呪戒アヴニール_プロローグ
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story by 間宮桔梗
213:呪戒アヴニール 再会の刻
呪術師達が向かう先は…
プロローグ
まばゆい光に包まれると同時に、***は目を開く。すると、次の瞬間……***は正面から走って来た何者かと正面衝突してしまった。
「痛っ……!?ちょ、なんなのよもう!お尻ぶつけちゃったじゃないっ!」
尻餅をつきながら、少女は***に悪態をつく。
「って、アンタは確か、前にシアと一緒にいた……確か***とかいう名前だったかしら。もしかして、またシアに呼び出されたとか?」
***もまた、この少女……アネアスには見覚えがあった。以前の冒険では敵として対峙したが、最後には邪悪な呪術師を退けるためにこっそり力を貸してくれた、傲慢な呪術師の少女……。
「だとしたらツイてないわね。この通り、いま世界は世紀末状態よ。どこかの誰かさんが時を司る異世界の邪神を呼び下ろしたせいで、世界中に次元の歪が生じているの」
ゆっくりと***は周囲を見渡す。寒色に淀んだ空、轟々しい稲妻の音、邪悪な気配に満ちた大地――彼女の言う通り、この世界は世紀末と形容しても相違ない状態となっていた。
「おかげでタチの悪い妖魔やら異次元生物が大量発生。極めつけには時間の流れもおかしくなって、今も昼なのか夜なのかわからない状態。かく言うあたしも、大きな鍵を持った妖魔に付け狙われてる真っ最中だしね」
ところで……と、***は彼女がどこへ向かっていたのかを尋ねてみる。
「決まっているじゃない。腕試しついでに、この異変の元凶を止めに行くのよ。ふふんっ、言っておくけど、あたしは以前のあたしじゃないんだから。あれから修行を続けて、ポンコツ呪術師のシアなんかとは比べ物にならないほどの力を……」
「……えっ!?ど、どうしてこんなところに***さんが……。それに、アネアスまで」
背後から現れたのは、以前***と共に冒険をした呪術師の少女……シアだった。
「シ、シア!?ちょ、どうしてアンタまでここにいるのよっ」
「ど、どうしてって……その、友達を探しに、あの宮殿まで行こうと思ってて……あ、もしかしてアネアスも行くの?だったら私も一緒に……」
「あのねぇ!あたしはアンタを巻き込みたくな……じゃなくて。そ、その、アンタの力なんて借りたくないの!わかったなら、さっさと帰りなさい!」
「そ、そんなわけにはいかないよ……というかそれよりも……なんで、***さんがアネアスと一緒にいるの……?」
不安げな瞳のシア。そんな彼女の様子を見たアネアスは、ニヤリと小悪魔じみた笑みを浮かべ、***の片腕に自分の両腕を絡ませる。
「あら、あたしが***と一緒にいたら都合が悪い?言っておくけど***は今、あたしのパートナーなんだから。この人はね、どんくさいシアよりもあたしの方がず~っと素敵って言ってくれたの!ね、***?」
***は慌てて否定の言葉を口にしようとした……が、すかさずシアが口を開く。
「な、なななっ……!?***さんはそ、そんなこと言わないもん!ていうか離れてよアネアス!***さん困ってるじゃない!」
「そんなことないわよねぇ***?とにかく、あたしと***はこれから一緒に異変の元凶を止めに行くから。アンタは赤ん坊みたいに指でもくわえて、あたし達の活躍を見ていなさいな。あ、そうだ……」
むきになって油断しているシアにそっと近づくと、アネアスは彼女の胸元から骸骨の飾りを奪い取った。
「この魔力増幅器(エフェクター)、なかなか良さそうだし貰っていくわね。世界を救うための役に立つのだから、あたしに使ってもらえて本望だと思いなさい」
「ああッ!?ダ、ダメぇ!それ大切な物だから返してぇ!」
「は~い三秒経過。三秒間あたしが持ってたからこれはもうあたしの物よ。悔しかったら取り返してみなさい、へっぽこ呪術師のシ~ア~ちゃ~ん♪」
徹底的にシアを小馬鹿にしたあと、アネアスは***の腕を再び掴み、全速力でその場をあとにする。
「くぅ~!シアにイジワルするのって、どうしてこんなに楽しいのかしら!あ、そういうことだから、***にはあたしの旅に付き合ってもらうわよ。考えてみれば、アンタってかなり戦力になるしね。それと、これはアンタが持ってて。くれぐれもシアに取られないように」
あと、壊さないようにね、一応……と、アネアスは小さな声で***に伝える。
「さぁ、行きましょ!向かう場所はあそこに見える“時神の宮殿”よ!ついてきなさい!」
>>宮殿へ向かう<<
用意ができたのなら早く行きましょ。
あたし、待つのは嫌いなの。
準備運動に500kmくらい走るわよ。
ま、普段はもっと走ってるんだけどね。
これ、アンタに預けておくわ。
まぁ、その。あの子のだから壊さないようにね?
