魂迷のUNDEAD_本編
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>>5月14日 15:00~6月12日 22:59<<
開始前
ブラートの魂を求め、いざ……!
プロローグ
「ほらよ、着いたぜ***さんよ。俺の背中が快適なのはわかるが、そろそろ下りてくれ」
が、吸血鬼として驚異的な身体能力を持つリーバスとバネアは「走った方が速い」という画期的な理論を展開し、たった一日でダニッチに辿り着いた。
「ここがダニッチか。なんつーか、人里とは思えないほど鬱蒼とした町だな。この静寂……ネクロマンサーが根城にしてるってにおいがぷんぷんしやがる」
「すんすん……。うーん?セプちんのにおい、全然しないよ?」
「そういう意味じゃないんだ、バネアちゃん。あと俺達が探しているネクロマンサーはセプ公じゃない。この町のどこかに潜んでいる、精神に干渉できる力を持つという正体不明のネクロマンサーだ」
そんな話をしていると……突然、一人の剣士がリーバスに声を掛けてきた。
「ハロー。あたし、自警団のエイヤー。アンタ達、見た感じこの町は初めてって感じだね。エイヤーね、ゼナス女王陛下の命令で検閲官ってロックなお仕事やってんの。そこんとこ、シクヨロね!」
「……検閲だァ?おいおい、まさか通行料とか取るわけじゃねーだろうな?」
「ンッンー。エイヤー、日頃から思ってるの。お金よりも大事なモン、みんな胸の中に持ってるって。町の治安を守るコトがみんなの大事なモンを守るコトに繋がる。これ、エイヤーのシアワセ!わかる?」
「……よくわかんねぇけど、要するに身分を明かさないと町には入れねーぞってことか?」
「ンー、理解力抜群!腹筋の君、最高にファズってる。そういうイケメン、エイヤー大好き!」
面倒なヤツだな……と小声で文句を言うリーバス。すると、バネアが一歩前へと足を踏み出す。
「えっとね。あたし達、攫われたおじさんを探しに……むぎゅっ」
「ストップだ、バネアちゃん。下手に怪しまれたり目立ったりすれば、ネクロマンサーとの接触が困難になる可能性がある。それに、この町の人間が全員グルってこともあり得るだろ?ここはとりあえず……」
リーバスとバネアと***はスクラムを組み、数秒程度の作戦会議を終え――――
「俺はリーバス。何一つ怪しい要素のない、すこぶる善良な旅行客だ。こっちは娘のバネア。で、そっちがいとこの***だ。バネアちゃん、挨拶は?」
「娘のバネアです。今日は初めての家族旅行です。すごく楽しみです。バネアでした」
勝手にいとこにされた***は、棒読みを終えたバネアと共にぺこりと頭を下げる。
「……エイヤーね、今泣きそうなの。初めての家族旅行、最高に大切なイベント。その舞台にダニッチを選んでくれたコト、ここの住民としてシンプルに嬉しいワケ。オーケー、この書類にサインしたら検閲終了!遠慮なく町に入っちゃいなよ!」
結構簡単に入れんだな……とぼやきながら、リーバスはエイヤーから羊皮紙と羽ペンを受け取る。
しかし、サインを記入しようとした瞬間。リーバスの背中に衝撃が走った。
「……なあ、エイヤーさんよ。これ、町に入るために必要な書類なんだよな?」
「シンプルに言うと、そゆこと。ンー、理解力さらに抜群!腹筋の君、最高にロック!」
「『ミクトラ教団入会申込書 以下の者はミクトラ教団の趣旨に賛同し、入信・入会を済ませたものとする』って書いてあるんだが」
「ンー、エイヤー思うのね。答えはいつもシンプルだって。みんな複雑にしてるだけ……。これは町に入るために必要な書類。ただそれだけ。答え、もう出てるでしょ?」
「ウソつけ!どう見てもやべえ組織の入会書だろうがッ!!」
叫びながら羊皮紙をビリビリに破り捨て、リーバスはバネアの手を握り、早歩きで町へと入っていく。
「ンーッ、腹筋の君!それ全然ロックじゃない!あにぃも言ってたけど、ロックはシンプルなのが一番なの!書類にサインするだけで全部丸く収まる!これ、最高にシンプル!つまりロックなワケ!」
「うるせえ!俺は時間がねぇんだっつの!くだらねぇことに構ってる暇は……って速ぇなお前!?」
リーバスはバネアの手を引きながら走る速度を上げる……が、エイヤーは平然とそのスピードについてきていた。
「くそっ、アイツ諦めるつもりねぇな。つっても、下手に騒ぎを起こせば目立っちまうし……しゃーねぇ、ここは上手いこと人目が無い路地裏に連れ込んで、さくっと気絶させちまうぞ!」
悪漢のようなセリフを吐きながら、リーバスはバネアと***と共に路地裏へ入ったのだった。
>>魂を探す<<
ランキングに関係なく、一定数の【魂迷メダル】を集めると役立つアイテムが支給されるらしいぜ。
いいねぇ……血が沸騰してきたぜ。
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、Lv80になれるらしい。ま、ブラートとしてはこれ以上強くはなりたくねぇだろうが……。
「土地力」ってのは莫大なエネルギーがあるらしいな。どんどん溜めていこうぜ!
