荒野のリベンジャー_本編
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242:荒野のリベンジャー 銃口の行方
プロローグ
操縦席にはウェイドとバセットが乗り、顔を見られるとまずいエマは箱型の荷台の中に隠れ、***は荷台の扉を塞ぐように、車両の後部に腰を下ろす。
「ふふ、ごきげんよう!この辺りに出没するとは聞いていたけれど、まさかこんなに早く会えるなんて………フフ、賞金の女神様にでも愛されちまったかねぇ?」
……町を出てから半日ほど経過した頃。
突然、岩陰から踊り子のような女性と、その部下らしき者達が現れ、ウェイド達が乗っている馬車の行く道を塞いだ。
「……賞金稼ぎか。何の用だ?」
「あら?てっきり、すぐに身構えるものだとばかり思っていたけど。もしかして、おとなしく捕まってくれるのかい?それとも、このグロリアナから逃げられる自信があるのかい?」
……エマが荷馬車に隠れているという情報がどこかで漏れたのだろうか?不審に感じながらも、ウェイドは慎重に言葉を選ぶ。
「話が見えないな。結局、あんたの目的は何なんだ?」
「シラを切っても無駄さ。悪いけど、こっちにはCIA(Cowboy Independence Associationの略)から提供された事細かな情報があるからねぇ」
勝ち気な笑みを浮かべながら、グロリアナは一枚のメモを読み上げる。
「警戒心に満ちたコヨーテのような刺々しい目つき。鍛え上げられた筋肉質な腕周り。一種の暴虐さを孕んだ、轟々しくもしなやかな足周り。そして、服越しでありながらも自己主張の激しい胸部周りの肉付き……。ほらね、やっぱり私のターゲットで間違いないよ!」
グロリアナの発言に、ウェイドは眉をひそめる。
「バセット、確認させてくれ。今の情報は、どれか一つでも後ろのお嬢様に当てはまるか?」
「イージーなクエスチョンね。少なくともエマちゃんは刺々しい目つきはしてないし、上半身も下半身も年頃の女の子らしい体型よ。胸部の主張が激しいっていうのだけは当てはまっているかもしれないけど」
という二人の会話が聴こえたのか、後ろの荷台から「き、筋肉質じゃありません」「主張もしてませんからぁ!」というエマの慌てた声が響く。
「バット。今あの人がスピーチした内容は、むしろ…………」
「さあ、おまえ達!賞金首ウェイド・クロウをとっ捕まえな!一番働いたやつにはCIA(賞金稼ぎ達の会員制コミュニティーみたいなもの)からボーナスが出るよ!」
グロリアナの高らかな宣言と共に、周囲の賞金稼ぎ達は意気揚々とした様子で馬車を包囲する。そして、ウェイドは無表情でバセットと顔を見合わせたあと……
「……………………俺か?」
と、疑問の言葉を口にした。
「ストップ!彼は賞金首じゃないわ!シェリフの私が言うんだから間違いな」
「見苦しい言い訳はよしな!神父殺しをはたらいた大罪人が保安官と仲良く馬車を引いているわけがないじゃないか!ああ、なるほど……さてはアンタ、こいつの仲間だね?お前達、この保安官もどきもひっ捕らえちまいな!」
「も、もどき!?ショック……お姉さん、本物なのにぃ……」
……残念ながら、会話が成り立つ状況ではないようだ。
「……よくわからんが、狙われているのは俺らしいな。チッ、面倒だが仕方ない……。俺が正面をやる。かいちょは後ろを頼む。バセットはお嬢様を守ってくれ」
ウェイド達は賞金稼ぎの集団を迎え撃つため、戦闘態勢に入るのだった……。
>>迎え撃つ<<
ランキングに関係なく、一定数の【アウトローメダル】を集めれば役立つアイテムが貰えるらしい。
お前の首にぶら下がっている賞金を頂く……!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるんだとよ。
荒野を旅していれば「土地力」も溜まっていくだろう。
……まぁ、時には連携も必要だろう。
妙な恰好にならないことを祈るのみだ……。
強い敵を倒せば多くの【アウトローメダル】が貰えるらしい。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれる。
積極的に活用すべきだろう。
クエスト?
金になるのならやっても構わないが……。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれる。
積極的に活用すべきだろう。
クエスト?
金になるのならやっても構わないが……。
トリガーを引く!
