妖宴ワンダラー_プロローグ
タグ一覧
>最終更新日時:
story by 間宮桔梗
199:妖宴ワンダラー ~幽橋渡り編~
開始前
少女と共に現世へ帰ろう!
プロローグ
「……?ねえ、あなた」
ゆっくりと目を開くと、そこは青白い霧で満ちた、古びた橋の上だった。
「妖怪、じゃないみたいね。もしかして、あなたもこの世界に迷い込んだの?実はあたしも学校に行こうとしてたら変な霧に包まれて、気が付いたらこの世界にいて……」
周囲には、***とこの少女以外の姿はない……いや。よく見ると、遥か後ろに狐のような……。
「あ、待って。あの狐の妖怪と目を合わせちゃダメ。妖怪っていうのは人の心の隙につけこんで悪さをしてくるの。でも、こっちから声を掛けたりしなければ基本的には無害だから。例外もいるみたいだけど……」
どうやら、少女は“妖怪”という奇妙な存在に対して理解があるらしい。なんでも、彼女は特殊な神社の家系らしく、そういった存在に対して知識があるんだとか。
「まぁ、いきなり妖怪の存在を信じろって言われても難しいか。あたしも知識として知っているってだけで、直に見るのは初めてだし……っと、自己紹介が遅れたわ。あたし、リッカっていうの。あなたは?」
***はリッカに軽く自己紹介をする。
「……なんか、変わった名前ね。まぁいいわ。とにかく、ここは普通の世界じゃないみたい。妖怪がいるってことは、危険な場所に違いないだろうし、一刻も早く現世への出口を探さないと。よかったら、協力してくれる?」
この世界に長居するのは危険……という彼女の判断に同意し、***はリッカと行動を共にすることにした。
「よかった。ほんと言うと、ちょっと……その、ちょっぴりだけど、心細かったっていうか。ほ、ほんとにちょっと、だけど……」
……しかし、出口を探そうにも、ここには長い橋が一本あるだけで、周囲は湖と妖しい霧で満ち満ちている。***は出口に心当たりはあるのかと、リッカに尋ねる。
「心当たりがあるか、ないかで言えば……ないわね。けど、道は一本しかないし、橋を戻ればあの狐の妖怪との鉢合わせは避けられない。となれば、橋を進む以外に道はないと思うのだけれど……あなたはどう思う?***」
リッカの問いに、***は首を縦に振った。
「ん、決まりね。それじゃあ先を急ぎましょ。実は、さっきから鎖鎌を操る妖怪に襲われているの……急に霧の中から現れて攻撃してくるから、気を付けてね」
どうやら、リッカが言っていた“例外”の妖怪がどこかに身を潜めているらしい。***は襲撃に備えて片手に栞を持つ。
「あ、そうだ。これ、持っててもらってもいい?なにかの印(いん)みたいなんだけど……この世界に来た時には、なぜか持っていたの。あなたが持っていた方が安全な気がするから」
***はリッカから、勾玉のような模様が彫られた印を受け取る。
「さあ、行きましょう。絶対に現世への出口を見つけるんだから……!」
こうして、***は彼女と共に橋を進み始めるのだった……。
「おやおや。あの栞、なにやら不思議な力が宿っているようですね。実に興味深い……はてさて、なにが起こることやら」
……同時に、背後にいる狐の妖怪もゆっくりと歩み始めた。
>>橋を渡る<<
早く現世に戻りたいわね……
準備ができたら行きましょ。
まずは500里ほど走ってみましょ。
一里は約4kmだから、約2000km…………えっ?
これ、預ってもらってもいい?
大事なものって気がするから、あなたに持っててほしいの。
妖狐の灯印を1個手に入れました。
行きましょ。
こんな妖しいところ、すぐ脱出してやるんだから……!
