風忍演戯帳_プロローグ
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story by 間宮桔梗
210:風忍演戯帳 邂逅の巻
開始前
少女の正体とは!?
風忍演戯帳 邂逅の巻
プロローグ
むかしむかし。とある邪悪な人間が神の領域へ立ち入り、一人の魔王を作り出しました。地上へ降りたその魔王は、圧倒的な力で世界を支配しました。
その力に対抗するため、とある正しき心を持った者が神の領域へ立ち入り、一人の女神を作り出しました。女神と魔王は永い戦いを繰り広げ……やがて、女神が勝利しました。
しかし、あまりに激しい戦いだったため、地上は崩壊寸前の状態でした。人間達を救うために戦った女神は人間達に恨まれ、その後、どこかに姿を消してしまいました。そして、さらに永い時が流れ――――
「ふぅ、蔵のお掃除終わりっと。それにしても、相変わらずガラクタばかり……。こんなのテーマパークじゃ絶対使わないと思うんだけどなぁ」
閑散としたテーマパーク“シノビレッジ”に住み込みで働く一人の少女、ナギ。彼女はここから大きく離れた場所にある風の里の出身で、長である父の命令を受け、シノビレッジで働くよう言いつけられていた。
「社会勉強って父様に言われてここに放り込まれたけど、やるのは雑用ばかり。おまけに、大きな舞台をやるから俳優を集めてほしいだなんてマネージャーさんに無茶振りされるし。いくら従業員が少ないとはいえ、仕事量がバイトの域を越え、て…………あれ?」
職場の愚痴を口にしようとしていたナギの視線が、蔵内の床に落ちている髪飾りへと向く。
「こんなのさっきまであったっけ?すごく綺麗……。もしかして、かなりの値打ちものなんじゃ」
「まあ、拾って頂いて感謝致しますわ。人間さん」
ナギが髪飾りを手に取った瞬間。誰もいなかったはずの蔵の奥から、女の声がした。
「その髪飾りは、このミツヒの大切な物でして。返して頂けますと大変嬉しいのですが」
ミツヒと名乗った犬耳の少女は微笑を浮かべながら、ナギへと手を伸ばす。突然のことに、ナギは驚きを隠せず……叫んだ。
「ド、ドド、ドロボーーーッ!?」
「まあ。会ったばかりのか弱い犬っ娘をドロボー呼ばわりとは。さすがにひどいのではなくて?」
「い、いやいや!あなた、シノビレッジの関係者じゃないよね!?だとしたら、浮浪者かドロボーぐらいしかないじゃんっ!」
「フフ、ずいぶんと短絡的な考え方をする人ですこと。それはさておき、髪飾りを返して頂いても?」
「へ?ダ、ダメだってそんなの。職場の物を知らない人に渡すわけには……って、わわあっ!?」
ミツヒはどこからともなく弓を取り出すと、光で作られた矢をナギに向けて放った。
「避けられてしまいましたか。しかし、思った以上の身のこなし……。どうやら、貴方様が今代の“適任者”とみて間違いなさそうですわね。では、次はちゃんと狙ってと♪」
「ちょ、意味わかんないんだけど!?だ、だだ、誰かーーッ!!」
蔵を飛び出し、ミツヒから逃亡を図るナギ。そんな彼女の瞳に、一人の旅人らしき人物の姿が映る。
「ハッ!?も、もしかしてお客さん?ごめん、今ちょっと変な人に追いかけられてて取り込み中……っていうか、君も逃げないとマズイかも!えっと、とにかく一緒に来て!」
わけがわからないまま、旅人……***は、ナギと共に全力疾走をすることになった。
「そうだ。この髪飾り、持っててもらってもいい?向こうは私が持ってると思ってるはずだから、最悪私が捕まっても君が持っててくれれば職場の損害は抑えられ……って、そんなこと言ってる場合じゃなかった!とにかく行こっ!」
>>遁走する<<
それじゃあ行こっか。
あ、準備運動は忘れちゃダメだよ?
まずは500里ぐらい走ってみよっか。
大丈夫。風が一緒だから!
そうだ。これを預ってもらってもいい?
多分、会社の備品だと思うんだけど……。
聖霊種の髪飾りを1個手に入れました。
さあ、行こ!
立ち止まったら何されるかわからないし、ね……。
あ、準備運動は忘れちゃダメだよ?
まずは500里ぐらい走ってみよっか。
大丈夫。風が一緒だから!
そうだ。これを預ってもらってもいい?
多分、会社の備品だと思うんだけど……。
聖霊種の髪飾りを1個手に入れました。
さあ、行こ!
