雪華のリクリスタ プロローグ
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231:雪華のリクリスタ 二人の帰宅
雪山で一悶着!?
プロローグ
深雪の山路
「……?君は……町の人間という感じではなさそう。というより、この世界の人間じゃないって感じがする。もしかして、私と同じ精霊ポジションの存在だったりするのかしら」
周囲を見渡していると、**は青い瞳をした一人の少女に声を掛けられた。
「もしそうなら、少し力を貸してほしくて……あ、その前に。手を出してもらえるかしら?」
言われた通り、**は少女に片手を差し出す。そして、少女が**の手を握ると……なんと、先ほどまで感じていた寒さがウソのように消えてしまった。
「冷気の加護を与えたから、これでもう寒くないはずよ。さあ、自己紹介の続きね。私、サファイアって言うの。君は……**っていうんだ。わかったわ。よろしくね、**君!」
話によると、サファイアは“雪の大地”と呼ばれるこの一帯を束ねる精霊“雪の女王”の娘であり、次期女王という立場にあるらしい。
「私は元々、お母様と妹と一緒に山の頂上にある“女王の領域”に住んでいたの。けど、女王の跡継ぎになる者は山を下りて修行をするのが掟だから、今は人里に近い場所で妹と二人で修行をしていて……」
しかし……先ほど、人里に住んでいる少年が彼女の前に現れ“町の人間が全員、雪の女王にさらわれた”と報告をしに来たのだという。
「私達は昔から人間とは友好な関係を築いているの。けど、雪の女王……お母様は突然、町の人間達をさらってしまった。だから私、真実を確かめるために女王の領域に戻ろうと思って」
「フッ、それは聞き捨てならないね。町の人達がさらわれたのは雪の女王だけの仕業じゃない。その娘である君もグルなんじゃないか……というのが僕の見解、さ」
サファイアの言葉を遮って現れたのは、両手に本を持って澄まし顔をしている少年だった。どうやら彼が、サファイアの言っていた“人里に住んでいる少年”らしい。
「……あ。追ってきてたんだ、君」
「人を呼ぶ時は名前で呼ぶものだって親に教わらなかったのかい?ああ、僕の名前はカイレル・超星(スーパーノヴァ)・ジークホワイト。親しい人は僕のことはカイ様って呼ぶんだ。だから君も、僕のことをカイ様って呼んでいいよ」
「そうなんだ。ちなみに私は」
「自己紹介は必要ない。名前なんか所詮は不変的な記号だろう?僕が求めている真理はそこにはないのさ」
「え?だって、名前で呼ぶものって君が言うから」
「言い訳は聞きたくないね。それに、論理的に考えれば答えはシンプル……今回の集団誘拐事件、君も一枚噛んでいるんだろう?僕には全てわかっているんだ。そう、年間30冊の本を読むほどに秀才なこの僕には、ね」
「…………どうしましょう、**君。カイ様がうざいわ」
しかも年間30冊って案外普通だし……突っ込んだら負けなのかしら……と、戸惑うサファイア。
「うーん……***君。この人ちょっと面倒そうだから無視して先に行こうと思うんだけど……あ、やっぱり君もそう思う?よかった、同じ考えの人が近くにいて。じゃあ行きましょうか」
***がサファイアと共に一歩を踏み出した、その時……大地から複数の光の塊が出現する。やがて、その光はかつて***と共に冒険をした者達に姿を変え、山頂へと走り出していった。
「……?今のってもしかして……だとしたら、やっぱりこの地に危険が…………ごめんなさい、なんでもないわ。さあ、行きましょう」
こうして、***とサファイアは雪の女王の領域があるという山頂へ向かうことになったのだった。
「そう、論理というのは美しき思考と美しき推理によって生まれる。年間30冊の本を読んでいる僕と、おそらく数冊しか読んでいないであろう君との間に差が生まれるのは当然。いや、必然なんだ。理解したかい?そう、僕は…………アッハッハッハ。誰もいなくなっているじゃあないか。こりゃ参ったね、どうも」
……少し遅れて、カイレルもサファイアを追いかけ始めたのだった
>>母を訪ねる<<
雪道は滑りやすいから注意して。