橋を渡る
エピローグ
「へへ~ん。オイラの鎌を避けるなんて、なかなかやるじゃんか。けど、そろそろ限界ってヤツ?」
鎖鎌の妖怪の度重なる襲撃に体力を削られ、リッカと***はヘトヘトになっていた。
「安心しなよ、殺しはしないからさ。オイラはただ、人間が恐怖する姿が見たいだけなんだ。純粋な恐怖心っていうのは、妖怪にとってこのうえないご馳走だから……さ!」
鎖鎌が***めがけて放たれた。
反射的に***に覆いかぶさるリッカ。刃は宙を舞っていた。どうやら狐の妖怪が傘で弾き返したらしい。
「んげげ!?ア、アンタは“六尾”のクガサ!?どうしてアンタほどのヤツがこんなところに……と、とにかく逃げろや逃げろ~すたこらさっさ~!」
鎖鎌の妖怪は慌てた様子で、その場から全力疾走で逃げていった……。
「いやはや、このうえなく愚かな行動でしたね。あなたが庇わずとも、そちらの旅人らしきお方はあの鎌をいなすことができたというのに。実に間抜けな人間の子だ」
「……お、愚かって。もしかして、あたしに言ってるの?」
「おや、あなた以外に誰がいるのですか?他に該当する者がいるというのであれば、ぜひともこのクガサにご教授頂きたいものです」
悪戯な笑みを浮かべながら、クガサと名乗った狐の妖怪はリッカに手を差し伸べる。
「な、なんのつもり?」
「あなたの目は節穴ですか?見ての通り、手を差し伸べているのですよ」
「……必要ない。自分で立てる、から」
言葉通り、リッカは自分の足でその場から立ち上がった。
「おや、もしかして怒ってます?愚か愚かと言われすぎてカッとなってしまいましたか?いやはや、とんだガキンチョさんですねぇ」
「う、うるさ…………あれ?ねぇ、あなた。どこかであたしと会ったこと、ある?」
「はて?どうでしょうか。こう見えて私、そこそこ長生きしているもので。加えて、興味のないことは忘れてしまうタチでして」
そんなことより、と続けるクガサ。
「後ろから様子を見ていた限り、あなた達は現世への出口を探して橋を進んでいたようですね。お察しの通り、出口は橋を渡った先にあります……が、力ある番人が橋を塞いでいることはご存じでしたか?」
ポカンとした表情で顔を見合わせるリッカと***。
「その様子では、ご存じなかったようで。しかし、あなた達は実に運が良い。このクガサが共に在れば、番人と話をつけることは容易いでしょう」
「それって……あ、あたし達と一緒に来るってこと?」
皮肉げな笑みを浮かべたまま、クガサは首を縦に振った。
「こう見えて、私は人間に友好的な妖怪なんですよ。困っている人を見ると、つい放っておけなくて……」
わざとらしい言い回しで、クガサはリッカと***を翻弄する。
「ということで、このクガサも同行させてくれませんか?安心してください、背後からグサリと刺したりはしませんから」
「怪しさ満点ね……とても信用できないわ。行きましょ、***」
クガサの同行を拒否するリッカ。が、どちらにせよ進む道は一本しかないため、必然的にクガサはリッカと***の後ろを歩く形になっていた。
……こうして、リッカと***とクガサは、番人がいるという場所へと足を進めるのだった。
妖宴ワンダラー ~幽橋渡り編~完
迷い込んだ不思議な世界!
果たして戻れるのか!?
果たして戻れるのか!?
story by 間宮桔梗
200:妖宴ワンダラー ~鬼門突破編~
プロローグ
リッカとクガサと***は、ついに橋のたもとへ辿り着いた。そこには、荘厳とした巨大な門がそびえたっており……
「……はぁ。なにやらゾロゾロと来ましたね」
その手前には、小さな雲の上に座った、妖怪らしき少女の姿があった。
「おや?なんと、番人はあなたでしたか。名前は確かイツツミ……あ、コヅツミでしたっけ?」
「……ナナツミです。くたばりやがってください、腹黒ギツネ」
気だるげな様子で、クガサの皮肉に応えるナナツミ。
「……なに?あなた達、知り合いなの?」
「それなりに古い付き合いではありますね。しかし、番人が彼女となると面倒なことになりそうです。話し合いでの決着は不可能と考えた方がよろしいですよ、リッカさん……」
ナナツミの視線は、リッカと***を捉えていた。
「そこの腹黒ギツネが言う通り、私はこの門の番人をしています。あなた達のような異界から侵入してきた者が、この先に進むに相応しい者かどうかを見極めるのが仕事です」
「し、侵入!?ちょっと待って。あたしと***は、気が付いたらこの世界に迷い込んでいただけ。元の世界に帰りたいだけなの」
「言葉だけで信用することはできません。この世界は現世と写世を繋ぐ世界……ゆえに、様々な目的をもった人間や妖が訪れる。あなた達が邪な心を持っているか否かを見定める義務が、私にはあるのです」
話しながら、ナナツミはぷかぷかと浮いている小さな星を、手に持った箸でつまむ。
「私の試練に合格すれば、この門を開けましょう。しかし、不合格の場合は邪な心を持つ者と判断し、永遠にこの地を彷徨ってもらいます。お覚悟を」
眠そうな瞳ではあるが、ナナツミの言葉には有無を言わさぬ迫力があった。
「……わかった。それで、試練っていうのは?」
これ以上の問答は無駄と判断したリッカが、決心した様子でナナツミに尋ねる。
「“だるまさんが転んだ”です」
……ただの“だるまさんが転んだ”ではないことは、彼女の顔を見ればすぐにわかった。
「とはいえ、私は後ろを向かず、あなた達を全力で妨害します。離れた位置にいる私に手を触れれば、あなた達の勝ち。もちろん、私は一歩もその場から動きません」
「……?じゃあ、その妨害を潜り抜けて、あなたにタッチすればいいってこと?」
「理解が早くて助かります。そして、私が取る妨害手段は二種類。一つ目は……」
ナナツミは、先ほど箸でつまんだ小さな星をひょいっと投げる。すると、小さな星は凄まじい速度でリッカと***の間を直線に飛んでいった。当たったら……かなり痛そうだ。
「星による“直線型の攻撃”。そして、もう一つはこちらの提灯……」
両手で提灯を持ち上げると、ナナツミはそれを遠くに放り投げる。地面に落ちた瞬間、提灯は煙を巻き上げながら小さな爆発を起こした。
「……このように“円形型の爆発”を起こします。この二つを用いて、私はあなたを妨害します。どちらも当たると非常に痛いので、ご注意を」
橋の横幅はそう広くない。この狭い足場で二つの妨害を掻い潜り、ナナツミにタッチする……なかなか難しそうだ。
「一つ、いい?不合格の条件はなに?」
「あなた達が降参することです。諦めない限り、何度挑んでもらっても構いません」
「……そう。なら、合格したも同然ね。***、ここはあたしに任せて」
眼鏡の位置を正しながら、リッカは……ニヤリと微笑んだ。
「“焦らない、めげない、諦めない”。それが、あたしの座右の銘だもの……降参なんて、絶対にするものですか!」
>>試練に挑む<<
位置登録はしておくべきね。あたしもスマホでよくやってるわ。
あの門をくぐって、早く現世に戻りましょ。
元陸上部の力を見せてあげる!新人戦ではいいとこまで行ったんだから!
