飢血のUNDEAD_プロローグ
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story by 間宮桔梗
193:飢血のUNDEAD ~ノミタイ…?~
開始前
吸血衝動を
止めることができるのか!?
飢血のUNDEAD~ノミタイ…?~
プロローグ
――だが、経験しないはずの死を人間は恐れる。逆に言えば、経験できない死を恐れなければ、それはもう人間ではない。
――だとすれば、だ。死を望みながらも死ぬことのないアンタは、人間の形をしたバケモノってことになる。違うか?ご同輩……。
「…………ああ、これは失礼。なにやら頭の中で声が聴こえていたもので。いやはや、それはさておき。お久しぶりですね、(プレイヤー名)さん」
眩い光に包まれ、(プレイヤー名)が目を開いた時。そこには見知った顔……死ぬことのできない死にたがりのハーフヴァンパイア、ブラートの弱々しい姿があった。
「よもや、このような殺風景極まりない美術館で再会するとは……おっと、それ以上近づかない方がいいですよ。こう見えて、今の私は血に飢えていますので」
その言葉に、(プレイヤー名)は違和感を覚える。
彼は特殊なハーフヴァンパイアではあるが、決して血を欲するようなことはなかったはず……。
「参りましたよ。ある日突然、吸血衝動が芽生えてしまって。トマトをかじって抑えてはいるのですが、このままでは長くはもたない……そう思い悩んでいた時、この招待状が私の元に届いたのです」
『Memento Mori.ハロー、ブラート。貴方の吸血衝動を止める方法を知っている。ユーベル美術館の時計塔の絵の中に来られたし。死霊術師セプト』
「……と、怪しさ満点の手紙ではありますが。他に方法も見当たりませんし、せっかくなのでセプトさんとやらのご招待にあずかろうと思い、時計塔の絵を探している最中なのです」
今にもかき消えそうな声で、ブラートは淡々と続ける。
「このまま吸血衝動に負ければ、私は暴走を始めてしまうでしょう。自分が自分でないまま生き続けることなど、私にとっては生き地獄も同然です。私はただ、普通に死にたいだけなのに……」
……明らかに顔色が悪い。どうも、吸血衝動を抑えるのにかなりの体力を消耗しているようだ。
「よろしければ、あなたも一緒に時計塔の絵を探して頂けませんか?あなたならいざという時に、暴走した私を止めてくれそうですし」
ブラートを一人にさせることに不安を覚えた(プレイヤー名)は、彼の吸血衝動を止める方法を探す旅へ同行することにした。
「あ、やっと追いつきましたよ、師匠!全く、水臭いじゃないですか。また世直しの旅に行くんですよね?俺も連れていってくださいよ!」
声のした方へ振り向くと、そこにはかつてブラートと行動を共にしていた人間、オーディスの姿があった。
「……人の気配がするとは思っていましたが、やはりあなたでしたか。一応、ついてこないようにとメモを残しておいたはずですが?」
「だから来たんです。あのメモは『来るなと言われても来る覚悟があるか?』ってメッセージでしょう?つまり、俺が真の勇者に相応しいかを試してくれたんですよね、師匠!」
「そんなわけがないでしょう。全く、あなたという人はどうしてこう……」
「それに師匠ってば最近、なんだか調子悪そうですよね?オーリーさんも心配してついてきて……って、なんで走り出すんですか!?お、置いていかないでくださいよ、師匠~っ!」
オーディスを置いて急に走り出したブラートに、なんとかついていく(プレイヤー名)。
「今回ばかりは、彼と行動を共にするわけにはいきません……ああ、そうだ(プレイヤー名)さん。これを持っていてもらえますか?ストックのトマトが入ったオーリーさんお手製の籠なのですが」
……手元にトマトを入れるものがなかったため、つい無断で持ち出してきてしまったものらしい。
「ありがとうございます。では、時計塔の絵を探しに行きましょう……はてさて、どうなることやら」
>>絵を探す<<
美術館を探索する
では、行くとしましょうか。
この体が吸血衝動に飲まれる前に……。
僅かな可能性を信じ、まずは500kmほど進んでみるとしましょう。
そうだ、こちらを。オーリーさんお手製の籠です。
トマトを入れるものがなくて、咄嗟に持ち出してきたのです。
預っててもらえますか?あなたに預けておけば安心できますので。
人狼お手製の籠を1個手に入れました。
それでは行きましょう。
喉が渇いて仕方がないので、手早く……ね。
美術館を探索する
エピローグ
「ぜーっ、ぜーっ……。や、やっと追いつきましたよ、師匠!」
時計塔の絵を見つけた瞬間、(プレイヤー名)とブラートはオーディスに追いつかれてしまった。
「……再度言いますが、今回はついてこないでください。それがあなたのためでもあるのです」
「へへっ、そうやって俺の勇者としての心を試しているんでしょう?まったく師匠ったら、本当に素直じゃないんだから」
これはなにを言っても無駄だとブラートが悟った、その時――
「ブラートさん。せめて、ちゃんと理由を説明してほしいの」
かつてブラートと共に旅をしていた人狼の少女オーリーが、むすっとした顔で現れた。