スカルエフェクターを1個手に入れました。
アンタと肩を並べる日が来るなんてね。
ふふっ、ちょっとだけ楽しみかも。
あたし、待つのは嫌いなの。
準備運動に500kmくらい走るわよ。
ま、普段はもっと走ってるんだけどね。
これ、アンタに預けておくわ。
まぁ、その。あの子のだから壊さないようにね?
スカルエフェクターを1個手に入れました。
アンタと肩を並べる日が来るなんてね。
ふふっ、ちょっとだけ楽しみかも。
宮殿へ向かう
エピローグ
「あーもう、シアってばしつこい!ほら、これは返してあげるから、もうついてこないでよね」
鍵の妖魔を退けたアネアスと***。しかし、結果としてシアには追いつかれる形となった。
「はあっ、はあっ……で、でも、アネアスもあの宮殿を目指してるんでしょ?だったら一緒に行こ?一人よりも大勢で行った方が、絶対にいいよ……!」
「あたしは群れるのが嫌いなの。それに、この事態を引き起こしたのがどこの誰なのか、他でもないアンタになら想像つくでしょ?」
「だ、だからこそだよ!あの人相手に一人で挑むなんて、危険すぎるもん……」
身を案じるシアの言葉に、アネアスは呆れた表情で返す。
「あのねぇ、あたしをあの時のままだと思わないでくれる?言っておくけど、今のあたしはボンクラ呪術師のシアなんかより百倍は強いのよ。アンタが一緒に来たところで足手まといにしかならないの。はい、わかったのなら回れ右して帰りなさい」
「だ、だったら私は前よりも千倍強いもん。アネアスよりずっと強いんだから、足手まといになんかならないよねっ。むしろ、アネアスが私の足を引っ張っちゃうかもね!」
「はああッ!?なら今すぐ決着つけてやるわよ!ほら、かかってきなさいスカタン呪術師!なに、来ないの!?ビビって足も動かないの!?じゃあこっちから行くわよほら行くわよさぁ行くわよ!」
――埒が開かないな。
そう思った***は、とりあえず二人を落ち着かせることにする。
「うぅ……ご、ごめんねアネアス。ちょっと大人げなかった、かも」
「つーんだ、あたしは謝らないわよ。とにかく……アンタ、皇国で色んな人から頼りにされてるんでしょ?あたしと違って、アンタにはアンタがいなくなったら悲しむ人がたくさんいる。だからってわけでもないけど、今回の件はあたし一人でやるから」
腕を組みながら、ぷいっとそっぽを向くアネアス。そんな彼女の不器用な優しさを受け取りながらも、シアの表情は重いままだった。
「……私の友達がね、宮殿に向かったっきり帰ってこないの。多分、あの人が絡んでいるんだと思う。だから、私もアネアスと目的は同じ……」
それに……と、シアは真っ直ぐな瞳でアネアスを見据えながら続ける。
「アネアスがいなくなっちゃうなんて……私、やだよ?」
「……ッ、だ、だから、そういうのが嫌いだって言ってんのよっ」
しかし、シアなら間違いなく戦力になるはず……と、***はアネアスにそっと耳打ちをした。
「はぁ……わかったわよ。強引に巻き込んだ手前、***の意見は尊重するわ。でも、勘違いしないことね。あくまで***の提案を受け入れただけで、あたしはシアについてきてほしいなんてこれっっっぽっちも思ってないんだから」
その言葉を聞いた瞬間、シアの表情がぱぁっと明るくなる。
「あ、ありがと!えへへ、それじゃあ改めてよろしくね、アネアス!それと、***さんっ!」
……こうして、アネアスと***、そしてシアの三人は、“時神の宮殿”へと続く道を歩み始めたのだった。