酒言乾杯バトル
戦闘の末、ウェイドと***はグロリアナ達を無力化することに成功した。
「それにしても……見事な戦いでした。まさか、一人の命も奪わずに撃退してしまうなんて」
一息ついたあと、エマはウェイドが肩に受けた掠り傷を治療しながら、改めて彼の実力に感心する。
「仕事柄、敵は生け捕りにすることが多いからな。殺さずに相手を制する手段は心得ている。それに、戦いの中にも守るべき矜持がある。罪のない者の命を奪うようなやり方は……好きじゃない」
「戦いの中にも、守るべき矜持がある……ですか。ふふ、なんだかウェイドさんらしいです」
「……?どういう意味だ?」
「素敵な言葉、という意味です。はいっ、終わりました」
休憩を終え、再出発を試みようとした時……。バセットは足元に一枚の紙が落ちていることに気が付く。
「ウェイド!これ、あの賞金稼ぎが落としていった手配書……ほら、君の人相書きが描かれてるわ。発行日は……今朝ってことになっているわね」
「……神父殺しがなんだのと言っていたな。チッ、まさか俺まで冤罪被害に遭うとは」
「レッドリバー団に睨まれたのか、エマちゃんに協力しているのがバレたのか……。どのみち、連中が君を消しに来ているのは間違いないわ。この調子だと、私も時間の問題かもね……」
紙をビリビリに破り捨てたあと、やれやれと小さくため息を吐くバセット。
「…………。とにかく、俺も荷台に隠れる必要が出てきたな。バセット、***。町に着くまで外を頼む」
――そして、日が暮れ始めた頃。ウェイド達はようやくノースフォードという町に辿り着いた。
「いらっしゃいませ~!はい、こちらメニューですっ!」
ウェイドとエマは簡単な変装をしたあと、バセットと***と共に小さなサルーンへと足を踏み入れる。すると、明るいバーテンダーが四人を席へ案内してくれた。
「オーダー。それじゃあウィスキーのミルク割りをクリーム付きで頂こうかしら。あ、クリームの代わりに“ライムを絞って”もらってもいい?」
「……?あの、うちのメニューにそのようなものはありませんけど……」
「アイノー、知っているわ。“だから頼んでいるの”」
語尾を少し強めるバセット。すると、バーテンダーは一瞬だけ沈黙したあと、ニッコリと微笑みを浮かべる。
「承知致しました。あ、そうだ!あたし、今日はもう上がりなんですけど、よろしければ一緒に飲みませんか?余ったお酒を店長から貰ったのですが、さすがに一人じゃ飲み切れなくて」
「オフコース!もちろん大歓迎よ。私、“お酒には強い方”だし、いくらでも付き合うわ」
「まあ!ではせっかくですし、皆で飲み比べでもしませんか?実は、あたしもお酒には自信があるんです……っと、あたしフェザーズって言います。よろしくお願いしますね♪」
……そんな二人のやり取りを見ていたエマが、疑問符を浮かべながらウェイドの耳元に顔を近づける。
「えっと、ウェイドさん。この状況は一体どういう……?」
「暗号だ。バセットが言っていただろう?以前、改革派の使者が接触してきたと。バセットの発言には、その使者が提示したワードが含まれているんだろう。まぁ、合言葉みたいなもんだ」
「……じゃあ、私達はこのバーテンダーさんに試されている、ということですか?」
「ああ。とはいえ、別に気張る必要はない。今は言われた通り、飲み比べ勝負とやらに興じていればいいさ」
「あ、あの。私、未成年なのでお酒は飲めないんです……けど」
「…………。***、お嬢様にミルクでも注文してやってくれ」
グラスを片手に、ウェイド達はフェザーズと飲み比べ勝負に挑むのだった……。
一杯やる!