転びそうになった時は私が支えるわ。
まずは500kmぐらいから進んでみましょう。
大丈夫、君ならできると思うわ。
転びそうになった時は私が支えるわ。
まずは500kmぐらいから進んでみましょう。
大丈夫、君ならできると思うわ。
母を訪ねる
吹雪の山路
雪山には、カイレルとはまた別のルートからサファイアを追っている少女の姿があった。どうやら彼女は、サファイアの妹のようだが……。
『雪の女王一家の次女にして第二王女、フローライト姫よ。わかっているな?貴殿の役目は……』
突如、どこからともなく怪しげな声が響く。
「ええ、もちろん把握しております。姉様の溢れんばかりの力を抑えられるのは私だけ。この力で、私は姉様を……そして、王位はこの私が……」
『……期待しているぞ、姫。いや、未来の雪の女王よ』
……そう言い残し、声の主は気配を消した。
「……サファイア姉様。あなたは生まれながらにしてお母様を越えるほどの力を持っていた。あなたが歴代で最も優れた女王になることは、疑いようがありません」
誰に言うわけでもなく、フローライトは俯きながら独り言をつぶやく。
「私はそんな姉様のことが大好きです。大好きで、愛しくて、羨ましくて…………ひどく、妬ましい」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、フローライトは顔を上げた。
「……感傷に浸っている場合ではありませんね。見たところ、姉様は旅人のような風貌をした者を味方につけた様子。一定の距離を保ちながら、しっかりと観察させて頂くとしましょう」
そんな時、ぼんやりとした輝きと共に新たな英雄たちが出現し、山頂へと走っていった。
「……?今のは、他の精霊達でしょうか。見たところ、私や姉様に害意を持っているわけではないようですが……と、ボーっとしている場合ではありませんね。私もそろそろ行かないと」
薄暗い思惑を胸に、フローライトは再びサファイアの背中を追いはじめたのだった……。
姉を追跡する
豪雪の山路
「ずぇえ、はあ、ぜえ、はああ……。こ、ここはどこだ……というより、寒すぎて死にそうだ……」
町の領主の息子であるカイレルは、サファイアと大きく距離を開きながらも、過酷な雪の山道を走り続け……見事に道に迷っていた。
「はぁ、はぁ……体力作りの本を熟読した僕の先を行くとは。やはり……タダ者ではないな、彼女は」
彼は気付いていなかった。本を読んだだけで、実際に体力作りをしたわけではないことに。
「とはいえ、立ち止まるわけにはいかない。町の人達を救わねばならないのはもちろんだが、僕の許嫁であるゲルダまでさらわれてしまったのだから、ね……。こうしている今も、彼女は僕の助けを求めている。うん、そうに違いない」
愛しの許嫁が自分に微笑んでいる姿を想像するカイレル。すると、尽きかけていた彼のスタミナは一瞬で回復した。
「フッ、ありがとう脳内ゲルダ。やはり、僕に相応しい女性は君しかいない。そして、その逆も然り……ならば、なんとしても雪の女王一家の企みを阻止しなければ」
すでに筋肉痛になりつつある足を強く引っ叩くと、カイレルは気合いを込める。
その瞬間、輝きと共に現れた英雄達が、カイレルの横を悠然と駆け抜けていった。
「……!今のは……そういえば、古文書で読んだことがある。この山には古くから“大地の危機を知らせる伝令者達”が存在すると。彼らはこの地の危険を察知すると姿を現し、その脅威に立ち向かう力を持った者達を導く……だったか」
あごに手をそえながら、カイレルは自分の考えを頭の中でまとめる。
「仮に彼らが“伝令者達”なのだとしたら、僕は彼らに導かれているということ。つまり、彼らについていけば、少なくとも遭難しかけているこの状況からは脱出できるはず……!」
導き出した仮説を信じ、カイレルはゆっくりと息を整える。
「それにしても……町の人達が雪の女王にさらわれたうえ、伝令者達が姿を現すなんて。一体、この大地で何が起ころうとしているのだろう。いや、それとも……もう何かが起こってしまったあと、なのだろうか?」
……不穏な空気を感じつつも、カイレルは伝令者達の背中を追い、再び足を動かし始めた。