立ち止まったら何されるかわからないし、ね……。
遁走する
エピローグ
ミツヒは呼び出した使い魔ハネコと共に、ナギを壁際にまで追い詰める。
「ハネコ、もう下がって構いませんわよ」
そして、ミツヒはハネコを帰還させると同時に、ナギに向けていた弓を下ろす。しかし、当然ながらナギの警戒は解けないまま。
「そう身構えないでくださいまし。わたくしはただ、貴方様とお話がした」
「いやいや、絶対ウソでしょ!だったらなんで撃ってきたの!?なんで矢ぁ撃ってきたの!?」
「貴方様がわたくしの髪飾りを持って逃げるからでしょう。それはわたくしの大切な方から頂いた物……。決して、この錆びれた“てぇまぱぁく”の備品などでは」
「ていうか君、何者!?さっきの矢はなに!?その犬耳本物なの!?なんで蔵にいたの!?」
「……落ち着いてくださいまし。そう風のような速さでツッコミを入れられてしまっては、話せることも話せませんわ」
ミツヒはなんとかナギを落ち着かせると、自分のことを淡々と語り始める。
「話をまとめると……。つまり、君は武陵仙境っていう神界から数百年に一度現れる聖霊とかいうありがた~い存在で、私の人生を成功へと導いてくれる非常に素晴らしくて、と~~ってもめでたい存在……ってこと?」
「ご理解が早いお方で助かりますわ。では、信じて頂けたということで話を進めま」
「待ってねぇ待って。ん、私の顔よーく見てみてよっか。見た?“はぁい信じました♪”って顔、してる?」
「眉間にシワが。跡が残ってしまいますわよ?」
「答えになってないんだけどねぇ全然答えになってないんだけど!ていうか余計なお世話なんだけどッ!?ていうかシワが寄ってるのは君のせいなんだけど!?」
風のような速さでツッコミを浴びせ終えると、ナギは一呼吸置いて、大きなため息を吐いた。
「……まぁ、君が人ではない存在で、別世界から来たってのは一応、認めてあげる」
「あら、意外ですわね。一般人からすれば、その部分の設定周りが一番理解しがたいものだと思うのですが」
「設定周りって……。いや、なんていうか私はさ、そういう神秘的な力については理解がある方というか。武陵仙境っていう神界が実在するってことも地元……っていうか、里の教えで知ってるし。それに、あなたから感じる気は明らかに人間のソレじゃないからさ」
その答えに満足したのか、ミツヒは優しげな微笑を浮かべる。
「フフ。思った以上にご理解が早いお方のようで安心しました。毎回目覚めるたびに、この説明をするのが面倒で面倒で」
「いや、事を面倒にしたのはそっち……。まぁそれはさておき。結局、あなたは私に何の用があるの?」
「先ほど話した通りですわ。私はいわば幸運の聖霊……。直球的な言い方をすれば、願いを叶え」
「え、願いを叶えてくれるの!?ホント!?」
「るほどの力はありませんが、貴方様が今抱えている難題を成功へと導く手助けをすることができます」
「……なーんだ。期待して損した。はぁ」
「勝手に期待されて勝手に落胆されても困ってしまいます……」
ミツヒは少し拗ねながらも、ナギの返答を待つ。
「今抱えている難題かぁ……。そりゃ、あると言えばあるけど」
「まぁ、本当ですか!?ぜひ、このミツヒに教えてくださいましっ!」
尻尾を振りながら目を輝かせるミツヒに、ナギはバイト先のテーマパーク“シノビレッジ”で大きな舞台をやるので、俳優を集めてこい……と、マネージャーに無茶ぶりされて困っていることを語り聞かせる。
「では、貴方様は舞台に出演する“きゃすと”を“すかうと”する“ねごしえぇたぁ”ということですわね。フフ、そういうことならおまかせあれ。わたくしの力で、すぐに適格者を見つけ出してみせましょう!さぁ、ついてきてくださいまし!」
「へ?あ、ちょっと、勝手にパーク内を出歩かないでってば……あー、えっと。ごめん、***さんも、とりあえずついてきてもらっていいかな?」
勝手に歩き出すミツヒの背中を、仕方なく追いかけることにしたナギ。そんなナギの背中に、***は何か大きな運命を感じるのだった……。
211:風忍演戯帳 埴忍の巻
プロローグ
ナギとミツヒと共に、閑散としたテーマパーク“シノビレッジ”の敷地内を歩く***。
「ということは、ナギさんの服は“こすぷれ”ではなく、風の里に住むシノビの正装、ということですか?」
「まぁね。といっても、シノビなんてとっくに廃れちゃってるっていうか。昔はうちの里も大きな力を持ってて、隠密稼業の他にも、気を操る忍術を使って妖(あやかし)とか、魔に連なる人ならざる者を退治してたらしいんだけど」
しかし、その過去は今ではおとぎ話のように扱われているらしい。
そして時代が進むにつれ、妖や、魔に連なる者達はその力の大半を失った。ゆえに、シノビという存在も世に必要とされなくなり、現在は人里離れた場所でひっそりと暮らしているのだという。
「わたくしの旧い記憶にも、シノビという者達が様々な災厄が退けられたという情報があります。確か、風の里の他にも土、雷、火、水の里があり、それぞれの勇士が一同に会し、強大な魔を幾度も退けていたのだとか。ということは、ナギさんは風の里の血を継ぐ者なのですね。すごいではないですか!」
「そんな大層なものじゃないけどねー。確かに風の力は少しだけ使えるけど、扇風機程度の風を起こすぐらいが限界……ていうか、今どこ向かってるの?この先、お土産屋さんがあるだけなんだけど」