爆裂少女バトル
ウェイド達はフェザーズに連れられ、店の裏口を抜け、人けのない裏通りを進んでいく。
「ニトちゃ~ん!つれてきたよ!」
そして、ウェイド達は町はずれの古びた建物の中へと入る。
「ありがと、フェザーズ。そして……お久しぶりです、バセット先輩!来てくれると信じていました!ああ、嬉しすぎて全身が弾け飛びそう……!」
そこには、ニトと名乗る保安官の姿があった。
「ニト……!レアリー、久しぶりね。あら?でも、ニトがここにいるってことは……君も改革派のメンバーなの?」
「はい!ここは改革派のレジスタンスが集う基地です。一応、私とフェザーズの二人でレジスタンスをまとめていて……。ところで、後ろの三人は?ウェイド・クロウは有名人なのでわかるのですが」
「……こっちは用心棒の***だ。で、このお嬢様はエマ・ラスウェル。改革派なら知ってるんじゃないか?」
ニトはやや棘のある視線でウェイドを一瞥したあと、エマの方へと視線を移す。
「その蝶の首飾り……。ということは、あなたがラスウェル家の!?レッドリバー団の襲撃で行方不明になったと聞いて、胸が爆発しそうなほどに心配しておりました!ああ、よくぞご無事で……。その、お父様の件は……本当に……」
「……顔を上げてください。お父様は自らの信念を貫き、命を賭してレジスタンスに協力をしていました。私も、それは正しいことだと信じています。だから、私もレジスタンスの活動に協力させてください」
「っ!このうえなくありがたい申し出です。しかし、ラスウェル家のお嬢様を危険に晒すわけには……」
「お嬢様の実力は俺とバセットが保証する。この俺を一度は撒いた女だからな……。なんなら、俺もあんた達レジスタンスに協力しよう」
ウェイドの提案に、ニトは眉を吊り上げる。
「……ウェイド・クロウ。我々の同胞だったディンの兄、でしたね。あなたには真っ先にレジスタンスから使者を送ったはずですが、一切話を聞かず、銃をつきつけて使者を突き返したと聞いています」
「昔から保安官が嫌いなもんでな。どうでもいい連中の派閥争いに首を突っ込む気にならなかったんだ。それを知っていたから、ディンも自分が改革派であることを俺に言わなかったんだろう。過剰なほどに人に気を遣うヤツだったからな、あいつは」
「…………。では、なぜ今になって協力する気に?」
「レッドリバー団に罪を偽装された。手配書を剥がすために連中を潰す必要がある。それに、ディンがこのレジスタンスに所属していたことを知った以上、兄である俺が力を貸すのは不自然じゃないだろう」
「ということは、報酬を望んだりはしない……と?」
「ああ。もっとも、お嬢様からはここまでの護衛代を頂くが」
その言葉を聞き、エマは落ち着いた手つきで蝶の首飾りを外し、ウェイドへと差し出した。
「もちろん忘れていません。ウェイドさん、ここまで本当にありがとうございました。そして、この先もあなたと共に戦えることを光栄に……」
「って、エマ様!?まさか報酬って、その首飾りですか!?そ、それはラスウェル家のシンボルであり、お父様の形見なのでは……?」
「はい。でも、命を守って頂いた報酬ですから」
ウェイドは報酬の首飾りを胸の内ポケットにしまう。すると、ニトは顔をしかめながら彼へと詰め寄る。
「ウ、ウェイド・クロウ!あなた、それでも人間!?普通、彼女の話を聞いたら、その品だけは受け取らないでしょうに!」
「これは俺とお嬢様の契約だ。あんたが首を突っ込むことじゃない。それとも、個人的な約束に口出しするのも保安官の仕事なのか?それはそれで忙しそうだな」
「…………………………………………。おい。ちょっと顔貸せや、コラ」
……ニトの額には綺麗な青筋が浮かんでいた。
「うちのレジスタンスはぁ、入団テストってのをやっているのよねぇぇえ。それに合格しない限りぃ、アンタはメンバーには入れてあげまっせ~ん」
「ち、ちょっとニトちゃん?入団テストは私がもう済ませて……」
「うん、ちょっとどいてフェザーズ。会ってみてわかったけど、私やっぱりこいつ嫌い!嫌いだから実戦テストする!爆発寸前なの、私!!」
どうやら、ニトは本気で言っているようだ。
「フン、相変わらず保安官ってのは上から目線だな。なんなら、逆に俺があんたの実力を試してやろうか?」