豪雪の山路を進む
エピローグ
**とサファイアが振り向くと、そこにはサファイアの妹であるフローライトの姿があった。
「ああ、さすがサファイア姉様。気配は断っていたというのに、やはり気付いていらしたのですね。とはいえ、このフローライトを置いていってしまうなんて……辛すぎて、心が凍傷になってしまいます」
「ごめんなさいライト。でも、一緒に行って二人にもしものことがあったら、女王の跡を継ぐ者がいなくなってしまうでしょ?だから、今回のことは私一人で解決しようと思ったの」
「そんなことを仰らないでください。次の女王になるのは姉様以外にあり得ません。私ではあまりに荷が勝ちすぎる……」
「それは違うわ。私はライトがいなければ自分の力を制御することもできないんだから。二人揃って初めて一人前なんだって、私は常日頃から思っているの」
「…………。身に余るお言葉です。ところで、こちらのお方は?」
「ああ、この人は**君って言うの。町の人達が誘拐された事件の調査を手伝ってくれるんだって。すごく心強い人よ」
「あ、いいえ。そちらの方ではなく、後ろで息を切らしている、あちらの金髪の……」
フローライトが指を差した先には、金髪ことカイレル少年が顔を緑色にしながら立っていた。
「ずぇえ、はああ、んぜぇぇえ、はあああぁ…………フッ、お待たせ」
「誰も待ってないわ。でも、人間なのに私についてこれたのは純粋にすごいと思う。その点においては少し見直したわ。その点においてだけは」
「アッハッハ。褒めたって何も出ないぞ。キャンディ食べるかい?」
「いらないわ。そんなことよりカイ様、ちょっと思ったんだけど……カイ様はどうやって、町の人達が私のお母様に誘拐されたってことを知ったの?」
「フッ、シンプルなクエスチョンだね。そして答えもまたシンプル……さらわれる間際に、僕の許嫁が手紙を残していたのさ。ほら、これだ。“雪の女王が皆をさらいに来た。助けてカイ様”と書いてある」
筆跡は間違いなく許嫁である彼女のものだ……と、自信げな様子で語るカイレル。
「町の人がさらわれた時、僕は町はずれにある図書館で思索に耽っていてね。そして、町に戻ってみたらこの手紙だけが残されていたってわけさ」
「なるほど。そして私が関わっているんじゃないかと判断して、私のところへ来たのね。けど、カイ様。もし私が今回の誘拐事件に関与しているなら、とっくにカイ様を捕まえていると思うんだけど」
「……ほう。なかなか論理的な考え方ができる精霊なんだな。少し見直したよ……おっと、さっきの言葉をそのまま返す形になってしまったね。失敬失敬」
「…………どうしましょう、ライト。カイ様がうざいわ。氷漬けにしてもいいかしら」
「お言葉ですが、姉様。精霊は人間に深く干渉しないのがこの地のルールです。デコピン程度に済ませておいた方がよろしいかと」
「そうね。じゃあカイ様、デコピンされたくなかったらこのまま引き返してくれるかしら?言ってしまうと足手纏いだから、ついてこられると困るの」
あっさりと突き放されるカイレル。しかし、カイレルは急に真面目な表情になり、自らの覚悟を言葉にし始める。
「千歩譲って、君が誘拐事件に関与していないとしよう。だが、僕の目的は町の人達を……そして、大切な許嫁を取り戻すこと。たとえ君達が僕を置いていこうと、僕は勝手についていく。それだけのこと……ぁいったぁデコピンいったぁあ!って、あれ?寒く……なくなってる?」
……どうやら、サファイアは**にしたのと同じように、カイレルにも冷気の加護を授けたようだ。
「まあ、ちょっとアレだけど悪い人じゃなさそうだし、勝手についてくるなら止めないわ。それに、町の人間がいた方が便利な場面もあるかもしれないし。うん、そうと決まれば行きましょう!」」
「……利用すること前提のお言葉。さすがです、姉様」
……こうして**は、サファイアとフローライトとカイレルと共に、雪の女王のいる城を目指すことになったのだった。
232:雪華のリクリスタ 氷雪の城門
プロローグ
山頂付近にある女王の領域。その手前にある“壁”に辿り着いたサファイア達の前に現れたのは、雪かきを持った一人の番人らしき女性だった。どうやら彼女は、サファイアとフローライトの母親である“雪の女王”直属の部下のようだ。
