灰徳街の錬金術士 プロローグ
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237:灰徳街の錬金術士 -直撃のMETEOR-
プロローグ
「おおおっ!?お、お前は我が盟友、***ではないか!よもや、このような無人都市で再会を果たすことになるとは思わなかったぞ!」
そして、***の前に現れたのは……以前、深霧街という場所で***と共に冒険をした自称天才錬金術士、マグヌスだった。
「いや、皆まで言うな。お前には何か重要な使命があるのだろう?そして、その使命を果たすために、秀才にして英才にして天才であるこの俺様の力を欲している……ゆえに、お前は俺様の前に現れた!そうなのだろうっ!?ヌハハハ!」
再会の喜びを全身で表現しながら、マグヌスは高笑いを上げる。
「深くは聞かんが、お前が“世界に危機が訪れた時に現れる存在”であることは、なんとな~くではあるが理解しているつもりだ。となれば、おそらくお前と俺様の向かうべき場所は……あの煙が上がっている地点に違いあるまい!」
そう言うと、マグヌスは遥か北の方へ人差し指を向けた。そこには、ぼんやりとした細い煙が空へ向かって立ち昇っているという、妙な光景があった。
……マグヌスの話によると、数日前、あの煙が上がっている地点に隕石が落ちたらしい。そして、様々な機関の者達が隕石の調査に赴いたが、誰一人として帰って来た者はいないのだという。
「錬金術協会の会長、ティファレトを覚えているか?先日、ヤツも調査へ向かい、姿を眩ましたらしい。まぁ、あのアホちんのことはわりとどうでもよいのだが……我が愛娘であるところのビゼが、な。隕石が落下した日を境に、悪夢にうなされるようになったのだ。その影響か、徐々に体調を崩し始めてな」
彼の娘……ビゼとは、マグヌスが亡き妻との約束を果たすために錬成したホムンクルスの名前。かつて***は、攫われたビゼを救い出すためにマグヌスと共に戦ったことがある。
「俺様はビゼを救う手掛かりを得るため、隕石が落下した地点へ向かおうとしているのだが……む、そうかそうか!お前もついてきてくれるか!感謝するぞ、お前がいれば百人力だ!よし、そうと決まれば」
「――パパ。やっと、追いついた」
その時、一人の少女の声が***とマグヌスの耳に入る。
「なぬっ!?ビ、ビゼ、なぜお前がここに……?12号と二人で、ラボで留守番をしておくよう言っただろうに……」
「――パパの方こそ、図書館にしばらく厄介になるって言ったのに、こんな遠いところまで……。私のために、隕石の調査をしに来たんだよね?お願い、私もつれていって。なんだか私……あの隕石に、呼ばれているような気がするの」
「ダ、ダメだダメだ!隕石の調査に向かった者達が悉く行方不明になっているのはお前も知っているだろう?そんな危険な場所に大事な娘を連れていけるワケがない。おとなしくラボに戻るのだ。12号もお前のことを心配して……」
と、マグヌスが言いかけた時。どこか申し訳なさそうな様子で、物陰からもう一人の少女が姿を現す。
「あう……。ご、ごめんね、マグヌス。その、私も……ついてきちゃった」
「な、なぬーーーっ!?」
獣の体を持つこの少女の名は、きまいら12号。以前の冒険でマグヌスの仲間となった、人間ベースの合成獣(キメラ)だ。
「ぐぬぬぅ……。やはり、家政婦を呼び戻して二人を見てもらうべきだったか……。と、とにかく帰るのだ!断言するが、お前達にもしものことがあったら、俺様は間違いなく立ち直ることができんっ!」
「――パパ。それは、私達も一緒」
「……私も、ビゼと同じ意見なの。それに、私達はマグヌスにはない力がある。だから、お願い。少しでもあなたの力に……あっ!ま、待って、マグヌス!」
二人の静止を無視し、突然走り出すマグヌス。慌てて、***もマグヌスに続く。
「い、いかんいかん。俺様のために尽くそうとしてくれる二人の想いに、思わず滝のような涙を流すところだったぞ……。しかし、やはりあの二人を危険な場所にはつれていけん!***、ここはひとまず逃げるぞ!二人が諦めてくれるまでな……ッ!」
こうして***は、マグヌスと共に無人都市を駆けることになったのだった……。
>>都市を駆ける<<
行くとするか。
なぁに、この天才がいれば安全だ!