214:呪戒アヴニール 死翼の刻
プロローグ
「……止まれ(STOP)。深淵の淵(DEEP ABYSS)より舞い降りた、翼ヲ纏イシ心無キ死神ノ騎士であるこの俺、ファルトラを従えし我がマスター(THE BITCH)よ……」
宮殿へ向かう道中……自己紹介じみたセリフを吐きながら現れたのは、アネアスの使い魔であるファルトラと、彼の相棒である妖犬シエド。かつて、***とシアが一戦交えたことのある相手だった。
「うわっ、ポール……なに勝手に出てきてんのよ」
「……ポールではない(NOT PAUL)……ファルトラ、と呼べ……覇魔の力(SUGOI POWER)を手にした代償に心とソウルを失い、喜びも悲しみも何も感じなくなった男……ファルトラ、とな……」
淡々とそう告げると、ファルトラは主人であるアネアスを見据える。
「ビッ…………我が、マスターよ」
「ちょっと。今ビッチって言おうとしてなかった?」
「……気のせいだ……それはさておきマスター(THE BITCH)よ……使い魔として言わせてもらうが、この先は危険(DANGER)だ……このドス黒い渦のような気(YABAI)……とてもだが、人の手に負えるものではないと俺は判断(THE JUDGE)する……」
「あらそう。で、わざわざそれを言うためだけに出てきたってワケ?言っておくけど、あたしは」
「一度決めたことは泥水(HEDORO)をすすってでもやり遂げる……その信念(PRIDE)は理解している……だが、今回ばかりは俺の言葉に従ってほしい(ONEGAI)……もし、従わないのであれば……」
ファルトラは徹夜で考えたかっこいいポーズを決めながら大剣を手に取り、その切っ先をアネアスへと向けた。
「……この魔剣、マジェスティック・アンホーリー・ソードと……我が相棒(AIBOU)である妖犬シエドが、この場を血の舞踏会場(BLOODY DANCE HALL)へと変えることになる、が……?」
「はいはい、引き下がる気はないってことね……そもそも、前からアンタにはしつけが必要だと思っていたのよ。戦闘はいつもあたしとシエドに任せっきりで、アンタは手鏡を手に前髪いじってばかり。ほんと、いい加減にしなさいよね!」
今までの不満を口にしながら、戦闘態勢に入るアネアス。
「……やはりこうなったか……ならば来るがいい(COME ON)……こうしている間にも、新しく買ってもらった魔剣マジェスティック・アンホーリー・ソードは俺の魂(MY SOUL)を蝕んでいる……さぁ……俺が俺であるうちに……このマジェスティック・アンホーリー・ソードが……俺を支配する前に……戦いを……!」
――剣の名前、長いな。
呆れる***とシア。
「いっそのこと、略してマジアホ剣とかにすればいいのに……」
「ああ、いいわねそれ。シアにしては面白いこと言うじゃない」
「……俺のことはいい……だが、俺の魔剣のことはバカにするな……とても、悲しい(SO SAD)……」
「って、さっき悲しみは感じなくなったって言ってたでしょうが。自分の脳内設定ぐらい守りなさいよね、まったく……!」
この先に進むため……そして使い魔に灸をすえるため、アネアスは杖に魔力を滾らせるのだった。
>>ポールを止める<<
位置登録はこまめに行う!呪術師の基本よ、キーホーン。
はぁ……どんよりした空は見飽きたわね。
ふふ、ポールにお灸をすえるいい機会だわ……!
