呪戒プロメッサ_プロローグ
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story by 間宮桔梗
184:呪戒プロメッサ -試練の夜-
開始前
見習い呪術師達が挑む
試練の内容とは!?
プロローグ
突然、妖しい光に包まれて(プレイヤー名)は目をつむる。
「んでは、さっそく試練を始める!シア、アネアス。準備はできておるか?」
目を開くと、かいちょは禍々しい気配の漂う岩窟の前に立っていた。そこには、やけに仰々しい話し方をする少女と……。
「は、はい、ベルベット師匠!いつでも大丈夫でぷっ!あ……」
セミロングの髪の小柄な少女。そして……。
「あら~?ポンコツ呪術師のシアちゃんったらどうしたの~?『大丈夫でぷっ!』てなぁに?新しい呪文?今度あたしにも教えてくれな~い?」
自信に満ちた表情で小柄な少女を見下す、プライドの高そうな少女の姿があった。
「むぅ~、呪文なんかじゃないもん!アネアスのバカ!イジワル!人でなし!ごめんねちょっと言い過ぎちゃった……」
「き、急に謝らないでよっ。拍子抜けしちゃうじゃない!」
「こりゃ、喧嘩するでない!それで二人とも、試練の内容はちゃんと覚えておるのじゃろうな?」
はきはきとした声で、アネアスは師の質問に答える。
「もちろんです、ベルベット様!この岩窟に封印されている呪文書を先に持って来た方が勝ち。勝った方がベルベット様の真の弟子となり、呪術の奥義を教わることができる……。ですよね!?」
「よろしい。じゃが、ただ呪文書を取ってくるだけではあまりにイージー。なので、お邪魔キャラとしてわしの分身を岩窟の中に放っておいた。ちゅーわけで、気を付けて行ってくるんじゃぞ~」
「わっかりました!まぁ、このあたしが使い魔も召喚できないようなポンコツ呪術師に負けるわけがありませんけど。じゃあね、シア!先に行かせてもらうわよ!」
高笑いをあげながら、アネアスは岩窟の中へと走っていった。
「……ほう。やりおるのう、シア。試練はもう始まったというに、慌てることなく瞑想に耽り、精神集中に励むか」
対して、シアという少女はその場から動くことなく目を閉じ……。
「…………すぴーっ。むにゃむにゃ」
「寝とるんかいっ!こりゃ、起きんかシア!試練はすでに始まっておるのじゃぞ!?」
「んっ……ほあ?わ、わわわっ!い、いつのまに!?」
「……やれやれ。その様子だと、昨晩も遅くまで使い魔の召喚術を練習しておったようじゃの」
「うぅ。だって、使い魔の召喚は呪術師の基本なのに、私……全然できないから」
「気持ちはわかるが、試練の前に徹夜してどうするのじゃ、まったく……」
呆れながら首をかしげるベルベット。
「ん~しかし、このままでは勝負にならんのう。しかたない。のう、そこの旅人よ。そう、お主じゃよ」
気が付くと、二人の視線は(プレイヤー名)の方へと向けられていた。
「ずっと見ておったのじゃろう?ならば話は早い。彼女は一人前の呪術師になるために試練に挑まねばならん。じゃが、この通りのおっちょこちょいで、ネジが三十二、三本ほど緩んでおってのう」
――具体的な本数だな。
「見たところ、お主はなかなか腕が立つようじゃし、邪悪な心の持ち主でもなさそうじゃ。ちゅーわけで、シアに同行してはくれんか?」
「――え?けど、それってフェアじゃないんじゃ……」
「なぁに、アネアスのことじゃ。おそらく、最近召喚に成功したというイケメン妖魔を使って妨害してくるはず。お主がこの旅人を連れていけば二対二じゃし、問題ないじゃろ。多分」
「で、でも……」
「ほれほれ、こんなところで立ち止まっておる場合か!お主らも早く行くのじゃ!ゴーゴー!」
断る間もなくベルベットに背中を押され、(プレイヤー名)は流されるがままシアと同行することになった。
「な、なんかすみません……。私、シアって言います。あなたは……(プレイヤー名)さんって言うんですね。で、では、よろしくお願いします、(プレイヤー名)さんっ」
軽く自己紹介を済ませると、シアは丁寧におじぎをする。
「あ、そうだ!えっと、岩窟の中にいる師匠の分身は、この本を狙って私達を妨害してくるみたいで」
そう言うと、シアは妖しい気配を放つ一冊の本を取り出す。
「この本を守りきることも試練の一つみたいなんですけど、その……私よりも(プレイヤー名)さんが持っていた方が安全だと思うので。えと、預かってもらってもよろしいでしょうか……?」
(プレイヤー名)はシアから本を受け取り、懐にしまった。
「あ、ありがとうございますっ。では行きましょう、(プレイヤー名)さん!」
>>試練を手伝う<<
岩窟を進む
ちょっと緊張してきました……。
でも、(プレイヤー名)さんとなら怖くないです!
運動は苦手ですが、まずは500kmぐらい走ってみましょう!
これ、預かっててもらってもいいです?
