幽怪ストレンジャー_prologue_03
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251:幽怪ストレンジャー ~逢魔ノ刻編~
開始前
プロローグ
「いかにも幽霊屋敷って感じの内装ね。無暗に歩き回るのは危険だけど、ひとまず強い妖気がある場所は避けていきましょう」
リッカの提案に首を縦に振り、---とナナセは廊下を進んでいく。
そして、数十分ほどが経過した時――
「あの、先輩。奥の方から、何か足音のようなものが聞こえませんか?」
「えっ、そう?あたしは何も聞こえないけど……」
「……間違いありません。私、人目を避けることに関しては誰にも負けない自信があります。だから、足音や視線などには特に敏感で……あっ、そこの曲がり角から何か来ます。注意してください」
近くに隠れられそうな場所はない。仕方なく、---達は臨戦態勢に入る。
『ひぃ、はぁ、ふあぁ……。うぅ、まさかこんな迷路みたいな場所だなんて……。とにかく、今は一刻も早くリッカさんを見つけないと。えっと、リッカさんの気配がする方向は……って、あれ?』
曲がり角から現れたのは、背中に小さな箒を背負った、人語を口にする小さな狐だった。
『リリ、リッカさん!?よ、よかった、無事だったんですね!わあああん!』
「……!そ、その声。もしかして……カサネ、ちゃん?」
小さな狐は目をうるうるさせながら、リッカの胸へ飛び込んだ。ひとまずリッカは狐……もといカサネを落ち着かせ、ナナセに彼女を紹介したあと、詳しく話を聞くことにした。
「えっ、と。つまり、その体はカサネちゃんのペットの狐のものってことね。で、今はカサネちゃんの意識が宿っていて、カサネちゃん自身は安全なところにいる……っていうコトで合ってる?」
『むぅ、ペットじゃなくて使い魔ですっ。でも、その認識で問題ありません。今、兄さん達もリッカさんを助けようと動いています。ただ、ここは鬼門域ですから、兄さん達の助力は期待できないかもしれません……』
鬼門域とよばれる領域は、一部の妖怪しか出入りすることができない。特に、クガサなどの高位の妖怪は近づくことすらままならない。
とはいえ、カサネの使い魔のように妖力が低い存在であれば、難なく入ることができるようだ。それを利用し、カサネは使い魔に自らの意識を宿し、リッカを助けに来たのだという。
「そう……。皆にも心配かけちゃってるみたいね」
『あ。でも、兄さんだけはあまり心配していませんでしたよ?例の瓢箪を使えば、おそらく---さんが現れるはずだから大丈夫だと言っていました』
カサネの言葉を聞き、リッカは眉をひそめながら表情を曇らせる。
「……アイツの思惑通りって感じで少し複雑だけど、実際にその通りだからぐぅの音も出ないわ。まぁ、それはさておき……カサネちゃん、一体ここはどこなの?そもそも、どうしてナナセさんが飲み込まれて」
「先輩、お話は一旦ここまでにしましょう。もう一人……来ます」
警戒心を強めるナナセ。すると、彼女の言った通り……カサネがやって来た曲がり角から、ドクロを背負った妖怪が現れた。
「はわあッ!?び、びっくりしたぁ。というか、侵入者増えちゃってる……って、ああッ!?そっちの数珠を持った女の子は……そっか!私の主が会いたがっている女の子って、君のことね!」
……どうやら、ドクロを背負った少女はナナセを“主”の下へ連れていきたがっているようだ。
「そうと決まれば話は早いじゃん!ねっ、私ガシャミって言うんだけど、とりあえず私についてきてくれないかな?」
「本当は主が自ら君を歓迎しようとしてたんだけど、ちょっと今ケガしてて動けないみたいなんだ。だから、私と主の部屋まで一緒に」
「あ、ごめんなさい。そういうアレはちょっと。私、帰りたいだけですし。行きましょう、皆さん」
「え!?ち、ちょっと待ってってばっ!せめて話だけでも……ほ、ほら、お菓子あげるから!飴ちゃんあげるからぁ!」
清々しいまでのナナセの拒絶っぷりに、ガシャミと名乗った少女は背負っているドクロと共に慌てふためく。
「えぇぇ……無視されるのは想定外なんだけど……でも、連れて来いって言われてるしなぁ……。」
「まぁ、しょうがないか。骨の何本かは折ってもいいって言われてるし、他の侵入者に関しては特に何も言われてないし……うん、決めた!ここはシンプルに力ずくでいくよっ!」
「……!?気配が、変わった……?先輩、---さん、注意してください………!」
ガシャミは殺気を漂わせながら嗜虐的な笑みを浮かべ、---達に襲いかかってきた。
>>出口を探す<<
ランキングに関係なく、一定数の【ストレンジメダル】を集めると役立つアイテムが貰えるみたいです。
……避けられない戦い、ですね。
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれると聞きました。
陰陽術において「土地力」は非常に重要です。なるべく溜めていきましょう。
……連携はニガテですけど、今はそうも言っていられない状況ですね。
目立たないような恰好がいいのですが……。
強い敵を倒せば多くの【ストレンジメダル】が貰えると、先輩が言っていました。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるみたいです。
こまめにチェックした方が良さそう、ですね。
クエスト……?