向き不向きは誰にでもある……ってブラートが言ってたっけな。
どうなるかはお楽しみ……ってか?
強い敵を倒せば多くの【魂迷メダル】が貰えるんだってな。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板に書き込みしてくれるらしい。
活用するしかねぇな。
クエスト?
いいぜ、強くなるためならいくらでもやってやるさ。
敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板に書き込みしてくれるらしい。
活用するしかねぇな。
クエスト?
いいぜ、強くなるためならいくらでもやってやるさ。
魂を探す
暴挙炸裂バトル
「ったく、いきなり何だってんだ。ミクトラ教団がどうとか言ってたが……」
「みくとら、ミクトラ……。んー、名前だけ聞いたことがあるような気がするんだけど、誰だったかなぁ?」
どうやらバネアはミクトラという名前に心当たりがあるようだが、いまいち思い出せないらしい。
ひとまずリーバスは、バネアがミクトラのことを思い出すまで、情報収集をしに表通りへ出ることにした。
「待ちなさいな!そこの腹筋がイイ感じの銀髪イケメンとピュアそうなツインテ少女に、旅人っぽいオーラを出してる三人組!なんだか見慣れない顔だけれど……もしかして旅行者かしら?そうなのかしら?」
すると突然、十人以上の衛兵を連れた、見るからに身分の高そうな者がこちらへやって来た。
「余はこの町を治めている女王、ゼナスちゃんよ!ちゃんと覚えた?覚えたわね!?」
「女王……?そういや、さっきのヤツも女王がどうとか言ってたな……。なら、この町は城下町か何かなのか?」
「違うわ!町長よりも女王の方がカッコイイから女王を名乗っているの!」
関わると面倒な相手であることを一瞬で察知したリーバスは、バネアを連れてすぐにその場から立ち去ろうとする……が、すぐに回り込まれてしまった。
「余の許可なく立ち去るなんていい度胸じゃない!イケメンじゃなかったら処刑していたところよ!」
「……わりぃけど急いでんだ。用があるなら手短に済ませてくれ」
「余は単純にあなたの力になりたいだけよ!見たところ、何か困りごとがあるんでしょ?」
「この町は笑顔が溢れる町……子どもも大人も犬も猫も、ゴキブリですら笑っているわ!だから、余はあなたのことも笑顔にしてあげたい!イケメンのスマイルが超見たいのよ!!」
リーバスは呆れながらも、身分のある者であればネクロマンサーに関する手掛かりを持っているのではないかという考えに行き着き、それとなく情報を聞き出すことにした。
「あんらまぁ!ということは、あなたもミクトラ様に救いを求めに来たってことかしら!迷えるイケメンってところなのかしら!?」
「……ミクトラってのはネクロマンサーの名前なのか。あー、そのミクトラ様とやらに会うにはどうすりゃいいんだい?」
「ミクトラ様はネクロマンサーの力を使い、迷える生者と所縁のある魂を呼び寄せ対面させることで、生者に希望をお与えになる……」
「そう、いわば聖女のようなお方!そう簡単にお目にかかれるような存在ではないことを、まずは認識なさいな!」
しか~し!と、ゼナスは声高らかに言葉を続ける。
「あなたの目の前にいる人は何者かしら?そう、女王様!とっても偉い女王様なのよ!余の権力を用いれば、あなたをミクトラ様に会わせることぐらいワケないわ!」
「……!おいおい、そりゃ本当かい?だったらすぐ会わせてほしいんだが」
「モチロン!この面談シートにサインさえしてくれればすぐにでも会わせてあげる!はいっ、ペンも貸しちゃう!」
「ハハッ、話がわかるじゃねぇか。しかしまぁ、こうも簡単に話が進むとは思わな…………」
刹那。書類に目を落としたリーバスの背中に衝撃走る。
――――ミクトラ教団入会申込書 以下の者はミクトラ教団の趣旨に賛同し、入信・入会を済ませたものとする。
「さっきと同じ入会書じゃねぇか……ッ!!」
リーバスは渡された紙をビリビリに破いた。ついでにペンもへし折った。
「あんらまあッ!?ミクトラ教団からの救済を反故にするなんて!あなた達、もしかして邪教徒なのかしら!?そうなのね?そうなんだわきっと!衛兵、イケメン達を取り囲みなさい!!」
ゼナスの命令に従い、衛兵達は連携のとれた動きでリーバス達を包囲する。
「あ、思い出したよワイルドさん!ミクトラって、セプちんが愚痴を言う時に必ず名前が出てくる人なの。ネクロマンサー学校の同期で、いつもケンカばかりしてたんだって」
「いや、今はそれどころじゃねぇだろ!ってかネクロマンサーってスクール制なのかい……。いやいや、だからそれどころじゃねえって!さっさとこの包囲網を突破すんぞ!」