(プレイヤー名)さんが持ってた方が安全だと思うから……。
ネクロノミコンを1個手に入れました。
行きましょう!大丈夫、なんとかなるはずですっ!多分……。
岩窟を進む
エピローグ
(プレイヤー名)とシアは、禍々しい気配が漂う寒々とした岩窟を進んでいく。
「はぁ、はぁ……。(プレイヤー名)さん、だ、大丈夫です?つ、つ、疲れて、ませんかぁ……?はぁ、はぅ、ひいぃ……」
……どう見ても疲れているのはシアの方だった。
呪術師といえど、体力面は普通の女の子と変わらないようだ。あまりにも辛そうなので、(プレイヤー名)は彼女に肩を貸そうかと提案する。
「い、いいえ!さすがにそこまでお世話になるわけには……」
――しかし、このままではアネアスに先を越されてしまうのでは?
「うぅ、それを言われてしまうと……。で、では……手を、貸してもらってもいいです?少し引っ張ってもらうだけでも違うと思うので」
(プレイヤー名)は頷き、シアの小さな手を握る。
「……あ。(プレイヤー名)さんの手、あったかい」
小さな声でつぶやきながら、シアは(プレイヤー名)の目を見つめる。
「えへへ。なんだか、こうしていると安心します。不思議な人ですね、(プレイヤー名)さんって」
……しかし、(プレイヤー名)からすれば彼女の方が不思議な存在だった。
呪術師……ということは、やはり人を呪うのだろうか?
だが、呪術師という言葉が持つ負のイメージと彼女の持つ温和な雰囲気は、あまりにかけ離れている。
一体、彼女はなぜ呪術師になろうとしているのだろう?理由を尋ねようとした時……。
「あら~?ポンコツ呪術師のシアちゃんったらどうしたの~?そんなにバテバテで……。って、誰よあんた?もしかして、シアの使い魔?」
アネアスの訝しげな視線は(プレイヤー名)の方へと向いている。
「え?あ、この人は(プレイヤー名)さんって言って。私の………………な、なんなんでしょうかね?」
――いや、聞かれても。
「ふんっ。使い魔と手なんか繋いじゃって、恥ずかしくないの?言っておくけど、あたしは自分の使い魔にお姫様抱っこをしてもらったことがあるわよ。あたしの勝ちね」
「そっちの方が恥ずかしいと思うんだけどっ!?」
「あら。シアったら、ベルベット様の教えを忘れたの?『呪術師は常に大胆な発想をすべし』。つまり、使い魔に大胆になれたあたしの方が呪術師に向いているってことよ」
「え?そういうものなのかな……?」
「さあ、シア。あなたもその使い魔におねだりしてみなさい!お姫様抱っこをしてくださいって言ってみなさい!ほらほら、早く!」
「ええっ!?そ、そんなこと急に言われたって……。というか、(プレイヤー名)さんは使い魔じゃ……」
「なに?できないの?それじゃあ、あなたは呪術師失格ね!」
アネアスの言葉が響いたのか、シアは赤面しながら上目使いで(プレイヤー名)を見上げ……。
「……(プレイヤー名)さん。その……お、お……お姫様抱っこ、して……くだ、さ……」
「あっはは、本当にバカよねぇシアって!今のうちに先に行かせてもらうわよっ!」
ケラケラと笑いながら、アネアスは通路の奥へと走って行ってしまった。
「ああああっ!ひどい!(プレイヤー名)さん!す、すぐにアネアスを追いかけましょう!」
(プレイヤー名)は赤面するシアと共に、禍々しい気配の漂う通路へ進んでいくのだった……!
呪戒プロメッサ -試練の夜-完
ライバルに先を越された!
勝敗の行方は……!?
勝敗の行方は……!?
story by 間宮桔梗
185:呪戒プロメッサ -門出の夜-
story by 間宮桔梗
開始前
シア達の前に
立ち塞がったのは……?
立ち塞がったのは……?
暗闇の占有者を倒そう
プロローグ
「あら~?遅かったじゃないの、ポンコツ呪術師のシアちゃん。あんたがチンタラしている間に呪文書はもらっちゃったわよ?」
アネアスは片手に持った古びた本をヒラヒラさせながら、高笑いを上げる。
「ふふん。使い魔の召喚に成功したのは意外だったけど、その様子じゃ役立たずの弱小使い魔だったようね。ま、ポンコツ呪術師のシアにはお似合いだけれど!」
(プレイヤー名)とシアを見下すアネアス。すると、シアは頬をむすっと膨らませながら杖を構える。
「(プレイヤー名)さんは使い魔じゃないもん。それと……私のことはいいけど、(プレイヤー名)さんのことはバカにするのは許さないんだからっ」
「あら~?なになに、もしかして天才呪術師のあたしと戦うつもり?まぁ、こうなった以上、あなたが試練に合格するには力ずくで本を奪うしかないものね~」
けど、残念でした……と続けるアネアス。
「さぁ、行くのよポール!あたしの使い魔として恥じない戦いをなさいな!」
「……ポールではない(NOT PAUL)……ファルトラ、と呼べ……翼ヲ纏イシ心無キ死神ノ騎士……ファルトラ……とな……」
アネアスが高らかに声をあげると、一人の青年が物陰から姿を現す。
「……お前らか……この俺の……漆黒(DARKNESS)にして……永劫なる眠り(ETERNAL SLEEPING)を妨げる……愚者ども(FOOLS)は……」
「ポール!あたしが呪文書を届けるまで、シア達を足止めするのよ。わかった?」
「……俺は……死神(DEATH)との契約(KEIYAKU)で……心(MY HEART)を失い……喜びも悲しみも……なにも感じなくなった(NO FEELING)……それが……とても……悲しい……」