ああ、ゲームとかでよくある……あれ、ですかね。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるみたいです。
こまめにチェックした方が良さそう、ですね。
クエスト……?
ああ、ゲームとかでよくある……あれ、ですかね。
出口を探す
盗妖雪辱バトル
『ハッ!?皆様、ご注意を!今の戦いの音を聞きつけて、他の妖怪がこちらに向かってきているみたいです!』
いち早く敵の気配に気が付いたカサネの言葉を頼りに、---達はひとまずその場を離れ、身を隠せそうな場所へと移動することにした。
「……この辺りは比較的安全みたいですね。ひとまず、ここで少し休みましょう。えっと、狐さん。それで、ここは一体どこなのでしょうか?」
周囲には鉄格子のある部屋が並んでいる。どうやらこの辺りは、捕らえたものを監禁する牢獄部屋のようだ。
『ここは、アマノジャクという強力な力を持つ鬼が根城にしている屋敷です。リッカさんはご存じかと思いますが、鬼というのは生まれつき闘争本能を持っていて、妖怪の世界でも危険な存在です。現に、アマノジャクという鬼は何度も妖都に侵攻を仕掛けてきています。それこそ、数十年以上前から……』
――アマノジャク。確か、あのカオルコという少女と対峙していた鬼の名前も……。
思考しながら、ナナセはカサネの言葉に耳を傾ける。
『リッカさんに心配をかけたくないという、兄さんの配慮で内緒にしていたのですが……実は、先日もアマノジャクが率いる部隊が妖都へ侵攻してきたんです。幸い、セイリュウさんとカザグルマさんがアマノジャクに深手を負わせて撃退することができました。けど、その二人もケガをしてしまって……』
「ウ、ウソ!?そんなことになってたなんて……」
先ほど、ガシャミは言っていた。屋敷の主……つまり、アマノジャクはケガをしていて動けないと。どうやらそのケガは、リッカやクガサの仲間である妖怪達が負わせたものだったらしい。
「……その件に関しては、あとでクガサに文句を言うとして。そのアマノジャクっていう鬼は、どうして人間界にいるナナセさんを攫おうとしたの?」
「はんっ、そんなの決まってるじゃないか!アマノジャクは眷属を増やすことにご熱心だからねぇ。その娘っ子は不幸なことに、アマノジャクのお眼鏡に叶っちまったってワケさ」
リッカの問いに答えたのはカサネではなく、天井から聞こえた女性の声だった。声の主は颯爽と床へ降りてくると、着物をはためかせながらキセルを片手に---達を見据える。
「なるほど。牢番のドクロ娘がここからいなくなったのは、あんた達が理由だったってわけかい。まぁ、一応礼は言っとくよ。おかげでこうして無事に脱獄できて…………ん?この、妙に覚えのある狐のにおいは……まさか」
キセルを持った女性は、訝しげな視線をリッカとカサネに送る。すると、カサネは何かに気が付き、驚愕の表情を浮かべた。
『あああッ!?あ、あなたは確か、妖都を騒がせている妖怪、ツバキ!兄さんでさえも手を焼いている、困った泥棒さん!』
「チィ。あたしの正体を知ってるってこたぁ……あんた達、あのお喋りギツネの回しもんだね?悪いけど、あたしはここで捕まるわけにはいかないんでねぇ」
そう言うと、ツバキは懐から小さな火縄銃を取り出し、その銃口をこちらに向ける。
「……あの。何か勘違いされているのでは?私達は、そのクガサという方の命令でここにいるわけではありません。ただ、この屋敷から脱出したいだけで」
「はんっ!鬼の眷属もクガサの回しもんも、このツバキにとっちゃ等しく敵なのさ!それに、あのお喋りギツネにはさんざん痛い目に遭わされたからねぇ……。溜まりに溜まった鬱憤、ここで清算させてもらうよ!」
……残念ながら、話が通じる状態ではないようだ。仕方なく---達はツバキを迎え撃つため、戦闘態勢に入ったのだった。
『…………。なんだか私、以前も兄さんが原因でとばっちりを受けたことがあるような……』
とばっちりを受ける
蜘蛛巣術バトル
こちらの説得が通じたのか、ツバキは武器を懐にしまった。
「何かあたしにできることはないかい?なんでも……とはいかないが、この場でできる限りのことはしてやるよ……って、なんだい、その信用できないって顔は。さっき言ったろ?間接的とはいえ、あたしはあんた達のおかげで脱獄できたんだ。このツバキ、貸し借りは作りたくない性分でね」
「…………。じゃあ、いくつか質問に答えてもらえる?そもそも、なぜあなたはこんなところに捕まっていたの?」
ナナセに服の裾をくいっと引っ張られたリッカは、一同を代表してツバキに問いを投げた。
「そりゃ、あたしは盗人だからねぇ。鬼の中の鬼と名高いアマノジャクの屋敷ともなれば、さぞ見事なお宝が眠っていると踏んだワケさ。まぁ、勘の鋭いボウヤに捕らえられちまったがね」
「鬼の中の鬼……。アマノジャクっていうのは、そんなにすごい鬼なの?」
「そうさねぇ……あの鬼の強さは、単純な力というより、“使徒契約”によって契りを交わした使徒達との結束力にあるんだよ」
