幽怪ストレンジャーprologue
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249:幽怪ストレンジャー ~鬼路誘引編~
開始前
リッカといる少女は一体…!?
プロローグ
「…………」
重苦しい紅色の空の下。古い造りの渡り廊下に自分が立っていることを確認した---の視界に入ったのは、どこか儚げな雰囲気を持った一人の小柄な少女と……
「し、信じられない。まさか、本当にあなたが……---さんが来てくれるなんて!」
以前、共にこの妖都を冒険した巫女の少女……リッカが立っていた。
ひとまず---は、リッカに「久しぶり」と声をかける。
「うんっ、久しぶり!会えて嬉し……って、今はそれどころじゃないんだった!えっと、再会を喜びたいところなんだけど、緊急事態っていうか……順を追って説明するね。」
「まず、こっちの子はナナセさん。お互いに直接の面識はないんだけど、同じ学校の後輩にあたる子なの」
「…………。あ、はい。ナナセです。初め、まして」
……どうやら、ナナセという少女は---にあまり興味を示していないようだ。それどころか、リッカに対しても心を開いている様子がない。
「でね。ついさっき、人間界で起こったことなんだけど。あたし、神社の境内のお掃除をしてたの。そしたら、今まで感じたことのない、ひんやりとした妖気を遠くで感じて……」
リッカは神社を飛び出し、妖気の気配を追った。そして、早朝の静まり返った路上でナナセを見つけた。
しかし、妖気の発生源は彼女ではなく、彼女の足元の“黒い歪み”から発生していることに気が付いたのだという。
「その歪みがみるみる大きくなって、ナナセさんを引きずり込み始めたの。だからあたし、ナナセさんを引っ張り上げようと思って『ファイト~!』って言いながら咄嗟に彼女の手を掴んだんだけど、一緒に飲み込まれちゃって。気が付いたらこんな場所に……な、なによその顔はっ」
なんというか、リッカらしいな……と思いながら、かいちょは静聴を続ける。
「と、とにかくっ。あたし、性悪ギツネ……こほん。クガサから『もしもの時のために持っておいてください。私だと思って。嫌ですねぇ最後のは冗談ですよ』って言われて、この瓢箪をいつも携帯してたの」
リッカの話によると、この瓢箪はクガサが長年かけて練った妖力で作られた召喚器らしく、霊力を込めて念じると“念じた者と繋がりが深い者”を呼び出す力があるのだという。
「最初はクガサの姿を連想して念じたんだけど、上手くいかなくて。で、さっき気づいたんだけど、この周辺は」
「……鬼門域。一部の妖怪しか出入りすることができない、特異的な力場」
「そうそれ、鬼門域みたいなの!だから、あたしと繋がりのある妖怪は呼び出せないってわかったから、妖怪じゃないあなたのことを…………え?ナナセさん、どうして鬼門域のことを……って、ちょっと!?」
まるで歩き慣れた場所であるかのように、ナナセはスタスタと廊下を歩き始めてしまう。
「どこ……って。もちろん出口を探そうかと。人間界に戻りたいので」
「そ、それはいいけど、一人じゃ危険だから!妖怪とか言われてパニックになるのもわかるけど……」
「妖怪の存在は知っています。ここが妖怪の住んでいる場所だということも、私がいわゆる神隠しという現象に遭ったことも。」
「それと……ああいった悪霊から身を守る方法も、少し覚えがあります」
ナナセの視線を追うと、そこには翼をはためかせながら宙に浮いている妖怪の姿があった。
「見つかっちゃったかぁ。それじゃあ次は、君達を食べるために襲い掛かっちゃおうかなぁ。フフ、イツマデ持ちこたえてくれるかなぁ?」
軽い口調でそう言うと、翼の妖怪は手に持った鉄扇を構えた。
「……残念だけど、話し合いが通じる妖怪じゃないみたいね。ナナセさん、あたしと---さんの後ろに……って、何事もなかったかのように走り始めてるし!?し、しかも足速い……!」
「ああいう類の妖怪は構うとつけ上がっていくタイプなので、相手にしない方がいいと教わりました。ここは逃げることをお勧めします、先輩」
「あっ、先輩ってちょっといい響き……じゃなくて!逃げるって言っても、あっちは襲ってくる気満々……って、ナナセさんどんどん先行っちゃってるし!」
「う、ううぅ……ごめん、---さんはひとまずナナセさんの傍にいてあげて!あたしも、あの妖怪を相手にしながら追いつくから!」
リッカの言葉に頷き、---は全速力で走り、なんとかナナセの隣まで距離を詰めた。
「わっ、もう追いついてる……。ナナセさんもすごいけど---さんも速いわね……。普段何キロぐらい走ってるんだろ?」
……こうして---は、妖怪の襲撃を退けながら渡り廊下を走ることになったのだった。
>>渡り廊下を進む<<
…………。あ、はい。では、行きましょう。
まずは500kmほど……500……?