「言ったはずでしょう?わたくしは貴方様の手助けをするため、貴方様を導く存在であると。わたくしの向かう先には、貴方様の求めるものがあるのです」
「それって……。お土産屋さんの中に、舞台俳優としてスカウトできる人材がいるってこと?」
ミツヒは小さく頷くと、土産屋の古びた扉を開く。
「まぁ、休業日にわざわざいらっしゃいま……ああ、ナギちゃん。こんにちは、そちらはナギちゃんのお友達?」
出迎えてくれたのは、土産屋のお姉さん。名をヒジカタというらしい。
当然、同じ職場なのでナギとは面識がある。
「ミ、ミツヒ。まさかとは思うけど、ヒジカタさんが適任者って言うんじゃ……」
「そのまさかですけど、何か問題でも?」
「も、問題っていうか。確かにヒジカタさんはなんでもできる完璧超人だし美人さんだから、俳優には向いてるかもだけど……。さすがに同じ職場の人をスカウトっていうのは」
それに……と、はにわばかりが置いてある店内を見渡してから、ナギは続ける。
「見ての通り、ヒジカタさんってはにわ好きなんだけど……。その、一度スイッチが入ると止まらなくなる人だから、はにわの話題には」
「まぁ、素敵なはにわですこと。特にこちらの円筒型はかなりの年代物とお見受けしますが」
「触れないようにね……って言おうとしたけど手遅れだね!ミツヒって基本、人の話聞かないね!」
……結局、ヒジカタは目をキラキラさせながら、小一時間ほどはにわについてナギ達に語り聞かせた。しかし、おかげでかなり気を良くしたらしい。
「なるほど。それであなた達は、私を舞台俳優として勧誘しに来たと。ええ、構わないわよ。ただし、一つ条件があるわ」
すると、ヒジカタが手に持っていた小さなはにわが突然、ナギに向かって……放たれた。
「危なっ!?ちょ、え?はにわがすごい勢いで飛んで来たんだけど!?」
「来月発売予定の“空飛ぶはにわ”。雪合戦の要領ではにわ合戦をするための商品なの。子ども達の間で大ヒット間違いなしだと思うんだけど、テストがまだだから、付き合ってもらえない?」
「いやいやいや!これ当たったら痛いどころじゃ済まないから!安全性の欠片もないから!批判殺到でシノビレッジ潰れるから!ていうかどういう原理で飛んでるのこれ!?」
風の速さでツッコミを入れるナギ。そんな彼女の肩を、ミツヒは優しく叩く。
「ナギさん、落ち着いてくださいまし。ここは一つ、彼女の提案に乗りましょう。ナギさんの身体能力であれば、これらのはにわをいなすことは容易いはず」
「い、いなすって……。なに、もしかしてヒジカタさんが満足するまで避け続けろってこと?」
「さすが風の如く理解が早い……。そう、いわばこれはヒジカタさんを勧誘するための試練なのです。さあ、ナギさん!がんばってください!」
……なし崩し的に、ナギはヒジカタを勧誘するための“試練”に巻き込まれることになった。
>>試練に挑む<<
位置登録をすると、気の巡りがよくなるのよね。積極的にしていこう!
このお土産屋さん、はにわしか売ってないんじゃ……。
はにわに襲われる日が来るなんて、想像したこともなかったな……。
小さな風でも、たくさん集まればすごい風になるんだから!
せっかくの新年だし、皆でパーっと盛り上がりたいかな!
風を読めばチャンスは必ず掴める!と、思う!
乗るしかない!この追い風に!!
舞台成功のためにもがんばらないと!さぁ、行きましょ!
試練に挑む!!
エピローグ
「はい、テスト終了。ナギちゃんもういいわよ。付き合ってくれてありがとう。とりあえず、安全性には非常に問題あり、と」
「それテストしなくてもわかりましたよね!?ていうかヒジカタさん、ただ遊びたかっただけなんじゃ……」
「うふふ。さぁ、どうでしょう。とりあえず、役者の件は承諾したわ。話が進んだら、また私に声を掛けてね」
「……!あ、ありがとうございます、ヒジカタさん!」
紆余曲折を経たものの、なんとかヒジカタをスカウトすることに成功したナギ。
「よかったですわね、ナギさん。ね、このミツヒの言う通りだったでしょう?」
「へ?あ、うん……まぁ、なんか違う気もするけど、そういうことでいっか。でも、俳優は最低あと三人は必要って言われてるんだよね……」
「おまかせくださいまし。わたくしの力があれば、すぐに残りの三人も見つけることができますわよ。とはいえ本日はもう遅いですし、お腹も空きましたので、探すのは明日以降にするとしましょう」
……どうやら、ミツヒはナギと***からしばらく離れる気はないようだ。ナギは少し考える仕草をしたあと、改めてミツヒに視線を向ける。
「……ん。とりあえずミツヒが悪い人じゃないってのはわかったし、ひとまず私は君を信じることにする。って、ミツヒと***さんは今夜どうするの?行くところがないなら」
「ナギさんの家に泊めて頂けるのですか!?さすがナギさん、太っ腹でございますわ!」
「うわ、食い気味……。いや、別にいいけどさ。それじゃあヒジカタさん、役者の件よろしくお願いしますね。お先に失礼します」
別れの挨拶をしたあと、ナギと***は先に土産屋の外に出た。ミツヒも二人のあとに続こうとした、が……。
「ミツヒさん。ナギちゃんのこと……。いいえ、ナギちゃん達のこと、よろしくね」
ヒジカタの言葉を聞いた瞬間、ミツヒの足がピタリと止まる。
「……ヒジカタ様。まさか、わたくしの正体を?」