――使徒契約。
稀なる才を持つ妖が、他の妖や人間と“魂の契り”を結ぶこと。つまり、力ある妖の部下(使徒)になることで、その使徒は絶対服従を条件に、多量な妖力を得ることができる……というものらしい。
「とはいえ、本来なら使徒契約を交わしたからといって、そこまで使徒達の妖力が上がるわけじゃない。だが、主人側と使徒側……二者の精神が同調した際は、互いが互いに力を高め合う相乗効果が発生する。アマノジャクやその使徒達が高い能力を秘めているのは、そのためさ」
「……二者の精神が同調?それって、どういうこと?」
「簡単な話さ。あんた達人間だって、自分と同じような境遇を持つ者に共感したりするだろう?使徒契約における力の増幅には、共感の大きさ……“心の繋がりの強さ”が深く関わってるってことさ」
キセルをふかしながら、ツバキは淡々と続ける。
「風の噂じゃ、アマノジャクは孤独な者……つまるところ、繋がりを持たない人間や妖に対して、積極的に使徒契約を行っているらしい。この屋敷に招かれたってことは、あんた達の中に孤独なヤツがいるってことなんだろうさ」
……その言葉を聞いた瞬間。---とリッカの視線は、自然とナナセへと向かった。
「…………。先ほどのガシャミという妖怪は、私をアマノジャクの下へ連れていこうとしていました。この方の話が正しければ、アマノジャクの狙いは……私、ということですね」
「だ、大丈夫よ、ナナセさん!---さんとあたしがいる限り、あなたのことは絶対に」
「それは置いておくとして。ツバキさん、その……出口の場所に、心当たりはありませんか?」」
「……あ、置いちゃうんだ。今さらだけど、ナナセさんって肝が据わってるよね……」
ナナセは動揺した素振りを見せることなく、ツバキに質問をぶつける。しかし、その時……
「出口は見つけるのは不可能よ。この屋敷にはわたくし、トバリグモが張り巡らせた術式が施されているのだから。ゆえに、先ほど通った廊下が別の廊下に入れ替わっている……なんてことが起こりえるの」
天井から気配もなく現れたのは、トバリグモと名乗る妖怪だった。気配から察するに、鬼の使徒……アマノジャクの配下であることは間違いないようだ。
「何やらうるさい声が聞こえると思えば、まぁゾロゾロと。脱獄者に狐に巫女に旅人風の人間……そして、アマノジャク様が欲している人間の少女が一人。となれば、まずはその少女を捕らえさせて頂くわ。それ以外の者達は……わたくしの餌になってもらいましょう」
『……!皆さん、散開してください!来ます!』
トバリグモは太い蜘蛛の糸を両手から発射し、こちらに向けて放ってきた。幸い、カサネの助言が早かったため、---達はなんとか攻撃を避けることに成功した。
『気を付けてくださいっ。あの糸に捕まれば、脱出は難しいです。でも、こちらは数で勝っています!いかに相手が鬼の使徒でも、五人で力を合わせれば……あ、あれ?ツバキさんが、いなくなってる……?』
「……どうやら、脱獄者の方は今のどさくさに紛れて逃げてしまったようね。それで?五人で力を合わせれば、なぁに?かわいい狐さん」
『~~~~っ!よ、四人で力を合わせれば、なんとかなるんですからぁ!』
正確には、三人と一匹な気がする……というナナセの小声のツッコミを耳に入れながら、---達はトバリグモとの戦いに挑むのだった。
力を合わせる
七転八起バトル
追い詰められたトバリグモは、糸をバネにして高速で移動し、---達から大きく距離を開くと同時に、怪しげな妖術を唱え始めた。そして、次の瞬間……
「……!?こ、これは……強制的に、移動……させられた?」
周囲の風景が揺らいだかと思うと、---はナナセと共に、ひんやりとした薄暗い和室に立っていた。
「……先輩と狐さんがいませんね。先ほどの妖怪の術で、離れ離れになってしまったのでしょうか?それにしても、ここは一体……きゃっ」
「ぁいたっ!?な、なんじゃお前は……ああああッ!?ち、調合したばかりの薬液が……!な、なんちゅーことをしてくれるんじゃあッ!」
ナナセと衝突したことで、桶に入れて運んでいた謎の液体を床にぶちまけてしまった少女は、甲高い声で文句を口にする。
「あ。ごめんなさ…………っ!?そ、その角。もしかしてあなたが、鬼……なのですか?」
少女の頭には……それはそれは立派な、二本の角が生えていた。
「んぁ?そういうお前は……ああ、アマノジャクが欲しているという人間の少女か。その様子だと、まだ妹とは対面しておらんようじゃな。まぁ、わっちにはどうでもいいことじゃが……はぁあ、鬼だるい……」
「……妹?じ、じゃあ、あなたはアマノジャクの、お姉さん……?」
「その通りじゃが……あっ!言っておくが、このナナコロビは、本当は今よりずっと“ないすばでえ”な鬼だったんじゃぞ?んで、昔はわっちの方があの弱虫よりもず~っと強かったんじゃ!」
「あ。別にそこまで聞いているわけでは」
