最果ての天雷_プロローグ
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story by 間宮桔梗
216:最果ての天雷 暗雲の光陰
開始前
森の中で出会ったのは……!?
プロローグ
「うわっ、びっくりしたなぁ……なに君?急に現れたけど、どんなイリュージョン使ったんだい?ああ、もしかして娯楽小説で流行りの異世界転生ってヤツ?選ばれし勇者なの、君?」
***の前にいたのは、眼鏡をかけている耳の尖った青年。片手にはボウガンを持っているが、その表情に敵意らしいものは感じられない。
「へぇ、***っていうんだ。変な名前だねぇ。っと、僕は狩人のエゼルって言うんだ。エルフ族のノア種の一人で……って言っても、ノア種以外のエルフなんてこの大陸には存在しないんだけどさ」
互いに軽く自己紹介を済ませ、***はここがどんな場所なのかをエゼルに尋ねる。
「そうだねぇ。簡単に状況を説明すると、ここは巨大な浮遊大陸の上にある森の中だ。ここには僕たちノア種以外の人類は存在していない……はずなんだけどさぁ。なんかキナ臭いことになってるんだよね、今」
エゼルは気だるげに、斜め上に人差し指を伸ばす。視線をやると、空に向かって細い黒煙が舞い上がっているのが見えた。
「あの煙、普通の煙って感じじゃないんだよ。煙が上がる直前、大きな落下音みたいなのがしたし、突然現れた猫女に襲われたりするし……で、僕は族長にこの森の守衛を任されてるからさ、調査をするためにあの煙の上がっている場所に向かおうと思ってるんだ。ここまでオッケーかい?」
……状況は理解できたが、エゼルは一人で向かうつもりなのだろうか?***はそれとなく彼に尋ねる。
「ノア族ってのは平穏思考な連中ばかりでさ。良い言い方をすれば平和主義、悪い言い方をすれば平和ボケしてるんだよ。だから、僕みたいに戦う力を持ってるヤツはゼロに等しいし、危機意識も持っていない。むしろ、力を持ってるせいで周りから蔑まれて、誰も僕の話なんか聞いてくれな…………」
そこまで言うとエゼルは発言をやめ、自分をごまかすように眼鏡の位置を正す。
「まぁ要するに、僕には友達も仲間もいないってこと。とはいえ、この非常事態に一人で行動を起こすってのもしんどいからさ……君、よかったら僕と一緒に来てくれないか?」
ノア族のエルフの青年エゼル……彼が内に秘めている力に何か大きな可能性を感じたかいちょは、ゆっくりと首を縦に振った。
「……君、よく変わり者って言われない?いや、まさか了承してくれるとは思わなかったからさ。まぁいいや。それじゃ早速頼みたいことがあるんだけど…………左に跳んでくれないかな?」
エゼルの言葉を耳にすると同時に危険な気配を察知した***は、彼の言われた通り左へと跳ぶ。結果、***はこちらへ飛んで来ていた巨大なブーメランによる攻撃の回避に成功した。
「チッ……避けられた。ムカつく」
ブーメランを投げた猫耳少女は、心底イラついた眼差しでエゼルを見据える。
「お前、モルガナ様をどこにやった?お前からはモルガナ様のフルーティな香りがする。お前がモルガナ様を隠したんだろ?」
「……あのさぁ。さっきも言ったけど、知らないって言ってるだろう?僕はそのモルガナ様とやらに会っていない。だから隠し様がない。理解してくれた?こじつけもいい加減にしてほしいよね」
「ウソだ!お前の懐からモルガナ様のフローラルな香りがするのが何よりの証拠だ!さぁ、モルガナ様を返せ!あのお方に指一本でも触れたら、このケット・シーがお前達ノア族を一人残らず抹殺してやる!」
「血の気が多い猫女だねぇ。異世界勇者***君といい、君といい……今日は奇妙な連中と会ってばかりだ」
余裕げな表情でそう言ったあと、エゼルは***にそっと耳打ちする。
「……***君。まずは、あの煙が上がっている場所の近くまで行こう。村に被害を出したくないし、できればこのことは村人に勘付かれたくないからさ。ああ、それともう一つ」
エゼルは懐から肉球の刺繍のついたポーチを取り出し、***に差し出す。
「これ、預かっててもらえないかな。森で拾った物なんだけど……多分、あの猫女が文字通り嗅ぎ付けた“モルガナ様の香り”って、このポーチからしてるんだと思うんだよね。君が持っていてくれれば安全だと思うし」
***は頷き、エゼルからポーチを受け取った。
「それじゃあ、面倒だけど行くとしようか。よろしく頼むよ、異世界勇者***君」
準備ができたのなら向かおうか。
まぁ、とりあえずは君のペースに合わせるさ。
まずは500kmぐらい走るとしようか。
って君、意外と余裕そうだねぇ?