派手に暴れると、皆にガサツな女って思われちゃうかも……ま、別にいっか。
集団行動は得意よ。な、なによその目は。本当なんだから!
運は良い方じゃないから、チャンスは努力で掴んでみせるわ。
行くか、行かないかで言ったら……行くしかないと思う!
こう見えて運動は得意だから。水泳だけはちょっと、アレだけど……。
さぁ、行きましょう!
試練に挑む!!
エピローグ
「はぁ、はぁ……。や、やっと……ここまで、き……た……」
どれほどの時間が経過したのかわからない……が、リッカは何度も攻撃を受け、ボロボロになりながらも、ついにナナツミに手を触れられる位置まで辿り着いた。
「まさか、本当に突破してくるなんて。なるほど、なかなか見どころがありますね……」
そう言うと、ナナツミは大きな金魚型のぼんぼりを箸で掴む。
「奥の手を使う時が来たようです。さあ、この攻撃を受け止めてごらんな、さ――」
気が付くと、金魚のぼんぼりはナナツミの手元にはなく……素早くそれをかすめ取った、クガサの手の中にあった。
「ナナツミ、それはルール違反です。妨害方法は二種類だけ……と仰ったのはあなたですよ。お忘れですか?」
「……!そ、それは…………あっ」
クガサに気を取られた、その瞬間。リッカの手はナナツミの肩に触れていた。
「……えへへ。やりぃ……あたしの……か……ち…………」
そのままリッカは仰向けに倒れる……が、直前でその身体をクガサが支える。
「……おや、寝ているようですね。よほど消耗が激しかったのでしょう」
傷だらけになりながら寝息をたてるリッカの顔を見て、クガサはどこか優しげな微笑を浮かべた。
「はてさて。試練は合格、ということでよろしいですか?ナナツミ」
「…………はぁ。最後はあなたにしてやられた感がありますが、私がルールを破ろうとしたのも事実。認めざるを得ません」
ほんの少し頬を緩めながら、ナナツミはリッカの寝顔を見る。
「不思議な少女ですね。たいした霊力もなく、これといった特別な力を有しているわけでもない。なんというか……つい、肩を持ちたくなります」
しかし……と、変わらないトーンで続けるナナツミ。
「本当の試練はこれからです。この門をくぐれば、彼女は……」
「それはそれ、これはこれですよ。ひとまずは彼女が目を覚ますのを待ちましょう。***さん、あなたも少しお休みになられては?」
リッカを安全な場所で寝かせると、クガサは***に声を掛ける。
「安心してください、迷い人を導き、守るのが私の務め。そして、あなたも今は彼女と同じ迷い人。ならば、私にはあなたを守る義務があります。まぁ、信じるか否かはあなた次第ですがねぇ」
……クガサの皮肉交じりの言葉から敵意を感じなかった***は、彼の言葉に甘えて少し休むことにした。
「それにしても……服は敗れ、眼鏡も割れ、体中が傷と痣だらけ。さすがにこのままでは“彼女”らしくない……」
眠るリッカの姿を見ながら、クガサはどこからともなく“服らしきもの”を取り出す。
「ふふ……。念のためにコレを持ち出しておいて正解でしたね♪」
妖宴ワンダラー ~鬼門突破編~完
妖都から
抜け出せるのか!?
抜け出せるのか!?
story by 間宮桔梗
201:妖宴ワンダラー ~妖都行脚編~
妖都から抜け出せるのか!?