「そこに飾ってある古いはにわは、先祖代々から里に伝わる“語り部”なの。土の里のシノビは、石や土に宿る記憶を読み取る術を代々宿しているから」
「……なるほど。そのはにわの記憶の中に、わたくしがいたと」
ミツヒは振り返り、少し不安げな眼差しをヒジカタに向けた。
「……一つだけ、お聞かせくださいまし。わたくしのしていることは、残酷だと思いますか?」
「さぁ、どうでしょう。あなたの言葉はウソだらけ。でも、放っておけばナギちゃんも私もどうなるかわからない。そういう意味では、あなたがいてくれないと困るわ」
それに、あなたが悪いわけではないのだから……と、ヒジカタは優しい言葉をミツヒに送る。
「だから、ナギちゃんのことよろしくね。あの子ならきっと、あなたの願いを叶えてあげられると思うから」
「……そうですわね。彼女なら、きっと」
ミツヒは丁寧に頭を下げると店をあとにし、ナギと***の元へ向かったのだった。
212:風忍演戯帳 廻魔の巻
逸材かもしれない。
スカウトするわ
プロローグ
役者としてスカウトできそうな人材を求め、シノビレッジを離れて町までやって来たナギとミツヒと***。
「やっぱり年始ってこともあって、商店街は賑わってるなぁ……って、ミツヒはまた何か食べてるし」
「はむっ……。ん~、やはり下界に来た時は和菓子に限りますわね♪あんみつが美味なこと美味なこと……。あ、ナギさんも一口いかが?」
「いや、私は別に……っていうか、問題はそこじゃなくて。ミツヒ、さっきからずっと食べてない?渡したお小遣い、まだ残ってる?」
その問いに、ミツヒはギクリと頬をひきつらせる。
「……もう一銭もありません。ナ、ナギさ~ん、またお小遣いを頂いても?」
「ダーメ。そもそも私のバイト代、そんなに多くないんだから。自業自得よ」
「そ、そんな殺生なぁ……!」
しゅんっ、と尻尾と耳をちぢこませるミツヒ。すると……
「そこの二人、さっきからうるさい!もぉ、騒ぐならよそでやってよね。年末年始の商店街は書き入れ時で忙しいんだから」
突然、一人の少女が現れ、ナギとミツヒに静かにするよう注意してきた。
「へ?ああ、ごめん……わっ。君、すごい恰好だね。前衛的っていうか」
「す、好きでこんな恰好してるわけじゃないし!商店街のために何か手伝えることはないかってお父さんに聞いてみたら看板娘やれって言われて、こんな恰好させられただけで……うぅ、もうやだ……帰りたい……服、着たい……」
顔を真っ赤にしながら、少女はその場にへたり込む。どうやら精神的にかなり参っているようだ。そんな彼女にナギが何か声を掛けようとした時……ミツヒが、小声でナギに耳打ちをする。
「……え?じゃあ、この子がスカウトすべき人材ってこと?」
どうやら、ミツヒの白羽の矢はこの看板娘に向いているようだ。
早速ナギは事情を説明し、商店街の看板娘イナビに説得を試みる。
「舞台役者?わ、私、演技なんてできないわよ?」
「大丈夫、ちゃんと稽古すればできるようになるから!それに、あなたが参加すれば商店街の宣伝にもなると思うの。どうかな?」
「で、でも、やっぱり私に主役なんか務まらないと思うし。それに、商店街の仕事で忙しいから……」
「……遠慮がちなのに主役狙いなんだ。意外とハングリー精神あるんだね」
確かに、彼女は逸材かもしれない。直感したナギはイナビをスカウトするため、交渉を開始するのだった……。
>>交渉する<<
ランキングに関係なく、一定数の【演戯メダル】を集めると役立つアイテムが貰えるんだって!
うん、準備はいつでもできてる!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるんだって!奥義書ってヤツね!
「土地力」は忍気を高めるのに必須の力!いっぱい貯めていこう!
どんなことでも修行になるって、父様が言ってたっけ!
風の里のシノビとして、恥じない姿になれるといいな……!
強い敵を倒せば多くの【演戯メダル】が貰えるみたい。敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるわ。
こまめにチェックしよう!
イベント掲示板をみる
クエストかぁ。
スカウトできる人材と出会えるなら、どんどんこなさないと!
町を闊歩する
炎上芸人バトル
「……わ、わかったわ。そこまで言うなら参加してみる。確かに、舞台に出れば商店街の宣伝にもなるし。商店街の人達には、少しでも恩返しがしたいから」
「やった……!ありがとう、イナビさん!すごく助かるよ!」
「イ、イナビでいいわよ。私もナギって呼ぶから。じゃあ、必要になったらまた声を掛けて。これ、ケータイ番号だから」
イナビの勧誘に成功し、幸先の良いスタートを切ることができたナギ達。そして、次にミツヒに導かれて向かった場所は――
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ブログもイムスタも絶賛大炎上中のこの俺、エンジョウの火芸ショーを見に来てくれてサンキュー!楽しんでいってくれよな!」
……町の野外ステージ。そこには、ショーを始めようとしている一人の青年の姿があった。
「今日の俺は最高に燃えてるぜ。まぁその分、燃え尽きちまうのも早いだろうけどな!お客さん達も最初は『火芸すげぇ』ってなるだろうけど、だんだん飽きてきて『時間の無駄じゃん』ってなると思うぜ。まぁ、イヤなら見に来んなって強気に行くけどな、俺は!っしゃあ!」