これ、預けておくよ。
僕だと壊しかねないからね。
肉球ポーチを1個手に入れました。
よし、行こうか。
君の実力、じっくりと拝見させてもらうよ。
まぁ、とりあえずは君のペースに合わせるさ。
まずは500kmぐらい走るとしようか。
って君、意外と余裕そうだねぇ?
これ、預けておくよ。
僕だと壊しかねないからね。
肉球ポーチを1個手に入れました。
よし、行こうか。
君の実力、じっくりと拝見させてもらうよ。
>>目的地へ向かう<<
エピローグ
「無駄だぞ!お前の矢など、私の目をもってすれば容易にいなせる!」
「お、おいおい……冗談だろう?まさか、ここまで強いなんて予想外だよ……く、くそおっ!」
苦し紛れな様子で放ったエゼルの矢を、ケット・シーは大きなブーメランで受け止める。
「フン、ザコめ。こんなよわっちい矢など、避けるまでもない!」
「…………あ、やっと武器で僕の矢を受け止めてくれたね。やぁ、長かった長かった」
すると突然、ケット・シーのブーメランに刺さった矢がバチバチと放電を始める。
「なっ、こ、これは……ぐがあああアッ!?」
エゼルの左腕から放たれた電撃は、真っ直ぐと矢の方へと誘電する。そして、感電したケット・シーは鈍い悲鳴を上げながら、その場に倒れた。
「その矢尻は特別性でさ。僕の『雷衝魔法(エクレール)』によって放たれる電撃を引き寄せる性質が……って、もう聞こえてないか」
気絶したケット・シーをひとまず縄で縛ったあと、エゼルは背後の木陰に視線を送る。
「……ほら、そろそろ出てきなよ。この猫女が言ってた“モルガナ様”って、君のことなんだろ?」
その言葉に反応し、一人の少女が木陰から姿を現す。
「……申し訳ございませんでした。どうしても彼女に見つかるワケにはいかなかったものですから。そして……貴方のお力、確かに拝見させて頂きました。やはり、貴方達の力が私には必要のようです」
少女は丁寧な佇まいでエゼルと***の前までやって来ると、突然頭を下げた。
「お願いします。どうか、このモルガナと一緒に兄の野望を止めてください!兄はこの大陸を破壊し、やがては世界の全てを滅ぼすつもりです……でも、私一人では兄を止められなくて」
「ちょいちょい、待ちなって。急展開すぎて僕も***君もついていけないんだけど。ワケありなのはわかったからさ、順を追って説明してくれよ」
し、失礼しました……と赤面しながら、モルガナは自分の置かれた境遇を語り始める。
「……なるほど。で、君は兄の凶行を止めるために、強い人を捜してこっちの大陸までやって来たってことか。その道中で、兄の部下であるこの猫女に追われていた、と……でもさぁ、この浮遊大陸を丸ごと破壊するってのは、さすがに現実味がないんじゃない?」
彼女の話によると、彼女の兄は何らかの目的で、ノア族の住むこの浮遊大陸を破壊しようとしているらしい。
「ウ、ウソは言っていません。私の住んでいた場所は、ここよりも遥かに文明が進んでいます。兄がどのような方法で破壊の限りを尽くすのかは私にはわかりませんが……兄は有言実行の男。こうしている今も、世界を破壊するための準備を進めているはずです」
「そりゃハタ迷惑な話だねぇ。まぁ信じる根拠もないし、そもそも僕には関係ない……と、言いたいところだけど、その前に一つ確認だ。君は……エルフなのかい?」
モルガナの尖った耳……それはエゼルと同じように、エルフという種が持つ特有の耳だった。
「……はい。私はエルフのアルドという種族の一人です。ですが、元々はあなた達ノア族とアルド族は一つの同じ種だったようです。私も詳しくは存じ上げませんが、何らかの理由でエルフはその二つの種族に別れたらしいのですが……」