「こんにちは、いつも雪かきをしてくれている精霊のお姉さん。一つ尋ねたいのだけど、お母様が大勢の人間を連れてここを通ったりしなかった?」
「……?いいえ、ここは人っ子一人通ってはおりませんよ。ましてや、万年ひきこもりがちな女王様が城の外に出ていたりしたら、それこそ雪が降るほどの事態かと」
「上手いことを言うわね、雪かきのお姉さん。でも、これってどういうことかしら?お母様の領域に入るには、必ずここを通らなきゃいけないはずなのに。ライト、知恵を貸してほしいわ」
サファイアが意見を求めると、フローライトはすぐに口を開く。
「実は、姉様。最近、雪崩によって地形が変わったことで、新たな道ができたのです。その道はかなりの迂回が必要になりますが、基本的には安全なルートでして。もしかしたら、お母様はそちらの道を通って、町の人達をお城へ連れていかれたのかもしれません」
「……なるほどね。そのルートを通ったのだとしたら、雪かきのお姉さんの視界に入っていなくても不自然じゃない。ありがとうライト、参考になったわ」
すると、姉妹のやり取りを耳にした門番の女性が目を丸くする。
「ち、ちょっと待ってください姫様。他にルートがあるなら、あたしがここの門番をやっている意味、なくないですかっ?」
「そんなことないわ、雪かきのお姉さん。警備が薄くなってしまったのは確かだけど、それはあなたのせいではないし、あなたは雪かきという職務をちゃんと全うしている。だから気に病む必要はないわ」
「職務雪かき違う!私の本職は女王様の領域の門番です!雪かきは暇すぎるのでやっているだけで、本職ではありません!」
「……え、そうだったの?雪かきをしてくれる優しいお姉さんだと、小さい時からずっと思っていたわ」
「ガーーン……!そ、そこはかとなくショックです、サファイア様……」
サファイアの悪気ゼロの、歯に衣着せぬ物言いに落胆してしまう門番。
「ご、ごめんなさい。落ち込ませる気はなかったの。えっと、とりあえず……そうね。ひとまず中に入れてもらってもいいかしら?私、どうしてもお母様に会いに行かなきゃいけないの」
「それは……めっ!です!雪の女王一族の者は、修行で外に出ている間は領域内に戻ってはならない、というのが掟です!もし強引に通ろうとするなら、たとえ姫様であろうと……」
門番の女性の目つきが変わる。どうやら、職務を全うするためであれば、たとえサファイア達でも相手をする覚悟のようだ。
「……困ったわね。今から迂回している時間はないし、なんとしてもここを通らないといけないのだけど。カイ様、何かいい案はないかしら?」
「フッ。先に言っておくが、僕はまだ君のことを疑っている。ゆえに知恵は貸せない……と言いたいところだが、ここを突破できないことには僕も目的を果たすことができない。ならば、ここは僕の華麗なる論理を展開して窮地を脱する他はない。さあ、悠久なる知識の旅へ共に出掛けよう。準備はいいかな?」
「カイ様もういいわ。ライト、何か妙案はある?」
「苦渋の決断となってしまいますが、やはりここは力ずくで通る他ないかと。とはいえ、姉様は自身に宿る大いなる力をコントロールできず、現在は私の能力によって力を制限されている状態。かと言って制限を解除してしまえば、この一帯を数秒で破壊してしまうかもしれません」
なので……と、フローライトは淡々とした様子で続ける。
「勝てるかはわかりませんが……修行も兼ねて、姉様は今の状態のまま戦うのがよろしいかと。微力ではありますが、私もご協力いたします」
「いい考えね。ライトが一緒なら私も安心して戦えるわ。お母様に仕えてくれる人と戦うなんて、本当はいやだけど……」
……どうやら、サファイアも覚悟を決めたようだ。
「本気のようですね。いいでしょう、ならば久しぶりの門番のお仕事……キッチリと果たさせて頂きます!!」
>>突破開始<<
位置登録は積極的にしていきましょう。
雪の上で戦うのは慣れっこなの。
お母様直属の部下が相手……。苦戦は必至でしょうね。
ライト、援護をお願い!