正気、ですか……?
これ……預かって頂けると助かります。
神楽鈴を1個手に入れました。
……その、あまり私に構わなくても大丈夫ですので。
では、行きましょう。
まずは500kmほど……500……?
正気、ですか……?
これ……預かって頂けると助かります。
神楽鈴を1個手に入れました。
……その、あまり私に構わなくても大丈夫ですので。
では、行きましょう。
渡り廊下を進む
エピローグ
「はぁ、はぁ……や、やっと追いついた。ナナセさん、大丈夫だった?って言っても、---さんが一緒だったからあんまり心配してなかったけど」
ほどなくして、先ほどの妖怪を撒いたリッカも---とナナセに追いついた。
「……あの、先輩。私のことは心配いりません。自分の身は自分で守れますし。なので、ここからは別行動にしませんか?」
遠慮がちな様子で、ナナセはリッカの心配が杞憂であると口にする。
「別行動!?た、確かに、ナナセさんは妖怪と戦える力を持っているみたいだけど……。でも、さすがに鬼門域を一人で歩くのは危険だから!と、というか……ナナセさん、もしかしてあたしのこと嫌い?」
「あ、いいえ。先輩のことも---さんのことも嫌いではありません。ただ、私……一人が好きなところあるので。誰かといると疲れてしまうんです。すみません」
……自分を偽っている様子はない。どうやらナナセは、本気で人との関わりを拒否しているようだ。
「うぅん……。ナナセさんの気持ちは、とりあえずわかった。けど、これは命に関わる一大事だと思うの。ナナセさんだって命は大事でしょ?だから、今は安全を第一に考えて、一緒に行動しましょ?」
「お言葉ですが、拙い連携は混乱を招くだけだと思います。私、どんくさいので、さっき会ったばかりの人と息を合わせられる自信がありません」
「大丈夫!あたしはともかく、---さんは色んな戦いを経験している人みたいだから、誰かと息を合わせるなんて簡単に」
「先輩。こんなことは言いたくないのですが……気付いて頂けませんか?私は、遠回しにあなた達と行動をしたくない、と言っているのです。たとえ命に関わることであろうと、私は一人で行動したい……。それが、私にとって“自分を大切にする”ということだから」
ナナセは弱々しく、疲弊しきった笑顔をこちらに向ける。その表情からは“自分の世界に入ってこないでほしい”という、強い拒絶が感じられた。しかし……世話焼きなリッカは食い下がらなかった。
「じ、じゃあ、折衷案!一定の距離を常に保つから、それで別行動ということに……ならないか、さすがに」
「はい、ならないと思います。なので、私のことは放っておいてもらえると…………!?先輩、伏せて!!」
急に発せられたナナセの大きな声に驚くと同時に、反射的に身をかがめるリッカ。すると、リッカの頭上を鋭利な鉄扇が掠めた。
「ありゃりゃ、不意打ち失敗かぁ。でも、イツマデも避けられると思わないこと……あら?」
「オン・フウ・ハツ・ウン……封略結戒」
ナナセは呪文を唱え、手に持っていた数珠を翼の妖怪に向ける。
すると、四角いガラスのケージのようなものが妖怪の周りを囲うように出現し……
「きゃうっ!?な、なによこれぇ!出してよぉ~!」
……ものの数秒で、敵を閉じ込めることに成功した。
「大丈夫ですか、先輩!ケガは!?」
「う、うん、大丈夫。ありがとう、ナナセさん」
「いいえ。無事なら何よ、り…………あっ」
ナナセは小刻みに首を横に振ったあと、我に返ったかのような様子で---とリッカに背を向け、スタスタと渡り廊下を歩いていってしまった。
「あ、待って……って、止めてもダメか。うーん、優しい子なのは間違いないみたいだけど……」
「---さん、とりあえず今はナナセさんについていきましょ。なんていうか、さ。クガサと出会う前の自分を見ているみたいで、放っておけないんだ……」
---はリッカの提案に賛同し、適度な距離を保ちながらナナセの背を追うことにしたのだった。
250:幽怪ストレンジャー ~陰陽交霊編~
プロローグ
ナナセの警戒心がほんの少しだけ解けていることを察したリッカは、懐から一つの瓢箪を手に取り、ナナセに差し出す。
「これは……---さんを呼び出した時に使った瓢箪、ですか?」
「うん。実は、念のためにって言われてもう一個だけ渡されてたの」