「けど、アマノジャクは最近になってメキメキと力をつけ始めてのう……。気が付けばわっちを追い越し、今じゃあらゆる鬼の中でも最上級の存在になりおった」
ナナセの言葉を無視し、ナナコロビは淡々と愚痴を吐き続ける。
「そこで!わっちは姉の方が上だということを思い知らせてやるため、アマノジャクにケンカを吹っかけたのじゃ!が、ものの見事に敗れてなぁ。しかも呪いをかけられて子どもの姿にされてしまい、掃除をやらされたり薬を作らされたりと、雑用をやらされるハメに……はぁ、鬼しんどいのじゃ……」
――まるで、どこぞのネクロマンサーのようだ。
少し前に旅をした世界のことを思い出しながら、---は小さくため息をこぼす。
「というわけじゃ。こちとら嫌々付き合わされとるだけじゃから、お前達に危害を加えるようなマネはせん。わっちの気が変わらんうちに、とっととここから立ち去れ。しっしっ」
「……そういうことでしたら、遠慮なく立ち去らせて頂きます。あ、そうだ……あの、ナナコロビさん。屋敷の出口に心当たりはありませんか?」
「それがわかっとったら、とっくにこの屋敷からおさらばしとるわ!トバリグモの術式のせいで内部構造がころころ変わるもんじゃから、この屋敷の道順を知る者は少ない。そして、わっちはそれを知らん。以上」
「わかりました。では、さようなら……………………えっ?」
咄嗟に---はナナセを抱き寄せ、大きく横に飛んだ。その結果、ナナセはギリギリのところで、ナナコロビの手刀を避けることに成功する。
「なっ……?さ、さっき、私達に危害は加えないって……!」
「んぁ?ああ、語ったことは本心じゃよ?ただ、な……悲しいことに、鬼というのは自らの本能に逆らうことができぬのじゃよ。人間でいうなら食欲や性欲と同じ……。いわゆる生理現象というやつじゃな」
気だるげな様子で殺気を放ちながら、ゆらゆらと距離を詰めてくるナナコロビ。
「『捕食せよ、侵略せよ、略奪せよ』。それが、全ての鬼が生まれながらにして持つ本能……抗うことのできぬ刻印といってもいい。他者に害を及ぼさねば生きていけぬのじゃよ、鬼という存在はな」
「……そ、そんな。そんなのって……」
どうやら、ナナコロビは久しぶりに“捕食対象”を視界に入れたことで、自らの本能に抗えなくなってしまったらしい。
「さて。こうなってしまった以上、わっちはもう自分を制御することができぬ。鬼としての本能に従い、お前達を喰らうとしよう。久々の上等な食事じゃ……骨片一つすら残さず味わってやろうではないか」
ナナコロビは不気味な妖気を身に纏い、再びこちらに飛び掛かって来た……。
鬼を止める
鬼符幻妖バトル
『傷つけたくない……喰らいたくない、じゃと?くだらん!鬼は本能に従って生きてこその存在じゃ。そのような軟弱者が鬼を名乗るなど、言語道断であるぞ。』
『フン、わっちはもうお前を妹とは思わん。そのまま延々と泣き続け、孤独の果てに野垂れ死ぬがいい!』
ナナセの頭の中で、一つの映像が流れた。その内容は“ないすばでぇ”なナナコロビが、顔を泣き腫らしている妹……アマノジャクに対し、罵声を浴びせているというものだった。
どうやらナナセは、以前にカオルコの過去を“視た”のと同じように、ナナコロビの過去を視たようだ。
「本能に従うことでしか生きられない、か。難儀な存在さねぇ、鬼っちゅーのも。けんども、どこか懐かしいよ。なんかさ、あたいの身近にもいた気がするんだ。自分の生き方に苦しんでる、不器用な鬼がさ」
「……!?い、いつからそこにいたんですか……?」
ふと気が付くと、ナナセの背後にはカオルコの姿があった。
「ずっと傍にいたよ。でも、波長が合わなくてさぁ。こうして対面するのはなかなか難しいみたいだねぇ」
あっけらかんとした様子のカオルコを見て、ナナセは小さくため息を吐く。
「……あなたと最初に会った時、私はあなたの過去を視ました。その不器用な鬼というのは、アマノジャクという名前なのでは?」
「んー、どうだろね。まぁ、どことなく君に似ているヤツだったよ。生き方とか考え方とかさ」
「い、いい加減なことを言わないでください。あなたに、私の何がわかるんですか……?」
「わかるよぉ。君があたいの過去を視た時、あたいも君の過去を視たんだからさ。君が使う陰陽術は、祖母譲りのものなんだろう?」
カオルコは語った。ナナセの祖母が、名のある陰陽師だったこと。それゆえに、悪い妖怪から目の敵にされていたこと。
そして、彼女の霊力を強く継承してしまったナナセが妖怪に襲われることを危惧し、祖母はナナセに陰陽術の修行をつけた……。
「修行の日々は辛かったはずだ。学校すらまともに通わせてもらえなかったみたいだしねぇ。けど、君は祖母のことが好きだった。」
「というより、君の世界には彼女しかいなかったんだろう?だから君は、彼女が最期に残した言葉を肝に銘じて生きてきた。“自分を大切にしなさい”という、呪いの言葉を」
「……!おばあちゃんの言葉を、呪いだなんて言わないでください」
「…………。祖母が亡くなったあと、君の世界には自分一人だけが残った。そして、君は」