まずは500kmほど走るとするか。
フッ、トレーニングの成果を見せてやろう!
こいつを持っていてくれ。
お前なら安心して託すことができるからな!
親子の傘を1個手に入れました。
では行くぞ!
ヌハハハハハ!!
なぁに、この天才がいれば安全だ!
まずは500kmほど走るとするか。
フッ、トレーニングの成果を見せてやろう!
こいつを持っていてくれ。
お前なら安心して託すことができるからな!
親子の傘を1個手に入れました。
では行くぞ!
ヌハハハハハ!!
都市を駆ける
エピローグ
両手を膝につき、マグヌスは息を大きく切らしながら***の名を呼ぶ。
「はぁ、はぁ……俺様はな、こう見えて毎日しっかりとトレーニングをしているのだ。『学者の人って運動できなそう』といった、世間に根付いているくだらん固定観念を徹底的に否定できるぐらいには『動ける錬金術士』を自称しているつもりだ」
マグヌスは肩を震わせながら、苦虫を噛み潰したかのような顔で続ける。
「天才級の運動神経を持っている俺様の運動能力をもってしても、こうして息が上がってしまうほどの距離を俺達は走った。だというのに……俺様よりも年下の少女達はが息一つ切らしておらんのは、なぜにホワイ!?」
ビシッ、とマグヌスが指を差した先には、息一つ切らしていないビゼときまいら12号の姿があった。
「――私、ホムンクルスだから。普通の人間より身体能力は高いし、丈夫にできてる。というより、パパがそういう風に私を作ってくれた」
「え、えっと。私も人間じゃなくてキメラだから。マグヌスの十倍ぐらいは体力あると思う……よ?」
……どうやら、二人は意地でもマグヌスについていくつもりのようだ。
「ぬぬぅ……。身内が逞しく育っているのは喜ばしいことではあるが、しかし今回ばかりは……」
腕を組みながら頭を捻るマグヌス。そんなマグヌスを見たビゼは、きまいら12号と目を合わせたあと、首を小さく縦に振り……再び、マグヌスへと視線を向ける。
「――パパ。私が一番頼りにしてる人が誰か、知ってる?」
「む?い、いや、パッとは思い浮かばぬが……」
「――鈍いんだから。そんなの、パパに決まってる。私、知ってるよ。この世界で最も安全な場所はパパの傍だって。だから……ね、連れてって?お願い」
頬をやんわりと紅くしながら、上目遣いで父親リスペクトな言葉を口にするビゼ。そんな彼女の姿を見たマグヌスは、電撃が走ったかのような唖然とした顔を浮かべ……
「ヌ、ヌヌヌ…………ヌッハハハハ!ま~~ったく、しょうがない子だなぁお前は!まぁ?そこまで言うのであれば?ファザー的には?つれてってやらんでもないぞ?ぐらいのテンションではあるがなァ!!」
高笑いを上げるマグヌス。そんな彼の傍らで、ビゼときまいら12号は静かにハイタッチをするのだった。
「ただし!隕石の影響かどうかはまだわからんが……ビゼ、お前は体調があまり芳しい状態ではない。もし、お前の体に異常事態が発生したその時は、お前を連れてすぐに家に帰るからな……。12号、ビゼから目を離さないよう頼むぞ」
「……うん。まかせて、マグヌス」
マグヌスの力になれることがよっぽど嬉しいのか、きまいら12号は尻尾を振りながら屈託のない笑顔を見せる。その表情に、かつて自らの体の変化を嘆いていた時に覗かせていた負の感情は感じられなかった。
それに、ビゼも感情が豊かになった。あと、マグヌスはだいぶ親バカになったな……と、***は懐かしい気持ちになりながら感慨に耽る。
「お、おい、***!なんだ、その優しい目線は!?言っておくが、お前を頼りにしているからこそ、ビゼの同行を許可したのだからな?しっかりと頼むぞ、友よ!」
やや照れくさそうにそう言うと、マグヌスはビゼときまいら12号……そして***と共に、隕石の落下現場へと足を進めていくのだった。
「い、いかんいかん。俺様のために尽くそうとしてくれる二人の想いに、思わず滝のような涙を流すところだったぞ……。しかし、やはりあの二人を危険な場所にはつれていけん!***、ここはひとまず逃げるぞ!二人が諦めてくれるまでな……ッ!」
こうして***は、マグヌスと共に無人都市を駆けることになったのだった……。
238:灰徳街の錬金術士 -誘引のPYLON-
プロローグ