高らかな前台詞を述べると、エンジョウという青年は慣れた動きで、火の灯った杖を振り回し始める。
「……ねぇミツヒ。あの人のショー、どう思う?」
「そうですわね。芸自体には目を見張るものがありますが、あの口上で全て台無しになっているようにみえます。ほら、見てくださいまし。観客席にいる人たちを」
虚ろな目をした者、ブーイングを浴びせる者、怒りの形相でその場から立ち去る者……。観客達の心は、負の感情で満ち満ちていた。
「しかし、彼こそがスカウトする人材に相応しいと聖霊の直感は告げております。さぁ、ナギさん。ショーも終わったようですし、声を掛けに行きましょう!」
誰もいなくなった観客席を通り抜け、ナギはおそるおそるといった様子でエンジョウに声を掛ける。
「俺を……テーマパークの舞台の主役に?」
「うん、主役にとは一言も言ってないけど、そんな感じ。どうかな?」
ナギの提案に、エンジョウは明るい笑顔で返す。
「実はさ。俺、周りからの反対を押し切って、大学辞めて旅芸人になったんだ。でも、この通り芽が出なくてさ。みんな、俺の良さを全然わかってくれないんだよ。へへっ、そうそう!全部周りが悪いんだよな!って、自分に言い聞かせてきたけど……」
好青年然とした爽やかな笑顔で、彼は続ける。
「ある日、気付いたんだ。自分には才能がないって!何もないところから火を起こすぐらいじゃ誰も喜ばないって!大学辞めたのは渾身のミスだったって!やっちまったなって!親に顔向けできねぇなってさ!っしゃあ!」
ポジティブな雰囲気でネガティブな発言を繰り返すエンジョウに、どう反応をすればいいかわからなくなるナギとミツヒ。
「だから決めてたんだ。今日、このショーがダメだったら実家の漬物屋さんを継ぐって。んで、結果は見ての通り。というわけだからさ、悪いけどその話は……」
「ま、待って!“何もないところから火を起こす”ってサラっと言ってたけど、それってすごいことじゃん!君はもっと自分に自信を持つべきだと思う!」
「別にこんなもん、凄くもなんともないさ。最初は色んな人が興味を持ってくれたけど、気が付けば『炎上野郎』だなんて呼ばれる始末だし。へへっ、絶望だ!世の中に希望なんかないぜ!ノーホープ!ノーフューチャー!っしゃあ!」
完全に自信を失っているエンジョウ。しかし、それでも明るい笑顔だけは忘れない姿に可能性を感じたナギは、なんとかして彼を奮い立たせることにするのだった……!
奮い立たせる
潜影水忍バトル
「ナギちゃんの熱意、受け取ったよ。君は俺なんかよりずっと熱いハートを持ってるんだな……。よし、俺でよければ力を貸すぜ!しばらくは町にいるから、顔合わせの日が決まったら教えてくれ!」
すっかり自信を取り戻したエンジョウは、ナギの提案を快く承諾してくれた。
「よし、これであと一人!うんうん、なんだか思った以上に順調に進んでる感じ!それでミツヒ、最後の一人はどこにいるの?」
「……。どうやら、すぐ近くにいるようですわね。その前にナギさん、こちらへ来て頂けますか?」
そう言うと、ミツヒは唐突にナギの手を掴むと、誰もいない路地裏へと入っていく。
「さあ、ここなら人目につきませんわ。いいかげん、出てきてくださいまし」
ミツヒが大きな声でそう言うと、突然、物陰から一人のくのいちが姿を現す。
「さすがは聖霊ミツヒ様。いいえ、ここは武陵仙境の女神ミツヒ……と呼んだ方がよろしいでしょうか」
くのいちの言葉を聞き、ナギは思わずたじろぐ。
「……へ?武陵仙境の女神って、里の伝承に出てくる、あの……?」
それは、ナギの故郷である風の里――ひいては、全てのシノビの里に伝わる神話に登場する人物。
神界より降臨し、地上を支配した魔王。
そして、同じ神界より舞い降り、その魔王を永い戦いの果てに打ち倒した……武陵仙境の女神。
「どうやら風の里の伝承は少し古いようですね。その伝承には、このような続きがあるのです……」
彼女の話によると、倒された魔王はその後、数百年の時が経つたびに復活を果たし、何度も世界を滅ぼそうとしてきた……。が、そのたびに女神もまた降臨し、幾度となく魔王を倒してきたのだという。
「古代より、この戦いは何度も繰り返されてきた。そして、幾度となく女神に敗れたことで、魔王の力は徐々に弱まってきているのです。里の計測では、今代における討伐をもって、魔王は完全に消滅すると言われています」
くのいちの言葉に、思わず息を呑むナギ。
「今代……ってことは、その魔王が今年に復活するっていうこと……?」
「いえいえ。今年というより、わたくしが下界へ降臨したということは、復活はもう間近ということですわよ。ほほほ」
「いや“ほほほ”じゃなくて!え、どういうこと?じゃあミツヒって、その何度も魔王を倒してきたっていう女神様なの?いきなり矢を撃ってきたり、お小遣い一瞬で使い果たしたりしてるけど……本当に女神なの?」
「ナギさんってば、意外と嫌らしい言い方をするのですね。まぁ、貴方様が信じるか否かはさておき、その話は事実とだけ申しておきましょう」
理解が追いつかず、戸惑うナギ。そんな彼女の姿を見たくのいちは、ほんの少しだけ眉を吊り上げる。
「ミツヒ様。あなたは下界へ降りるたびに、共に魔王に立ち向かうシノビの者を集めていると聞いています。しかし、影からずっと監視をしていましたが……。そこの風の里の者が適格者であるとは到底思えません」