「言ったわね言ったわねぇ!?言質取ったわよ、ウェイド・クロウ!今さら泣いても遅いんだからね!実戦訓練用の地下室があるわ。そこでぶっ飛ばしてあげるから、覚悟しなさい!」
……こうしてウェイドは、保安官ニトの実戦テストを受けることになったのだった。
実戦テストを受ける
荒野陽動バトル
不服はあるようだが、ニトはウェイドのレジスタンス入りを認めたようだ。
「それで、さっそくなんだけど……二日後、私達はレッドリバー団が支配している町に襲撃をかける予定よ。偵察隊の情報によると、その日にブラックスコーピオンっていうギャングが、レッドリバー団の団長と武器の取引を行うみたいなの」
「……団長がいるところを確実に狙える日ってわけか。だが、ギャングまで敵に回すとなると守りが固くなるんじゃないか?」
「問題ないわ。レッドリバー団の新しい団長はかなり慎重な人間で、取引の現場には最低限の人員しか割かないみたいなの。だから、取引現場そのものは手薄になってるはず。逆にチャンスってワケ」
作戦はこう……と、ニトは町の地図が貼ってあるグリーンボードの方へ移動する。
「まず最初に、陽動隊が町で派手に大暴れする。その間に精鋭隊が取引現場に通じている隠し通路を使って取引現場に潜入。速やかに団長を降伏させる、或いは討伐する。地図にある通り、隠し通路はサーカス団のテントの中にあるわ…………質問があるって顔をしてるわね、ウェイド・クロウ」
「この作戦だと陽動隊の負担が大きい。数は足りているのか?」
「大丈夫。レジスタンスのメンバーの他にも、ここ最近の手配書が偽造であることを知って協力する姿勢を見せてくれたCIAの人達や、以前からレッドリバー団に反発していた、大きな牧場を経営しているカウガールと、その用心棒達も協力してくれる形で話がまとまったわ」
どことなく聞き覚えがある連中だな……と訝しげに思いながらも、ウェイドはニトの返答に納得の意を示した。
「あとは主力メンバーの組み分けかしら。即戦力のウェイド・クロウと***さん、元賞金稼ぎで一流ガンマンのフェザーズは精鋭隊に必須ね。私は爆弾が主武装だし、陽動の方に回るわ」
「ザッツライト!なら、スナイプが得意な私も陽動隊かしら。フフ、ニトとの共闘は久しぶりね。アームが鳴るわ!」
すると、レジスタンス達の会話を聞いていたエマが、ゆっくりと手を挙げる。
「あの……私を精鋭隊の方に入れて頂けませんでしょうか?」
「え!?そ、そんな危険です!エマ様にもしものことがあったら」
「危険なのは皆一緒です。お願いします、私も力になりたいんです……!」
エマの言葉に頭を捻らせるニト。すると、ウェイドが渋々といった様子で口を開く。
「さっきも言ったが、お嬢様の腕前は俺とバセットが保証する。それに、たださえ人員が不足しているんだ。貴重な戦力を減らすのは愚策だと思わないか?」
「むぐっ。た、確かにウェイド・クロウとフェザーズ、それとウェイド・クロウが腕を認めている****さんがいるなら、そっちの方が安全な気はするけど…………うぅ、わかりました。でも、無理はしないでくださいね?」
エマはニトの言葉を噛みしめたあと、ウェイドに深々と頭を下げた。
「……後押しありがとうございます。ウェイドさん」
「知らないヤツばかりと行動するよりマシだと思っただけだ。そんなことより、ニト。さっき“レッドリバー団の新しい団長”と言っていたな。敵組織の頭目が最近になって変わったってことか?」
「ええ。連中は最近まで内部抗争をやっていたみたいなの。結果として、エインセルって名前の保安官が前の団長を倒して席を奪ったって話よ。彼らの行動がより過激化したのもそれ以来ね」
「……ッ!?」
大声を発しそうになるのを、ウェイドは必死に堪えた。
エインセルがウェイドのかつての友であることが明るみに出れば、レジスタンスの結束力にヒビが生じる可能性がある。それは、今は亡き弟の名誉を穢す行為にもなりかねない……。
これらのことを危惧し、ウェイドは誰にもバレないよう、こめかみを伝う汗をゆっくりと拭うのだった。
…………そして、二日後。作戦決行の日がやってきた。
敵組織の取引の時間に合わせ、レッドリバー団が支配する町へとやって来たレジスタンスのメンバー達は、各自行動を始める。
「オーケー!エキサイティングに暴れ回ってやりましょう、ニト!」
「はい!よろしくお願いします、バセット先輩!」
まずは、バセットとニトが率いる陽動隊が任務を開始した……!
派手に暴れる!