バネアの発言に振り回されながらも、リーバスは***と共に戦闘態勢に入るのだった。
突破する
赤果食撃バトル
「ぜぇ、ぜぇ……なんなんだこの町は……。くそっ、なんなんだこの町は!?」
思わず二回言ってしまうリーバス。どうやらかなり参っているようだ。
「チッ、このままじゃ情報収集もままならねえ。何か作戦を考えねーとな……。そうだ、バネアちゃん。さっきセプ公とミクトラが同期だとか言っ…………」
振り返ると……そこにバネアの姿はなかった。
「おいおい、ウソだろ。はぐれちまった……のか?」
……一方、その頃。
逃走している最中にはぐれてしまったバネアは、気が付くと大きな建物の裏側にある“立ち入り禁止”と書かれた看板がある、屋内へと続く通路に入ってしまっていた。
「……ワイルドさんと***さん、どこ行っちゃったのかな?それに、ここどこだろ?」
ゼナスや衛兵達に見つかると厄介なので外に出るわけにも行かず、バネアは鼻唄を歌いながら立ち入り禁止の通路を進んでいく。すると、そこには……
「……看板が見えなかったの?ここは町の住民はもちろん、自称女王ですら入っちゃいけない場所よ。今すぐこのレーシェの視界から消えて」
冷徹な雰囲気と大きな斧を持った少女が、バネアの行く手を塞ぐように立っていた。
「えっとね。あたし、セプちんのお友達のミクトラさんって人を探してるの。心当たりありませんかー?」
「……そう。あなたミッチー、じゃなくてミクトラに用があるのね。なら、なおのことここを通すわけにはいかない。もう一度言うわ、今すぐ消えて」
「あれ?それって、ミクトラさんに会うにはここを通ればいいってコト?」
「なッ……。あなた、謀ったのね?くっ、見かけによらず策士……。この子、できる……!」
レーシェと名乗った人物は、すぐにバネアを脳内危険人物リストに登録した。
「ミッチー……じゃなくてミクトラは今、自らの使命を果たすために今までにないほど集中しているの。だから、誰一人としてミクトラに会わせるワケにはいかない。そこから一歩でも近づけば攻撃するわ」
「んー、困ったなぁ。おじさんがミクトラさんのところにいるかもしれないから、あたしどうしてもここを通りたいの。でもケンカはしたくないし……あ、そうだっ!これ、お近づきの印におひとつどーぞ♪」
そう言うと、バネアは小さなカバンから赤い果実を取り出す。
「……なにそれ」
「あたしが作ったトマト!ねっ、これ一緒に食べてお友達になろ?お友達になれば、お互いのことがよくわかると思うの。そうすればケンカしなくて済むでしょ?」
「トンデモな理論ね……遠慮しておくわ。私、トマト大嫌いだし」
「え゛っ」
「ブヂュッとした気持ち悪い食感に、むわっと広がる酸っぱい風味……。想像しただけで鳥肌が立つわ」
「で、でも、これ自家製だよ?オーガニックだよ……?」
「関係ない。トマトなんか食べるぐらいだったら泥団子食べてた方がずっとマシ。ほら、早くその気持ち悪い物体をしまって…………その顔は何?」
バネアはほっぺたを膨らませ、むすっとしていた。どうやらレーシェを宿命の敵と認定したようだ。
「……決めた。あたし、あなたにトマト食べさせる。食べもしないのにそこまで言われる筋合いないもん……!」
「趣旨が変わっている気がするのだけど……あ、一歩近づいたわね。なら予告通り、攻撃するわ」
もはや、お互いに引ける状況ではなくなってしまった。
トマト好きとトマト嫌い……悲哀なる因縁と因果が複雑に絡み合い、轟々たる決戦が幕を開けた。
もうトマらない
死霊術師バトル
呪いの鎌“バサニゾ”から強烈な一撃を放ち、レーシェの斧を地面に叩き落としたバネア。
そして「トドメトマト」という謎単語を発しながら、バネアはレーシェの小さな口の中にトマトを押し込んだ。
「あっ……………………」
レーシェは驚愕の表情を浮かべながらトマトを咀嚼したあと、トマトの皮のように頬を赤らめる。
「ねっ、おいしい?」
「……………………。おいしい」
バネアとレーシェは熱い握手を交わし合い、戦友(とも)になった。
一方、その頃……。
「……そうか、アンタも収穫無しか。ったく、どこ行っちまったんだよバネアちゃんは」
手分けしてバネアを捜索していたリーバスと***は町を一望できる場所で合流を果たし、互いに成果がなかったことを報告し合っていた。
「ブラートの情報はねぇし、バネアちゃんとははぐれちまうし……。しかも、俺も“魂と体の拒絶反応”とやらで、体がどんどん重くなってんだ。いい加減なんとかしねぇと…………ん?」
ふと、リーバスは近くのベンチに視線を向ける。すると、そこにはゲッソリとした顔で体育座りをしている一人の少女……否、一人のネクロマンサーの姿があった。