「もういい」
「“自分を大切にしなさい”という言葉を、今の自分のままで在ることだと解釈した。祖母との思い出の中に閉じこもるために……。」
「今も君は、自分以外に誰もいない自分の世界を、大事に守り続けている。誰かの価値観や言葉という刃で、自分の世界に亀裂ができることを恐れている」
「……ッ、うるさい……!それ以上おばあちゃんのことを悪く言ったら……承知、しない……」
感情をむき出しにしたナナセの瞳には、やんわりと涙が浮かんでいた。
「はぁ、やれやれ。相変わらずだねぇ…………ナナちゃんは」
「……!?その、呼び方は……」
ナナセが袖で涙を拭き、改めて前を見た時。そこにはもう、カオルコの姿はなかった。
「あの、---さん!あの人はどこに……えっ?だ、誰も……見て、いない……?」
愕然とするナナセ。しかし、彼女がどんな感情を抱こうと、敵の追撃が止むことはない。ナナセと---は周囲に妖気が立ち込めるのを感じ取り、即座に戦闘態勢に入った。
「……先ほどのナナコロビという鬼が、倒れる直前に符を使って幻妖を召喚したようですね。数が多くて、本当に嫌になります……でも、私は……」
何かを決心したのか、ナナセは鋭い目つきで幻妖達を睨みつけ、術を唱え始めたのだった……。
調伏する
夏将軍勢バトル
「あの、---さん。私……アマノジャクに会いに行きます。会って、確かめなければならないことができたんです」
その声には、以前までのナナセにはなかった力強さが感じられた。どうやら、彼女は何かを決心したようだ。
「先ほど戦った、ナナコロビという鬼……。あの鬼と限りなく近い妖気を、屋敷の奥から感じるんです。二人は姉妹ですから、同質の妖気を持っています。おそらく、これを辿った先に……」
確かに、闇雲に出口を探しても、敵の妖怪と遭遇して消耗戦になるだけだろう。しかも、この屋敷はトバリグモの力によって、構造がいかようにも変化してしまう。
ならば、事の元凶であるアマノジャクと接触し、何らかの解決策を見出す方が、脱出できる望みはあるのかもしれない。ナナセの願いと、屋敷からの脱出という本来の目的を果たすため、---はナナセの提案を受け入れた。
「待たれーい!これ以上、この屋敷で粗相をするというのなら、このナツショウグンが黙っちゃおらーん!」
妖気を辿り、屋敷の中枢へと向かっていた---とナナセ。そんな二人の前に、刀を携えた陽気な妖怪が現れた。
「さぁさぁさぁ!貴殿を主の下へ連行しちゃうよー!といっても、貴殿は抵抗するだろうし、ここはやっぱり」
「はい、お願いします。つれていってください」
「だよねー!そりゃ簡単にはついてきてくれないよねー!だから、私も例に漏れず力ずくで……ん?今、なんて?」
「あなた達の望み通り、私はアマノジャクの下へ行きます。案内をお願いできますか?」
「…………えっ、ほんとに!?なーんだよぅ、ガシャミ達を撃退したって聞いたから、とんだ脳筋が来たもんだと思ったけど、ほんとは聞き分けがいい子なんじゃ~ん!先にゆってよそういうのぉ!」
光の速さでフレンドリーな態度になったナツショウグンに、思わずポカンとしてしまうナナセ。
「それにしても、どういう心変わり?さっきまでずっと、こっちの勧誘を拒否してたって聞いてるんだけどなぁ」
「……私の知りたいことを、あなたの主はきっと知っています。だから、会って話を聞きたいんです」
「んー、そっかそっかぁ。正直に答えてくれてありがと!それじゃあ……うん。私もいいかげん、自分に正直にならなきゃね」
ナツショウグンは二本の刀を抜き、その切っ先を---とナナセに向ける。
「私の主は、しんどすぎる孤独から私を救ってくれた。だから私は、恩人である主にこの身を捧げるって決めてるんだ。でも……私個人としては、貴殿を主に会わせたくないんだよねぇこれが!」
それに……と、ナツショウグンはナナセを見据えながら続ける。
「どういう理屈かはわからないけど、貴殿の霊力はこうしている今もグングン上がり続けてるみたいだし。怪我を負っている主と対面させるには、ちょいと危険な相手と見た!」
「……別に、私は力で解決しようとは思っていません。そんなに不安なのであれば、私が対面している間、アマノジャクの傍にいればいいのでは?」
「無理なんだなぁそれが。主は貴殿と一対一で対面することを望んでるからさ。そのうえ、貴殿は“主の真の願い”を叶えてしまう恐れがあるし」
「……?アマノジャクの、真の願い……?」
「ま、貴殿達はここでやられちゃうから、それを知ることはないだろうけどね!というわけで、進軍を開始するよ!ヒケシちゃん、ハイカイちゃん!出合え、出合えー!」
ナツショウグンがそう口にすると、天井裏から二人の妖怪が現れる。
「掛け声。暑苦しい。うざい。死ね」
「つーか、ちゃん付けはやめろっつってんだろ。とはいえ、このガキをアマノジャク様に会わせたくないってのは私も同じだ。力を貸すぜ、ナツショウグン!」
三人の妖怪は陣形をとり、ナナセ達の進む道を塞いだ……。
突破する!