さあ、力を一つに……!
チャンスは掴んだら離しちゃダメ……。お母様が言っていたわ。
進みましょう。果てなき白き道を!
あまり時間は掛けられないもの。早く済ませましょう。
<力をしめす>!!
エピローグ
サファイアは魔力で作った氷の剣を巧みに使いこなし、門番に尻餅をつかせた。
「グスン……姫様相手ではこうなると思っていましたし、別にいいです……。それに、久しぶりに門番っぽいことができたので、これはこれでナシ寄りのアリということで……」
それに……と言いながら、門番はゆっくりと立ち上がる。
「女王様の領域内にどこか不穏な空気が漂っているのもまた事実。主の身の安全と、掟……守るべきは前者であると判断し、特別に姫様達を通します!」
門番の許可を得たサファイアはお礼を言い、仲間達と共に門をくぐり、壁の内側……女王の領域へと足を踏み入れることに成功した。
「さすがは姉様です。本来の力の十分の一すら発揮できない状態にあったというのに、お母様直属の部下を退けてしまうなんて」
「ライトと**君が力を貸してくれたおかげよ。ありがとう、本当に助かったわ」
「……!ああ、姉様からお褒めの言葉を頂けた。私、幸せすぎてどうにかなってしまいそうです……!」
勝利の喜びを分かち合う姉妹。すると、カイレルがやや食い気味に二人の間に入って来る。
「フッ、サファイア君。僕にお礼はないのかな?まあ、別に褒めてもらいたいなどとはこれっぽっちも思っていないのだがね」
「あ、確かにカイ様にもお礼を言わないといけないわね。何もせずに隅っこで読書をしていてくれて助かったわ。戦闘に乱入でもしてきたら邪魔すぎて仕方なかったはずだもの。本当にありがとう」
「アッハッハッハ!そう褒めないでくれたまえよ。おっと、もしかして僕に惚れてしまったとか?悪いけど、僕は許嫁のゲルダ一筋なんだ。すまないが君の想いには応えられない」
自信げに微笑むカイレルの顔を見た瞬間、無表情のままチャクラムを構えるフローライト。
「姉様。カイ様を八つ裂きにしてもよろしいですか?」
「クールになって、ライト。“精霊は人間に深く干渉しないのがルール”と言ったのはあなたよ」
「確かにそうなのですが、このままでは私の怒りがおさまりません。姉様がぎゅっと抱きしめてくれれば、少しは冷静になれそうなのですが」
「……?そのぐらいなら別にいいけど。はい」
「あっ……ああ、姉様……ふぁあ、ひんやり……気持ちいぃ……はぁぁあ、姉様ぁ……」
二人だけの世界へと突入してしまった姉妹。そんな二人の様子を、カイレルと**は呆然と眺める。
「あー。素敵ワールドに浸っているところを申し訳ないのだが、そろそろ行かないかい?僕が急いでいるように、君達もわりと急ぎなのだろう?」
「それに関してはカイ様の言う通りね。わかったわ。さあ、行きましょうライト、**君」
「ぁ……ああ、姉様。もう少し、もう少しだけ……後生ですから……」
「ダメよ。続きはお母様と、さらわれた人間達の安否を確認してからにしましょう」
優しく言いながら、サファイアは一歩、また一歩と先へと進んで行く。
「……残念です。続きがあるかなんてわからないのに。ああ、本当に……本当に残念です」
そんなサファイアの背中を見つめながら、フローライトは小声で独り言をつぶやくのだった……。
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