「なぁ***。あの鬱オーラ発しながら俯いてんの、セプ公だよな?なんでヤツがここに……げっ、こっち来やがった……」
リーバスと***に気付いたセプトは、この世のものとは思えないほどの絶望的な表情をしながら、フラフラとした足取りでこちらへやって来た。
「……ブラート殿。ミクトラ教団に、入らぬか……?」
「お前もかよ……!」
「うぅぅ……。い、今ならここにサインするだけで、ミクトラ教団オリジナル商品“幸せのパねぇ枕”が五個ついてきて……とってもお得、なのだが……」
「なんでそんな泣きそうなんだよ……。つーか、今はブラートじゃなくてだな」
「さ、最初は入会費を頂くが、ブラート殿も他の人を勧誘していけばガッポリ稼ぐことができる仕組みで……」
「聞いてねえよ。つーか、むしろこっちの話を聞いてくれ。お前、ミクトラってヤツと」
「頼むブラート殿……!今日中にノルマを達成しないと、あの神官達にまた懺悔室に連れ込まれてしまう!三日三晩延々と教義を聴かされ、商品を渡され、全部売ってこいと言われ……ううぅぅぅ」
プルプルと震えながら、救い(という名の入団)を求めてくるセプト。
そんなセプトを見て、リーバスは思った。「こりゃダメだ」と。
「つっても、セプ公はミクトラとやらと知り合いらしいからな。なんとしても話を聞き出さねぇと……おいセプ公。その教団に入ってやってもいいぜ」
「お……?ぉ、おぉぉぉ。か、神か……ブラート殿はゴッドめいた存在だったのか……?」
「ただし、俺と戦って勝てばの話だ。ルールは単純に、相手に『参った』と言わせれば勝ち。こっちが勝ったら、俺の目的に協力してもらう。どうだ?」
「も、もちろん構わぬぞ。あの地獄から解放されるためならば、私は何だってしてやる……!」
リーバスの条件を飲み、セプトは必死の形相で戦闘態勢に入ったのだった……。
降参させる
包囲獣撃バトル
「……そのミクトラってヤツについて色々聞きたいんだが」
話を聞く余裕ができたセプトに、リーバスはこれまでの経緯をざっくりと説明する。
「……ブラート殿の魂を探しにミクトラを訪ねに来た、と。確かに、ヤツなら夢を通してブラート殿の魂を引っこ抜くぐらいわけないだろう。なにせ、世界に五人いないといわれている“魂奪い(ソウルテイカー)”の使い手だからな」
しかし……と、少しだけ眉をひそめるセプト。
「“魂奪い”は契約術と呼ばれる、少し特殊な術でな。シンプルに言うと、術者と被術者との間で合意がなされた場合でのみ効果を発揮するものなのだ」
「合意……?そりゃどういうことだ?」
「ブラート殿は夢を通して、ミクトラから“魂奪い”を受けた。そして、ブラート殿は“魂を抜かれることを自分の意志で受け入れた”ということだ」
「……!?おいおい……それがマジなら、ブラートがこの体から出て行ったのは、あくまでブラートの意志だってことかよ?」
「その可能性は高いだろう。ふむ、なるほどな……そう考えると色々と合点がいく。ミクトラが言っていた大事な用とやらには、ブラート殿が絡んでいるということか」
ブツブツと独り言をつぶやくセプトに、リーバスは色々と聞こうとしたが……その前に、そもそもなぜこの町にセプトがいるのかを尋ねることにした。
「……以前、私が始祖の封印を解いたことがあっただろう?そのことがミクトラにバレたのだ。ネクロマンサーのクセに正義の聖女を気取ってるアイツは、どうも私の行動が許せなかったみたいでな」
……数週間前。セプトはミクトラに呼ばれ、始祖の件で彼女からガチ説教を受けたらしい。
しかし、ミクトラのことが大嫌いなセプトは「私が勝ったら二度と私に説教をするな。代わりに、私が負けたら言う事を一つなんでも聞いてやる」と言い放ち、ミクトラと決闘を行ったのだという。
「で、啖呵切ったセプ公が負けちまったと」
「……泣き虫ミクトラがあんなに強くなっているとは思わなかったのだ。そして、ヤツは私の大事な部下を人質に取ったうえで“普段からお世話になっているダニッチの人達のお手伝いをしてほしい”と私に頼んできた。」
「だから私は仕方な~く手伝うことにした。それが地獄の始まりだと知らず、な」
「結果、強引に教団に勧誘されて、良いように使われてたってワケか。自業自得だとは思うが、同情はしておくぜ。にしても、こんなカルトめいた集団を束ねているとは、ミクトラってヤツは相当ヤバいやつなんだろうな……」
「いや、おそらくミクトラは教団を束ねてなどいない。むしろ、ヤツは……」
―― 一方、その頃。
レーシェは礼拝堂の隠し通路を進み、無害だと判断したバネアをミクトラの下へ案内しようとしていた。
「じゃあミクトラさんは、町の人達が勝手に作っちゃったミクトラ教団って集まりのことを、そもそも知らないんだ?」
バネアの問いに、レーシェは首を小さく縦に振る。