超曲芸師バトル
「ああ、どうやら改革派の連中が仕掛けてきたらしい。だが、取引は続行ということで話が通っている。ギャングにもこっちにもメンツってもんがあるからな。改革派の馬グソどもに取引を中止されたとあっちゃ、お互いに顔が立たねぇだろ?」
鋭利な目つきをした保安官が曲芸師達に状況を説明していた、その時……。
「……ッ!まさか、本当に……エインセルなのか?」
精鋭隊のウェイド、エマ、フェザーズ、***の四人が、サーカス団のテントへの潜入に成功する。そして、ウェイドは保安官の顔を見た瞬間、すぐにその人物の名を口にした。
「あん?もしかしてお前、ウェイドか……?ハハッ、久しぶりだな!なんだ、今はレジスタンスどもに肩入れしているのか。なるほどなぁ……弟が蜂の巣になったのがよっぽど応えたってワケだ」
「……!?なぜ、お前がそれを知っている……?」
保安官……エインセルはケラケラと笑いながら、ウェイドの質問に答える。
「お前の弟を殺ったのはオレの部下さ。ディンは賢かったからなぁ。オレがレッドリバー団に絡んでることにいち早く気付いたんだよ。しかも、オレに組織を抜けるよう直談判しにきたんだ。感動的な説得だったぜアレは……。ヤツが改革派じゃなければ、ちったぁ心に響いたかもな」
「なっ……。ディンが、お前に……」
「んで、伏兵がいる可能性も考慮して、その場は『考えさせてほしい』と追い返し、あとは部下に尾行させてズドン!ってワケだ。一応、周りに勘付かれないよう野盗の仕業に見せかけろと指示しておいたが……その様子だと、まんまと引っかかっていたようだな」
告げられた真実に、愕然とするウェイド達。
「お前が……殺したのか……?」
「おいおい、直接手を下したのはオレじゃないぜ?それに、ディンを殺った部下はもう死んだ。オレの金を持ち逃げしようとしたからな、他の部下への見せしめついでに火炙りにしてやったよ。ん?そう考えると、オレはお前の敵討ちをしてやった恩人ってことになるのかもな。ハハハ!」
予感は……あった。弟が改革派の人間だとエマに知らされた時、弟を殺したのは野盗ではなく、レッドリバー団の人間なのではないか、と。だが……
「……腐った世界を変えるんじゃなかったのか?それがお前の夢だったんじゃないのか?答えろ、相棒!」
「なんだ、裏切られてガッカリしたか?そいつはいい。夢だの他人だのを信じてもロクな目に遭わねえってことを理解できたわけだからな。金、暴力、そして権力が全てだってこと……よくわかったろ?綺麗事だけじゃやってけねぇんだよ」
それを命じたのがエインセルだったという事実は、ウェイドの心を大きく揺さぶった。
「……もう喋らなくていい、エインセル。その口、俺が二度と開けないようにしてやる」
「ハハッ、手が震えてるな。そんなんじゃオレは仕留めらんねえよ。それに、お前と違ってこっちは忙しいからな……先に行かせてもらうぜ、元相棒。お前ら、確実にこいつらを殺しておけよ!」
エインセルはこの場を三人の曲芸師達に任せると、地下へと続く隠し通路を通り、姿を消した。
「Chu♪ようやくアタシ達のステージが開幕できるってワケね!では改めて……ようこそ、我らスートⅣサーカス団の舞台へ!アタシは一輪車乗りのロバート・ラヴリィハート!仲間はアタシのことをボブって呼ぶから、気軽にボブって呼んでね♪そして、こちらの日焼け美人の猛獣使いが……」
「エイダ・ジュエリーダイヤよ!普段はトラと戯れてお客を楽しませるのがお仕事なんだケド、あなた達のような猛獣と命賭けで戯れるのもお仕事なのっ!そして、こっちの変なポーズのフラフープ使いが……」
「スーザン・ぐるぐるクラブでございまァす!なお、スペードを冠していた仲間は二日前に酒を飲んで馬に乗った結果、落馬しておっ死にました!なので、現在スペードの後釜を募集中でございまァす!」
言動はどこかふざけているものの、彼らが放っている殺気は明らかに素人のそれではない。その威圧感に、エマは反射的に一歩後ずさる。しかし……
「***、フェザーズ。お嬢様を頼む。ヤツらは俺が…………殺す」