「ブラートさんが一人でどこかへ行ってしまうのは今に始まったことじゃないけど、わざわざ『ついてくるな』なんて書置きをしたのは初めてのことだもの。ねぇ、なにかあったんでしょう……?」
その問いにブラートはため息を吐きながら、吸血衝動に苛まれている自らの現状を渋々と二人に語った。
「事情はわかったわ。それで、どうしてそのことを私達に話してくれなかったの?」
「あなた達のことですから、話せばついてきてしまうと思ったんですよ。実際、来てしまいましたし」
「仲間なんだから、ついていくに決まっているわ。ブラートさんは私達のことを仲間だと思っていないの……?」
真剣な眼差しでオーリーに見つめられ、ブラートは静かに答える。
「吸血衝動に負けてしまえば、私は暴走を始める。そうなれば、私はきっとあなた達に襲いかかってしまいます。それは私にとって『死ねないこと』よりも、このうえなく憂鬱なことなのですよ」
答えを濁しながらも、ブラートは偽りのない本音を二人に語った。
「えっと……よくわかんないけど、師匠はアレですね。いわゆるツンデレさんってヤツだ!」
「オーディスさん、もう少し静かにしてて。つまり、ブラートさんは……私達のことを仲間だと思っているってことね?ね、そうなんでしょう?そうって言ってほしいわ」
「……はぁ。どうぞ、好きに解釈してください」
尻尾を振りながら目をキラキラとさせるオーリーに気圧され、仕方なしといった様子で頷くブラート。
「ふふっ、だったら私もついていくわ。仲間を助けるのは当然のことだもの!」
「そうですよ、師匠!それに、自分の身ぐらい自分で守れますし!」
「…………やれやれ。あなた達は本当にお人好しですね。呆れて物も言えませんよ」
……そう口にしながらも、ブラートはどこか柔らかみのある微笑みを、やんわりと浮かべていた。
飢血のUNDEAD ~ノミタイ…!~完
美術館で大騒ぎ!
ブラートの運命は……?
ブラートの運命は……?
story by 間宮桔梗
194:飢血のUNDEAD ~トマラナイ…!~
『賑やかな魔族が立ち塞がる!』
プロローグ
「さて。目的の時計塔の絵は発見できましたが、いかにしてこの中へ入ればいいのでしょうかねぇ」
「決まってるじゃないですか!こうやって飛び込むんですよ……と~う!ぁいってぇ!!」
顔面から絵に激突したオーディスはビターンと凄まじい音を上げ、尻餅をついた。
「し、師匠!この絵、飛び込めません!」
「言われずとも君を見ていたらわかりました」
「あぁもう、オーディスさんったら鼻血出てるし……。ほら、大丈夫?」
オーリーが怪我人の介抱を始めようとした、その時――
「コラコラ~!美術館ではお静かに~!」
宙に浮きながら怒声を上げたのは、一人の魔族らしき少女だった。
「マナーが悪い人はノレールがお手入れしちゃうわよ!まぁ、ユーベル美術館には人除けの結界が張ってあるから、ここに人が訪れることはないんだけ、ど…………あ、あれ?」
訝しげな視線をブラート達に送り……少女は叫んだ。
「キャー!なな、なにあなた達!?どこから入ってきたワケ!?キャー!?」
「あ。もしかして、この美術館を管理している方ですか?申し遅れました。私、セプトという方から招待状を頂いたブラートという――」
「キャー!なにアナタ、とっっても耽美な容姿ッ!キャー素敵!ノレールの絵のモデルになって!」
一気に距離を詰められ、ブラートは思わず後ずさりしてしまう。
「それはさておき、ノレールさん。このセプトという方にお心当たりはありませんか?」
「あ、それセプちんの……じゃなくて、セプト様直筆の魔法の招待状!?キャー!超レア!あ、ノレールはセプト様の使い魔で、この美術館の管理を任されているの。すごいでしょ!?」
ノレールの話によると、この招待状は魔力を込めることで時計塔の絵と同調し、中へ入れるようになるという入場チケットのようなものらしい。
「情報ありがとうございます。では、さっそく――」
「キャーブラートさーん!待って待って!イイコト教えてあげたんだから、約束通りノレールの絵のモデルになってちょうだい!」
「そんな約束をした覚えはありません……。一応聞いておきますが、絵を描くのにどれぐらい時間が掛かりそうですか?」
「最短で五十年ね!」
「そうですか。では、さようなら」
「キャー待って待って!絶対に逃がさないわ!絵のモデルになってくれるまで、私はここを動かないんだから!」
そう言うと、ノレールは塔の絵の前に立ち塞がる。
「私に残された時間は少ないのです。そこをどかないというのであれば……性には合いませんが、多少強引に突破させてもらいますよ?」
>>多少強引に突破する<<
位置登録して吸血衝動が和らげばいいのですが……。
美術館では、極力静かにしましょう。
なんとしても吸血衝動を止めなければ……。
いざという時は皆で私を止めてください。
苦手ですね、人の多い場所は。しかし、手段を選んではいられません。
死ねるチャンスがあれば、ささっと死にたいものです。
進みましょう。吸血衝動を止めるために。
すみやかに済ませましょう……。
多少強引に突破する!!