稚彦探女バトル
「ごめん、遅れた!二人とも、大丈夫!?」
「……!先輩……それに、狐さんも……」
リッカ達が加勢してくれたことで、戦況は五分五分となった。
『朗報です!実は私達、---さんとナナセさんを探して屋敷を彷徨っている間に、トバリグモの術式の触媒を壊してきたんです!これで、ようやく出口が見つかるはずです!』
「あ、あの……ごめんなさい。私、まだここから出られません。その……アマノジャクに会わなきゃいけない理由ができたんです。だから……お、お願いしますっ。私を……手伝って、いただけませんか?」
『ぇ、えええっ!?そ、それは一体、どういう……』
驚愕するカサネ。しかし、リッカはナナセの変化に気が付いたのか、落ち着いた様子で口を開く。
「わかった。ここはあたしとカサネちゃんでなんとかする。---さんと先に行って、ナナセさん」
「……!で、ですが、先輩達だけでは」
「あなたが助けを求めるなんて、よっぽどのことなんでしょ?それに、アマノジャクに会うのはナナセさんにとって大切なことみたいだし。大丈夫!こう見えてあたし、そこそこ強い巫女なんだから!」
「…………ぁ。あ、ありがとう……ございます。ヒノエ、先輩」
「あっ、やっと名前で呼んでくれた!ふふっ、それじゃ……ちょっとは先輩らしいところを見せないと、ね!」
この場をリッカとカサネに任せ、---とナナセは全速力で廊下を駆け抜けた。やがて、二人は廊下の先に、大きな木製の扉を見つける。妖気から察するに、アマノジャクはこの扉の先にいるようだ。
「来てしまったね。いや……きっと、アマノジャクはこうなることがわかっていたんだろうな。それでも僕は、一矢報いたい。宿命という名の、受け入れがたい未来に」
扉の前には、弓を持った少年が立っていた。そして、少年は有無を言わさず、霊力を込めた矢をナナセに向かって放った。咄嗟にナナセは、カオルコから教わった術で、その矢を振り払う。
『死を選ぶ必要などない。私の第一の使徒となれ、人間の少年。其方の孤独は、このアマノジャクが全て引き受けよう』
その時、ナナセの頭の中に映像が流れ込んできた。それは、慈愛に満ちた表情をした女性……アマノジャクが、こちらに手を差し伸べている、といった内容だった。
「……ッ。あ、あなたは……人間、なのですか?」
「……仕組みはわからないけど、僕の過去を視たんだね。うん、そうだよ。僕は人間界でロクでもない目に遭い続けて、自ら命を絶とうとした人間だ。そして、死が間近に迫った時に、アマノジャクの力でこの世界に引き寄せられたんだ。もう、だいぶ昔のことさ」
そう語る少年の瞳には、どことなく哀愁のようなものが感じられた。
「アマノジャクは優しい心を持った鬼だ。けど、鬼は本能に抗うことができない。アマノジャクの優しい心は、鬼の本能とは致命的なまでに相容れないんだよ……」
少年の言葉は真実だ。過去のアマノジャク視てきたナナセは、すぐにそれを理解する。
「こうしている今も、アマノジャクは理性と本能との間で、もがき苦しんでいる。その苦しみから救われる方法は一つだけ。そして、君は彼女と戦うことで彼女を救うことができる。だから君は、彼女に呼ばれたんだ」
「あの……待ってください。私は、アマノジャクと戦うつもりは」
「いいや、必ずそうなる。君と彼女が会うというのは、そういうことなんだよ」
諦観した顔つきで、少年は懐から一枚の符を取り出し、宙へ投げる。
「さて。僕もナツショウグンと同じで、君をアマノジャクに会わせたくない。君が彼女を救うということは、僕ら使徒達が心の拠り所を失うことに等しい。彼女が苦しむ姿を見続けるのは辛いけど……僕らにはまだ、彼女が必要だ」
ボン、という音と共に符が煙で包まれる。すると、煙の中から一体の式神が姿を現した。
「……僕は“あの陰陽師の子孫”を相手にする。サグメはもう一人の方を頼むよ」
『了解だよっ、ワカヒコくん!さあ、そこの旅人みたいな風貌をした人!ワカヒコくんの式神たる、このサグメが相手したげるっ!』
……どうやら、戦うしか道はないようだ。
迎え撃つ
戦鬼宿命バトル
扉の奥から落ち着いた女性の声が聴こえた瞬間、ワカヒコは戦うことをやめ、悲哀を帯びた表情を浮かべながら、ナナセと---の横を通り過ぎていった。