「ミクトラはネクロマンサーの力を使って、生者と所縁のある魂を呼び寄せて対面させることで、生者に希望を与えることを仕事にしているの。」
「でも、救われた人々は変にミクトラを崇拝するようになっちゃって……。そんな人達が集まった結果、ミクトラ教団って組織ができたってわけ」
「ふーん。名前が入ってるのに本人は関係ないんだ。変なのー」
「ミクトラは夢に干渉する力を使うために、基本的に寝床から出るようなことはしないの。だから外のことは何も知らないわ」
「……あれ?でも、レーちんはミクトラさんとお友達なんだよね?本当のコト教えてあげないの?」
「ミクトラはあまり心が強くないのよ。自分が救った人達があんなコトになってるって知ったら、きっと傷つく。だから、私が彼女を守らなきゃいけない。そのためなら私は……」
レーシェが何かを言いかけた、その時。彼女の足元からカチッという音が響く。
すると、周囲の壁が開き、凶暴な猛獣達が次々と姿を現した。
「……そのためなら私は、侵入者に備えて猛獣トラップを用意したりもするわ」
「レーちん……。今、自分でスイッチ踏んじゃってたよね……?」
「…………。猛獣達には“スイッチを押した人を攻撃するように”って伝えてあるわ。だから、バネアちゃん……助けて」
「うん、いいよー」
恥ずかしさで顔を真っ赤に染めるレーシェと共に、バネアはトラップによって出現した猛獣達と戦うことになったのだった。
お助けする
教団三衆バトル
「助かったわ、バネアちゃん。でも、私が自分の罠を踏んだことはミクトラには言わないでもらえる?」
「……?別にいいけど、なんで?」
「…………。ミクトラは私のことをクールで頼れる人だと思っているからよ」
「あー、イメージ崩したくないんだ?でも、クールだけどちょっと抜けてるレーちんもかわいいと思うな」
「かわっ……。お、お世辞なんていらないわ。さあ、先に進みましょう。あのエレベーターで上にいけるから」
バネアへの好感度ゲージをグングン上昇させながら、レーシェはバネアと共にエレベーターに乗り込んだのだった。
――その頃。リーバスはセプトからミクトラの居場所を聞き出し、彼女が根城にしているという建物の正面口の前に立っていた。
「ここにミクトラがいるわけか。ふぅ、なるべく穏便に事を運びたかったが……俺の魂もそろそろ限界が近い。正面から強行突破して、ミクトラから直接事情を聞くぞ。それでいいよな?」
「ああ。問題ないぞ、もう一人のブラート殿」
「……お前じゃなくて***に聞いたんだがな。そもそも、なんでセプ公がついてきてんだよ?」
「貴様がミクトラを黙らせてくれれば、私は人質となった部下を救出することができる。そうすれば、この町からすぐにでも立ち去ることができるだろう?というか、もう私はメンタル的に限界なんだ……。協力するから同行させてくれ。後生だから……」
セプトは救いを求めるように、上目遣いでリーバスの腕にしがみつく。どうやら本当の本当に限界らしい。
「つーか、それだったらセプ公はバネアちゃんを探してくれねぇか?(何やらかすかわかんねーから)結構心配してんだ。それに、あの子が行方不明のままじゃオーディス達に合わせる顔がねぇっつーか……」
「それなら問題ない。バネアはこの祭殿の中にいるようだからな」
「ってマジかよ。なんでわかるんだ?」
「バネアが持っている呪いの鎌バサニゾは私が作ってやったものだ。その呪力の気配を辿れば、バネアの居場所と精神状態は容易にわかる。ふむ……気配から察するに、どうやらピンピンしているようだぞ」
だと思ったぜ……と呆れながら、リーバスはセプトと***と共に祭殿の扉の鍵を破壊し、内部へと潜入する。
「おやおや。ここはミクトラ様と、このバイス率いる教団幹部以外は立ち入り禁止の領域なのだが……ああ、そうか!君がゼナス町長の言っていた“腹筋がイイ感じの銀髪イケメン”か!いやはや、ここに来るかもしれないとは聞いていたけど、まさか本当に現れるとは思わなかったよ!」
広々とした螺旋階段を急ぎ足で駆け上がっていると、三人の神官がリーバスの前に立ち塞がった。
「確か、ミクトラ様に会いたいんだよね?なら、この面談シートにサインしてくれるかな。今サインすると、この“ミクト・ラブ・タオル”も一緒についてくるから、すごくお得なんだ!」
バイスと名乗ったリーダーらしき男は、羊皮紙とタオルを手にリーバス達に迫ってくる。
「……いいかげんこのパターンにも飽きてきたぜ。つーか、お前らもミクトラに救われた人間なんだろ?今のお前らの姿を見たら、ミクトラはガッカリしちまうんじゃねーか?」
セプトの話によれば、ミクトラは基本的に祭殿にある寝床から出ることはない。ゆえに、ミクトラ本人はミクトラ教団という組織が色々とアレなことをしているという現状を知らないらしい。