プロローグ
「な……なによここはーーっ!?」
門の先は現世……ではなく、鬱蒼とした雰囲気が漂う妖しげな町だった。
「ちょっとクガサ、話が違うじゃない!門をくぐれば現世に戻れるって……!」
「おや、そんなことは一言も言っていませんよ?私は“橋の先に現世への出口がある”と言っただけです。実際、この妖都には現世への出口がありますし。ね、ウソは言っていないでしょう?」
――妖都。文字通り、妖怪達が住む都のことらしい。
そして、現世への出口を通るには、妖都を治めている城主の許可が必要なのだとクガサは語る。
「……百歩譲って、とりあえずその話は信じるわ。じゃあ、これはどう説明するつもり?どうしてあたし、ヒノエ神社の巫女装束なんて着てるのよ!?」
「そう怒らないでください。むしろ感謝してほしいものです。ボロボロだったあなたの服を脱がして、神聖な衣装を着せてあげたのですから。あなたが寝ている間に、私が直々にね」
「……!な、なな、んな……っ」
なにしてんの!?サイテー!と言いたいらしいが、怒りと恥ずかしさのあまり言葉にできないリッカ。
「て、ていうか、どうしてあなたがあたしの巫女装束を持っているの!?」
「そんなの、私があなたの住んでいる神社の守神だからに決まっているじゃあないですか。あれ、言ってませんでしたっけ」
「初耳なんだけど!?」
「そうでしたか。まぁ、なので私は、あなたが神隠しに遭う瞬間を目撃していたのですよ」
ゆえに、守神としてリッカを現世へ導くために後を追ってきた……とのことらしい。
「その巫女装束は邪気を祓う力が付与されている。もしかしたら必要になるかと思い、持ち出してきたのです。フフ、よくお似合いですよ。さすがは正当な巫女の血を継ぐお方……」
「う、うるさいっ。あたしは巫女になんかなりたくないの。霊力だって全然ないし、お母さんみたいにはなれないだろうし……そもそも、敷かれたレールの上を行く人生なんて絶対に嫌!」
「ほう。実に“ろっく”で“ぱんく”な言い分ですねぇ。まぁ、そんなに嫌ならお脱ぎになられても構いませんよ。他に着る物はありませんが……おや、どちらへ?」
いちいち皮肉を交えるクガサを相手にするのが面倒になったのか、リッカは一人で先に進んでしまう。
「行きましょ、***。さっさとその城主とやらに会って、元の世界に帰してもらうわよ」
「それは構いませんが、闇雲に妖都を歩き回るのはおすすめしませんよ?危険な妖怪も住んでいますし」
クガサがそう言った瞬間。リッカの目の前に、片方しか靴下を履いていない少女が現れる。
「あなたの靴下、お一つくださいな」
「……え。あ、あれ?いつのまにあたしの足袋を……」
足元に違和感を感じたリッカが自分の足を見ると、靴下が片方だけなくなっていた。そして、その靴下は目の前にいる少女が持っている。
「あの、できれば返してほしい……って、もういなくなってる!?」
「言わんこっちゃありません。あれは妖怪“カタタビ”。彼女に靴下を奪われると、持ち主の片足は腐敗の呪いによって壊死して腐り果てます。やがて腐敗は全身へと広がり……最終的に死にますね」
「はああっ!?ち、ちょっと、そういう大事なことは先に言ってよ!」
「後先考えずに飛び出すからです。そんなことより、早くカタタビを追いかけた方がよろしいのでは?靴下さえ取り戻せば、腐敗の呪いは解呪されますよ」
その言葉を聞いたリッカは、必死な形相で***に振り向く。
「……お願い、***!あの妖怪から、あたしの足袋を取り戻すのを手伝って!」
了承した***は、リッカと共にカタタビを追いかけることになった……!
>>カタタビを追う<<
ランキングに関係なく、一定数の【ワンダラーメダル】を集めると役立つアイテムが貰えるみたい。お得ね!
どうしてただの女子高生がこんな目に……!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるみたい。なにそれ、すごい……。
「土地力」は霊力の源だってお母さんが言ってた気がする。まぁ、今は少しでも多く溜めたいところね。
霊力なんかいらないけど……ここを安全に突破するなら、少しでも強くならなきゃね。
巫女になんか、絶対にならないんだから……!
強い敵を倒せば多くの【ワンダラーメダル】が貰えるみたい。敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるんですって。便利な世の中ね!
こまめにチェックしておくといいかも。
イベント掲示板をみる
クエスト……?
