聖邪行神記_prologue
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258:聖邪行神記・巴 発起の章
プロローグ
「はあ、はあっ……。くそっ、待ち伏せとは卑怯な……!」
晴天の空の下。---の視界には、起伏のある尾根道で膝をついている和装の少女と、鋭利な武器を手にその少女を囲う、洋風の黒装束を纏った者達が映っていた。
「ウフフフ。まさカ、単独で突っ込んでくるバカがいるなんてネ。相応の実力は持っていたようだけれド、その消耗じゃア、さすがに多勢に無勢ってところかしラ?」
黒装束達を束ねているリーダーらしき女は、嗜虐的な眼差しを和装の少女に向ける。
「……ここまで、か。すまない、兄上。愚かなトモエは、敵に一矢報いることも、天命を承ることもなく……命を散らすらしい」
トモエと名乗った和装の少女は、悔恨の言葉を口にし、歯を食いしばる。そんな彼女を嘲笑いながら、リーダーらしき女は短剣を振り上げた。
「それじゃア、ザルキア様の解体タイムの始まり始まリ♪簡単には殺さないかラ、覚悟してネ」
――あの少女……トモエを失うわけにはいかない。直感的にそう感じた---は、二枚の栞から“桜の剣士”と“赤鶏(あかどり)の名を持つ槍の戦士”を呼び出し、トモエに加勢する。
「……!?まさカ、仲間が潜んでいたとハ……」
---が呼び出した二人は、黒装束達を次々と蹴散らしていく。その攻撃を助勢と判断したトモエもまた、自身の力で“刀を浮遊”させ、一気に敵をなぎ倒した。
「……チッ、仕方がないわネ」
状況を劣勢と認識したザルキアは、身軽な動きで跳躍し、山の奥へと姿をくらました。
「ま、待て!お前には聞かねばならぬことが……うぐっ」
……呼び出した戦士達を栞に戻したあと、---はトモエに駆け寄り、傷の手当をする。見たところ、傷はそこまで深くないようだ。
「すまない、助かった。貴殿は私の命の恩人だな。すぐにでも安全な場所に案内したいところなのだが……」
トモエは今、かつて自国が治めていた“聖地”へ向かっているらしい。
話によると、彼女の国が聖地として崇め治めていた地は、数年前に、先ほどのザルキアという女が所属する異邦者達のグループ“魔影団”に乗っ取られてしまったのだという。
「私には……どうしても一つ、成さねばならぬことがある。そのためには、ヤツらがいる聖地へ赴かねばならないのだ。もちろん、一人で挑むのが無謀であることは承知している。それでも、私は……」
どうやら、深い事情があるらしい。---は先ほど感じた直感を信じ、トモエに同行を求める。
「……!非常にありがたい申し出だ。どうも貴殿は、私よりも多くの修羅場を潜っているようだ。力を貸して頂けるのならば、とても心強い!」
……こうして---は、聖地へと向かうトモエと共に旅をすることになったのだった。
「ふわあっ!?や、やっと追いついたと思ったら、知らない人と一緒にまた走り出しちゃったし……!もう、トモエ先輩ってば、本当に脳筋なんだから……。そういうトコ、嫌いじゃないですけどね」
一方、その頃。気配を断ちながらトモエを追いかけていた、犬のお面を被った少女もまた、行動を再開したのだった……。
>>聖地へ赴く!<<
はああああッ!心を落ちつけて行くぞぉおおおおッ!
まずは500里ほど進むとしよう!
む、そうだ!これを預かってもらえないだろうか?
犬の面を1個手に入れました。
かたじけない!では、共に行くとしよう!
まずは500里ほど進むとしよう!
む、そうだ!これを預かってもらえないだろうか?
犬の面を1個手に入れました。
かたじけない!では、共に行くとしよう!