「おやおや。君は愚鈍な思考の持ち主らしいね。僕達はミクトラ様に人生を救われた。だから僕達は崇高なミクトラ様に全てを捧げるんだ。それの何がおかしいのかな?」
「崇拝するのは別にいいさ。その方法が間違ってるっつってんだよ……」
「……?ミクトラ様の素晴らしさを広めたいと思うのは、普通のことだろう?」
ニッコリと微笑むバイス。その笑顔に、リーバスは一種の狂気のようなものを感じ取った。
「狂信者ってやつか。ったく、人間ってのは吸血鬼よりもずっと恐ろしいな……」
溜息を吐きながら、リーバスは戦闘態勢に入る。
「おやおや。物騒な者達だね……。君達のような危険人物をミクトラ様に会わせるわけにはいかないな。マグノリア、ブギーナ。ここは力ずくで彼らを止めるよ」
「えっ!?ち、力ずくですか……?そ、その、ドーナツで平和的に解決しませんか……?」
「あたしが勝ったら、この宝石ぜ~んぶ買ってもらうから!」
神官達は統率のとれた動きで、リーバス達に襲い掛かってきた……。
道を開けさせる
祭殿騒動バトル
リーバス達の猛攻を受け、バイスは断末魔(?)を上げて気絶し、部下の二人に医務室へと運ばれていった。
「ふん、このセプトが本気を出せばこんなものだ。さあ、ミクトラのいる“祭壇の間”はすぐそこだ。もう一人のブラート殿、準備は…………むっ、大丈夫か?」
「ぜぇ、ぜぇ……全身が鉛のように重く、視点が定まらず、息が上がりっぱなしの状態を大丈夫と表現するのなら……何一つ、問題はねぇ……さ」
「おい、しっかりしろ。貴様一人の体ではないのだぞ?ここで倒れられると私も非常に困る」
ふらふらになりながらも、リーバスは***の肩を借り、なんとか祭壇の間へと辿り着いた。
「……意外な来客ですね。まさか、ブラート様と血肉を共有する者がこの場に現れるとは思いませんでした。それに、自分からわたくしにケンカを吹っかけておいて盛大に敗北を喫した、クソ雑魚セプトまで一緒とは」
「誰がクソ雑魚だ。一回勝ったぐらいで調子に乗るなよ、鼻たれミクトラめ……」
そこにいたのは、神聖かつ儚げな雰囲気を持つ一人の少女だった。セプトの様子からして、彼女がミクトラで間違いないようだ。
「はぁ、はぁ……ようやく会えたな、ミクトラさんよ。早速だが、アンタが持っていっちまったブラートの魂……返してもらうぜ」
「語弊がありますね。確かにわたくしはブラート様の魂に接触し、“魂奪い”を使って彼の魂を掌中に収めました。ですが、あくまでそれは」
「ブラート自身がそれを望んだから、だろ?んなこたぁわかってんだよ……。だからこそ、俺はアイツに聞かなきゃならねーことがあるんだ」
「…………。彼の魂は最奥の部屋に在ります。ですが、わたくしの使命は、あまねく者達の心を救済へと導くこと。」
「そして、ブラート様は永遠にも等しい時間を生きていることを嘆き、死を望んでいます。その無垢なる願いを妨げる権利は誰にもない。違いますか?」
「ケッ、ブラートとの付き合いは俺の方がなげぇんだ。アイツが心から死を望んでいることは誰よりも俺が知っている。けどなァ……今回ばかりは色々と納得できねーんだよ」
掠れた声でそう言うと、リーバスは***の腕をほどき、鋭利な眼光でミクトラを睨みつける。
「……悪いが、話している時間すら惜しいんでね。ブラートは奥にいるんだったな。なら、俺は先に進む。邪魔するってんなら容赦しねぇぞ、ミクトラさんよ」
「…………。わたくしはブラート様と約束をしたのです。必ずブラート様の魂を消滅させる、と。それを阻むというのなら、致し方ありませんね」
リーバスは重い体を引きずりながら爪を構えた。すると、次の瞬間……
「あは~んうふ~ん♪そうはさせないわよぉ。ミクトラ様の邪魔は誰にもさせないんだからぁん♪」
突然、天井から見覚えのある悪魔……ピトゥイが現れた。
「おお、ピトゥイ……!大丈夫か?その様子だと無事のようだが」
安堵の声を上げるセプト。どうやら、連れ去られた人質とはピトゥイのことだったようだ。しかし……
「あら、セプちん。フフ、ごめんなさい。私にとってあなたはもう過去の女なのよねぇ。私、彼女についていくって決めたのぉ♪だからセプちんの下には戻らないわぁ」
「なっ……?わ、私を裏切るのか、ピトゥイ!一体なぜ……?」
「だってぇ。セプちん人使い荒いしぃ、恋の相談したら鼻で笑い飛ばすしぃ、ご飯代返してくれないしぃ、無言で揚げ物にレモンかけるしぃ、貸した恋愛小説返してくれないしぃ、返ってきたと思ったらラクガキされてたしぃ」
広げた指を一本一本折りながら、今までの不満を爆発させるピトゥイ。
「私の傘を勝手に持っていったうえに外に置いてきちゃうしぃ、機嫌が悪いと私の靴の中にゼリー入れてきたりするしぃ。もう色々限界~みたいな?ていうかぁ、ゼリーの件は本当に何なのぉ?」