「……霊力を込めて念じると“念じた者と繋がりが深い者”を呼び出すもの、でしたっけ。なら、意味ないと思います。私、繋がりが深い人なんていませんし。それに、仮に誰かを呼び出せたとしても、普通の人を呼んでしまったりしたら……」
「そこは大丈夫みたい。確かクガサの……し、知り合いの話だと、呼び出せるのは念じた人と同等か、それ以上の力を持っている存在だけに限られるって言ってたし」
その言葉から誰かの姿を連想したのか、ナナセはどこか遠い目をしながら瓢箪を見つめる。
「……やっぱり、いいです。先輩に貸し借りは作りたくありませんし」
「あ、相変わらずね……。でも、もしナナセさんと繋がりが深い人を呼ぶことに成功して、その人が頼りになる人だったら、あたしも安心できるんだけどな。四人の方が行動しやすいし、いざという時に二人組に分かれて行動とかできるし」
「……!それは、つまり。仮に私が誰かを呼び出すことに成功した場合、別行動をさせてもらえるということですか?」
「え!?そ、そこまでは言ってないけど……でも、ナナセさんが気楽に接することができるような人が出てきたら、それもいいかも。あたしもナナセさんに負担はかけたくないし。一緒にいること自体が負担になっちゃうなら、別行動も仕方がないと思うから」
リッカは自分がおせっかいな性格であることを重々理解している。しかし、相手との距離感を容赦なく詰めていったり、自分の考えを押し付けるようなことはしない。
「そう、ですか。では、ひとまずここはお言葉に甘えて……その瓢箪をお借りしてもよろしいでしょうか?」
提案を受け入れてもらえたのが意外だったのか、リッカは少し驚きながらも、嬉々とした様子でナナセに瓢箪を渡した。そして、ナナセは“ある人物”を思い浮かべながら瓢箪に霊力を込める。すると、次の瞬間……ナナセの周囲を、ぼんやりとした霧が覆った。
「あんれよぉ。急に呼び出されたかと思えば、なんだいここは。というより、あたいって誰だっけか?んむむ、カオルコって名前以外全然思い出せんなぁ……。おっ、そこの若いギャ~ルちゃん♪あんた、あたいのこと知っとる?」
ナナセの周囲に---やリッカの姿はない。どうやらナナセは、この妙な霧によって外界と遮断されてしまったようだ。
「……え。私に聞いているん、ですか?」
……リッカの話では、この瓢箪は“念じた者と繋がりが深い者”を呼び出すものだという。
しかし、ナナセはカオルコと名乗ったこの少女にまるで覚えがなかった。
「そりゃそうでしょうよ。ここにはあたいと君しかおらんのだし……んん?その霊力……君、ちぃとばかし陰陽術に心得があるみたいだねぇ。となると、あたいが呼ばれた理由は……おぉ、徐々に思い出してきたぞい。ふむふむ」
カオルコは満面の笑みを浮かべながら、手に持った金剛杵(こんごうしょ)をナナセに向ける。
「つまり、君はアレか!一流の陰陽師であるこのカオルコ様から陰陽術を学ぶために、あたいを呼び出したってワケだ!」
「あ、いいえ。全然違いますけど」
「なぁに、安心したまえよ!君、なかなか筋が良さそうだから、実戦で慣らしていけば技の一つや二つくらいすぐに習得できるはずさね!」
「あ、あの。本当にそういうあれではなくて……」
……この人、苦手だ。ナナセは一瞬で悟った。
「遠慮せんでいいぞ。陰陽師の卵と、超一流の陰陽師が二人だけの空間にいる。となれば、あたいがすべきことは、弟子の才能を開花させてやること!いんやぁ、記憶が全部戻ったワケじゃないけど、あたいは自分の力を誰かに継承しなかったことを悔やんどったみたいでなぁ。まさかこんな形で」
「勝手に弟子にしないでください。というより、早くこの霧を消してくれませんか……?」
「んなこと言われてもねぇ。この霧はあたいが干渉できるものじゃないっぽいし。でもほら、仮にこの霧があたいの作ったものなら、あたいの後悔を晴らせば晴れるんじゃないかね?おお、カオルコちゃんちょっと上手いこと言った!」
あまりのハイテンションっぷりについていけず、ナナセは深いため息を吐く。
「うわ、若いのにおばさんみたいなため息だねぇ……。まぁ、そっちがその気じゃないなら、強引にその気になってもらうだけさね!」
「……!」
陰陽術を唱え始めるカオルコ。まともに受ければ、おそらく大怪我は避けられない……そう判断したナナセは反射的に数珠を構え、カオルコの攻撃を受け止める態勢に入るのだった。
術を放つ
位置登録は霊力を高めるうえで重要なことだと、以前教わりました……。
霧で周りが見えない……。先輩達は外にいるのでしょうか?