この町を突破するのに必要ってことなら、受けて立ってやろうじゃない。
妖都を行脚する
無洗米洗バトル
「わあ、お姉ちゃん速い!でも、靴下は渡さな…………あ」
ざぶん、という音と共に、前を見ていなかったカタタビは川に落ちてしまう。しかも彼女は泳げないようで、水の中でもがき苦しんでいる……それを見た瞬間、リッカは迷わず川に飛び込んだ。
「くっ……***、この子を……!」
リッカは両腕に抱えたカタタビを***に託す。
「おやおや。また派手に飛び込みましたねぇ。しかもカタタビを助けるとは。まったく、あなたの行動は理解でき……な…………っ!?」
淡々と語っていたクガサの口が止まるのと、リッカの身体が川に沈んでいったのはほぼ同時だった。慌ててクガサが川に飛び込み、溺れかけたリッカを救出する。
「……呆れて物も言えない。泳げないのに川に飛び込むなど、あなたバカなんですか?死ぬんですか?まったく、どうしてこんな無謀なことを……?」
「う。それは、その……。川で溺れる怖さは、よく知ってるっていうか……」
話によると、リッカは幼い頃に川で溺れて死にかけたことがあるらしい。その時の記憶は曖昧だが、あとから聞いた話では、父親に助けられて事なきを得たのだとか。
「……あの、お姉ちゃん。助けてくれてありがとーございました。これ、濡れちゃったけど返すね」
カタタビは恥ずかしげな様子でリッカに靴下を返し、さらに一枚の木製のお札を渡すと、その場から去っていった。
「ほう、リッカさんもなかなか悪運が強い。それは開門の札というものです。妖都を治める主が住んでいる城門を開けるためには、その札が必要不可欠なのですよ」
現世への出口を通るには城主の許可が必要。そして、城主のところへ向かうにはこの札があと二枚必要なのだとクガサは語る。
「開門の札は妖都に住む妖怪が持っています。彼らのお願いを聞いてあげれば、もしかしたら譲ってくれるかもしませんよ?」
「お願いを聞くって……。そんなこと言われても、こんな山奥に妖怪なんているの?」
「またまたご冗談を。さっきからあなたの隣にいるじゃないですか。ほら」
「きゃあ!?い、いつのまに……」
リッカの隣には、桶の中でなにかを洗っている、存在感のない妖怪が立っていた。
「ああ……やっぱり無洗米はいいね。洗わなくたっていいんだから。けど、あえてそれを洗うことに真実がある。君もそう思わないかい?」
「………………クガサ。彼は一体、なにを言ってるの?」
「おや、今時の女子高生は妖怪“無洗米洗い”も知らないのですか?いやはや、遅れていますねぇ」
小豆洗いじゃないのか……。***は思わず小声でそう口にしていた。
「えっと、じゃあ……無洗米洗い君。このお札を持っていない?持っていたら、あたしに譲ってほしいんだけど」
「持っているけれど、これは僕と遊んでくれた人間に渡すようにって城主様に言われているんだ。だから、僕と遊んでくれたら譲ってあげるよ……かくれんぼでね」
無洗米洗いはスゥ……と、その場から消えてしまう。突然のことに驚くリッカだったが……よく見ると、地面には一定の間隔で米粒が落ちていた。
「だるまさんがころんだ、おにごっこときて、次はかくれんぼか……。まぁいいわ。ここまで来たら、とことんやってやろうじゃないの……!」
無洗米を辿る
迷家祭道バトル
「見つかっちゃったね……遊んでくれてありがとう、人間の女の子」
無洗米洗いはリッカにお札を渡すと、再び透明になり、姿を消した。
「……これで二枚目。あと一枚で城主の元に行けるのよね、クガサ?」
「ええ。その通り、なのですが……」
辺りを見渡すと……そこは、ぼんやりと輝く提灯が立ち並ぶ街道だった。どうやら、無洗米洗いを探しているうちに辿り着いていたらしい。
「……ねえ、なにか変じゃない?この道、歩いても歩いてもずっと同じ道が続いて……あ、あれ。クガサ?***?」
リッカが振り返ると、そこにクガサと***の姿はなかった。そして次の瞬間、パンッ、という渇いた小さな破裂音のようなものが周囲に響き渡る。
「あ、すごい!このマヨヒガの射的を避けるなんて……すごく、すご~く反応がいいのね、巫女のお姉さん!」
物陰から出てきたのは、嬉々とした様子の着物を着た少女。その片手には、一本のコルク銃が握られていた。
「ちょっと、危ないじゃない!あ、あたしが元陸上部じゃなかったら当たってたわよ!?」
動揺と恐怖のあまり、よくわからない発言をしてしまったが……ふと、リッカはマヨヒガと名乗った少女を見て、違和感を覚える。
「あ、あなたもしかして……妖怪じゃなくて、人間……?」
「“元人間”よ、巫女のお姉さん。そうね、いわゆる死霊ってやつかしら。あたし、強い未練を持って死んじゃったみたいで、全然成仏できないの」
でも、そんなことはどうでもいいの……と、マヨヒガは続ける。
「あたしはただ、遊び相手が欲しいだけ。ずっと、ず~っと一人ぼっちでいるのって、とっても退屈なんだもの。だから、いっぱい遊んでくれると嬉しいわ!」