「まあ。つまり貴方様は、聖霊にして女神であるこのわたくしが、人選を見誤ったと言いたいわけですね。では、ナギさんと刃を交えて試してみてはいかがです?ねぇ、ナギさん」
「……へ?ちょ、ミツヒ。なに勝手に話を進めて……うわわ!?あ、あぶなっ!!」
ミツヒの言葉を開戦の合図と受け取ったのか、くのいちは扇子に水を纏わせ、鞭のようにして放ってきた。咄嗟にナギは風魔手裏剣で攻撃を受け止める。
「私は水の里出身のシノビ、スイレン。風の里のシノビよ……。女神の言葉に従い、あなたの実力を試させて頂きます……!」
実力を試される
魔幻来襲バトル
ナギとスイレンが戦っている最中。突然、周囲に禍々しい気配が蔓延し始めた。その瞬間、ミツヒは精悍な顔つきで弓を構える。
「……。まぁ、これはこれは。魔王側が刺客を仕向けてきたようです。どうやら、天敵と為り得るわたくしやあなた達を倒しに来たようですわね」
物陰から現れた気配の持ち主達は、明らかにこちらに敵意を向けていた。
「な、なにこいつら。なんか、やる気満々って感じなんだけど……?」
「ナギさん、スイレンさん、ここは一時休戦にしますわよ。まずはこの幻体達を退けるのが先です。さぁ、お二人ともわたくしの近くへ!」
ミツヒの言葉に従い、ナギとスイレンはミツヒの隣へと移動する。すると、二人の身体がぼんやりと輝き始めた。
「……!こ、これは……体の奥から、力が湧きあがってくる?蒸気が、血管に巡っていくような」
「お二人に聖霊の仙気を注ぎましたわ。一時的ではありますが、貴方達が秘めている“シノビの血族の力”が解放されているはず。その力を使えば、あの者達を退けることも可能でしょう。さぁ、ナギさん。戦いの準備を!」
ナギとスイレンの力の昂ぶりを感じ取った瞬間、幻体達も戦闘態勢に入る。
「……よくわからないけど、やらないとこっちがやられそう。ミツヒ、とりあえず全力で戦えばいいんだよね?」
「その通りですわ。あの者達は魔の力によって、幻が一時的な形を得ただけの幻体……。迸る力に身を任せ、遠慮なく戦ってくださいまし!」
遠慮なく戦う
武将三人衆バトル
幻体達を退けることに成功したナギ達。そして、実際に魔王の刺客と対峙したことで、ナギはミツヒとスイレンの話が真実であることを確信した。
「ってことは、ヒジカタさんもイナビもエンジョウさんもシノビの血を引く人達だったってこと?そ、そんな都合よく一ヶ所に集まるものなの……?」
「因果の波……。この世界の言葉で言うのであれば運命と形容した方がよろしいですわね。つまり、我々がこの町に集ったのは偶然ではなく必然なのです。そして、シノビの血を引く者達が魔王と戦うのもまた、必然の理……」
「え……?じ、じゃあヒジカタさん達も戦わせる気!?それじゃあ私、皆をだましてたみたいじゃん!」
「そんなことはありませんわ。どのみち、シノビの血を引く者達は魔王の刺客に狙われてしまう。我々にはもう、戦う以外の選択肢など存在しないのです……。どうか、ご理解頂きたく」
「だ、だとしても。あの人達にどう説明すれば……」
その後、ナギは一旦シノビレッジに一同を集め、事情を説明する。最初から事情を知っていたお土産屋さんのヒジカタは驚く様子を見せなかったが、イナビとエンジョウは……
「なるほどね。ちょっとチープだけど、なかなか斬新な脚本じゃない」
「へへっ、つまりアレか。オーディションはもう始まってるってワケだな。っしゃあ、燃えてきたぜ!」
「……え?あ、そうじゃなくて!これは舞台とは関係なくて、本当に危険な……」
と、ナギがいくら説明をしても二人は舞台稽古の一環として疑わず、主役の座を狙ってボルテージを上げていくのだった。
「皆様、ご安心を。今からでもわたくしの指導の下で修行……。もとい稽古をつければ、必ずや魔王に立ち向かう力を手に入れることができますわ!」
こうして、シノビ達はミツヒの指導の下、魔王と戦うための修行をすることになるのだった。そして、数日の時が流れ――
「フッフ~ン。聖霊の気配を辿ってみれば、何やら貧弱そうなハゲネズミどもが群れているでござるなぁ。こいつら程度なら、このハシバ一人で十分……。カツイエ、ランマル、ここは私一人に任せるでござる!」
魔王が降臨するという山へ向かおうとしていたナギ達の前に、魔の気配を漂わせる者達が現れた。
「落ち着けよ、モンキーガール。我らが主君が以前に言っていただろう?シノビの者達は一人一人の戦闘力こそ俺達には遠く及ばないが、結束することで無限の力を生む存在であると」
「モ、モンキーガール言うな!バカツイエ!」
キーっと怒りを露わにしながら、ハシバはカツイエと呼ばれた大男の背中をポカポカと叩く。
「カツイエ殿の言う通りですよ、ハシバ殿。ボクの計算によると、聖霊はシノビ達の潜在能力を引き出す力を持っているんだとか。油断は禁物です」
ランマルと呼ばれた眼鏡の少女が忠告をすると同時に、三人は同時に戦闘態勢に入った。
「とにかく!アンタ達は魔王様のところへ辿り着く前に、我ら武将使徒三人衆に倒される運命にある!さぁ、戦の始まりでござるよ!」
「……戦いは避けられない、か。なら、こっちも全力で行くんだから!皆、修行の成果を見せてやりましょ!」
ナギの言葉を開戦の合図と受け取り、シノビ達もまた、各々の武器を構えるのだった……!