アンタと一緒なら、これっぽっちも負ける気がしないわ。
群れるのは嫌いだけど、たまには集団戦も悪くないかもね。
チャンスって言葉が誰のためにあるか知ってる?あたしよ、あーたーし!
言っておくけど、止まるつもりはないからね!
あたしも全力で戦うから、
アンタも全力出しなさいよね。
さぁ、行くわよ!あたしについてきなさい!
エピローグ
「ねえポール、いいかげん諦めたら?これ以上邪魔するなら主従契約を解除するわよ。ああ、案外それがお望みだったりするわけ?」
その言葉を聞いた瞬間、ファルトラは一瞬だけ、瞳を大きく見開く。
「……主従契約の解除(CANCEL)……我がマスターが望むのであれば、喜んで受け入れよう……」
「あっそ。そんなに嫌いだったんだ、あたしのこと」
「違う……!俺は、マスターが…………アネアス、君が命を落とす瞬間を……見たく、ない……」
ファルトラは大剣で体を支えながら、アネアスの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「……そのような惨劇を目の当たりにするぐらいなら、俺はここで決別(GOOD BYE)する道を選ぶ……無論、自分勝手な理由(WAGAMAMA)であることはわかっている。それでも、俺は……(SHINPAI)……」
主人の身を案じるのは使い魔としては当然のこと。しかし、ファルトラの言葉には主従関係を超えた、力強い想いが込められていた。
「……ねえ、アネアス。ポールさん、本当にアネアスのことを心配してるんだと思う。だから、あんなボロボロになってまで」
「シアは黙ってて。これはあたしとポールの問題なんだから」
「……ポールではない(NOT PAUL)……ファルトラと……むっ?これ、は……」
突然、ファルトラの身体がぼんやりと霞みはじめる。
「主従契約の解除を申請したわ。そんなにあたしが信用できないのなら、さっさと承諾して妖界に帰りなさい。あたしは別の妖魔と契約するから」
……徐々に透明なっていくファルトラ。しかし、彼は冷静に言葉を紡ぐ。
「……マスター。君は、一度も自らの過去(PAST)を俺に語ったことがない……しかし、君がひたすら力(POWER)を追い求める理由は過去にあるのだろう……?許されるのであれば、その過去の断片(KAKERA)を語り聞かせてくれないか……」
「……それは、使い魔として言っているの?」
「いや、一人の男(OTOKO NO NAKANO OTOKO)として、だ……」
曇りのない真っ直ぐな視線。その視線を、アネアスは――
「……許せない人がいる。その人を倒すため、あたしは力を求めてる。それ以上の理由も、それ以下の理由もないわ」
正面から、しっかりと受け止めることにした。
「……そうか。俺は、君という人間が正しい選択をする者であると知っている(UNDERSTAND)……ならば、それは正しき道なのだろう……そして、それを果たすために命を賭す覚悟であることを、たった今理解した……となれば、もう俺が道を塞ぐ理由はない(NOTHING)……」
それに……と、ファルトラは続ける。
「……自分でも驚いているのだが……君が別の妖魔と契約すると言った時、俺は……ひどく動揺してしまったようだ……ゆえに、自らの心を落ち着かせるためにも、しばらくは……君と共にいようと思う(YOROSHIKU)……」
いつでも呼ぶがいい……と言い残し、ファルトラは主従契約解除の申請を破棄すると、一時的にその場から姿を消した。
「……?アネアス、なんかほっぺたが紅いけど……ぁいたっ!?い、痛いよぉ……」
「くだらないこと言ってないで、さっさと宮殿に行くわよ。もぉ……ほんっと、バカばっかり……」
……そんな言葉とは裏腹に、アネアスの表情にはやんわりとした笑みが浮かんでいた。
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