その言葉に何か思うところがあったのか、エゼルは少し考える仕草をしたあと……首を縦に振った。
「わかった。気になることができたし、ひとまず僕は君の言うことを信じることにするよ。ただし、君の兄を止めるかどうかは、まだ判断しかねる。まずは君の故郷へ行き、事実の確認をする。それでいいかい?」
「……ッ!は、はい!ありがとうございます!眼鏡エルフさん!」
「え、バカにしてんの君?ねぇバカにしてるでしょ?今の結構イラっときたんだけど。ねぇ聞いてる?」
世界崩壊の可能性。それに挑もうとするエゼルに英雄の気質を感じ取った***もまた、ひとまずエゼルの旅に同行することにしたのだった。
217:最果ての天雷 掟壊の光陰
プロローグ
森の果てにある、黒煙が上がっている場所へ辿り着いたエゼルとモルガナと***。すると、そこには一人の少女が立っていた。
「ああ、ミンディ……失礼、族長か。こんなところで会うなんて奇遇だね。この辺、いつもは人なんか訪れないのに。もしかして、僕が来るまでここでスタンバってたとか?」
「……どこへ行くの、エゼル。まさか、この機械に搭乗して、大陸から飛び立つつもり?族長としてそれは認められない」
「へぇ、その煙を噴いてる物体はキカイって言うのか。ってことは、族長は最初から知ってたってことかい?ノア族の住む大陸とは異なる文明を持つ大陸が、この先にあるってことをさ」
黒煙を巻き上げていた物の正体は、機械で作られた小型飛行船……どうやら、モルガナはこれに乗ってこちらの大陸へ渡ってきたらしい。
「そうだ、族長に聞きたいことがあったんだよ。ほら、僕って幼少の頃に森で一人で死にかけていたところを族長に拾われたって話だったろ?そして、僕はノア族のエルフとしてここで育った」
けど……と、エゼルは続ける。
「僕は他のノア族と違って“戦う力”を持っていた。それに、僕の身体年齢は気が付けば族長を追い抜いてしまっている。つまり、僕はノア族よりも成長が速い……これってさ、僕は外から来たエルフって証拠になるよね?」
「……安直すぎる、エゼル。ノア族の成長にも個人差はある。族長として断言する」
「なら“戦う力”の方は?飛び抜けた身体能力に雷衝魔法……こんな妙な力を持ってるのは、この大陸で僕だけだ。なにより、この力のせいで僕は他の連中から気味悪がられて、今も白い目で見られてる。仲間意識が強くて争いを好まないノア族がここまで僕を嫌悪するのは、僕がノア族じゃないから。違うかい?」
「……違う、エゼル。少なくとも、私はあなたに嫌悪感を持っていない。だから、戻ってきて。族長命令」
「あのさ。それ、僕がノア族じゃないってことの否定になってないよ。ていうか否定しないってことは、僕の言ってることをちゃっかり肯定してるってことになるんじゃないかな?その辺、どうなんだい?」
言葉巧みに切り込んでいくエゼルに、ノア族の族長ミンディは少し罰の悪そうな顔をする。
「……とにかく、エゼル。この先へ向かうということは、あなたは村の掟を破るということになる。族長として、それだけは見過ごせない。この魔法秘薬を使って、力ずくでもあなたを止めてみせる」
「それは遠慮願いたいね。僕、他のノア族のことは特に好きってワケじゃないけど、族長のことは好きだ。可能であれば戦いたくない」
その言葉に、ミンディは耳をピクリと動かす。
「…………好き?私の、ことが?」
「君が僕を拾ってくれなければ、僕はガキの頃に死んでいたからね。恩は感じているさ。僕が僕のことを蔑む連中のために村の守衛をしてるのは、他でもない君がいるからだよ。けどさ、僕はもう外の世界を知ってしまった。そして、外の世界に行けば僕が何者なのか、なぜ生まれたのか……それがわかるかもしれないんだ」
