攻掠!ドラグァ大作戦_本編
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230:攻掠!ドラグァ大作戦 Mission3.奪還
プロローグ
幸運の女神に微笑まれ巨万の富を勝ち得る者!金と名誉に目が眩んで数時間で破産・借金まみれになる者!天国と地獄が重なり合うこのカジノでは、人生をチップにした様々なスリリングドラマが毎日のように生み出されては消えていく!
「一方で、盗品や違法品が景品になっていたり、運営サイドに犯罪組織が絡んでいる等といった黒いウワサも絶えない……ねぇ。三流ゴシップ誌の情報が参考になるかは怪しいけど、メイドさんがかつて仕えていたっていうマスターの私物である“ドラグァの竜頭”が実際に最高額の景品になっている以上、信憑性はあるわね」
スロットマシンの機械音、ボタンを激しく叩く音、客達が発する一喜一憂の声、スカバンドの物静かな演奏……。カラフルな照明が明滅とするカジノ内には、鼓膜を刺激する様々な音が木霊している。
そんな中、広々としたカジノ内の隅にある落ち着いた雰囲気のバーで、リアネとコゼットと**は低レートのキノで軽く運試しをしながら作戦会議をしていた。
「カジノに滞在が許されるのは一週間。一週間経てば、貯めたチップは換金しないと全て没収されてしまう。つまり、景品を手に入れるほどの大量のチップを一週間で稼ぐには、大当たりを連発するしかない……。フフ、よくできたシステムね。まぁ、コツコツ稼いでドラグァの竜頭とやらを手に入れるとしましょうか」
「……ミス・クラッシャー。このカジノに黒いウワサがある以上、カジノ側がイカサマをしてくる可能性もあります。正面から挑むのは無謀だと思うのですが?」
「覚えておくといいわ、メイドさん。カジノっていうのはね、必ずカジノ側に利益が出る仕組みになっているのよ。だから、カジノ側としては適度に客を勝たせて『このカジノは当たる』と信用させることの方が大事なの。これだけ規模の大きいカジノならなおのことね」
「……イカサマをするメリットがない、ということですか?」
「ご明察。むしろデメリットだらけね。どんな大きなカジノだって、一度でも信用を失えばそれで終わりだもの。ちなみに、私達が持っているこの会員カード……これ、魔力の動きに反応して警報を鳴らす仕組みになっているのよ。
つまり、このカジノで魔法や魔法アイテムとかは使えないってこと。同じようなカードをディーラーも持っていたから、魔術じみたイカサマもお互い難しいってコト」
一通り説明を終えると、リアネは目を細めながら軽く伸びをしたあと、ゆっくりと席から立ち上がる。
「それじゃあ行きましょうか。フフ……実はさっき、面白いギャンブルを見つけたの。かなり高レートだったし、あそこで一気に稼げれば間違いなく依頼達成の近道になるわ」
リアネ達が向かったのは、周囲のゲームとは明らかに異なる“和”の雰囲気を漂わせるテーブルだった。
「どちらさんも、よござんすね?」
ディーラーである女性が、逆さまになった茶碗のようなツボを軽く持ち上げた。中には二つのサイコロが入っており、その出目を見た周囲の客達は歓喜の声を上げたり、落胆の溜息を吐いたりしている。
「……ミス・クラッシャー。これは?」
「丁半博打。人間界の和という文化を尊ぶ島国が発祥のギャンブルね。出目の合計が偶数か奇数かを当てるっていうシンプルなゲームよ。ルーレット以上に運の要素が強いけど、確率と“場の空気”を読めれば勝率は上がるわ。それを探るには、まずは参加者達の顔色を探るのが手っ取り早いのだけれど……」
「…………顔色を探る。つまり、感情を探ればいいということですか?」
「その通り。けどまぁ、これがそう簡単には…………?メイドさん?」
コゼットは参加者達一人一人の顔を、紫色の片眼でじっと見つめる。
「……右から三番目の男性。彼は絶対の自信を持ってこのゲームに挑んでいます。おそらくですが、彼はここに長い時間滞在して、サイコロの出目を暗記しているのでしょう。運否天賦よりも、計算ずくでこのゲームに挑んでいる……貴方と同じタイプです、ミス・クラッシャー」
「ふぅん。ルーレットの時も思ったのだけれど……メイドさん、とても目が良いのね。何か特別な力でも持っているのかしら?」
「…………語る必要なし、と判断します。ただ、私はマスターの宝物を取り戻すためなら貴方への協力は惜しまない。それだけです」
「そう。まぁ、今はそれで構わないわ。それじゃあ旅人さん、一緒に参加してくれるかしら?」
**は頷き、リアネと共に畳の上に座った。
「……おや?見たところ、あんたらはまだこのカジノに来たばかりって感じだね。正直、ここは初心者にはお勧めしないよ。運の無いやつはすぐに一文無しになっちまうからね」
「ご忠告感謝ありがとう。けど問題ないわ。確かに私、運はあまり良くないけれど……気前は良い方なの」
「あっはは。面白いお姉さんだ。いいよ、なら好きなだけ遊んでいきな。こっちはどうなっても知らないけどね……」
出目を予測する
ランキングに関係なく、一定数の【カジノメダル】を集めると役立つアイテムが貰えるみたいね。
どうせなら大逆転でも狙ってみる?
