とイフリータが先陣を切る。学者先生と+++は援護を頼む」
「……!実に素晴らしい作戦です、ローラァン!今現在、あなたへの信頼度があたしの中で爆上げ中です!ええ、爆上げ中ですとも!」
目をキラキラと輝かせるカーマイン。以前口にした『あまり好きではない』というセリフは完全に撤回したようだ。
「大げさなんだから……。ほら、再会を喜ぶのはあと!学者先生、+++!後ろは任せたわよ!」
「……大役だね。まかせたまえ。とはいえ、なるべく遺跡を破壊しないようにだね……」
「それが歴史を守るという全ての人類の使命であってだね……ぶつぶつ……」
+++達が戦闘態勢に入ると、メニスは全身に闇色の魔力を纏った。
「集団戦闘戦術に切替……完了。あの方のために、対象を排除すル……!」
援護する!
悪幻襲来バトル
「戦闘続行不可。あのお方より、次の指示を確認……………………承諾。実行、すル」
すると、メニスの胸部に淀んだ魔力が集中し、周囲の空気がビリビリと震え始めた。
「……!君達、僕の後ろへ来たまえ!早く!」
大声を張り上げるハミルトン。+++達はその勢いに押され、すぐに彼の背後へと回った。
「迸れ、魔力よ……堅牢たる障壁と化せ……!」
ハミルトンが魔力障壁を展開する。期を同じくして、メニスの体は烈々しい輝きに包まれ……そして次の瞬間、身を裂くような爆風が空間全体に広がった。
障壁に守られているにも関わらず、その風圧は凄まじく、+++達は目を閉じ、身をかがめることしかできなかった。
「……ッ。まさか、自爆するとはな……ん?おい、ハミルトン!無事か!?」
爆風がおさまったあと、ローランは驚愕の声を上げながら、膝をつくハミルトンの下へ駆け寄る。
「……さすがに、無傷とはいかなかったようだ。まったく、僕もまだまだ未熟だね……」
「未熟でなどあるものか。あんたがいなければ、俺達は全滅していたかもしれない。礼を言わせてくれ」
「勘違いしないで、ほしいな。僕はただ、可愛い遺跡にこれ以上傷をつけたくなかっただけさ……。君達を助けたのは、あくまでついでだよ……」
……応急処置は施したものの、しばらくの間、戦闘は厳しそうだ。
安静にさせたいところだが、この場に彼を置いていくのはあまりにも危険すぎる。そう判断したローランは彼に肩を貸し、先頭をマテリアに任せ、全員で先に進むことを選んだ。
「ところでマテリア。あんた、どうして一人で里を飛び出したのよ?まぁ、あんたのことだから、マスターブックを取り返すことに夢中になって、一人で突っ走っちゃったんだろうけど……」
「……その通りだ、イフリータ。あのメニスという者が気配もなく里に現れ、マスターブックを盗んでいった。私はそれを追いかけ、ここまで来たのだ。心配をかけてしまったことは……その、なんだ。申し訳ないと思っている」
メニスはマスターブックを持っていなかった。となると、マスターブックはすでに仮面の男の掌中にあるとみて間違いないだろう。
「マスターブックを悪用されれば、この世界は……いや、もしかしたら他の世界にすら危険が及ぶかもしれない。何としても、あの男からマスターブックを取り戻さなけれ、ば…………む?」
マテリアの言葉を遮るように、遺跡全体が大きく揺れ始めた。単なる地震、というわけではなさそうだ。
「……何かよくないことが始まったのは間違いなさそうだな。先を急ごう。あの男からマスターブックを取り返すんだ」
不規則に揺れる足場に注意を払いつつ、+++達は先へと進む。外観から察するに、そろそろ最奥へと辿り着く頃だろう。だが……広々とした回廊の壁には“黒い栞”が何枚も貼り付けられていた。
そして、黒い栞は禍々しい光を放つと同時に、邪悪なる者達を召喚した。
「あぁ、もう!しつこすぎよ、こいつら!」
「幻とはいえ、厄介な相手であることは間違いなさそうだな」
そう言うと、イフリータとマテリアは戦闘態勢に入った。そして、ローランはハミルトンをカーマインに任せ、デュランダルを抜いた。
「……こうなった以上、突き進むだけだ。行くぞっ!」
迎撃する
追憶終末バトル
「な……んだ、これは……?」