「あーんもう!あんたなに言ってんのか全然わかんないのよ!ていうか悲しんでるし!心あるじゃない!」
「……フン……うるさい女(THE BITCH)だ……」
どうやら、ベルベットの言っていたイケメン妖魔とは彼のことのようだ。
「あなたの脳内設定にはついていけないわ。とにかく、この場は頼んだわよ!」
「……いいだろう(UNDERSTAND)……使い手を狂わせるこの魔剣……ボルケーノ・カタストロフィ・ソードと……相棒の妖犬シエド(AIBOU)が……ここを……血の海(BLOOD OCEAN)へと変える……構わないな……?」
アネアスはポール……もといファルトラの言葉を無視し、この場をあとにした。
(プレイヤー名)とシアはすぐにアネアスを追いかけようとしたが、ポール……ではなくファルトラが目の前に立ち塞がる。
「……定められし理(KOTOWARI)に従い、命令(ORDER)を履行しなければならない……運命に定められし混沌(CHAOS)の楔には抗えないのでな……使い手を発狂させるこの魔剣……ボルケーノ・カタストロフィ・ソードの錆となってもらうぞ……神の名を穢す道化達(CLOWNS)よ……」
「…………(プレイヤー名)さん。彼はなにを言っているんです?」
色んな意味で、かなりの強敵であることは間違いなさそうだ。
「……かかってこい(COME HERE)……こうしている間にも、魔剣ボルケーノ・カタストロフィ・ソードは……俺の理性を吸い続けている……さぁ……俺が俺であるうちに……このボルケーノ・カタストロフィ・ソードが……俺を飲み込む前に……戦いを……」
――剣の名前、長いな。
「いっそのこと、略してボケカス剣とかにすればいいのに……」
「……聞こえたぞ……今……俺の剣を……バカにしたな……?とても……悲しい……」
「あ、ご、ごめんなさ…………はっ!?(プレイヤー名)さん、あの人のペースに乗せられちゃダメです!ああやって時間を稼ぐ作戦なんです、きっと!」
「えっ?……あ、じゃない……ク、ククク……まさか……こうも簡単に(EASY)……騙されるとは……な……」
ファルトラは剣の切っ先をこちらに向ける。
「……さあ……太古より続く血の決戦(BLOODY BATTLE)に……終焉(END)の栞を挟むとしよう……混沌の音色(CHAOS SOUND)に乗せて……な……!」
>>血の決戦に終焉の栞を挟む<<
積極的に位置登録をしていきましょうね!
薄暗い場所は……実は、結構好きです。えへへ。
試練に合格するためだもん。絶対に勝たないと……!
素敵な仲間と一緒なら、限界以上の力が引き出せると思うんです!
困った時はお互い様、です!
積極的にチャンスをものにしていきましょうね!
立ち止まっている場合ではなさそうです……。い、一緒に頑張りましょう!
試練に合格するため、負けられません。
協力……して、くれますか……?
血の決戦に終焉の栞を挟む!!
エピローグ
「……こ、これは……強制送還(GO HOME)……?もしや……主(THE BITCH)の身に……なに、か……」
ファルトラはなにかを言いかけると、出現した魔法陣に吸い込まれ……姿を消した。
「あ、あれ?消えちゃった?なんでだろ…………って、ボーッとしてる場合じゃないんだった!すぐにアネアスを追いかけないと!」
慌てて走り出すシア。(プレイヤー名)も彼女の背中を追いかける。
が、その先で二人が見たのは……
「……え!?ち、ちょっと、大丈夫!?しっかりして、アネアス!アネアスーーー!!」
地面に倒れる、アネアスの姿だった。
「……なにがあったかは知らんが、気を失っているだけのようじゃの。しばらく安静にしておれば目を覚ます。ま、岩窟に住む妖魔にでもやられたんじゃろう」
「そう、ですか。よかったぁ……」
倒れたアネアスを外まで運んだ(プレイヤー名)とシア。二人の姿を見て、ベルベットは「うむっ」と頷く。
「お主らの勝利であることは火を見るよりも明らかじゃの。試練突破、おめでとさん!コングラッチュレーション!んでは、続いて最終試練を始めるとしよう」
「ってあれっ!?し、試練ってまだあるんですか!?」
「当ったり前じゃろーが。この程度で一人前になれると思っていたのなら相当なアホじゃぞ。いや、アホを通り越してゴミカスじゃ。ゴミカス」
――ひどいランクダウンだ。
「ちゅーわけで、最終試練について説明するぞ。ま、内容はいたってシンプルじゃ。ほれ、これを見ぃ」
ベルベットは一枚の羊皮紙をこちらに差し出す。そこには、一人の青年の顔が描かれていた。
「こやつの名はトルデイン。どうも、生まれた時から不幸の呪いを背負っているらしい。なーのーで……」
岩窟から取ってきた呪文書を、ベルベットはシアに手渡す。
「城下町にいるこのトルデインという男を、その呪文書を使って呪ってこい。アンダスタン?」
「…………え?ひ、人を呪うんです?でも私、人を呪ったことなんて一度も……」
「安心せい。この呪文書には『付与されている属性を反属性へ還元する呪い』が宿っておる。不幸の呪いを反属性へと還元するということは、つまり?」
「……!この人は、幸福になる……ということです?」
「エクセレント!『幸福の呪術師』を目指すお主にとって、このうえない話じゃろう?」