エピローグ
「キャー!もう、あなた達しつこすぎぃ……!わかった、絵のモデルにするのは諦めるわ。これ以上足止めしたら、セプト様の骨骨コレクションにされちゃうかもだしっ」
納得のいかない様子ではあるが、ようやくノレールは時計塔の絵の前からどいてくれた。
「すみませんねぇ。吸血衝動さえなければ、少しぐらいお付き合いしてもよかったのですが」
「吸血衝動……?ああ、なるほど!だからこの絵なのね!」
どういうことかとブラートが尋ねると、ノレールは鼻を高くして答える。
「この絵は“ウルダラの時計塔”っていう歴史ある呪いの絵画なのよ。なんでも、吸血鬼の始祖の一人とされるウルダラっていうやば~いヤツが、この絵の中に封印されているんだとか!」
「はぁ、そうなんですか……。して、それが私の吸血衝動となにか関係があるのですか?」
「セプト様、この絵の中でウルダラの封印を弱めようとしていたみたいなの。で、こうしてブラートさんを絵の中に招いたってことは、始祖ウルダラとあなたには、なにか関係があるのかもって思って」
ノレールは下っ端中の下っ端の、さらに下の下っ端らしく、詳しいことは何も知らされていないらしい。
「……情報提供、感謝致します。では、早速“ウルダラの時計塔”とやらに赴くとしましょうか」
「お、いよいよですね師匠!へへっ、腕が鳴るぜ!」
ブラートはノレールに言われた通り、セプトの招待状に魔力を込める。すると、ブラートの体と時計塔の絵がぼんやりと妖光を纏い始めた。
「あ。言い忘れてたけど、その招待状で入れるのは一人だけだから!」
「えっ?」「えっ?」
オーディスとオーリーが同時に声を上げた瞬間……ブラートの体は絵の中へと吸い込まれていった。
「ああっ!し、師匠ぉ~!待ってくださいよぉお!!」
「キャーやめてー!歴史ある絵画をバンバン叩くのやめてー!」
一同が動揺している最中、(プレイヤー名)は落ち着いた表情で、片手に光り輝く栞を掲げる。
そして、強く念じた瞬間……(プレイヤー名)の体は絵の中へ、ゆっくりと吸い込まれていった。
「ああっ!(プレイヤー名)さんまで!待ってくださいよぉお!!」
「キャーだから叩かないでー!大事な絵だからバンバン叩かないでー!」
飢血のUNDEAD ~トマラナイ…!~完
絵の中でブラートを
待ち受けるものとは!?
待ち受けるものとは!?
story by 間宮桔梗
195:飢血のUNDEAD ~ナオルノカ…?~
開始前
『吸血衝動に苛まれるブラート!
乾きを癒すことはできるのか…?』
プロローグ
――いいかげん身を委ねちまえよ。そうすれば、アンタの体は……。
……脳裏をよぎる謎の声に苛まれながらも、ブラートはなんとか自我を保ち、平静を装う。
「……ああ、(プレイヤー名)さん。どうやら、オーディス君達とは離れ離れになってしまったようですね。とはいえ、あなただけでもいてくれて助かりました」
振り子の音と駆動音が鳴り響く時計塔の世界で合流した(プレイヤー名)とブラート。
「あ~っ!いたいた、ブラートさ~ん!」
ブラートの名を呼びながら現れたのは、まだ年端もいかない少女だった。
「はぁ~やっと会えた!あれ?でも、思っていたよりも……老けてる、かも?」
「老けっ…………」
「ねぇねぇ、おじさんって本当にあのブラートさんなの?」
「…………まぁ、おそらくそのブラートだと思いますが。それで、あなたは?」
「あ、紹介が遅れちゃった。あたし、バネアっていうの。セプちん……じゃなくて、セプト様に言われて、おじさんを案内するよう頼まれたん、だけど」
ブラートをここに招いた死霊術師セプト。どうやら、彼女はその従者の一人らしい。
「……そうだ!おじさんが本当にウワサのブラートさんがどうか、確かめてみてもいい?」
笑顔でそう言うと、バネアは大きな鎌の切っ先をブラートに向ける。
「……おや、戦うのですか?あまりオススメしませんよ?その鎌で私を斬ると、おそらく飛び散った私の血があなたを攻撃してしまうと思うので……」
「ん~たぶん平気。だって、私の中にはおじさんと同じ血が流れてるし」
「……?それは一体、どういう……」
「えっとね、戦ってみればわかると思う。じゃあ、始めよっか!よろしくお願いします、おじさんっ」
>>案内人と戦う<<
ランキングに関係なく、一定数の【飢血メダル】を集めると役立つアイテムが手に入るようですね……。
おや。もしかして、吸血衝動を和らげてくれるのですか?