「い、いや。アレは悪気があるわけではなく、軽いスキンシップのつもりで……」
「はぁい出ましたぁ♪パワハラの自覚がない人の常套句ぅ!とにかくぅ、ミクトラ様はパワハラしてこないしぃ、恋の相談も乗ってくれるしぃ、レモンかける時も一声掛けてくれるしぃ?もうミクトラ様一筋ぃみたいなぁ♪」
嬉々とした様子で、ピトゥイは魔力を滾らせながらセプトの前に立ち塞がった。
「……人望の面でも負けちまったな、セプ公。まぁその、なんだ。泣くなって」
「う、うるさいっ。泣いてないぞ。でもハンカチ貸せ」
「いいぜ。こいつらを退けることができたら、な」
様々な思惑と想いを胸に、一同は戦闘態勢に入ったのだった。
切り抜ける
憑離一体バトル
「ありゃ?ワイルドさん久しぶり。あ、セプちんとピトゥイっちも一緒だ。なにしてんのー?」
レーシェとバネアが割って入ったことで、リーバス達とミクトラ達は戦いの手を止めた。
そして、レーシェが状況を説明をしようとした瞬間……。
「……何やら騒がしいと思って来てみれば。まさか、このような大所帯になっているとは。それに***さんとリーバスさんまで」
奥の扉から現れたのは……なんとブラート本人。
その体はどこか青白く、ぼんやりと薄い輝きを放っていた。
「よお、ブラートさんよ。久しぶりに会えて嬉しいぜ。それとも、アンタにとっちゃ俺らは邪魔者かい?」
「…………。なるほど、あなた達がここに来た理由はおおよそ察しがつきました。ですが、どうか止めないで頂きたいのです。私が永遠の死を望んでいることは、あなたもご存知でしょう?」
外見と気配。そしてその発言から、今のブラートの体は“魂が人型になった存在”のようだ。
「いくら肉体を傷つけても私は死ぬことができない。ならば、この魂を直接屠るしか手はない。そう考えていた矢先、ミクトラさんはご自身の力で私に直接接触をしてきました。そして、彼女は私に約束してくれたのです。必ず私の魂を消し去ってくれると……」
どうか、このままミクトラの下にいさせてほしい。
ブラートは許しを請うように、リーバスにそう語りかける。
「あっ。でもね、おじさん。おじさんがいなくなっちゃうとワイルドさんが消え……むぎゅっ」
「ストップだ、バネアちゃん……なぁ、ブラートさんよ。アンタが死にたがってるのは俺が一番よくわかってるつもりだ」
リーバスは声を低くしながら、ブラートの方へと足を進めていく。
「それを止めるつもりはねぇし、文句を言うつもりもねぇさ。アンタが死のうが生きようが知ったこっちゃねぇ。なるようになりゃあいいのさ」
「…………。あの、リーバスさん。私の意思を尊重してくれているわりには、とてもとても怒っているように見えるのですが。それに、先ほどからやけに顔色が悪いように見えますが……体調が悪いのですか?」
「んなこたぁどうだっていい……ッ」
怒声を上げ、リーバスは自身の爪でブラートの体を切り裂いた。ブラートは抵抗することも、表情一つ変えることもなく、その攻撃を受ける。どうやら、たいしたダメージにはなっていないようだ。
「……魂の状態とはいえ、限りなく実体に近いようだな。なら好都合だ」
リーバスは近くの壁を拳で破壊し、外へと続く穴を作った。
「俺らが全力で暴れたら建物ごと吹っ飛んじまうかもしれねぇからな。表に出な、ブラート……。アンタが消えちまう前に一戦やらせてもらうぜ。そうでもしねぇと、こっちの気が収まらねぇ……」
吹き込んでくる風に髪と服を揺らしながら、リーバスはブラートを挑発する。
「よくわかりませんが、それであなたの怒りが収まるのであれば…………望みどおりに」
リーバスの眼光から何かを感じ取ったのか……やや気だるげながらも、ブラートはリーバスの後ろに続き、外へ飛び出した。
「あ、お待ちくださいブラート様!実は、あなたに伝えなければならないことが……」
様々な思惑と想いを胸に、一同は戦闘態勢に入ったのだった。
血闘開始
エピローグ
「なぁブラートさんよ。アンタ、どうして誰にも何も言わず、一人で消えようとしたんだ?」
「……?私が死を望んでいることはあなたもご存知でしょう。今さら何を」
「そうじゃねぇ。俺が聞きてぇのは、アンタに置いていかれる連中のことをちゃんと考えてんのかってことだ……」
戦いの最中。リーバスは眉を上げながらブラートに思いの丈をぶつける。
「……ガラではないので、あまりこういうことは言いたくないのですが。皆さんのことはちゃんと考えていますよ」
「ウソつけ……!だったら、なんで俺達に黙っていなくなったりした!?」
「リーバスさん、聞いてください。私は」
「見損なったぜ。アンタにとっちゃ、本当は俺達なんざどうでもいいんだろ!?だからアンタは」