それを聞いたシアは少しだけ笑顔になる。が、すぐに表情を曇らせてしまう。
「あ、あの。私、城下町に行ったことがなくて。というより、外に出たことがほとんどないというか……」
「安心せい。案内役なら用意しておる。クラーネちゃん、カムヒア~!」
ベルベットが手を叩くと、茂みの奥から一人の少女がゆっくりと姿を現す。
「……………………出番?」
「んむ、出番じゃ。案内役、かつ監視役としてシアに同行せい。アンダスタン?」
「…………この人、私のこと…………叩かない?」
「そんな度胸、シアにはあるまいて。ま、(プレイヤー名)はわからんがのう」
(プレイヤー名)を指さし、ニヤリといたずらっぽく微笑むベルベット。すると、その言葉にシアが反応する。
「ち、ちょっと待ってください。(プレイヤー名)さんはもう解放してあげても……」
「なにを言う。お主らのような少女二人が夜な夜な外を歩くなど危険すぎる。幸い、こやつは腕が立つし、護衛としては申し分ない」
「そ、それは私も助かりますけど……。でも、(プレイヤー名)さんが引き受けてくれるかは……」
「なぁに、報酬は出す。(プレイヤー名)もそれでよいじゃろ?んっ?どうなんじゃ?んんっ?…………あァん?」
ベルベットから殺気に近い気配を感じ取り、(プレイヤー名)はやれやれと彼女の依頼を了承する。
確かに、この二人の少女にもしものことがあったら、それかいちょolor(#00ff00){――彼女を、守る。}
自分の内側から聞こえる、謎の声。
(プレイヤー名)はどこか違和感を覚えながらも、その声に従うことにするのだった……。
呪戒プロメッサ -門出の夜-完
最終試練開始!
シア達の運命は?
シア達の運命は?
story by 間宮桔梗
186:呪戒プロメッサ -陰謀の夜-
story by 間宮桔梗
開始前
最終試練に挑むシア達。
果たして合格できるのか!?
プロローグ
――シアが挑む最終試練は、トルデインという人物を呪うこと。(プレイヤー名)は準備を終え、シアと合流する。
「えっと。改めてよろしくお願いします、(プレイヤー名)さん。それと……ク、クラーネさんっ」
ベルベットが案内係として寄越した寡黙な少女クラーネは、シアの言葉に対し――
「使い魔も呼べないボンクラ女が。気安く我が主の名を呼ぶでない」
――なんか、変なの浮いてる。
「我輩はクラーネ嬢の使い魔、テルトト様だ。人見知りの境地に辿り着いた主の代わりに、我輩がご主人の言葉を貴様らグズどもに伝えてやる。感謝しろ」
「つ、使い魔?じゃあクラーネさん……じゃなくてクラーネ様って、呪術師なんです?」
「『その通りだ。恐れ入ったか?世間知らずのチビガキめ』と、クラーネ嬢は言っている」
「チチ、チビ!?わ、私、そんなに小さくないもんっ!」
「『黙れ。背も胸も小さいメスガキが。私のを見ろ。貴様より一回りも二回りも大きい。これが圧倒的な差だ』とクラー……は……ァ――――」
……意訳している途中で、テルトトは消えてしまった。どうやらクラーネが帰還させたようだ。
「……敬称、いらない……」
「え?あっ、わ、わかりましたっ。えっと……ク、クラーネ。道案内、よろしくお願いします」
「……敬語も……いい」
小さな声でそう言うと、クラーネはゆっくりと歩き始めた。(プレイヤー名)とシアも、彼女の後ろに続く。
「ク、クラーネ。トルデインって人は城下町にいるんだよね?城下町って、ここからどのぐらいなの?」
「着いた」
「そっかぁ。え、着いたの!?早くないっ!?」
――案内役、必要だったのか?
「ハァ~イ、怪しい一団さん。こんな時間に城門をうろつくなんてダメじゃなぁい?」
城門の前に立っていたのは、肩にフクロウを乗せた一人の女騎士。
「悪いけど、不審者を見かけたらすぐ報告するよう言わ、れ…………キュキュ、キュンッ!!」
女騎士はシアとクラーネを交互に何度も見つめると、頬を真っ赤に染めて表情を恍惚とさせる。
「なるほど……そういうことね。つまり、そこのアナタは少女専門の人身売買のブローカーというワケね!ええ、そうに決まっているわ!」
「アナタはこの場で逮捕させてもらうわ。そして、この女の子達はお持ち帰り……じゃなくて、保護させてもらいます」
「ま、待ってください!私達は話を聞きに来ただけで……というか、(プレイヤー名)さんはブローカーなんかじゃありませんっ」
「そんなことはどうでもいいのよ」
「い、いやいや!大事なことだと思うんですけど!?」
(プレイヤー名)の無実の訴えも空しく、女騎士は剣を構えて飛びかかってきた……!
>>潔白を証明する<<
ランキングに関係なく、一定数の【呪術師メダル】を集めると役立つアイテムが貰えるみたいですっ!
ほわあっ!?い、いきなり強そうなのが……!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、苦労せずLv80になれるんですって!
「土地力」は呪術師の基本となる力です。いっぱい溜めましょうね!
みんなで一緒に頑張れば、呪術の精度もどんどん上がっていくはずですっ!
強くなればなるほど、『幸福の呪術師』に近づける気がするんです……!
強い敵を倒していけば、より多くの【呪術師メダル】が貰えるみたいですよ。
敵の情報は、他のプレイヤー達が「イベント掲示板」に書き込んでくれるので、こまめにチェックしましょう!