……やはり、彼女は陰陽師なのでしょうか?
力を合わせて何かをやり遂げる……私は苦手ですけど、大切なことだと思います。
……ぁ。人が、たくさん……。
好機を逃してしまうのは、ちょっともったいないです……。
進みましょう。自分のペースで……。
……なるべく早く終わらせましょう。
人間界へ帰るためにも。
人間界へ帰るためにも。
エピローグ
「……ッ!?な、なに、これ……」
……その時。
ナナセは“自分のものではない過去を思い出す”という、今まで味わったことのない奇妙な体験をした。
『人の世に明けは来たらず……。露と消えるがいい、若き陰陽師よ』
『ふん。あまり人間を舐めないことだね、アマノジャク!今日こそはトドメを刺してあげるよ!』
頭の中に流れた“映像”。それは、角を生やした鬼らしき者と、陰陽師の少女……カオルコが、一戦を交えようとしている……という内容だった。
「お~い、ギャル子ちゃ~ん?なんか茫然としとるけど、大丈夫かね?」
そして、戦いが始まろうとした瞬間。ナナセは我に返り、目の前に本物のカオルコがいることを確認する。
「あんれよぉ。その様子だと、あたいの過去の一部でも垣間見ちまったって感じかい?」
「……!?ど、どうしてそれを」
「んー。君がさっき使った術、元々あたいの技なんだけどさ。強力な代わりに、ちょいと難点があってねぇ」
「難点……ですか?」
「そうそう。作用というか副作用というべきなのか微妙なトコなんだけど……自分の霊力と、相手の霊力やら妖力がぶつかった瞬間に、共鳴反応みたいなのが生じるんだ。その結果、相手の過去を視ちまうってことがたま~に起こるみたいで……おや?」
説明をしている途中に、カオルコは自分の体がぼんやりと薄くなっていることに気が付く。
「あんれま。こりゃあ……ひとまずは役割を一つ終えたってことみたいだねぇ。まぁ、そのうちまた会うこともあるだろうさ。どうも、あたいと君には何らかの繋がりがあるみたいだし。んじゃ、またね~ん♪」
「……え。ま、待ってください!結局、あなたは」
……ナナセの言葉が届く前に、カオルコはすでに消えてしまっていた。同時に、ナナセの周囲を覆っていた霧が晴れ、ナナセは先ほどの渡り廊下へと戻ってきた。
「あ……!ナナセさん、大丈夫!?」
「…………っ。せ、先輩?」
気が付くと、ナナセはリッカの膝の上に頭を乗せ、横になっていた。
「よ、よかった。その様子だと大丈夫みたいね。はあ、ほんとびっくりしたんだから!瓢箪を使った瞬間、いきなり気を失って倒れちゃうんだもん。あっ、もう立って大丈夫なの?」
……どうやら、カオルコとの一件のことを知っているのはナナセだけらしい。というより、ナナセすらも先ほどのことは全て夢だったのでは、と疑っているようだ。そんな不思議な状況に戸惑いながらも、ナナセはゆっくりと腰を上げる。
「ご迷惑をお掛けしました。それで、ここは?」
「あ、うん。実はナナセさんを運びながら、ちょっと移動したの。残念だけど、この辺りに出口はなかったわ。これ以上先に進むには、目の前にある屋敷の中に入るしかないみたいで……」
渡り廊下の終着点には、古びた大きな屋敷があった。他に道がないため、ここを進むしかないようだが……リッカ曰く、屋敷の中にはたくさんの妖怪の気配があるのだという。
「わかりました。皆さんさえよければ、屋敷の中に入ろうと思うのですが……」
「うん、あたしも---さんもそのつもり……って、あれ?一緒に行っても、いいの?」
「……介抱してくれた方々を無下にするのは、さすがにどうかと思って。人と一緒にいるのはとても苦手で、すごく辛いけど……今は我慢します。それに……」
「…………それに?」
「いいえ、なんでもありません。行きましょう」
――先輩と---さんと一緒にいるのは、あまり苦ではないみたいです。
言いかけた言葉を慌てて飲み込み、ナナセは屋敷の扉に手をかけたのだった。
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