「……!しまっ……」
無邪気な笑みを浮かべながら、マヨヒガは再び銃に弾を装填し、リッカに向けて放つ。
「…………?こ、これって」
弾丸は……弾かれていた。どうやら、反射的に差し出した神楽鈴と数珠が共鳴し、リッカの正面に防御効果のある結界が張られたようだ。
「い、いつのまにこんな力が……」
「……へぇ。あなた、不思議な力を持っているみたいね。すごく、すご~く面白そう!それじゃあ、あたしが飽きるまで徹底的に遊んでもらおうかしら!」
マヨヒガと遊ぶ
妖狐共闘バトル
「はぁ、はぁ……ね、ねぇ。あなた、本当は……成仏したいんじゃ、ないの……?」
猛攻を凌ぎ、リッカはマヨヒガとの対話に成功する。
「……!すごいのね、巫女のお姉さん。そんなこともわかってしまうなんて……」
そして“霊感”を通し、戦いの中でマヨヒガが胸に秘めている本心に気が付いた。
「……あたし、お兄ちゃんがいたの。とっても強くて、と~っても忙しいお侍さん。それでね、あの日は久しぶりにお兄ちゃんが休みだったから、二人で下町のお祭りに参加したの。すごく、楽しかった」
だけど……と、マヨヒガは目を細めながら俯く。
「突然、他のお侍さんがお兄ちゃんに声を掛けてきて。そうしたら、お兄ちゃんは“ここで待ってろ”ってあたしに言って、どこかへ行っちゃって…………それきり、帰ってこなかったわ」
……マヨヒガの事情を聞いたリッカは、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
「力になれるかわからないけれど……一緒に、来る?あたし、この妖都で一番えらい人に会いに行く途中なんだけど。その人なら、あなたのお兄さんのことを知っているかもしれない」
もちろん根拠はない。しかし、このまま誰もいない寂しい場所で待ち続けるマヨヒガの姿を想像したリッカは、思わず彼女に手を差し伸べていた。
「……いいの?あたし、死霊よ?もしかしたら、近くにいるだけであなたを危険な目に遭わせてしまうかもしれないわ」
「大丈夫。危険な目になら、ここに来るまで何度も遭っているもの」
……気が付くと、マヨヒガはリッカの手を握っていた。
「えへへ。ありがと、リッカお姉ちゃんっ」
「おね……!?ま、待って!今の……今の、もう一回言って!」
そんなやり取りをしながら、リッカはマヨヒガを連れ、まずは***とクガサを捜すことにした。
……一方、その頃。
リッカとクガサとはぐれてしまった***は、妖しい煙と共に出現した妖怪達に囲まれていた。どうやら、部外者であるかいちょを排除しようと企んでいるようだ。
「あ……っ!あなたは確か、兄と一緒にいた……えと、***さんでしたっけ……?」
突如、***の後ろから現れたのは、クガサの妹を名乗るカサネという妖狐だった。なんでも、兄をこっそり尾けていたらしいが、突然はぐれてしまい、気が付くとここにいたのだという。
「よ、よかったぁ……!一人で迷ったのかと思って、ずっと不安で……っと、今はそれどころではないみたいですね。どうやら、私も標的にされてしまったみたいですし……」
カサネは***の隣に立つと、三つの尾をふわりと立たせた。
「見たところ、この妖怪達は妖都の記憶から生成された幻体のようです。なので……遠慮なく、ささ~っとお掃除しちゃいましょう!」
お掃除しちゃう
三鬼強襲バトル
***とカサネが妖怪達と戦っている頃……クガサは、珍しく焦っていた。
「……よもや、あのような稚拙な空間妖術式に引っかかってしまうとは。我ながら落ちたものです」
無表情で自虐の言葉を口にしながら、クガサはリッカを捜すため、持ち前の俊敏さで妖都中を飛び回る。
「がおがお~!ここで会ったが百年目だぞ~、クガサ!」
「…………びしっ」
「久しぶりだな、妖狐よ。パンツ履いてるか?オレは履いているぞ!オレだけの、鬼のイイパンツをな!」
そんなクガサの前に現れたのは、彼と古くから犬猿の関係にある三体の鬼だった。
「おや、三バカ鬼トリオじゃあないですか。ずいぶんと久しぶりですね。というか生きていたんですねぇ」
「誰が三バカ鬼トリオだ!あたし達が作った罠に引っ掛かったアンタだって、とんでもなくマヌケなんだからな!」
……ああ、やっぱりあなた達の仕業でしたか。言いながら、クガサは深い溜息を吐く。
「さあ、今日こそは決着をつけてやるからな!行っくぞ~、セイラン!キモン!」
「…………ずびしっ」
「オレ~のパ~ンツはフンフフンフフ~~ン♪ってか!?おい!」
自己主張の激しい三体の鬼は、クガサの逃げ道をしっかりと塞いでいた。
「……やれやれ。あなた達のせいで、私の“計画”は大きく狂ってしまいました」
瞬間、クガサの六つの尾が猛々しく燃え上がるように逆立ち、周囲の空気がざわつく。
「もし、巫女の身になにかあったら…………責任、取ってくれますか?」
射貫くような微笑を浮かべるクガサを見た三人の鬼達は……
「ほ、ほらセイラン、先手は譲ってやるから。早く行ってきな!」