エピローグ
ザルキアを追い、かつ聖地の方へ向かいながら、---とトモエは山道を走り続けていた。
「警告ヨ!ここから先に来るのであれバ、容赦はしなイ!死ぬ覚悟があるのなら来るといいワ!」
そう言うと、ザルキアは身軽な動きで、素早く崖を下りていった。
「くっ、逃がすか!---殿、すぐに追いかけ」
「待~~ったぁ!トモエ先輩と、そこの栞の人!一旦止まってくださいなっ!」
トモエの足を止めたのは、先ほどからトモエと---を追いかけていた、小柄な少女だった。
「ツ、ツムギ……!まだ私を追いかけていたのか?」
「あっったりまえじゃないですか!あたしは帝様から、トモエ先輩の行動を記述する“記録係”の任を賜ったんですから。なのに、トモエ先輩ったら、すぐにあたしを撒こうとするんですからぁもう……」
「そ、それこそ当たり前だ。今回の遠征は、私一人のワガママだ。そんなことに、唯一の友人であるお前を巻き込むわけには」
「あーはいはい、そう言うと思ってましたよ~っと。いいですか、トモエ先輩。あたしの仕事は、先輩の行動を可能な限り記録して、帝様に報告すること!」
「あくまで仕事でついてきているんです!巻き込みたくないとか、友人だとか、そんな私情は関係ないんですってば。わかります??」
やれやれといった様子のツムギ。そんな彼女の言葉に、トモエは首を横に振りながら答える。
「……私はこれから敵地へ赴くのだぞ?私についてくるということは、命を危険に晒すということ。それはもう、“可能な限り”という領分を越えている!お前はもう十分に仕事を果たしたと、私は」
「あ、---さんって言うんですね!すみません、うちの脳筋先輩がご迷惑を……!」
「でも、あなたが一緒だと、あたしも助かります!危険な旅になるとは思いますが、あたしも力を貸しますので、よろしくお願いしますねっ!」
「っておい、ツムギ!な、なに勝手に話を進めているのだ!?いや、その前に……誰が脳筋だ誰が!」
「え~?そんな一人しかいないじゃないですかぁ♪先輩、あたしがいくら止めても、話を聞いてくれませんでしたし。だったらあたしだって、先輩の言うことなんか聞きませんよ~だ」
色々と理由をつけてはいるものの、ツムギはトモエのことを放っておけないようだ。
「……忠告はしたぞ、ツムギ」
「はいっ!しっかりと拝聴しましたよ、先輩♪」
「まったく……。だが、危険と判断した時はすぐに逃げるのだぞ?お前は私と違い、“天命”を承った身……国にとってなくてはならない存在だ。」
「くれぐれも、成すべきことを見失うなよ……行こう、---殿」
そう言い残し、トモエは一足先に崖を下りていく。
「……天命、天命って。それが命を投げ出す理由にはならないのに。ほんっと、脳筋なんですから」
虚ろな表情で独り言を口にしたあと、ツムギもまた、トモエの後ろに続くのだった。
259:聖邪行神記・巴 降魔の章
プロローグ
ツムギの忠告を耳に入れつつも、トモエは一人でどんどん先に進んでしまう。
「たとえここで果てたとしても、天命を受けていない私の命に価値などない。だからこそ、私は恐れなく進むことができる!」
「わあ……出た出た、先輩の脳筋理論……。そんなんだと本当に脳みそに筋肉がついて、美しい顔が変形しちゃいますよ?ただでさえ眉間に皺が寄ってるのに」
……天命。先ほどからトモエとツムギが口に出している言葉に、---はふと疑問を覚える。
「あら、天命をご存じないのですか?もしかして、---さんは外国のお方、とか……?」
「待て、ツムギ。このお方には、このお方の事情がある。詮索は野暮というものだぞ」
「うっ……。そ、それは確かに、トモエ先輩の言う通りです。失礼しました」
「わかればいい。ところで---殿。天命を知らないということは、貴殿は我々の国の人物ではないということだろうか?」
「めっちゃ詮索してるーーはいバカーーこの人バカーー!」
「ハッ!?し、しまった。つい好奇心が勝ってしまった……。失礼した、---殿!今のは忘れて頂きたい!」
赤面したあと、トモエはわざとらしく咳払いをする。
「そうだな……天命というのは、私達の国に住む者達全員が持つ、一種の異能のようなものだ。この国に生まれた者は、ある日を境に天から神託を受け、自身が国のために成すべきことを自覚するのだ。それこそ、早い者は幼子の時から天命を受け、遅い者でも十三、四になる前には、必ず天命が下りてくる」
「天命を受けると、あたし達の力の源である霊力が飛躍的に上昇して、その天命を果たすための力を授かるんですっ!あ、ちなみにあたしは“戦士達の行く末を記録せよ”という天命を受けています」
「私は今年で十八になる。が、未だに天命を授かっていなくてな……。過去の資料によると、この歳になって天命を受けなかった者は、過去に一人もいないらしい……」
「……で、トモエ先輩はそれをコンプレックスに感じてて、自分は国に貢献できないだの、いてもいなくても同じだの、こうなったら脳みそを筋肉にするしかないとかほざき始めて、捻くれちゃったわけです」
「最後のは口にした覚えがないぞ!?」
……どうやら、天命というものは、彼女達にとっては非常に重要なものらしい。
「あらあらぁ、そうなの。あなた、天命を授かっていないんだぁ?なら、私みたいな悪魔でも簡単に倒せちゃうかしらねぇ?」