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、一気にLv80になれるみたいですが……。強くなりすぎると、吸血衝動まで強くなってしまう気がして……。
「土地力」を使うと、気分がだいぶ楽になります。可能であれば、そのまま楽に死にたいものです……。
まぁ、誰にでも向き不向きというものがありますからね……。
吸血衝動に負け、暴走した姿が私の真の姿だとしたら……いいえ、なんでもありません。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板に書き込んでくれるようなので、利用してみてはいかがでしょうか?
イベント掲示板をみる
クエストですか。この衝動が和らぐのであれば、どんなクエストでもこなしましょう。
時計塔を進む
夢魔誘撃バトル
「なるほど……どうやら、本当に私と同じ体質のようですね」
「そうだよ。昔、魔物に襲われて大ケガをした時に、セプちん……セプト様からあなたの血を注入されて、この体になったの。だから、セプト様とおじさんはあたしの命の恩人なんだよ」
――彼女もまた、不死の体なのだろうか?だとすれば……それは、とても……
「ずっとお礼を言いたかったの。間接的だけど、助けてくれてありがと。ブラートおじさんっ」
……思うところがあったようだが、ブラートはあえてなにも言わなかった。
「それじゃあ、セプト様のところに案内するね。おじさんをちゃんと案内できたら、ずっとおじさんと一緒にいてもいいって言われてるんだー」
「……おじさん、ですか」
ため息を吐きながら、ブラートはバネアに案内され、時間と空間が歪んだ時計塔を進んで行く。
しかし、その道中に一人のサキュバスが立ち塞がった。
「ハ~イ、黒い白馬に乗った女の王子様ぁ♪私と二人っきりで“尋常ではないコト”し・な・い?」
……唐突かつ意味不明な誘惑に、ブラートは無表情のまま立ち尽くす。
「ピトゥイっち、なにしてんの?というか、相変わらず誘惑へたっぴだね」
「へた、へたっぴ……ッ!?あ、あらあら、なにを言ってるのかしらぁバネアちゃんったら。そうね、子どもにはちょっとわかりづらい口説き文句だったかしらぁ」
どうやら、彼女も死霊術師セプトの部下の一人のようだ。バネアともそこそこ親しい関係らしい。
華麗にスルーを決め込もうとしたブラートを、慌てて止めるピトゥイ。
「お願いだからこっちを見て、お兄さん!誘惑してあなたの血圧を上げて、吸血衝動を悪化させておけってセプちん……じゃなくて、セプト様に言われてるのよぉ!」
「いや、そんなことを私に言われましても……」
その言葉に、バネアは違和感を覚える。
「それ、おかしいよ。セプト様はおじさんの吸血衝動を止めるために、おじさんを呼んだんだよ?なのに、吸血衝動を悪化させるなんて」
「……あらあら?バネアちゃんったら、なにも知らないのねぇ。フフ……もしかして、セプト様に信用されていないんじゃなぁい?」
嗜虐的な笑みを浮かべながら、ピトゥイは再びブラートの前に立ち塞がる。
「さぁ、お兄さん。そんなガキンチョは放っておいて。私と一緒に、アブナイ道へと前へ前へバックしましょ~お?」
「……何度も言いますが、結構です。時間がありませんし、時間があってもあなたの誘惑は私には効かないでしょうし」
「そんなこと言わないでぇ。私、一度も男の誘惑に成功したことがなくてぇ、自信をつけたいのぉ。そうすれば自分に自信が持てるしぃ男にモテるしぃ……って、無視しないでよぉ!ま、待ってぇ~え!」
時間が惜しいと判断したブラートは、(プレイヤー名)とバネアと共に勢いよく走り出した……!