「……---さん。アマノジャクは一対一での対面を望んでいると、彼女の使徒が言っていました。だから……ここからは一人で行かせてください。私も、そうしないといけない気がするんです」
決意に満ちたナナセの表情を見た---は、彼女の意志を尊重し、扉の前で待つことを選ぶ。そして、ナナセはぺこりと頭を下げたあと、扉を開き、アマノジャクのいる部屋へと足を踏み入れた。
「……ようやく会えたな、我が宿敵の血と力を継ぐ者よ。お前との対面を心から待ち望んでいた。ふむ……その様子だと、何か私に聞きたいことがあるようだな」
蝋燭で照らされた、伽藍とした静謐な部屋。その奥には、ナナセが他者の記憶を通して何度か見てきた鬼……アマノジャクの姿があった。
「…………。あなたは、カオルコという名前を、ご存じですよね?」
「……我が宿敵の字(あざな)か。もちろん、覚えているが」
「どういう関係、だったのですか?」
ナナセの問いに、アマノジャクは澄んだ微笑を浮かべる。
「……私は永い間、理性と本能との間で揺れ動いてきた。ある時は本能が勝り、妖都に襲撃をかけた。ある時は理性が勝り、孤独を埋めるために仲間を求めた。」
「またある時は、本能の赴くがままに人間界への侵攻を試みた。そして、そのたびにあの陰陽師と対峙した。何度も、何度もな」
遠い思い出を手繰り寄せるように、アマノジャクは語り続ける。
「最初こそ、私とあの陰陽師は命を奪い合うだけの関係だった。が、何十年と戦いを重ねるうちに、あの者はこんなことを口にするようになったのだ。」
「この私、アマノジャクを救いたいという…………くだらぬ妄言をな!」
アマノジャクは一気にナナセとの距離を詰めると、ナナセの頭を片手で鷲掴みにした。
「ぁ、う……ッ!?なに、を……」
「鬼は本能的に力を求める。膨大な霊力を持つお前と使徒契約を交わせば、私はさらに高みを目指せるだろう。」
「そして、お前は“繋がりを持たぬ者”。使徒として取り込むに相応しい相手だ。お前を我が傘下に入れることで、あの陰陽師への復讐を果たせてもらうぞ……!」
「ふ、復讐……?」
「そうだ……。お前をここに呼んだ理由はただ一つ。全てを支配するという我が目的を阻んでくれた、あの女への復讐を果たすためだ!」
「ち……違う、はずです。あなたは、本当は救いを求めている……。だから、私を……」
「うぬぼれるな、人間。どのみち、今のお前の力など、私の足元にも及ばぬ……。さあ、内に秘めた孤独を曝け出すがいい。そして、このアマノジャクに頭を垂れよ……!」
ナナセの体内にアマノジャクの妖力が流れ込む。反射的に、ナナセは霊力を使って身を守ろうとした。その時……
『ごめんよ、アマノジャク。あたいにはもう、あんたを救ってやるだけの力がない。ほんと、歳はとりたくないもんだねぇ。けんども、あんたとの約束を反故にするってわけじゃない』
ナナセの頭の中で、アマノジャクの記憶の一端が映像として再生される。そして……
『あたいと繋がりを持つ者がいる限り、あたいの魂が潰えることはない。だからさ、もうちょっと待ってておくれよ。絶対に、迎えにいくからさ』
気が付くと、ナナセはアマノジャクの手を振りほどいていた。隣を見ると、そこにはカオルコの姿があった。
「待たせちまったねぇ、アマノジャク」
……アマノジャクが強制的に結ぼうとした使徒契約は無効となった。ナナセにはもう、人との繋がりができていたから。そして、“ナナセと最も繋がりを持っていた者”はこう言っていた。ずっと傍にいたよ、と。
「……お前と繋がりを持つ者。やはり、この少女だったのだな。クク……さて、鬼の生存本能というのは厄介なものでな。」
「自ら命を絶つこともできないうえに、この命を脅かす者が現れれば、その者を滅さんと体が勝手に動き出してしまう。ゆえに……手加減はできぬぞ」
嬉々とした笑みを浮かべるアマノジャク。カオルコはその言葉を微笑で返したあと、ナナセの方を向く。
「ナナちゃん。悪いんだけどさ、ちょ~いと力を貸してくれるかい?」
「……っ。あ、あとで……ちゃんと、お話できる?すぐにいなくなったり、しない?」
「もっちろんさね!おばあちゃんが約束を破ったこと、今までなかったろ」
その言葉に安堵し、ナナセはカオルコと共に武器を構え、眼前の敵を見据える。