イベント掲示板をみる
クエスト……。
新たな呪術を覚えられるかもしれませんし、チャレンジしてみるのもアリかもしれませんね。
試練に挑む
検閲突破バトル
「……トルデインの居場所。教えて」
女騎士の背後に立っていたクラーネ。彼女の杖の先端は、女騎士の首筋にピタリとくっついている。
「ト、ルデイん様、は……南西の、精霊ノ、泉……ニ」
女騎士は虚ろな表情をしながら、抑揚のない声でそう言った。
「……っ!?だめ、クラーネ!」
なにかを唱えようとしたクラーネ。慌ててシアが止めに入る。
「今の、禁術の詠唱だよね……?も、もしかして、この人の命を奪おうとしたの?」
「……だって、口止めしないと。呪術師は存在を世間に知られちゃいけないって、ベルベット言ってた……」
「そ、それはそうだけど!そのために命を奪うなんて、絶対にだめっ!」
シアはクラーネを怒鳴りつけると、倒れた女騎士を安全な場所に運び、忘却の術をかける。
……どこか気まずい雰囲気になってしまったが、とりあえずシア達は騎士の言っていた精霊の泉に向かうことにした。
しかし、森の入り口は一人の屈強な騎士によって塞がれていた。
「な、なんで皇国の騎士がこんなところにまで?しかも、すごい強そう……」
「意気地なしめ。こんなもの、テキトーなことを言って何気な~く通ればよいのだ。さっさと行け、ノータリン女」
勝手に出てきたテルトトに背中を押され、シアは勇気を振り絞って騎士の前まで足を運ぶ。
「え、えっと。薬屋の娘です。その、夜にしか咲かない野草を摘みにきましたっ」
「そうか。働き者なやつだな。通れ!」
その子の護衛だ、と続く(プレイヤー名)。
「そうか。立派なやつだな。通れ!」
続いて、おずおずといった様子のクラーネが騎士の前に立つ。
「……昨日までの暗い自分に……グッドバイ……」
「そうか。いい決心をするやつだな。通れ!」
「えっ、いいの!?」
森中に木霊するシアのツッコミ。どうやら、思った以上に緩い検閲らしい。
「最後は我輩だな。コホン……。百獣の王として、こやつらとウサギ狩りにきた。通せ」
「止まれお前らぁ!!」
突然、大声を張り上げる騎士。
「お前ら、この俺がウサギ狩り反対同盟代表ってのを承知で言ってんのか!?ええい、座れ!その歪んだ考えを一から叩き直してやる!」
ピンポイントに地雷を踏んだようだ。
「テ、テルトトのバカぁ!」
森中に木霊するシアの罵声を耳にしながら、(プレイヤー名)は怒号の声を上げ続ける騎士を退ける方法を模索するのだった……。
切り抜ける
迷竜猛哮バトル
なんとかボールダーから逃げることに成功した(プレイヤー名)達。
「ひぃ、ふぅ……。さ、さすがにヘトヘトなので、今日はここで野営にしましょう……」
提案を受け入れ、(プレイヤー名)達は森の中で一休みすることになった。
……シアが寝静まった頃。ふと、(プレイヤー名)はなにかの予兆のようなものを感じ、ゆっくりとその場から立ち上がる。
――放置しておくのは、危険だ。
(プレイヤー名)は本能的にその気配を危険因子と判断し、様子を見に行くことにした。
「……そっち。危ない気配する……行かない方が、いい」
起きていたクラーネが、眠たげな瞳で(プレイヤー名)に声を掛ける。
「……シアは、(プレイヤー名)を信頼してる。(プレイヤー名)にもしものことがあったら……シア、とっても悲しむ。だから……行っちゃ、ダメ……」
自分とシアの身を案じているクラーネに、(プレイヤー名)は尋ねる。
ベルベットに道案内を頼まれただけなのに、なぜそこまでシアのことを心配するのか?と。
「シアは、フランシスカに……昔の友達に、似てる。だから……失いたくないの、かも……」
しどろもどろな口調ながらも、その声色からはシアの身を心の底から案じていることが汲み取れた。
「そんなに心配ならば、クラーネ嬢も(プレイヤー名)共に行けばよい」
ポンッという音と共に出現したテルトトが、クラーネの背中を押す。
「安心せい。このちっこい見習い呪術師は我輩が見ておいてやる。底なし沼よりも深い気持ちで我輩に感謝するといい」
「……行ってきて、いいの……?」
「許可を取る必要などない。我輩はクラーネ嬢の使い魔。ゆえに、主の命令に従うだけだ」
ただし、と続けるテルトト。
「クラーネ嬢にもしものことがあったら……(プレイヤー名)よ。貴様を一生許さんからな」
テルトトの不器用な叱咤を受け、(プレイヤー名)とクラーネは妖しい気配のする方向へ向かうことにした。
「……(プレイヤー名)。あそこ、誰か……戦ってる」
草薮に隠れながら様子を伺うと、そこには大きな泉の前で槍を手にドラゴンと戦う精霊と、その護衛らしき戦士の姿があった。
――あのドラゴン達は、まさか……。
「くっ……まさかドラゴンの侵攻を許してしまうとは。すまない、ハニット……!」
「落ち着くのです、ラーミナ。見たところ、かのドラゴン達は理性を失っている様子。機を誤らなければ、退けることは可能なはず」
(プレイヤー名)とクラーネが感じた危険な気配は、あの二人が戦っているドラゴンから発せられていた。
「……(プレイヤー名)。あの二人に……加勢、する……?」
なぜ、あのドラゴン達がこんなところにいるのか。
疑問は尽きないが、今は一刻も早く危険因子を取り除くべきだ……。
(プレイヤー名)はクラーネの問いに頷き、彼女と共に草薮から飛び出していった……!