サキュバスを撒く
呪槍心貫バトル
モテないサキュバスの追跡を撒くことに成功した、ブラートとバネアと(プレイヤー名)。
「ふう。体力の消費を最小限に抑え、なんとかここまで逃げることができ――――」
「おい!今小さいって聞こえたぞ!?誰のどこが小さいってんだよ!ちくしょー、ふざけやがってー!」
ブラートの言葉を遮ったのは、禍々しい槍を持った魔族の少女だった。
「よー。てめーがブラートか。ケッ、見た感じ全然強そうじゃねーし。お前、本当に不死身なんだろーなー?あー?」
「お知り合いですか?」というブラートの問いに、バネアは首を横に振る。しかし、死霊術師セプトの部下であることは間違いないようだ。
「セプちん……じゃなくて、セプトから聞いたぜー。アンタ、傷を負うたびに吸血衝動がひどくなるんだってな。つまりよー、傷を負えば負うほど自我を失って『堕鬼』へと近づいていくってわけだ」
『堕鬼』とは、自我を失い、暴走を始めた吸血鬼のことです……と、隣にいるブラートがそっとかいちょに耳打ちをする。堕鬼となった吸血鬼は心を失い、二度と元に戻ることはないのだという。
「そうと決まればよー。セプトの命令通り、このメイデン様がお前をメッタメタに串刺しにしてやんよ」
「待って。セプト様は、おじさんを元に戻すために、おじさんをここに呼んだんだよ?なのに、堕鬼にするってどーいうこと?」
不安げな表情で尋ねるバネアを、メイデンは鼻で笑い飛ばす。
「バッカでー。いいかげん気付けっつの。利用されてんだよ、お前。セプトの本当の目的のためになー」
「り、利用……?あたしが、セプト様に……?」
「つっても、この時計塔は空間が歪んでっかんな。どのみち道案内は必要だ。真実が知りたきゃ、諦めずにこの半吸血鬼をセプトんとこに導いてやれよ。まぁ、その前に……」
メイデンは槍の先端をブラートに向け、ニヤリと嗜虐じみた笑みを浮かべた。
「アンタには吸血衝動を強めてもらうけどな!この呪槍ペインハルバードには、修復不可能な傷を与える力があるかんな。覚悟しろよなーっ!」
「…………え?修復不可能な、傷……?」
その言葉を聞いた瞬間。ブラートの弱々しかった瞳が、唐突に輝きを取り戻す。
「それは……実に素晴らしい……!ぜひともその槍で私の心臓を貫いてください!そして、私の命を奪ってください!」
「お、おじさん?ダメだよそんなの。傷を負えば堕鬼になっちゃうかもしれないし、それ以前に死んじゃうかもしれないんだよ?」
「前者は御免こうむりたいところですが、後者は大歓迎なのですよ。そして、僅かでも死ねる可能性があるのなら、私は試さずにはいられないのです……止めないでください、バネアさん!」
今日一番の笑顔で、ブラートは颯爽とメイデンの方へと歩いて行く。
「な、なんかやりにくいけど、まぁいいや……。んじゃ要望通り、たっっぷり心臓を貫いてやんよー!」
心臓を貫かれる
過去幻体バトル
「ななな、なんじゃこりゃーーー!?」
「あ、そうでした。私の血は勝手に反撃するので気を付け……ああ、遅かった……」
予想外の反撃に遭い、メイデンはその場でグルグルと目を回し、バタンと倒れ気絶してしまった。
「ゴホッ……修復不可能な傷を与える呪いの槍……期待したのですが、やはり私には……ゴホッ……」
――どうした?ご同輩。そろそろ限界がきちまったか?
頭の中で響く謎の声に苛まれながら、ブラートは両手で頭を抱える。
――いい渇きっぷりだ。なら……手始めに、まずはそこの女の血を吸ってみな。楽になれるぜ?
「お、おじさん大丈夫?吸血衝動、ひどくなっちゃった?」
「……いけなイ。近ヅいて、ハ…………」
――さあ、その女の細い首筋にかじりつけ、ブラート。そして一滴残らずその血を味わい、貪り、飲み尽くせ……!
「……………………っ、(プレイヤー名)、さん」
我に返ったブラートの視界には、バネアを庇うように立ちながら、臨戦態勢をとる(プレイヤー名)の姿が写っていた。同時に、ブラートから放たれていた禍々しい気迫も沈んでいく。
「……ありがとうございます、(プレイヤー名)さん。貴方のおかげで、私はかろうじて私でいられるようだ」
暴走したブラートを止める。(プレイヤー名)は、彼との約束をしっかりと覚えていた。
「今回は貴方を視界に入れただけで衝動が和らぎましたが……いざという時は、貴方の不思議な力で私を攻撃してください。そして、僅かでも隙ができたら逃げてほしい。不躾なお願いではありますが、ぜひともご了承を頂きたく……」
そうならないことを願いながら、(プレイヤー名)は小さく頷く。
「……あたし、道案内を続けるね。セプト様がなにを考えているのかわからないけど、今はこれ以外にいい方法が見当たらないの。ごめんなさい、おじさん」
……ブラートと(プレイヤー名)は、再びバネアの案内を受け、時計塔を進んで行く。
そして、とある広々とした部屋に入った時……突如、周囲から発生した大量の煙が形を為し、ブラート達の前に立ち塞がった。
「……バネアさん。これは?」
「時計塔に元々仕掛けられてた幻術トラップだと思う。最初に部屋に入った人の記憶を読み取って、幻体として召喚するーみたいな、なんかよくあるやつ」