未完成の都市を抜け、隕石が落下した現場に辿り着いたマグヌス達。すると突然、マグヌス達の周囲を灰色の不思議な霧が包み込んだ。
「はいはい、いらっしゃい。えーっと、ひぃふぅみぃ……なるほど。次のお客様は四人組、と」
そして、霧の奥から現れたのは、どこか無機質な雰囲気を漂わせる一人の少女……。
「お客様だと?こちとら招かれた覚えはないが。というより、貴様……もしや、人間ではないな?」
異質な雰囲気を纏う少女の存在に疑問を覚えながらも、マグヌスは冷静に言葉を投げかける。
「あら。会って数秒でそれを見抜いたのは君が初めてだよ。ふぅん、やるじゃん」
「ヌハハハ!褒めても何も出ぬぞ、正体不明の少女よ!ゼリービーンズ食うか?」
「いらない。そんなことより、さっさとついてきて。私、ヌルって言うんだけど、オディギアデバイス……あー、この文明の言葉で言うなら、案内人の役割を担ってる身だからさ。私の大元にあたる存在がいる世界に、君達を案内するのが仕事なんだよ」
淡々と要件を語る、ヌルと名乗った少女。そんな時、きまいら12号がやや不安げな表情で、マグヌスの白衣を軽く引っ張る。
「ね、ねえ、マグヌス。この人、なんだか……少し、ビゼに似てる気がするの。もしかしたら、ホムンクルスに近い存在なのかも。といっても、ビゼと違って感情みたいなものは感じられないけど……」
「――うん。それに、私……夢の中で、この人を見た気がする」
きまいら12号とビゼの見解に、マグヌスは眉をひそめる。
「ビゼよ。その夢というのは、隕石が落下してから見るようになった、お前を苦しめている悪夢のことで間違いないな?」
胸騒ぎを感じているのか……ビゼは小さな両手で胸をおさえながら、その問いを肯定した。
「……ふむ。となると、こいつが隕石に関係している者であることはほぼ確定というワケだな。加えて、ヤツの口ぶりから察するに、行方不明になった者達はこいつの“案内”とやらに応じた可能性が高い。おい、ヌルと言ったな。貴様、俺様達をどこへ案内しようというのだ?もっと情報を寄越せ」
「んー?いや、さっき言った通り“私の大元にあたる存在がいる世界”に連れていくつもりだよ。まぁ、仮にその存在をマスターと称するなら、マスターの作った世界に案内しようとしてる……ってとこかな」
やや気だるげに、ヌルは続ける。
「マスターは今、その世界である実験を行っていて、人手を求めているんだよ。と言っても、別に人体実験とかしてるわけじゃなくて。あくまで人間そのものに興味を示しているっていうか。危険はあるけど、下手なことをしなければ命を落とすようなことはない……らしいよ」
その言葉を受け、マグヌスはきまいら12号に視線をやる。すると、きまいら12号は首を縦に振った。
きまいら12号は並外れた感覚機能を有しているため、相手の言動や表情を見れば、言葉の真偽を容易に見抜くことができる。そんな彼女が頷いたということは、ヌルはウソを言っていないということ……。
「……いいだろう。ビゼを苦しめる元凶がそこにあるというのなら、行くしかあるまい」
「話が早くて助かるよ。それじゃ、君達四人を一つのチームとして、マスターの世界に案内するよ。代表者の人、名前教えてもらっていい?」
「ヌハハハ!そんなもの俺様以外にいるまい!そして、俺様の名前はマグヌス!超天才にして超最強の錬金術士の名だ!覚えておけ、ヌルとやら!」
「はいはい、マグナムさんね。じゃあチームマグナムの皆さん、ついてきて」
「っておいコラおい!さっそく間違えているではないかヴァカ者!」
というマグヌスの怒号を無視し、ヌルは足を動し始める……が、その時。ヌルの足がピタリ止まる。
「……あ。ごめんマキシムさん。案内する前に、一つ条件があるのをすっかり忘れてた。その条件を満たしているかどうか、審査しなきゃいけないんだよね」
命令に従い、レグナスの部下達は積み荷の一部を解くと、その中から鋭利で巨大な碇を取り出し、レグナスへと渡す。どうやら、この碇が彼の武器のようだ。
「マ・グ・ヌ・ス・だッ!わざとだろう今のは!?えぇい……それで、その条件とやらは何なのだ?」
ヌルは振り向くと同時に……懐の長剣を抜いた。
「強いこと。それが、たった一つの条件だよ」
「……むッ!?来るぞ、お前達!注意しろ!」
>>審査される<<
天才への道は位置登録から始まるという、俺様の名言を知らんのか?