討伐する
英雄強襲バトル
暴走したドラゴン達を退けた(プレイヤー名)。
泉の精霊ハニットと、彼女の護衛戦士であるラーミナの二人は深々と頭を下げ、(プレイヤー名)に礼を言う。
「最近、泉の魔力を勝手に吸い上げてしまう魔法陣が森の至る所で見つかっているのです。おそらく、どこかの呪術師が設置したものだとは思うのですが」
ハニットとラーミナが状況を説明していると、息を切らしながらシアがやって来た。
「クラーネ!(プレイヤー名)さん!だ、大丈夫っ!?」
シアが(プレイヤー名)とクラーネの無事を喜んでいると、精霊のハニットがゆっくりと口を開いた。
「なるほど。あなた達は人捜しをしているのですね」
「……え?ど、どうしてそれを」
「ふふ。人の心を読めずして精霊は名乗れませんからね。捜し人は……ふむ、北東にいるようですね。それも、ここから近い……」
「……!ほ、本当ですか!?」
ハニットに礼を言い、シア達は情報を頼りに森のさらに奥へと向かうことになった。
……そこで、シア達は一人の青年を見つける。
「……?スレッジ、シープス。そこにいるのかい?」
……私の試練だから。そう言うと、シアはたった一人で草藪から飛び出し、青年の前に立つ。
「こ、こんばんは。あなたがトルデインさん……です?」
「え?そうだけど……どうしてこんな時間に女の子が森の中に?それに、そのステッキは一体……ハッ!思いついたよ、渾身の一発が!君のステッキ、とても素敵なステッ――――」
「あ、あのっ!なにか困り事はありませんか?その、不幸なことが続いていたり、とか……」
「……?確かに困り事はあるし、ある意味では不幸でもあるけど。あ、それよりも今のジョークについて感想が欲し――――」
「それでしたら、いいおまじないがあります!よろしければ、試してみませんかっ?」
……あまりに強引な交渉。藪に潜んでいる(プレイヤー名)とクラーネとテルトトに不安が過ぎる。
「おまじないかぁ。とっても可愛らしい提案だね。それじゃあ、ぜひお願いしようかな」
「……おお。あのトルデインという男、相当なおバカちゃんだぞ」
ラッキーであったな……と、テルトトは小声で言いながら安堵の息を漏らす。
「けど、まずは君の素性を教えてほしいな。一体、どこから来たのかな?」
「え?あ、私は皇都の出身で……」
「……それはウソだ。皇国民の顔と名前は全員把握しているけど、君のような女の子は見たことがない」
「……うっ。え、えっと……」
「どうしてウソをついたんだい?もしかして、なにかやましいことでも?」
優しい声でシアを問い詰めるトルデインは、しばしの沈黙のあと、シアに手を差し伸べる。
「話せない理由があるんだね。わかった。とりあえず、まずはここを離れよう。夜の森は危険だ。入り口に騎士を待たせてあるから、そこまで送って……うわっ!?」
シアは近くの岩を念動術で浮遊させると、トルデインの目の前に落下させた。
「ごめんなさい!その、あんまり痛くしませんから……おとなしく、おまじないを受けてくれると助かりますっ!」
適度に痛くする
妖魔三姉妹バトル
トルデインを数秒ほど足止めすることに成功したシアは、岩窟で手にした呪文書を手に、詠唱を開始する。
「六つの嘆かわしき呪印よ。輝く負の螺旋、を……ぁ、かはっ?あ……ぐっ」
突如、呪文書から青白く細長い手首が無数に出現し、シアの体中にグルグルと絡みつく。
「……っ!呪文書が……シアを、引き込もうとしてる……!?」
驚愕の声を上げるクラーネ。
どうやら、あの呪文書はシアとクラーネが思っていたものとは、明らかに違う本だったようだ。
「このままじゃ……シアが、死んじゃう……!」
今シアが手にしている呪文書には、発動者の命を犠牲にし、周囲の者全てを呪うという恐ろしい禁術が封じ込められているらしい。
……想定外の事態に、(プレイヤー名)とクラーネは草薮から飛び出し、シアの救出へと向かった。
「そこまでだ。悪いが、シアにはこのまま犠牲となってもらうぞ!」
しかし、突如現れた三体の妖魔に道を塞がれてしまう。
「たはーっ、パル姉必死すぎてマジウケんですけどー」
「おなかすいた。パル姉、フィブ姉、ごはんまだ?」
その調子外れな態度に、パル姉と呼ばれた長女らしき少女が激昂する。
「お前ら、マジメにやらんか!カトラリ三姉妹は主に忠義を尽くす!それが我々の信念だろう!」
「ウケるー」
「ウケるなッ!!」
「ねーねーフィブ姉。シンネン?ってなに?たべていいの?」
「食うなッ!!」
勝手に盛り上がる三姉妹を前に……
「……そこを、どいて……!」
クラーネは、静かに怒りを露わにしていた。
――しかし、相手は三人。このままでは多勢に無勢……。
「……状況は飲み込めていないけど、ここは血の導きに従い、君達に加勢するとしよう」
遠くから様子を見ていたトルデインは(プレイヤー名)の隣に立ち、剣の切っ先を三姉妹へと向けた。
「僕の体に流れる皇家の血はこう言っている。『あの妖魔達を倒せ』とね……!」
討伐する