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、すぐにLv80になれるんですって。
魔界では「土地力」は力そのものみたいなものよ。チップと一緒にどんどん溜めていきましょう。
人数が多ければ作戦の数も増えるものね。
いつか、あなたに本当の姿を見せる時が来るかも……。
強い敵を倒せば多くの【カジノメダル】を貰えるみたいよ。 敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板で教えてくれるわ。 こまめにチェックしておきましょう。 クエスト?
ふぅん……なかなか面白そうね。
ベットする
髭男紳士バトル
コゼットのヒントもあり、リアネの読みは見事に的中し、出だしから大量のチップを稼ぐことに成功した。
「……さて、メイドさん。あなたは“語る必要なし”と言っていたけれど、今後の作戦のためにも教えてもらえるかしら。あなたの“眼の力”について。見たところ、あなたの目には……人の感情を読む力があるみたいね」
リアネはコゼットの“眼の力”に疑問を抱き、人けの少ない場所に移動すると、コゼットに質問をぶつける。
「……それは、貴方が私の依頼を果たすうえで必要なことなのでしょうか?ミス・クラッシャー」
「ええ。依頼は必ず果たすと言った以上、私には責任を果たす義務があるもの。あなたの眼の力について知るということは、依頼の成功率を少しでも上げることに繋がる。それに……私への協力は惜しまないのでしょう?」
その問いに、コゼットはやや眉をひそめながらも、観念したかのように口を開いた。
「“霧彩の紫眼(ミスティックパープル)”と、今は亡きマスターは呼んでいました。私の片眼には、人の感情を色として視認したり、他者の視界に干渉する力があります。加えて、動体視力にも優れています」
「……!それ、賭け事においては最強とも言える力じゃない。その力があるのなら、私に依頼する必要なんてなかったんじゃ……」
「眼の力を使う際は、全神経を集中しなければ使えません。ゆえに、ギャンブルをしながら使うといった器用な真似は、私にはできません」
自身の能力のことを淡々と語るコゼット。その話を聞き、リアネは人差し指と中指を立てる。
「あと二つ、聞いてもいいかしら。一つ目……あなたはどういう経緯で、今は亡きマスターとやらに仕えることになったの?」
「……?物心ついた時には仕えていましたが。なんでも、孤児だった私を引き取ってくれたのだとか」
「二つ目。あなたが仕えていたマスターは、なぜ亡くなったの?」
「盗賊に殺されました。ドラグァの竜頭を盗まれたのもその時です。そして、マスターは死に際に『ドラグァの竜頭を取り返せ』と、私に命令をしたのです」
「……なるほど。で、その遺品が裏ルートを通ってこのカジノに流れてきたってことね。けど、それより……」
コゼットの過去を知ったリアネは、あごに手を添えながらやや険しい表情になる。すると、その時……
「これはこれは、美しいマドモワゼルさん達!何やらカジノに相応しくない辛気臭いムードであるな。このワシと違って!ハッハッッ……ハッッッ!」
恰幅の良い男が、立派なヒゲを揺らしながら上機嫌な様子でリアネ達に声を掛けてきた。
「フフ。そちらはだいぶ景気が良さそうですね。えっと、ミスター……」
「ベイガスと呼ぶのである。スロット界の生きる伝説、ベイガスとな。いやはや、先日から驚くように当たりが出ていてだねぇ。どうかね、このあとワシと食事でも。代金はもちろんワシが払うのである」
「お誘いありがとうございます、ミスター・ベイガス。ですが、こちらはあまり景気が良くないもので、これから稼ぎにいかねばならなくて」