「なるほど。確かに、見覚えのある顔ぶれだ……そして、戦う気満々のようですねぇ。やれやれ、急いでいるというのに……」
「あ。でもね、幻体はなんかお札みたいなのが苦手なんだって。もし持ってたら使ってみるのもアリかも!」
幻体を倒す
始祖護衛衆バトル
「ふざけるな!吸血鬼の始祖の一人であるウルダラ様に最も相応しい使い魔は牛だ!黒牛以外にあり得ん!」
「そっちこそふざけないでよね。吸血鬼に相応しい使い魔はカラスよ、カラス一択!ていうか牛だけは絶対にありえないわ!」
「いや~、ないない。牛とカラスだけはないっしょ。中でも牛だけはないっしょ。やっぱり時代はコウモリっしょ、実際」
幻体を倒したブラート達は、いよいよセプトのいる最上階へと辿り着こうとしていた、が……道中で熾烈な言い争いを繰り広げる三人の魔族を見つけてしまう。
「……バネアさん。あの方々もセプトさんの配下ですか?」
「違うと思う。多分、あの人達はこの時計塔に封印されてる吸血鬼、ウルダラの使い魔じゃないかなぁ」
「使い魔?しかし、使い魔は主の魔力がなければ現界できない存在。そのウルダラという吸血鬼が封印されているのならば、彼女達がここにいるのはおかしい……いや、そういえば確か……」
『セプト様、この絵の中でウルダラの封印を弱めようとしていたみたいなの』
美術館を管理していたノレールの言葉を思い出し、ブラートは納得する。
「なるほど。主の封印が弱まったことで現界したようですね。まぁ、関わると色々と面倒そうですし、ここは見つからないよう……」
「ハッ!?この気配は……まさか、ウルダラ様!?」
突如、牛推しの少女がこちらの存在に気が付き、他の二人と共にブラートの前までやってくると……深々と跪いた。
「ウルダラ様、とうとうお目覚めになられたのですね!私達『ウルダラ護衛衆』はこの瞬間を心待ちにし、て……」
牛推しの少女は顔を上げ、ブラートの顔を視界に入れた瞬間……叫んだ。
「だだっだっだ誰だ貴様は!?」
驚愕の表情を浮かべる『ウルダラ護衛衆』の三人。
「おい。この男……ウルダラ様と同じ魔力を有しているぞ。ということは、ウルダラ様と同じ血が流れているということ……だが、あのお方は子孫を残していない。これは一体?」
「そういえば、ウルダラ様は一度だけ人間に不覚をとってしまって、その人間に血液を抜かれたことがあったはずよ。封印されたのも、その直後だったはず……」
「その血液が、巡り巡ってこの人の体に注入されたってこと?いや~、ありえない……って言いたいところだけど、そう考えると辻妻が合うっしょ、実際」
ひそひそ声で喋っているつもりのようだが、三人とも声が大きいため、その会話はしっかりとブラートの耳に届いていた。
「この世界に封印されている吸血鬼の血が、私の体に……?」
ブラートは魔法使いによって体を改造された元人間。その改造の際にウルダラの血が使われたと考えれば……確かに、辻褄は合う。
「仮説にすぎませんが……見えてきましたよ、(プレイヤー名)さん」
あごに手を添えながら、ブラートは推論を語り始める。
「私に吸血衝動が芽生えたのは、そのウルダラという吸血鬼の封印が弱まったから。親吸血鬼の目覚めに、この体に流れる血が反応した結果なのかもしれません。ならば、そのウルダラとやらを再び封印すれば……」
「……!ウルダラ様を再び封印する、だと?それは聞き捨てならんな!」
リーダーらしき少女が杖を構えた瞬間、『ウルダラ護衛衆』はブラートを敵と認識し、一瞬で戦闘態勢に入った。
「ウルダラ様の障害となる者は、誰一人として生かしてはおけん……覚悟するがいい!」
護衛衆と戦う
始祖襲来バトル
ウルダラ護衛衆はこの世界に留まるための魔力を失い、元の世界へ強制送還されていった……。
「あ、セプト様……!」
そして、(プレイヤー名)とブラートとバネアは、とうとうセプトのいる部屋へと辿り着く。
「……道案内ご苦労だったな、バネア。もう帰ってよいぞ……」
「セプト様、どーいうこと?部下を使って、ブラートおじさんの吸血衝動を悪化させようとしたでしょ?」
バネアの問いに、セプトは顔色一つ変えずに答える。
「私は『自我を失った生物の体』を操ることができる。ゆえに、我が師である魔法使いの最高傑作であるブラート殿を我が配下とするには、堕鬼となって頂く必要があったのだ……」
「なにそれ……。じゃあ、道案内すればおじさんとずっと一緒にいられるっていうのはウソだったの?」
「ウソではない。たとえブラート殿が堕鬼となり、自我を失った状態でも、私が操っていれば共にいることはできるだろう……?」
「心のないおじさんなんて、あたしが一緒にいたいおじさんじゃないもん。セプちんのバカっ」
言い合いを続ける二人に、苦しそうな表情のブラートが割って入る。
「……では、セプトさん。私の吸血衝動を止める方法を知っているという、あの手紙は」
「堕鬼と化せば吸血衝動に苛まれることはなくなる、という意味だ。ウソは言っていないぞ……?」
――はは。まんまと騙されたな。これで元に戻る手立ては失われた。
――となれば、もう堕ちるしか道はないってことだ。違うか?ご同輩。
「っ……まだ、手はある……ウルダラという吸血鬼を、再び完全に封印すれば……あるいは……」