側近護衛士バトル
(プレイヤー名)とトルデインは、三姉妹の猛攻になんとか耐え続けた。
「……心傷……顕現……フランシスカ……」
その間に、クラーネが数十秒ほどの詠唱を終える。すると、目の前に魔法使いらしき少女が出現した。
「……凍結の呪戒を、ここに。『マーキュリー・フォール』」
「くっ、しまった!現界していられるだけの魔力が、もう……!」
全魔力を防御に回した三姉妹は、この世界に顕現するための最低限の魔力も失い、どこか遠くの世界へ送還された。
同時に、クラーネが呼び出した魔法使い風の少女も、なにも言わず煙のように消えていった。
「……シア、は……?」
「大丈夫。気を失っているだけみたいだ」
(プレイヤー名)とトルデインの手によって、シアはすでに救出されていた。
「……ぁ……ご、ごめんなさい、トルデインさん……私、こんなつもり……じゃ」
目を覚ましたシアが最初に口にしたのは、トルデインへの謝罪の言葉だった。
「気にしなくていい。さて、色々聞きたいことはあるけど……まずは森を出よう。どうやら、今夜は思った以上に危険らしい」
トルデインの提案に賛同し、(プレイヤー名)達は森を出ることにした。
「……!スレッジ、シープス!?こんなところにいたのか!」
その道中ですれ違いかけた男二人を見て、トルデインは大きな声を上げた。
……どうやら、彼は皇都から突然いなくなったこの二人を探すために森へ訪れていたようだ。
「げっ、トルデイン!?てめっ、なんでこんなところに……」
ツンツン頭の小柄な青年スレッジは、バツの悪そうな顔で長身長髪の男に小声で話しかける。
「おい、どうすんだよシープス。こいつが一緒に来たら、手紙の差出人『ベル・サマー』との約束を破っちまうことになるぜ?」
「承知している。しかし、今さら集合場所は変えられぬ。強引ではあるが、ここは……やるしかなかろう」
「……だよなぁ。くそ、しゃあねーな……!」
ボソボソと喋ったあと、スレッジとシープスは各々の武器を構える。
「……?ふ、二人とも、なぜ僕に武器を向けるんだ?」
「うるせぇ!こっちはお前のために必死なんだっつーの!」
小柄な体躯を利用し、素早い動きでトルデインに飛びかかるスレッジ。
「……ついでだ。そこの従者達も、この場から立ち去ってもらうぞ。可能であれば、記憶も失ってもらうと助かる」
「はいいっ!?ち、ちょっと待ってくださ――――」
シアの静止は遮られ、ワケのわからぬまま戦いが始まってしまった……!
迎え撃つ
混沌呪戒バトル
なんでも、二人は『トルデイン様の花嫁になりたい』という者から手紙を受け取っていたらしい。
「『いきなり会うのは恥ずかしいから、まずは皇帝と近しい人から話を聞きたい』って書いてあってな。んで、差出人のベル・サマーってのと落ち合う場所がこの森だったんだ」
やれやれ、とため息を吐きながら語るスレッジに、シープスが続く。
「無論、怪しい人物である可能性が高いのは承知済み。しかし、真に花嫁を所望する者であった場合、無碍に扱うこともできぬ。ゆえに我々は秘密裏に……っ、ぐおっ!?」
突然、空から一本の杖が急降下してきたかと思うと、深々と地面に刺さった。
同時に、杖を中心に重力波が周囲を包み、(プレイヤー名)を含む全員が、その場に膝をついてしまう。
「ほっほっほ。やはり、こうなってしまったか」
「……!ベ、ベルベット師匠!?」
驚嘆の声を上げるシアの視線の先には、彼女とクラーネの師匠、ベルベットが立っていた。
「試練と称してお主に『心壊の禁術書』を託し、トルデインを肉人形にしてもらう予定だったが。いやはや、こうして保険をかけておいて正解じゃったのう」
「き、禁術書?この本には、幸福のための呪いが込められているはずじゃ……」
「すり替えたのじゃよ。最初の試練をお主がクリアした時に、その禁術書とな。お主は扱いやすいうえ、その禁術書の力を引き出す才能もあった……ゆえに、わしはお主の命を利用することにしたのじゃ」
つまり、ベルベットはシアが死ぬことを知ったうえで、あの本を使わせようとした……ということ。
おそらく……アネアスを襲撃したのも、ベルベットの仕業だったのだろう。
「結局、お主はトルデインを呪うのに失敗したようじゃの。所詮は使い魔すら召喚できぬ、落ちこぼれ呪術師といったところか」
ほほほ、と高笑いを上げながら、ベルベットは膝をつくトルデインの元へ近づいていく。
「ま、弟子が失敗するのは計算済み。わしはわしで、そこのトルデインのお友達二人を捕えて餌とし、トルデインをおびき寄せるつもりだったが……その必要はなかったようじゃ」
「……くっ。なにが……目的なんだ!?」
抵抗を試みるトルデイン。が、杖から放たれる重力波は強烈で、誰一人としてその場から動くことができずにいる。
「わしの求める『世界の時間を凍結する呪術』の完成には、トルデイン……お主の体に流れる皇家の生き血が必要不可欠なのじゃ。さぁ、一緒に来てもら……」
いや、一人だけ。たった一人だけ、動ける者がいた。