「あなたになら全て託せると思ったのです。オーディス君も、オーリーさんも、バネアさんも、あなたがいれば大丈夫だと。あなたがいてくれれば、私は心置きなく死ねると。そう思ったのです」
「なっ…………」
『前におじさんが言ってたよ。リーバスさんはなんだかんだでオーディス君達と仲良くやってくれてますって。おじさん、珍しく嬉しそうな顔してたの』
というバネアの言葉を思い出し、リーバスは思わずブラートを二度見する。
「それに、以前あなたは私の体を欲しがっていたでしょう。私が消えればそれが叶います」
「そ、そういう事情だってんなら、せめて“ちょっと死にに行ってきますね”って一言でも言ってくれりゃあ……」
「いやいや。それを言ってしまったら、絶対にあなた達に止められるじゃないですか」
そりゃまぁ確かに……と、納得しかけた時。二人の視界に、こちらへ走ってくるミクトラの姿が写る。
「あぁミクトラさん。お待たせしてしまってすみません。伝えたいことはもう彼に伝えたので、さくっと私の魂を消して頂いて構いませんよ」
「はぁ、はぁ……。い、いいえ。実はわたくしも、その……伝えなければならないことがあって。何と言いますか……。ほ、本当のことを言うと……すでにもう、あらゆる手を尽くしたあと、なんです」
「……………………はい?」
「ご、ごめんなさいっ!その……“魂奪い”をしたあと、ブラートさんの魂が常人の数百倍以上も丈夫にできていることがわかってですね……」
ミクトラ曰く、そもそも魂が質量を持ち、しかも人型になっていること自体があり得ないことらしい。
それでもなんとかしようと半ばムキになって今まで色々と試してきたが、ついに万策が尽きた……そのタイミングでリーバス達が駆け込んできた、というのが事の顛末だったようだ。
「……ああ。それは、つまり……私は今回も死ねない、ということ……です、か……」
「クッ……ハハ!肉体どころか魂までも丈夫とはな。残念だったなぁブラートさんよ。むしろ消えかけてるのは俺の方だったってのも皮肉が効いてて笑えるぜ」
「……リーバスさんが、消えかけている?どういうことですか?」
「ああ、そういや知らなかったのか。なんでも、肉体と魂の拒絶反応とやらで、俺はもう先が長くないみたいでね。ちょっと前から視界も霞んじまって何も見えてねーんだわ。ってなわけで、さっさと戻ってきてくれると助かるんだが」
「…………。そういう重要なことは先に言ってください」
「それを言っちまったら、アンタ俺と戦ってくれなかったろ?」
「結局あなたはそれですか。もっと命を大切にされては?」
「アンタがそれを言うのかい。つーか、いいからさっさと戻って来い。マジでそろそろやばい……」
リーバスに急かされ、自分の体の中に戻るブラート。瞬間、リーバスを蝕んでいた苦痛はウソのように消え去った。
…………その後。ミクトラ教団の存在を煙たがっていたレーシェは、外に住民達が避難しているうちにミクトラを強引に引っ張り、リーバス達に礼を言ったあと、町を後にしたのだった。
「ふう。やっぱりアンタがいる方がしっくり来るな。しかしまぁ、天下のブラートさんが俺のことをそんなに信頼してたとはなぁ。ククク、こりゃ傑作だ」
帰り道。心の中でブラートと話をしながら、リーバスはニヤニヤと微笑を浮かべる。
『……はあ、どうせ笑われると思っていましたよ。だからこっそりいなくなろうと思ったのに。ですが、私の勝手な行動であなたを危険な目に遭わせたことは素直に謝罪します』
どうやら、一つの体に二つの魂があるという状況はミクトラも初のケースで、肉体と魂の拒絶反応のことは彼女にとっても想定外の出来事だったらしい。
「構わねぇさ。ミクトラも反省してたみてぇだし。まぁ俺からすれば、ヤツのおかげで久しぶりにアンタと戦えたんだ。今度、菓子折りでも持っていかねぇとな」
『本当にあなたは物好きですねぇ。やれやれ……。一緒にいて飽きませんよ、ほんと』
「へへっ、そりゃどうも。俺がいるうちはそう簡単には死なせねぇからな。覚悟しろよ?相棒」
『…………。ところで、先ほどからずっと気になっていたのですが。彼女はなぜあのような状態に?』
リーバスとブラートの視線の先には、肩を落としているセプトと、そんなセプトを励ましているバネアの姿があった。
「ねーねーセプちん、もう泣かないで?いつかは仲直りできると思うよ?」
「うぐぐぐぐぅ……。ピトゥイのバカちんめ、もう許してやらんぞ……。あとセプちんって言うな……」
ひとまず(セプト以外は)もう大丈夫だろう。リーバスの旅を見届けた***はこの世界を後にし、新たな世界へと旅立つのだった……。
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