前半の言葉には一瞬だけ頬を紅くしたミンディだったが、後半の言葉を聞いた瞬間、彼女は再び険しい表情になる。
「……なら、なおのこと行かせられない、エゼル。この先は危険……同胞を見殺しにすることはできない。なんとしても、あなたをここで止めてみせる。族長として」
どうやら、互いに引く気はないようだ。
「……しかたがない。***君、モルガナ君、少し下がっててくれ。ここは僕が一人でなんとかするからさ」
位置登録?へぇ、面白そうじゃん。ガンガンやっていこうよ。
森の果てまで来たのは久しぶりだね。
争いを好まない族長が挑んでくるとはね……。
一致団結、か。縁のない言葉だけど、嫌いじゃないな。
人が多い場所は苦手なんだけど、そうも言ってられないか……。
チャンスは自分から積極的に射抜くものだ。違うかい?
止まらずに進もうじゃないか。もう、賽は投げられたんだからさ。
こんなところで立ち止まっている暇はないからね。
さて、行こうか!
>>突破する<<
エピローグ
「……どうしても行くの?エゼル。掟を破ったら、もう二度と村には戻って来られない。それでもいいの?」
その問いに、エゼルは真剣な面持ちで答える。
「族長。僕はずっと悩んでいたんだ。なぜ、僕には他の者にはない力があるのか。なぜ、僕はここにいるのか。どこから来て、どこへ行くのか……僕は、どうしてもその答えを手に入れたい」
それに……と、エゼルは続ける。
「僕がいなくなれば、君が僕を拾ったことを悪く言う連中も黙るはずだ。君がそのことで苦しんでいたのも、君が僕の悪評を取り除こうとしてくれていたのも十分知っている。だから……」
「……違う、エゼル。私は、あなたを村に招き入れたことを後悔していない。それに、あなたがここからいなくなってしまうことの方が、もっと苦しい。でも……」
俯きながら話していたミンディは顔を上げ、その瞳をエゼルへと向けた。
「あなたが自分の存在について悩み続けることの方が、もっともっと苦しい。私も、あなたが好きだから」
親代わりとしての言葉なのか、異性としての言葉なのかはわからない。しかし、ミンディはそれ以上何も言わず、ゆっくりと道を開ける。
「すまない、ミンディ。恩に着るよ」
族長としてではなく、ミンディという一個人に感謝を述べながら、エゼルは彼女の横を通り過ぎる。すると……
「……エゼル。私があなたを拾った時、あなたの近くにはこれと同じような機械の船の残骸があった。だから、あなたは別の浮遊大陸からここへ送られたんだと思う。今まで隠していて、ごめんなさい……」
知ってしまえば、エゼルはどこかへ行ってしまうのではないか……ミンディは不安のあまり口にできなかったその事実を、エゼルに伝える。
「これが、私の知っていることの全て。でも、忘れないで。あなたが何者であろうと、たとえ掟を破ろうとも……私は、あなたの帰りを待ってる。族長としてではなく、私個人として」
そう言うと、ミンディはゆっくりとその場をあとにした。
&color(#0000ff){「……待たせたね、***君、モルガナ君。それじゃあ早速、この機械の飛行船とやらに搭乗して……って、これ煙上がってるけど、本当に大丈夫なのかい?」
「問題ありませんよ、エゼルさん。こういうのは軽く蹴っ飛ばしておけば直りますから。えいっ……ほら、予想通り動きました!」}
「…………いや、不安しかないんだけど。てかモルガナ君って、意外とアクティブなんだね」
先行き不安な旅路ではあるものの、エゼル達は小型飛行船に搭乗し、モルガナの故郷がある浮遊大陸へと向かうのだった……。
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