戦を始める
大妖復讐バトル
「くっくっく、ハゲネズミにしてはやるでござるなぁ。ならば、とっておきの必殺技を…………ふわっ!?ちょ、カツイエ、なにをするでござるか!?離すでござるーっ!」
戦闘中、カツイエはハシバの襟を掴むと、その小柄な体をひょいっと持ち上げた。
「俺達の任務はシノビの実力を測り、戦いの中で成長させること。これ以上ヤツらを消耗させれば魔王様に申し訳が立たんだろう。ほれ、帰るぜモンキーガール」
暴れるハシバをなだめながら、カツイエとランマルは撤退の準備を始める。
「……と、聖霊さんに魔王様より伝言だ。“最後の戦いに演技無し。遠慮なしに燃え尽きよう”とのことだ」
カツイエがそう言い残すと、武将使徒三人衆は慌ただしく退散していった。
「……?ねえ、ミツヒ。最後の戦いってどういうこと?」
ナギの問いに、ミツヒは少し考える仕草をしてから答える。
「そのままの意味でしょう。今回の戦いを最後に、永きに渡って続いた女神と魔王の戦いは終わるのですから……。そんなことより皆様、見事でございましたわ!さあ、このまま一気に魔王の元まで突き進むとしましょう!」
最後……という言葉に引っかかりを覚えながらも、ナギ達はミツヒに導かれ、魔王が降臨するという山頂へ再び足を進め始めた。
「来たか。ここで待っていれば必ずや来ると思っていたぞ。シノビの者達よ」
そして、山頂に差し掛かった時……。ナギ達の前に、妖気を放つ刺客が立ち塞がる。
「我が名はオロチ。かつて、この地を破滅へと導いた蛇の大妖。古き風のシノビの者に不覚を取り、一度は調伏されたが……魔王の復活と共に、こうして再び形を得ることが叶った」
オロチと名乗った妖は妖艶な笑みを浮かべ、その視線をナギへと向けた。
「……どうやら、貴様が今代の風のシノビのようだな。となれば、私の仇敵は貴様のみ。キュウ、出てこい。他のザコどもはお前に任せる」
「ほい来た!了解なのだ、オロチ師匠!」
キュウと呼ばれた小柄な兎の妖が杖を空に掲げると、巨大な星片が空から降り注いだ。
各々はなんとかその攻撃をやり過ごしたが……ナギはその星片によって仲間達と分断されてしまい、オロチと一対一の状況になってしまう。
「フッ、言っておくが、私は武将使徒達のように甘くはないぞ。魔王には殺すなと言われているが、私は気まぐれでな。かつて貴様の先祖に調伏された恨みを晴らすためであれば、魔王の言葉など反故にする覚悟であるがゆえ……む?何を笑っているのだ?」
危機的状況にありながら、ナギの表情には恐怖や戸惑いといった様子は感じられない。むしろ、彼女は好奇心に満ちた笑みを浮かべていた。
「昔、まだ世に妖が蔓延っていた頃……風の里のシノビは異形達と何度も戦ってきた。だから今、あなたと戦えることになって少し嬉しい。里の神秘と伝統を守り続けることが、私の目標であり夢。そして、妖と戦うのもまた、風の里の伝統の一つ」
ナギは風魔手裏剣を構えながら、その身に風を纏う。
「その伝統を身をもって経験できるなんて、願ってもない機会よ。さあ、オロチといったわね……あなたの挑戦、今代の風のシノビであるナギが喜んで受けてあげる!」
「……ッ!好奇心に満ちたその眼……そうだ、先代の風のシノビもそうだった。ヤツらはあくまで、己が使命を果たすために……自らの研鑽のためだけに戦う。その瞳が捉えているものは、いつだって世の脅威などではなく、自身への向上心のみ。私のことなど、これっぽっちも視界に入れていない」
沸々と怒りを露わにしながら、オロチは妖気を滾らせる。
「気に喰わん……気に喰わんぞ、小娘。その減らず口、二度と聞けないようにしてやろうぞ!さぁ、我が毒牙の前に命を散らすがいい……!」
妖を退ける
第六天魔王バトル
「……またしても風の里のシノビに敗れるのか。これが運命だというのなら、私は……いや、認めぬぞ。必ずやまた形を得て、私はお前達の前に現れるであろう!その時が来るまで、せいぜい生き急ぐがよいぞ!」
妖力を失ったオロチとキュウは力の粒子となり霧散していった。そして、ナギ達はとうとう山頂にまで辿り着き――
「カッカッカッ!待っていたぞシノビ達よ!ここまでの遠征、まこと大義である!そして……久しいなぁ、武陵仙境の女神ミツヒよ」
立っていたのは、豪快に高笑いを上げる一人の男。
「……ええ。お久しゅうございます。第六天魔王ノブナガ」
毅然とした笑みを浮かべながら、ミツヒはノブナガに挨拶を交わす。
「さて。余は全てを破壊する存在として生まれ、そなたは破壊を防ぐ存在として生まれた。だが、その使命も今日まで……永きに渡って繰り返されてきた戦に、いざ終止符を打とうではないか!」
「待って!一つだけ、どうしても……あなたに聞きたいことがあるの」
刀を抜こうとしたノブナガに対し、ナギは言葉を放った。
「ほう、この第六天魔王との戦を目の前にして人間風情が言葉を挟むか……よい、無礼を許す!語るがよい、風のシノビよ!」
発言を許されたナギは真剣な表情を保ったまま、一歩前へと出た。
「……ミツヒとあなたは、人間の願いによって神界から生み出された存在なんだよね。あなたは全ての破壊を望む心悪しき人間から。ミツヒは平和を望む心善き人間から」
「いかにも。しかし、それが今さら何だと言うのだ?」
これまでの旅路を振り返り、ナギは心の底にある想いを目の前の相手にぶつける。