――ハッ、足掻くこと足掻くこと。アンタもわかってんだろう?始祖の吸血鬼を完全に封印するなんて、一朝一夕でできることじゃあない。封印する前に、アンタの体がもたないだろうさ。
ブラートの脳裏を過ぎる謎の声はどんどん大きくなり、彼の意志を挫こうとする。
「……?そういえばセプちん、なんかボロボロじゃない?誰かと戦ってたの?」
「ああ、それは……というより、現在進行形で戦っている最中でな……」
「血……我の血の香りがする。余計なものが入り混じった、穢れた血の香りが……」
その姿を見た瞬間、ブラートは本能で理解する。彼女こそ自分と同じ血を宿す吸血鬼、ウルダラであると。
「ブラート殿の吸血衝動を誘発するために封印を弱めるだけのはずが、間違えて封印を完全に解いてしまったのだ……」
「……あー。セプちんって基本ドジだもんね」
ウルダラはブラート達を見据え、憎悪の言葉を投げかける。
「聞くがいい、不浄なる人の子らよ。始祖である我をこのような場所に幽閉した代償は、この星よりも重い。もはや、この星に在する全ての命をもって償ってもらう他にない」
周囲の空気を震わせながら力を解放し、微笑を浮かべるウルダラ。
「その最初の犠牲になれること……誉れに思うがよいぞ……!」
「……っ、少し、静かにしてもらえませんか。あなたの声を聞いていると……血が、疼く……」
――おいおい、ご同輩。まさか、始祖を倒して吸血衝動を止めようってのか?そんなこと……
「不可能、ですか?しかし、私は自分が死ぬことを不可能と感じながらも、死のうとすることだけは諦めなかった。そう……こう見えて諦めが悪いんですよ、私は……」
そう言うと、ブラートは翼を広げ、戦闘態勢に入った。
「待つのだ、ブラート殿。今のままウルダラに勝つのは難しい。ここは一度堕鬼となり、私に操られてみるのはいかがだろうか……?」
諦めずに戦う
存在血定バトル
――やるじゃないか、ご同輩。まさか、始祖と互角以上にやり合うとは……実に面白い。
「……!?ぐっ……」
――堕鬼と化したアンタの身体を乗っ取って、形を得ようと考えていたが……気が変わった。
突如、ブラートの身体が大きく痙攣し……次の瞬間、彼の手首から大量の血が噴き出す。
「……!?なんだこれは……わ、我から離れ……グ、グガアアアアァ!!」
噴き出した血は黒い霧となり、ウルダラの体に巻き付いていく。そして、彼女の体を完全に覆い隠し……
「あ゛ー、アー……ああ、やはり親元との相性は良いようだな。実に馴染む身体(うつわ)だ……もっとも、すぐに拒絶反応が出ちまうだろうがね」
バキッ、ゴキ……というグロテスクな異音と共に霧が晴れた時。そこには、ウルダラの体を姿形ごと我が物とした青年が立っていた。
「直に会うのは初めてだな。俺はリーバス……アンタの中の使われていなかった吸血衝動そのもの。いや、本来アンタがなるはずだった存在、と言った方が正しいかね」
「ゴホッ……私が、なるはず……だった……?」
一度に大量の血液が体外へ放出された影響か、ブラートは顔を真っ青にしながら、苦しそうに息を切らしている。
「知らなかったのかい?堕鬼と化すことでリミッターが外れた体に俺という人工意識を宿らせ、暴走した力を自在にコントロールさせる……それが、アンタを改造した魔法使いが本当に作りたかった兵器の正体さ」
だが……と、リーバスは続ける。
「アンタは強靭な精神で、自身の暴走と“俺”を抑え込んだ。もっとも、今回は親元の血の持ち主であるウルダラの復活に誘発され、暴走しかけていたようだがね」
……どうやら、ブラートが立てた吸血衝動に関する仮説は正しかったようだ。
「ああ……しかし、外界はいいもんだ。そう、俺はずっと自由が欲しかった。形が欲しかったんだ。血の中に留まる意識だけの存在なんざ、死んでいるのと同じことだからな。そうだろう?ご同輩」
「……肉体があろうとも、意識があっては死とは呼べませんよ。そもそも、あなたはなぜ外に出てきたのですか?あのまま私の体内に留まっていれば、おそらく私の体を乗っ取ることができたはずなのに」
その問いに、リーバスはニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
「言ったろう?気が変わったんだ。最初はアンタと入れ替わってジ・エンドにしようかと思っていたんだが……興味が湧いたのさ。ブラートという一人の存在が宿している力にな」
「……はあ。つまり、貴方は私と戦ってみたいと。そういうことですか?」
「ご名答。アンタを乗っ取っちまったら、アンタと戦り合う機会は二度と来ないからな」
リーバスは牙を剥き、刺々しい爪の先端をブラートに向けた。
「どうせこの体は、ものの数分しかもたない。俺がアンタを倒し、アンタと入れ替わって“ブラート”となるか。アンタが俺を倒し、俺という異物を排除して吸血衝動とおさらばするか……存在を賭けた戦いだ」
重い体をなんとか動かし、ブラートはふらふらと立ち上がる。
「……最後に教えてください。もし私が負け、貴方に体を譲り渡した場合……私の意識はどうなるのでしょうか?」
「それもさっき言ったはずだぜ、ご同輩。『アンタと入れ替わってジ・エンド』。その体は俺が手に入れ、今度はアンタが血の中に幽閉される。意識を保ったまま、永遠に……な」