すると、その時。一人の悪魔のような外観をした女性が、猫なで声と共に現れた。
「明けましておめ……じゃなくて、こんにちは。私、地獄で拷問官をやってるルベリトよ。っていうのも私、他人に苦痛を与えて、その苦痛を生命を維持するための魔力として取り込むっていう、困った体質の持ち主なのよぉ。決して趣味であなた達を痛めつけるワケじゃないから、そこ間違えないでね?」
それにしても……と、ルベリトは口元を歪ませ、笑みを浮かべる。
「天命を受けてない人を相手に苦戦するなんて、ザルキアちゃんの腕も落ちたものねぇ。まぁ、この間の鼠のお面を被った、素敵なおヒゲの凄腕剣士みたいなのがバンバン来られても困るけれども」
「……!鼠のお面を被った、素敵なおヒゲの凄腕剣士、だと?まさか貴様、その者に会ったとでも言うのか!?」
“素敵なおヒゲの凄腕剣士”という単語に思う節があったのか、トモエは声を荒らげると同時に、浮遊する剣の切っ先をルベリトに向けた。
「……?なんだかすごい食いつき……あ、そういえばあなたも同じお面を被ってるわねぇ。なるほど、もしかして……お兄さんだったとか?」
「答える義理はない!お前の方こそ、その者について何を知っているというのだ!?」
「こっちも答える義理ナッシ~ング。まぁ、なんにせよ、契約した人間の命令は聞かなきゃだから、そろそろ……」
薄気味悪いオーラを全身に滾らせ、棘の生えたこん棒を構えるルベリト。
「……フフフ。口じゃなくて、体を動かしましょうか?」
>>打ち倒す<<
修行は位置登録から始まる。我が国に伝わる有名な言葉だ。
このような神聖な場所で戦いたくはないのだが……。
魔影団は、悪魔を呼び出す力を持つという……。
陣形の力……見せてやろうではないか!
やはり、仲間というものも悪くない……。
絶好の機会……必ずものにしてみせる!
はあああああああッ!行くぞぉおお!!
油断せずに行くぞ!エピローグ
---達の力の前に敗れたルベリトは、この世界に顕現するための魔力を失い、あるべき場所へと強制送還されたようだ。
「……すごいですね、トモエ先輩。悪魔にも脳筋認定されてましたよ。おめでとうございます」
「う、うるさい!めでたいことなど一つもない!」
それにしても、トモエの技は見事なものだった。---は彼女の腕前を、素直に称賛する。
「何を言うか!貴殿の協力があったからこその勝利だ。天命無き私の力など、微々たるものにすぎん」
「出た出た、天命を理由にした過剰な謙遜……。それ、ほんとやめた方がいいと思いますよ~?」
「謙遜などしていない。---殿の力がなければ、間違いなく苦戦を強いられていただろう。うむ、やはり---殿は頼りになる」
「だーかーら。その頼りにしている---さんが、トモエ先輩のことを褒めているんですよ?先輩が自分の功績を否定するということは、---さんの気持ちを否定するってことになるじゃないですかぁ」
「……む。そう言われてみると、そんな気がしてきたかもしれない……わ、わかった。---殿!この勝利は、我々が力を合わせた結果だ。改めて、感謝する!」
「(チョロいな)」
……ツムギの小声が耳に入った気がしたが、---は聞かなかったことにした。
「……よし、いよいよ聖地に足を踏み入れるぞ。二人とも、準備はよいだろうか?」
「準備はできてますけど……そういえば先輩、目的があって聖地に行くって言ってましたよね?それ、教えてもらっていいですか?」
「愚問だな。奪われた聖地を、魔影団から取り戻す!そのために私は」
「愚答おつです。たった一人で、そんなことができるわけないじゃないですか」
「や、やってみなければわからないだろう!」
「トモエ先輩はちょっとおバカなところありますけど、戦局を見極められないほどおバカじゃありません。別に目的があるんですよね?」
「なっ……なぜそれを!?」
「チョロイな」
もはや小声ですらなかった。
「……先輩の兄上様のカタキを取るため、ですよね?」
「…………。答える義理はない」
「天命がないのなら、自分は国にとって必要ない。私怨で動いて命を失ったところで、誰にも迷惑はかからない。兄上様の復讐を果たすことで、少しでも敵組織の戦力を減らせるのなら、むしろ国に貢献できる……そんな感じのこと、考えてません?」
「ツムギガナニイッテルカワカラナイ」
「チョロすぎるな」
……とっくにわかっていたことだが、トモエは隠し事ができない性格のようだ。
「……ここまで来た以上、止める気はありません。先輩が魔影団と接触すれば、あたしも記録係として情報を得られます。国への貢献という意味では、先輩の行動は理にかなっています。ただ……命を捨てに行くのは納得できません。仲間として……それと、友達としても」
ツムギの本心を聞いたトモエは……目を閉じ、首を横に振る。
「ツムギ。私は生きることを諦めたわけではない。なぜ、私は生きているのか……。それを確かめるために、戦いに行くのだ」
それ以上は何も言わず、トモエは---とツムギに背を向け、山道を進み始めた。
「---さん。ああいうの、巷では“しぼうふらぐ”って言うらしいですよ」
「…………おい。聞こえているぞ、ツムギ」
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