「ウ、ウェイドさん!?一人で前に出るのは危険です……!」
ウェイドは後ずさるどころか、目を血走らせながら一歩前へと踏み出した。その行動が戦いの狼煙となり、スートⅣサーカス団は各々の武器を構えた……。
ステージに上がる
黒蠍二衆バトル
戦いの末、ロバート達は武器を捨て、敗北を認めた。しかし、ウェイドは銃口を相手に向け、彼らにトドメを刺そうとする。その様子を見たエマは、慌ててウェイドの腕に掴みかかった。
「離せ、エマ。こいつらはディンを……弟を殺した組織の仲間だ。死をもって罪を償うべき連中なんだ」
「か、彼らはディン様の命を奪った張本人ではありません。それに、この人達はもう敗北を認めています!戦いの中にだって守るべき矜持がある……。そう言ったのはウェイドさんではないですか!」
「ディンを殺したヤツの仲間に矜持などいらない!まとめて俺が……………………!?お、おい……?」
エマはロバート達を庇うように、ウェイドの向けた銃口の前に立ち、両腕を広げる。
「……では、まずは私を撃ってください。ディン様を改革派へと導いたのは、他でもない私です。彼の死のきっかけを作ったのは……私、ですから」
「…………ッ。あんたは……憎くないのか?父親や従者を殺されて、仇討をしたいとは思わないのか?」
「もちろん、その気持ちはゼロではありません。でも、それ以上に私は、世界を変えたいと願ったお父様やディン様の想いに応えたい。それが私の、たった一つの為すべきことですから……」
「……綺麗事だ、そんなのは」
「かも、しれません。でも……命を賭ける価値がある綺麗事であると、私は信じています」
肩を震わせながらも、自らの想いと信念を口にするエマ。その姿が弟と重なり……ウェイドは静かに銃を下ろした。
「…………ディンがあんたに惚れていた理由が、少しわかった気がする」
「え……?」
「なんでもない。すまない、取り乱したな。先を……急ぐぞ」
サーカス団の者達をロープで捕縛したあと、ウェイド達はエインセルが使った隠し通路を下り、薄暗い地下道を進んでいく。
「ん?アンタ達は…………ハハッ、取引場所を急に変えやがったのはそういうワケかい。エインセルのヤツ、ウチらを囮にしてとんずらを決め込んだね。あんの小悪党……やってくれるじゃあないか」
その道中で、ウェイド達はレディーススーツ姿の美しい女性と……
「ァあ?マダム・アンタレス、そりゃ一体どういうことですかィ?」
刺々しく危険な気配を漂わせる、メンズスーツ姿の女性と遭遇する。
「レジスタンスが予想以上に奮闘するもんだから、エインセルはこの町も部下も、私との取引も捨てたんだよ。」
「確か、この上は保安官事務所に繋がってるんだったね……今ごろ金を持って、一人で逃げようとしてんだろう。つまり、私達はこいつらの足止めにまんまと利用されたってワケだ」
「なッ!?あんのゲロカス野郎……絶対許さねェ!次会ったら速攻でぶっ殺死てやんぞォ!」
そんな二人を視界に入れたフェザーズは、苦笑いを浮かべながら小さくため息を吐く。
「ギャング“ブラックスコーピオン”の首領アンタレスと、殺し屋にして脱獄囚のガトー。まさか、A級賞金首の二人とこんなところで会うなんてね。あ、小さい方は久しぶり……かな?」
「ァあ?誰が小さい方だテメェぶっ殺死……ってお前、フェザーズじゃねぇかァ!?マダム!この女、以前あたしを豚箱にぶち込みやがった賞金稼ぎでさァ!イィッハァア!ぶっ殺死ていいですかィ!?」
「好きにしな。賞金稼ぎに顔を見られた以上、こっちも引き下がれなくなっちまったワケだしね。まぁ、そこも含めてエインセルのシナリオ通りってのが気に喰わないが……」
……どうやら、戦いを避けるのは難しいようだ。
「ウェイド君。なんとか隙を作るから、君は先に行って。ここで足止めされたら本命を逃がしちゃうもの。ただ、一人だと難しいと思うから……***君とエマ様を借りてもいい?」
ウェイドとエマと***は顔を見合わせ、フェザーズの提案に首を縦に振った。そして、エマは祈るような表情でウェイドの手を握る。
「ウェイドさん、あなたに全てを託します。どうかご武運を。必ず……帰ってきてくださいね」