「(プレイヤー名)!?な、なぜ動けるのじゃ!?その術は、この世界の者全てに効果があるはず……っ、ま、まさか」
(プレイヤー名)は栞の力を使い、重力波を放つ杖を破壊する。
瞬間、その場にいる全員が重力から解放され、各々はベルベットを見据えながら武器を構えた。
「……なるほど。『この世界ではない者』が紛れこんでおったか。ほっほっほ……喜べ、シア。お主は(プレイヤー名)という使い魔の召喚に成功しておったようじゃぞ」
「……!?(プレイヤー名)さんが、私の使い魔……?」
「ま、今さらそんなことはどうでもよい。どのみちお主らは全員、ここでわしに呪い殺される運命にあるのじゃからな!ほ~っほっほっほ!」
呪術師を討伐する
エピローグ
「ぬぐうっ……。戯れで弟子の護衛につけた旅人が、ここまでわしの計算を狂わせるとはのう……」
突如、ベルベットの体が霧のように透けていく。
「ま、構わん。お主らが倒したのはわしの分身じゃ。次は必ず、皇家の生き血を手に入れてみせる。そして時間凍結の呪いを完成させ、歳をとらない世界を創り上げてやるのじゃ。ほ~っほっほっほ!」
「……っ、そのためだけに、私を育てたんです?全部、自分の目的のため……?」
シアは声を震わせながら、消えゆくベルベットへ問いを投げかける。
「呪術師は常に大胆な発想を持つべし。手塩にかけて育てた弟子の命を利用するなど、普通はやらんじゃろ?」
「答えに、なってない……!ベルベット!」
声を荒らげたのは、意外にもクラーネだった。その姿を見て、ベルベットは関心した様子で口を開く。
「だいぶ人間らしくなったのう、クラーネよ。んむ、その方が実にいい。実に……嬲りがいがある」
ベルベットの邪悪な笑みはシアとクラーネ……だけでなく、皇国の者達と(プレイヤー名)にも向けられていた。
「覚えておくがいい。わしはな、他人の不幸が好きで好きでたまらんのじゃ。しかし、真の不幸とは幸福があってこそ成り立つもの。逆もまた然り……」
歪んだ笑みを保ったまま、ベルベットは声を張り上げる。
「お主らの幸福が熟れるほどに実った時、わしは『不幸を呼ぶ呪術師』として再びお主らの前に現れるじゃろう。その日が来るまで、せいぜい日々を生きるがよい!焦らず、頑張らず、諦めずにな!ほ~っほっほっほ!」
高笑いを上げながら、ベルベットの姿は完全にこの場から消え去っていった。
――――そして、永かった夜が明けた。
「……(プレイヤー名)さん、ありがとうございました。あなたがいなかったら、私……間違いなく命を落としていました」
深々と、丁寧に頭を下げるシア。
「あ、使い魔の契約は解除しておきました。あなたは旅人……。自由でないといけませんから」
……今回の件で、皇都は呪術という力に対して本格的に対策を練ることになったようだ。
皇国の皇帝であるトルデインは持ち前の器の大きさで、シアが自分に行おうとしたことを不問に処した。
代わりに、シアはクラーネと共に宮廷呪術師として皇都に仕えることになったらしい。
「……シア。本当に、いいの?」
「うん。これ以上(プレイヤー名)さんに迷惑はかけられないもん。それに、これからは……クラーネがいてくれるから」
拠り所を失った二人は、不安を感じながらも、幸福のために新たな一歩を踏み出そうとしていた。
「じゃあ私達、そろそろ行きます。というか、これ以上(プレイヤー名)さんと一緒にいたら、ずっと頼ってしまいそうですし……」
弱々しく微笑み、しかし瞳に強い意志を宿らせながら、シアは改めて(プレイヤー名)と向き合う。
「(プレイヤー名)さん。また、会えますか?」
その問いに、(プレイヤー名)はゆっくりと、小さく頷いた。
最後にシアと握手を交わし、(プレイヤー名)は朝陽差し込む道へと足を進めていく。
「……ふん、仲良くしちゃってさ。勝手にすれば?」
ふと、(プレイヤー名)はシア達を遠くから眺めているアネアスを見かけた。
「アンタも災難だったわね、(プレイヤー名)。あんなポンコツ呪術師に呼ばれちゃって」
……もしかして、ずっと見守っていたのだろうか?(プレイヤー名)はそれとなくアネアスに尋ねる。
「は、はぁ?バッカじゃないの?どうしてあたしがシアのことを見守らなきゃいけないのよっ」
ブツブツと小言を言いながら、アネアスは(プレイヤー名)とは違う方向へと歩いていく。
「ほら、さっさと行くわよポール!いつまで前髪いじってんのよ!」
「……ポールではない(NOT PAUL)……ファルトラ、と呼べ……」
アネアスはベルベットを探す旅に出るらしい。
なにか意図があってのことのようだが、彼女はそれ以上、口を開かなかった。
……こうして、呪術師の少女達は、それぞれの旅路を歩んでいくことになった。
きっと、また会える。そんな想いを抱きながら、(プレイヤー名)は新たな道へと進んでいくのだった。
呪戒プロメッサ -陰謀の夜-完
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