「……第六天魔王。全てを破壊したいという願いは、あなたの本心なの?ハシバ達と戦った時も思ったけど、彼女達は根っからの悪人なんかじゃなかった。むしろ、戦いの中で私達を成長させようとさえしていた。破壊の邪魔をしようとする私達を成長させようとした理由は、何?」
「決まっておろう。今生最後となる戦が、つまらぬ余興で終わってしまっては唖然失笑といふもの。幾千もの時を経たことで、余の中に巣食っている“世界を破壊する使命”は薄れつつある。今はただ、一人の武神として、命尽き果てるまで戦を楽しみたい。それだけよ!」
ノブナガの瞳に宿っているのは破壊衝動などではなく、純粋に目の前の戦いを楽しもうとする好奇心で満ちていた。それを見た瞬間、ナギの顔がほころんだ。
「そっか。ん、安心した。もしあなたが、人間によってすり込まれた破壊衝動によって戦うことを選んでいるのだとしたら、意地でも改心させようと思ったけど……あなたの目は、純粋な好奇心で満ちている。なら、私も遠慮なく戦える」
「カッカッカッ!よもや、余を改心させる等というくだらん選択肢を視野に入れていたとは。さすがは女神ミツヒの選定した人間といったところか……いやはや、実に愉快!やはりシノビの者どもはこうでなければな!」
凄まじい風圧を巻き上げながら、魔力を解き放つノブナガ。
「……!来ますわよ、皆様。わたくしはあなた達に力を与えることに専念します。ヒジカタさん、イナビさん、エンジョウさん、スイレンさん……準備はよろしいですか?」
ミツヒの言葉に、シノビ達は気合いを入れながら首を縦に振った。
「ナギさん。先鋒はあなたに任せてもよろしいでしょうか?」
ミツヒは信頼と友愛の想いを込め、ナギに尋ねる。
「当然!最初から最大風力で行くけど、文句言わないでよね!第六天魔王!」
「カッカッカッ!是非に及ばず!破壊という役割を演じる必要のなくなった我が真の力……。存分に味わうがよいぞ!」
第六天魔王を倒す
エピローグ
空が夕焼け色に染まり始めた頃……ついに、決着がついた。
「カッカッカッ!よいよい、実に満足のいく戦であったぞ!」
ミツヒが放った矢を肩に受けたノブナガは、手に持った刀をゆっくりと鞘に納めた。
「楽しかったぞ、シノビ達よ。そして、女神ミツヒよ。我が生涯に終止符を打ってくれたことに、際限なき感謝を!」
「……礼を言うのはこちらの方です、ノブナガ。貴方様が最初に生まれなければ、わたくしがこの世に生まれることはなかったのですから」
ミツヒはどこか遠い目で、闇色の粒子となって消えゆくノブナガの姿を見据える。
「切ないものですわね。この時をもってして、我々はようやく戦いの因果から解放された。だというのに、もうお別れだなんて……せっかく、虚飾なき心でお互いを見れるようになったというのに」
「それもまた、我々にとっては相応しい結末といえよう。まことに人生、一瞬の夢。ゴム風船の如き美しさよ!カッカッカッ!」
ひとしきり笑ったあと、後頭部を掻きながら、ミツヒから僅かに視線を逸らすノブナガ。
「……まぁ、なんだ。その髪飾りをそなたが身に着けて現れた時、すでに余の目的は果たされていたのやもしれんがな」
そう言うと、ノブナガはミツヒの元へと歩み寄り、彼女の頭にそっと、優しく手を置いた。
「許されるのであれば、そなたと同じ――ところに――行きたい――ものだ――――な」
最後に笑顔でそう伝えると、ノブナガの身体は漆黒色の輝きとなり、風と共に散っていった。
「ねえ、ミツヒ。あなたもしかして、彼のことを……え?ミ、ミツヒ?」
時を同じくして……ミツヒの身体も、白い輝きと共に消滅を始めた。
「皆様、ありがとうございました。永き戦いを終焉へと導いてくれたこと……なにより、わたくしと彼の戦いの因果を断ち切ってくれたことに、心からの感謝を。別れは惜しいですが、わたくしは……ミツヒは、満足でございますわ」
「わ、別れる……って、どういうこと?まさか、ミツヒも消えちゃうの……?」
「わたくしは彼を止めるために生まれた。その彼が消えた以上、わたくしに存在する理由はありませんから」
「そ、そんなのって!だいたい、存在する理由なんて誰かに与えられるものじゃ……んむっ?」
ナギの唇に、ミツヒはそっと人差し指を添える。
「ナギさん。どうか、笑って見送ってくださいまし。わたくし、あなたの笑顔が大好きなのです」
……言いたいことが山ほどあったはずのナギ。
しかし、ミツヒの優しい笑顔を前にして、ナギの頭は真っ白になってしまった。別れの言葉も、別れを惜しむ言葉も、なにも出てこない――
「……舞台!」
ゆえに、ナギは……次を約束することを選んだ。
「舞台、ちゃんとやるから!絶対に……絶対に観に来てよね、ミツヒ!約束だから!」
その言葉の意図は、しっかりとミツヒにも伝わり――
「……ええ、わかりましたわ。約束です!」
瞳を潤ませ、満面の笑みを浮かべながら、ミツヒは光の粒子となり……ゆっくりと姿を消した。空へと散ってゆくその粒子を、ナギ達はいつまでも、いつまでも眺め続けた……。
――彼女達がいれば、この世界は大丈夫だろう。
そう確信した***は、新たな世界への旅立ちを決意したのだった。
風忍演戯帳 廻魔の巻完
story by 間宮桔梗
story by 間宮桔梗
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