「ああ、それは……考えうる限り、最悪な結果ですね。死ぬことはおろか、死のうとすることすらできなくなるなんて……あまりにも惨すぎる……」
悲嘆にくれながら、ブラートは大きな翼を広げ、血の足りていない体に魔力を纏わせた。
「柄ではありませんが、付き合いましょう……。全ては、我が安穏たる死のために……」
「いい返事だ。さぁ、俺の渇きを潤してくれ……ご同輩!」
存在を賭けて戦う
エピローグ
「……タイムリミットか……くそ、せっかく形を得たってのに、もう終わりかい……結局、最初から俺の居場所も、自由も……どこにもなかったって、こと……かよ…………」
言葉とは裏腹に、リーバスはどこか満足げな笑みを浮かべながら、その場に倒れた。そして……その直後、ブラートも地面に倒れてしまう。
「お、おじさん!どうしたの?大丈夫……?」
「……これは……ああ、これが……死……。そうか、ようやく……私は……死ねるの、か……」
安堵の息を吐きながら、ブラートは仰向けになり……ほんのりと微笑を浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。
「なんで……?だって、おじさん……死なない体のはずじゃ……」
唖然とするバネアを横目に、セプトが倒れたブラートの体に触れる。
「……傷が塞がっていない。ブラート殿の力の大半を、あのリーバスという男が持っていってしまった影響だろう。これでは、もう……」
「……そ、そんなのやだよ。セプちん、なんとかしてっ……!」
「あ、余計なことしないでくださいね。私、ようやく死ぬことができそうなんですから……」
「わああっ!?び、びっくりしたぁ……おじさん、まだ生きてたんだ……」
いきなり目を開けたブラートは、穏やかな表情で(プレイヤー名)の方へ視線を向けた。
「(プレイヤー名)さん。貴方の協力がなければ、私はここまで辿り着けなかった……こうして死を迎えられるのも、全て……貴方のおかげです……心より、感謝を……」
オーディス達には上手く言っておいてほしい……そう伝えると、ブラートは再び目を閉じる。
&color(#666666){
「……ああ……死とは……本当に、素晴らしい……これが、私の……求め、た……………………」}
やがて…………長い沈黙が、訪れた。
――――数日後。パーニャ村。
『……まぁ、そうしょげるなよ、ご同輩。仲間達も喜んでくれてるんだ。アンタもまんざらってワケじゃあないんだろ?』
あのあと、セプトは「彼に死なれるのは私も困る」と、自壊を始めていたリーバスの体に流れていた血液を、ブラートの体に輸血し……結果、ブラートは今回も生き永らえることになった。
どうやらセプトはブラートを手に入れることをまだ諦めていないようで、こうしている今も、どこかで新たな術の開発に勤しんでいるらしい。
「はぁ……余計なことはするなと言ったのに……。おまけに、妙な同居人までついてくるとは……」
『釣れないねぇ……そんなに俺と一緒がイヤなのかい?』
リーバスの血液に始祖の血が混じった影響か、はたまたセプトの術の影響か……。原因は定かではないが、リーバスはブラートの血液として形を得ることになった。
&color(#666666){
「貴方はやけに嬉しそうですねぇ、リーバスさん……」}
『俺は“形を得ること”が目的だったからな。アンタの血液として形を得ちまうのは予想外だったが……なに、これはこれで悪くない。意識だけの時よりも清々しい気分だしな』
満足げなリーバスを見て、ブラートは大きく、深く、重いため息を吐く。
『それに、アンタの吸血衝動も全部俺が引き受けたんだ。こうやってアンタの体から飛び出して、定期的に俺がトマトを食ってりゃ、アンタは血に飢えずに済む。違うか?ご同輩……』
「それに関しては助かっています……が、私に危害が及んだ時、勝手に出てきて敵を攻撃するのはやめてもらえませんかねぇ……?死ねるかもしれないチャンスを潰さないでほしいのですよ……」
『ははっ、そいつはできねぇ相談だ。なにせ、血(うつわ)が勝手に動いちまうんでね。俺の意志じゃどうしようもない』
……ああ、なんということだ。これで、ますます死ねなくなってしまった。ブラートは何度目になるかわからないため息を吐きながら、旅支度を終え、ゆっくりと立ち上がる。
「あ、師匠ー!どこ行くんですか!?俺も連れて行ってくださいよっ!」
「おじさーん。トマト持ってきたよー」
「……ついてこなくていいですよ、あなた達……」
……しかし、彼はもう気付いていた。
『なぁ、ご同輩……いや、ブラート。アンタ、今も死にたいって思ってるのかい?』
仲間と共に、自分が死ぬ方法を探す旅。その旅路を楽しんでいる自分に。
「…………ええ、もちろん。当たり前じゃないですか」
『そうかい。そりゃ、よかった』
やんわりとした笑みを浮かべながら、ブラートは多くの仲間達と共に、新たな旅路へと踏み出すのだった。
飢血のUNDEAD ~ナオルノカ…?~完
story by 間宮桔梗
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