「全身全霊で断るポーズ。ずびしっ」
「はっはっは!そんなことよりパンツだ!その目に焼き付けるんだな、オレの、鬼のイイパンツをな!」
……完全に、統率力を失っていた。
「来ないのならこちらから行きますよ。ああ、そうだ。今日の私は火の加減ができませんので、ご注意をば」
「ちょっ……!ど、どうしてお前、今日はそんなに怒ってるんだよ~っ!?」
コウカクの質問には答えず、クガサは傘を大きく開き、狐火を周囲に纏う。
「……フフ。では、鬼退治という名の折檻を始めるとしましょうか」
鬼退治をする
念刃荒風バトル
「***!よかった、無事だったのね。ねぇ、さっきの大きな火柱、見た?」
森の向こうに見えた火柱。それは、クガサが三鬼に放った狐火だった。***と合流したリッカとマヨヒガは火柱を目指し、森の中へと……
「だぢゅげでぇええ巫女様ぁ~!かわいそうなカザグルマ様をだ~ぢゅ~げ~でぇ~!!」
「わあああっ!?ちょ、誰……っていうか、急に抱き着かないでっ!」
……入った瞬間。リッカはカザグルマと名乗る妖怪に泣きつかれる。
「アイツにぃ、ここでスタンバって巫女様を待てって言われたからぁ、ずっと待ってたらぁ!急にお侍さんに襲われたのぉ!なんかめちゃくちゃ怖っ……ぽぎゃああ来たぁああ!」
茂みから現れたのは、禍々しい怨念を纏った一人の侍。
負の力が放つ独特の気配と、ピクリとも動かない表情から察するに……どうも、自我を失っているようだ。
「……え?おにい……ちゃん?」
マヨヒガが呆然とした様子でそう口にした、刹那。侍は刀を抜き、一瞬で距離を詰めてきた。
咄嗟に、リッカはマヨヒガを後ろへ突き飛ばす……が、その頃にはもう、侍の凶刃は振り下ろされていた。
「……っ!ク……ガサ?」
リッカに覆いかぶさったクガサは、侍の一閃をその背中に受けた。
「無事の、ようですね……よかった……」
クガサの温もりに触れた瞬間、リッカは全てを思い出した。幼い頃、川に溺れて死にかけた時の、あやふやだった記憶を。クガサに感じた既視感の正体を。あの時……自分を助けてくれた者の正体を。
「ふふ、変な顔ですねぇ。似合いませんよ……あなたには、ね……」
ぎこちない笑顔のままクガサは地に伏し、霊光の粒子となり、ゆっくりと散っていった。
「……………………なに、よ。なによ、それ」
血が出るほどに拳を深く握りしめ、リッカは肩を震わせる。
「…………クガサ」
目元を伝った滴が腕の数珠に触れた、その時、リッカの身体は目も眩むほどの霊力で覆われていた。
「……待ってて。あなたのお兄さん、すぐに正気に戻すから」
マヨヒガの頭を撫でると、リッカは顔を上げ、ぼやけた視界で侍を見据え……神楽鈴を構えた。
「あ、あれぇ?なんか予想してたのと違う展開。もしかして、これも全部アイツの……だとしたら、ここは私も巫女様と戦うべきかしら」
意味深なことをブツブツと言いながら、カザグルマは悪戯じみた笑みを浮かべる。
「フッフッフ。ちょ~っと待ちなさい!その侍と戦う前に、あなたはまず私と勝負を……ぽぎゃあっ!?」
「……巫女のお姉ちゃんの邪魔はさせないわ。あなたの相手は、このマヨヒガがしてあげる」
「い、いきなり撃ってくるとか卑怯すぎない!?ていうか、あなた誰って感じなんだけどぉ!」
この場を収める
城主妖龍バトル
「……!俺は、一体……」
リッカの浄化の力を浴びた侍は正気を取り戻した。そして、彼の視線はすぐにマヨヒガへと注がれる。
「…………ああ、マヨイ。すまなかった。迎えに行けなくて」
マヨヒガはゆっくりと、兄の元へと歩み寄って行く。
「ううん、いいの。ちゃんと会えたから」
――ありがと、リッカお姉ちゃん。
その一言を残し、マヨヒガは侍と共に美しい光に包まれ、ゆっくりと成仏していった。
しかし……クガサを失ったリッカの心は、晴れなかった。
「……あ、あのさぁ。実は、妖怪って深い傷を負っても、すぐには消滅しないのよね。なんかその、残留思念が残るっていうかさ」
様子を見兼ねたカザグルマは、歯切れの悪い口調でリッカに声を掛ける。
「多分だけど、城主様の力があればクガサはまだ生き返るんじゃないかなぁ、みたいな。あはは」
「…………え?それ、本当!?」
「あー、うん。ほら、このお札を持って行くといいわ。三枚あれば城門が開いて、城主様に会えるから」
リッカはカザグルマに礼を言い、三枚目の開門の札を受け取ると、すぐに城の方へと走っていった……。
「……はああぁ。ウソつくのって難しいわね。やっぱり、私ってこういうの向いてないなぁ」
カザグルマが意味深な独り言をつぶやいてから、数十分後……リッカは全力疾走で城の前に辿り着くと、三枚の開門の札を使って城門を開いた。
「待っていたぞ。妖都を彷徨いし者よ」
その先の庭園には、荘厳な雰囲気を纏った一人の男が立っていた。どうやら、彼が妖都を治める城主のようだ。
「貴様の事は耳に届いている。なんでも、現世に戻りたいのだとか。なれば、このセイリュウに望むがよい。力を証明した者の望みを一つ叶えてやるのが、数多ある我が責務の一つであるがゆえ」