何やら妙ちくりんな気配が漂っているな。くれぐれも俺様から離れるなよ。
この天才が負けるワケないだろう!ヌハハ!
強者同士が力を合わせた時に起こるケミストリー……興味があるぞ!
天才ではない者達よ!この天才が導いてやろうではないか!ヌハハ!
俺様がチャンスを掴むのではない。チャンスが俺様を掴みにくるのだ!
錬金術の未来は輝かしい!ゆえに前進あるのみだ!
俺様を審査するとはいい度胸だ。その網膜に、しっかりと俺様の天才っぷりを焼き付けるがいい!
エピローグ
マグヌス達を認めたヌルは長剣を鞘に納めながら、聞き覚えのある名をポツリと口にする。
「なっ……!き、気に喰わん。この俺様がティファレトごときと一緒にされるとは……!というよりヤツの名前は覚えていて、なぜ俺様の名前は覚えんのだ!?」
……どうやら、マグヌスは名前を間違えられたことをまだ気にしているようだ。
「それじゃあ、ちゃんとついてきてね。この霧はもうマスターの世界……“灰徳街”の一部みたいなものだから、道に迷うと大変なことになるよ。多分」
どこか気の抜けた声色でそう言うと、ヌルは青い炎が入ったカンテラを片手に歩き始めた。
「ところで、ヌルよ。お前の強さはなかなかのものだった。ならば、お前のお眼鏡に適わなかった連中もいたはずだ。そいつらは一体、どこへ行ったのだ?」
その背中を追いながら、マグヌスはふと浮かんだ疑問を言葉にする。
「…………。さあね。私はあくまでマスターのデバイスだから。それ以上の存在にはなり得ないし、それ以下の存在にもなり得ない。語りえぬことに関しては沈黙せざるを得ないんだよ、マリモさん」
「……せめて文字数は守れ。では、質問を変えよう。お前のマスタ―とやらは、一体何者なのだ?」
「何者……って言われても。外の世界だと、マスターは宇宙から降ってきた隕石ってことになってるだっけ。なら、とりあえずはその認識で問題ないよ。もっとも、マスターは君達が思っている以上の存在だと思うけどね」
いまいち要領を得ない返答に少し苛立ちを覚えながらも、マグヌスは続ける。
「最後に一つだけ聞かせろ。俺達は、元の世界に戻ってこれるのだな?」
「…………。君達次第だよ。チームマグヌスの皆さん」
これ以上、問答に応じるつもりはない……。背中でそう語りながら、ヌルは少しペースを上げた。
「ビゼ、12号、***よ。くれぐれも俺様からはぐれるなよ。ここから先は何が起こるかわからんからな」
そう言うと、マグヌスはビゼの手を優しく握った。すると、ビゼは優しげな微笑を浮かべながら口を開く。
「――パパ。ちょっと楽しそう」
「む。そ、そんなわけあるかっ。***がいてくれるとはいえ、こんな危険な場所にお前と12号を連れてきてしまったことを、少しばかり後悔しているというのに」
「――うん。パパが私達のことを一番に考えてくれてるのは知ってる。でも、二番目には錬金術士としての好奇心がある。そういうの、パパらしくていいと思うな」
……頬をぽりぽりと掻くマグヌス。どうやら図星だったらしい。
「……まったく。子というのは、親の知らないところで成長していくものなのだな。だが、お前の言う通り、俺様にとって一番大事なのはお前達だ。お前達に比べれば、俺様の好奇心など一ピコグラムの価値もないからな」
父親の顔をしながら、マグヌスはビゼと12号の頭をそっと撫でる。
「まあ、秀才にして英才にして天才であるこの俺様と、その友である***がいれば、安全度は200%以上なのだ!ビゼと12号は旅行気分で灰徳街とやらをエンジョイするといい!ヌハハハ!」
「…………おーい。はぐれちゃマズイって念押ししたんだから、ちゃんとついてきてよねー」
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