「…………。ああ、約束する。あんた達も死ぬなよ。かいちょ、お嬢様を頼んだぞ」
***が頷いたのを確認したあと、ウェイドは強行突破を図ろうとする。
「っておいおい、このガトー様がそう簡単に道を開けると思っ……ってあんぶねェ!?フ、フェザーズ……!不意打ちとはやってくれんじゃねぇかァ!」
「フフ。これでも伝説の賞金稼ぎって呼ばれた女なんだから、やる時は容赦なくやるわよ」
……フェザーズの銃声が開始の合図となり、激しい銃撃戦が幕を開けたのだった。
ギャングと戦う
荒野終撃バトル
「……チィ、マダムがそう言うなら仕方ねェ。フェザーズ、覚えとけェ!次は絶対にぶっ殺死てやっかんなァ!」
長期戦の末、アンタレスとガトーは逃亡を図るため、その場から撤退した。
「あっ、逃げちゃいますよフェザーズさん!早く追いかけないと……」
「深追いは危険ですよ、エマ様。相手はA級賞金首……どんな罠を仕掛けているかわかりません。それに、私達の目的は彼女達を捕えることではありません。あとは……ウェイド君に任せましょう」
……一方。ウェイドは地下道を上がり、エインセルを探していた。
アンタレスが言っていた通り、地下道は広々とした保安官事務所へと繋がっていた。
そしてニトの情報通り、エインセルは内部に数名の見張りしか配置していなかったため、ウェイドは容易に事務所を制圧することに成功する。
すると……
「よお、ウェイド。結局ここまで辿り着いたか。お前さえ来なけりゃ、予定通りアンタレスと取引するつもりだったってのに……。ったく、おかげで全部台無しだぜ。ま、金さえありゃやり直しは利くがな」
奥の部屋の扉が開き、銃を構えたエインセルがウェイドの前に姿を現す。
「そんなに手配書を剥がしたいのか?それとも弟の仇討か?まぁ、どちらでもいい。どのみちお前は始末する予定だったしな。早いか遅いかの違い…………あん?なに笑ってやがる?」
悟ったような微笑を浮かべるウェイドに、エインセルは苛立ちを覚えながら疑問を投げかける。
「……手配書を剥がすため、そしてディンの仇討のため。まぁ、それもゼロじゃない。さっきまでの俺は感情に任せて、相討ち覚悟でお前に怒りをぶつけるだけのつもりだった。だが、今は違う」
「ほう?なら、なぜここに来た?」
「……託されたからだ。エマやレジスタンスの連中……そして、お前達に抗うために死んでいった者達。色んなやつらの想いを背負って俺はここにいる」
自分は復讐者(リベンジャー)であり、解放者(リベレーター)としてここに立っている……。自らの存在意義を見出したウェイドの瞳に、もう迷いはなかった。
「……ケッ、イラつく顔だ。テントで会った時は憎悪と絶望に染まってたってのに、昔みたいな顔になりやがって。気に喰わねぇ……ああ、気に喰わねぇなァ……!」
叫びながら、エインセルは銃の引き金を引き、ウェイドの足元に弾丸を放つ。
「託されたから?想いを背負ったからだァ?ハッ、レジスタンスにいいように利用されてるだけだろうが!連中はお前の腕が欲しかっただけだ。目的を成就するのに都合がよかったからお前を利用したのさ!どんなに綺麗事を並べようと、それが真実だ!!」
「……そうかもな。しょせんは利害関係の一致で成り立っている関係にすぎないのかもしれない。なら、どんな理由を取り繕っても綺麗事にしかならない。かつてお前が語った夢のように、な」
「フン、わかってるじゃねぇか。そう、夢なんてものはくだらねぇ綺麗事だ。何の価値もない。だからオレは――――」
「だがな、エインセル」
エインセルが再び引き金に指をかける。同時にウェイドも引き金に指をかけ、その銃口をエインセルに向けた。
「俺はその綺麗事ってやつに…………命を賭けると決めたのさ!」
決着をつける
エピローグ
「クソッ!ガキの頃からそうだ……オレが血反吐を吐く思いで努力しても、お前はいつも先を行く。それがどれだけ憎かったか、妬ましかったか!越えられない存在がいつも隣にいる苦しさ……お前にはわからねぇだろうなァ……!」
「…………。それが、俺を手配犯にした理由か」