「その前に、あなたに頼みたいことがあるの。クガサを……あたしの大切な人を、生き返らせてほしい」
瞬間。心臓を射貫くような尖鋭な視線を、セイリュウはリッカへと向ける。
「口を慎め、愚鈍なる人間め。よもや、我が御言葉に耳を傾けていなかったのか?“叶えてやる望みは一つ”と語ったはずだ。現世へ戻るか、そのクガサとやらを生き返らせるか。どちらかをこの場で選ぶがよい」
威圧感のあるセイリュウの言葉に、リッカは冷や汗を流す。
現世へ戻れば、クガサはもう生き返らない。しかし、クガサを生き返らせれば、自分はもう現世に戻ることはできない。
「…………あたしは」
究極の選択。悩みに悩んだ末、リッカは一つの答えを出した。
「あたしは、あなたに望む。クガサを生き返らせて」
リッカの言葉を聞いたセイリュウは、目を閉じながら片手を空に掲げる。
すると、轟雷と共に一体の龍が暗雲を突き破り、セイリュウの前に降臨した。
「廉直たる眼(まなこ)……どうやら本物らしい。なれば、最後にこのセイリュウ……そして、我が愛龍“蛟(ミズチ)”に、貴様の個の力を証明してみせよ……!」
力を証明する
エピローグ
「余の龍攻をいなすとは、見事なり……。合格だ」
セイリュウが龍を帰還させると……背後から、聞き慣れた声が聴こえた。
「あ、終わりました?では、そろそろ再登場させて頂きますよ」
「……!?ク、クガサ!?ウソ……なん、で」
「あれ、言ってませんでしたっけ?私、妖術で分身を作ることができるんですよ。あなたを庇って消えたのは分身……お、おや?もしかして、泣いて……いらっしゃる……?」
腰が抜けたのか、リッカは目元を袖で隠しながら、その場にぺたんと座り込んでしまった。
「やれやれ。クガサ、お前はいつもやりすぎなのだ……。まぁよい。ひとまずは“巫女の試練”に合格した貴殿に称賛の言葉を送るとしよう。おめでとう、ヒノエ家の者よ」
「……?み、巫女の試練……って、なに?」
セイリュウは全てを語った。ヒノエ神社は古くから妖怪と共に歩んできた由緒ある神社であり、歴代の巫女は人間と妖怪の橋渡し役を担ってきたのだと……。
「ヒノエ神社の巫女は、必ずこの妖都行脚の試練を受けるしきたりなのだ。これを認知しているのは、このセイリュウと案内役のクガサ。加えてナナツミ、カザグルマ。そして、神社の神主である貴殿の父君のみだ」
しかし……と、セイリュウは表情を曇らせる。
「あの二人の死霊に関しては想定外の出来事だった。彼らの存在は、我々妖怪にとって脅威だったのだ。だが、貴殿は自らの力であの兄妹を成仏させた。妖都を統べる者として、心から礼を言わせてほしい」
「それなら私にも礼を言うべきでは?リッカさんは私の死をきっかけに覚醒したのですから……おや?でも私、普通に生きていますねぇ。いやはや、奇妙なこともあるものです」
「…………クガサ。とりあえず、一言だけ言わせて」
真っ赤な瞳でクガサを見上げ、リッカは口を開いた。
「……一回、叩かせて」
「フフ、血の気が多くてなにより。では、我々は現世へ戻るとしましょう。はい、ちょっと失礼しますよ」
「わ、わわっ。ち、ちょっと……」
クガサは腰の抜けているリッカを背負い、現世への出口がある城の中へと足を進める。
「……ヒノエ家の者よ。貴殿は巫女になりたくないらしいな。無論、我々も強制はしない。貴殿の未来は貴殿が決めるもの。しかし、余は貴殿が巫女となり、我々を導いてくれることを願っている。それだけは、どうか知っておいてほしい」
……と、最後にセイリュウはリッカに背中に語りかけるのだった。
「で、どうです?実際のところ、巫女になってみよう~って気になりました?」
「なるわけないでしょ!もう、さんざん人のこと振り回しておいて……!」
けど……と、リッカは続ける。
「色んな妖怪と出会って、他の人にはできない経験ができたのは確かね。それに、もっと色んな妖怪と会ってみたいって、素直に思った。だから、その……巫女も、選択肢の一つには入れておく」
「いやぁ、あなたには難しいのでは?なにせ、私の分身すら見抜けない未熟者ですし」
「あたしを巫女にしたいのかしたくないのか、どっちなのよあなたは!」
「フフ、移り気ですからねぇ私は。ああ、けど一つだけ。絶対に変わらないことがあります」
少年のように微笑みながら、クガサはリッカの方に振り向く。
「私はずっと、あなたの側で、あなたを守り続けます。それが、私のために涙を流してくれたあなたへの恩返しになれば……これほど嬉しいことはありません」
その屈託のない笑顔を、リッカは忘れることはなかった。
そして、リッカの成長を見届けた***は、再び新たな旅路へと向かうのだった……。
妖宴ワンダラー ~妖都行脚編~完
story by 間宮桔梗
コメント(0)
コメント
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
今後表示しない