「……我が名はアマノジャク。世に混沌をもたらす鬼にして、生きとし生ける者全てを力で蹂躙する者。内に秘めた本能に従い、この世の全てを喰らい尽くす者なり……!」
約束を果たす
エピローグ
アマノジャクの言葉に、ナナセは首を縦に振った。その仕草に満足したのか、アマノジャクは温かな笑顔を浮かべると、光の粒子となって消滅した……。
「力貸してくれてあんがとね、ナナちゃん。これでもう、おばあちゃんも思い残すことはないよ」
「……!ま、待って。もう、消えちゃうの……?」
「死者が現世と交わっちゃいかんだろ?それに、あたしは未練も果たせたし、こうしてナナちゃんとも会えた。死者には贅沢すぎるご褒美さね」
「で、でも。私、よくわからなくなっちゃって……。おばあちゃんがいなくなってから、私、自分を大切にするために誰とも関わらず生きてきて。ずっとそれが正しいって思ってたの。でも、今は……」
戸惑うナナセに、カオルコは答える。
「誰かと繋がることが苦しいのはわかるよ。でもね、八十年以上生きてわかったけど、この世には良い繋がりと悪い繋がりってもんがある。んで、良い繋がりってやつには、自分を前へ進めてくれる力が宿るもんなのさ」
「……うん。それは、ヒノエ先輩と---さんと一緒にいて、私も強く感じたよ。でも、たくさん迷惑かけちゃったと思う。迷惑をかけるぐらいなら、やっぱり……誰とも関わらない方が、いいよね?」
「いいんだよ、迷惑かけても。その分、ナナちゃんも誰かの迷惑を受け入れればいいだけの話さ。でも……そうだね。ナナちゃんは、世界ってのが何でできてるか知ってるかい?」
ナナセは不安げな表情で首を横に振った。そんなナナセの髪を、カオルコは優しく、そっと撫でる。
「世界ってのはね、他人でできてるんだ。他人の集合体である世界では、起こりえることがただ起こるべくして起こる。それ自体には意味も価値もない。それに対して意味や価値を与えるのは、世界の中心にいるナナチャン自身なんだ」
「私が……意味を与える……?」
「難しいことじゃないよ。この屋敷に来て、ナナちゃんのことを命懸けで助けくれた他人がいただろ?その人達のコトをどう思っているか、どう関わりたいのか。それを素直にぶつけるだけでいいんだ。それが、自分を大切にするっていうコトに繋がるからさ」
……カオルコの姿が、ぼんやりと薄くなっていく。
「じゃあね、ナナちゃん。楽しく生きるんだよ」
「ぁ……」
伝えたいことは山ほどあった。しかし、ナナセはこみ上げてくるもの全てを、次の一言に込めた。
「…………ありがとう。おばあちゃん」
……ナナセは部屋を後にし、戦意無きワカヒコの案内の下、---と共に屋敷の外へと出た。
「……!ナナセさん!よかった、二人とも無事だったみたいね!」
そこには、すでに外へと案内されていたリッカの姿があった。
「……あの。ヒノエ先輩と---さんに……聞いてほしいことが、あって」
ナナセは大きく深呼吸をする。
「……私は、人と関わるのが、とてもニガテで、辛いことだと思っています。でも、私は……二人のことが、好き……みたいです」
小さな声で、しかし力強く、ナナセは続ける。
「たくさん迷惑をかけると思います。足を引っ張ってしまうことも、あると思います。それでも……それでも私は、あなた達と関わっていたい。だから…………友達、に……なって、くれませんか……?」
自分の想いを素直にぶつけるナナセ。すると、リッカは---と一度顔を見合わせたあと、ナナセに手を差し伸べる。
「親しい人や友達は、あたしのことをリッカって呼ぶの。だから、リッカって呼んで」
その手を、ナナセはゆっくりと、しっかりと握った。
「は、はい。リッカ……先輩」
『…………あう。私は、ナナセさんのお友達にはカウントされないのですね……』
「え……?あ、そ、そんなことないよっ!」
しょんぼりする子狐のカサネを、ナナセはぎゅっと抱きしめる。その光景にナナセの成長を感じた---は、彼女達を元の世界へ送り届けたあと、次の世界へと旅立ったのだった……。
幽怪ストレンジャー ~逢魔ノ刻編~完
story by 間宮桔梗
story by 間宮桔梗
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