ローランが辺りを見渡している間にも、漆黒色の霧は泥水のように蠕動している。そして、霧が晴れ……+++の視界は、全くの別世界を写していた。
「この世界は……どうやら、幻術で作られた場所のようだな。しかし、ここまで規模の大きい幻術は見たことがない。それに、ここは一体……まるで、終末の風景ではないか」
そこには、マテリアの言葉通りの景色が広がっていた。割れた大地、燃える建物、舞い上がる黒煙、赤黒く淀んだ空、人の形をした者達の死体……いや、中には原型を留めていないものもある。
「……生き残った者達は、無事に逃げることができたようですね。あとは、私達が時間を稼ぐだけです。スキアー、ウンブラ。戦いの準備はできていますか?」
突然、背後から気丈な女性の声が聴こえた。振り向くと、そこには声の主である黒衣を纏った女性と……
「……ふん。妾は自己犠牲の精神には納得しておらんからな。とはいえ、マギサよ。お主が同胞と、たった一人の弟を守るために戦うというのなら、このスキアー……全力で力を貸そう。妾が使い魔としてできることは、それぐらいしかないからな」
「俺、マギサ、守ル。絶対、死ナセナイ。コノ斧デ、混沌ノ眷属……ゼンブ、倒ス。ダカラ、マギサ……無茶、ヨクナイ。手、震エテル……」
プライドが高そうな術士らしき少女と、斧を構えた重騎士の男があった。
「……大、丈夫。ええ、私は大丈夫です。力を貸してくれてありがとう、二人とも」
三人は振り向き、+++達を視界に入れると、戦う構えに入った。
「……!待ってくれ。俺達は、お前達と戦いたいわけじゃ……」
「混沌ノ眷属……オ前達、許サナイ……!」
が、ローランの静止は届かず、ウンブラと呼ばれた重騎士を先頭に、マギサとスキアーもこちらに攻撃を仕掛けてきた。
「ちょっとこれ、どういうことよ!?カーマインとは違う意味で、話が全然通じないじゃないッ!それに、まるで私達を悪者みたいに……」
「そこであたしを引き合いに出さないでください!で、ですが、イフ太の言う通り、この者達はあたし達をただ敵として認識しているだけ……いいえ、まるであたし達を“違う誰かとして認識している”ような、そんな感じがします」
……考察をしていると、先ほどからマギサの姿を見つめていたハミルトンが、何かに気が付く。
「青空のような色の瞳に、夜空のような色の気を帯びた杖……間違いない。彼女は遺跡の壁画に記されていた黒の一族の長、マギサ……。彼女は数百年前に“大いなる混沌”と称されし災厄から、当時の赤の一族と白の一族を守り、命を落としたのだという」
……大いなる混沌。+++がその単語を聴くのは、初めてではなかった。
以前、ロクシスという青年と旅をした世界に、レーシアという女性がいた。異星の者であった彼女の母星は、大いなる混沌という存在の襲来によって滅びたのだという。
また、鏡の国で出会ったセオフィラスという男は、旅路の果てに立ち塞がったジャバウォックという竜のことを『大いなる混沌と称されし厄災が産み落とした、破滅をもたらす竜』と語っていた。
そして、ここに来る前の世界では、神と人が共存していた時代に起こった災厄のことを、大いなる混沌と称していた者がいた。
正体に心当たりはないが……少なくとも、大いなる混沌という存在は、様々な物語世界に存在しており、その世界に破滅をもたらそうとしているようだ……。
「マテリア。この世界が幻術によって作られた産物であることは、間違いないんだな?」
ローランの問いに、マテリアは頷く。
「うむ。加えて、彼女らが古き存在であるというのなら……ここは、過去を再現した幻想の世界なのだろう。そして、壁画に記されていたという歴史が事実であるならば……」
「……この世界は、彼女達が大いなる混沌とやらと戦い、散っていった過去を再現しているってことか。そして俺達は、大いなる混沌とやらの一部として認識されている。なるほど、言葉が通じないのも頷ける……」
哀惜の思いに駆られながらも、ローランはデュランダルを構えた。
「この場所に招かれた理由はわからない……が、今は戦うしかない。行くぞ、みんな……!」
古き者達と戦う!
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