「……最初はお前なんか放っておくつもりだったさ。だが、ディンの野郎が直談判しに来た時に言ったんだ。『組織を抜けないと君は兄さんに撃たれてしまう』『兄さんに勝てないことは君自身が一番よくわかっているはずだ』ってな。その時、忘れかけていたお前への嫉妬心が蘇った……」
上がらなくなった片腕を負の感情と痛みで震わせながら、エインセルは血走った瞳をウェイドに向ける。
「オレは……気に喰わない連中を全員ぶっ殺すために権力を得た!お前もディンも、今のオレにはただ邪魔なだけの存在だ。だから消してやろうと思った……どんな手を使ってでもな!」
「……そんなことのためにクズになることを選んだのか?俺達兄弟を裏切ってまで」
「ああそうさ!名を上げて権力を手に入れれば、誰もオレには逆らえないんだ!殺して、殺して、殺し続けて……オレは、のし上がるんだ!クハハハ……あばよぉ、ウェイド!」
「……ッ!?」
エインセルは懐に忍ばせておいた発煙弾を足元で起爆させる。
瞬間、周囲は煙幕で覆われ……ウェイドはエインセルを見失ってしまった。
「はぁ、はぁ……へへへ、隠し通路をもう一つ用意しておいて正解だったな」
煙幕に紛れ、地下へと逃げ果せたエインセルは、金の入った袋を手に外への脱出を図る。
「オレにはまだ金があるんだ。たとえ今の地位を失っても、これさえありゃ何度でも……………………ぁ、あ?」
その時。薄暗い通路に、一発の銃声が響いた。
「やあ。精が出るじゃないか、エインセル」
エインセルは声の主……アンタレスの方に振り向く。そして、拳銃を持ったアンタレスの姿を視界に入れた時……ようやく彼は自分が撃たれたという事実を認識した。
「お、お前……裏切る、のか……!?」
「先に裏切ったのはアンタだろう。それに、私達は互いに利用価値があったから組んでただけ。今のアンタにはもうそれすらない。なにより、生かしておけばこっちの情報を売りかねないからね。ガトー、金をかっさらって退散するよ」
「ま、待て……この金、は……オレ……の…………がふっ……。ぁ…………だ、だれ……か……」
言葉を発した頃には……もう、彼の周りには誰の姿もなかった。
「ぁ…………あい……ぼう…………」
――――その後。
レッドリバー団を制圧したレジスタンスは、エインセルの遺体を発見した。そして、彼らが不正を行っていた証拠が次々と発見され、ウェイドとエマの手配書は荒野中から剥がされることになった。
「ウェイドさん、ありがとうございました。これで、お父様やディン様の無念も報われます。本当に、なんとお礼を申し上げればいいのか……」
事が収束してから数日が経ち、エマは新たな当主としてラスウェル家を立て直すため、ノースフォードを後にすることになった。
「礼はいい。俺も、あんたのおかげで色々と吹っ切れた」
お前もディンも、“今のオレ”にはただ邪魔なだけの存在だ……と、エインセルは語った。
ならば、少なくとも自分に夢を語った過去の彼は、本当に世界を変えたいと願っていたのだろう……。ウェイドにとっては、それが数少ない救いであり、自分を突き動かす小さな希望となった。
「…………あの。これからどうされるのですか?」
「改革派が秩序を正そうとしている間も、賞金首どもは休んじゃくれないわけだからな。あんた達が表から世界を正そうとするのなら、俺は裏で動くとするさ」
「そう、ですか。では、ここでお別れですね……。その、また会えますか?」
「どうだろうな。ほら、馬車が来たぞ」
深々とおじぎをしたあと、エマはウェイドの傍を離れ、護衛と共に馬車へと乗り込む。
「エマ!」
名を呼びながら、ウェイドはエマに何かを放り投げた。エマはそれを掴みとったあと、ゆっくりと手を開く。
「またな」
彼女の手には、父の形見である蝶の首飾りが握られていた。
……彼らがいれば、この世界はもう大丈夫だろう。
遠くからウェイド達の様子を見ていた***はこの世界に別れを告げ、風に吹かれながら新たな世界へと旅立ったのだった。
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