「ムッ。こ、断られるとは思っていなかったので、ワリとショックである……。いや、しかしワシは諦めが悪いのである!君達のような美しい淑女に囲まれながら、どうしても食事をしてみたいのであるっ!」
サスペンダーを勢いよく引っ張りながら、必死な形相を浮かべるベイガス。そんな彼の姿を見たリアネは、妖艶な笑みを浮かべながらベイガスに歩み寄る。
「ミスター・ベイガス。ここはカジノ……全てが賭け事で決まる場所です。なので、私と賭けをしませんか?あなたの得意とするゲームであなたが勝利すれば、私達は食事に付き合います。何なら、朝まで付き合っても構いません。加えて、こちらのチップは全てあなたに差し出す……いかがでしょう?」
「……!ほう、マドモワゼルの美貌に勝るとも劣らないほどの魅力的な提案であるな。しかし、君が勝った場合はどうなるのかね?」
「あなたの稼いだチップを全て頂く。いかがでしょう……?」
「ぬほお……な、なんというスリル!面白いのであるっ!ならば、スロットで勝負をするのであるっ!時間内により多くのチップを稼いだ者が勝ち!どうだ、シンプルでよいだろう?ハッハッッ……ハッッッ!」
「ええ。ステキですわ、ミスター・ベイガス……」
リアネはコゼットに小さな声で耳打ちをしたあと、ベイガスが座った隣の席に座り、スロットを打ち始めた……。
スロットを回す
魔戯博師バトル
ベイガスはチップを全てリアネに渡し、ハンカチで顔を覆いながら走り去って行った。
「……悪い人ですね。ミス・クラッシャー」
コゼットの眼の力を使えばスロットの目押しは容易い。しかし、彼女は力を使いながら他の動作(ボタンを押すこと)ができない。そこで、彼女は眼の力で自分の視界をリアネの視界に投影させていたのだった。
「だぁって、スロットは機械が相手なんだもの。確実に勝つにはこうするしか……というより、メイドさんだって納得したうえで作戦に乗ってくれたじゃないの」
「それは……そうですが。けど、人を騙したり、貶めたり……やはり、私はギャンブルを好きに……なれ、そうに…………」
「……!ちょっと、メイドさん!?」
よろけるコゼットの体を、すぐにリアネが抱える。どうやら眼の力を長時間使ったことで、体に負担がかかってしまったらしい。
「……こういうことになるなら先に言ってほしかったわ。なんで黙っていたの?」
「あなたと……同じです。協力を惜しまないと言った手前……私も、約束は果たすべき……かと」
顔色を悪くしながらそう口にするコゼットに、リアネはどこか物憂げな溜息を吐いた。
「意外と強情なのね。そういうの嫌いじゃないけど……。旅人さん、悪いけど彼女を看ていてもらえる?」
知らなかったとはいえ、リアネはコゼットに負担をかけてしまったことを悔やんでいるようだ。そんな時、リアネの前にディーラーらしき一人の男が颯爽と現れる。
「困った女性を放っておくのは俺の主義主張に反する。体調が悪いなら救護室に向かうといい。必要であるならば、この俺が案内するが?」
自信げな笑みを浮かべながら、男はコゼットとリアネを交互に見つめる。
「……ありがとう、ミスター。ひとまずは大丈夫。軽く眩暈がしただけみたいだから」
「そうか。では、君をギャンブルに誘っても問題ないということだな、ミス・デナルディ。或いはミス・クラッシャー……いや、ここはアーティファクトハンターのリアネと呼んだ方がよろしいか?」
「……あら。ずいぶんと私について詳しいのね。もしかして、私のファンだったりする?」
「そう捉えて頂いても構わない。なにせ、君は“カジノ潰し”としてこっちの世界ではちょっとした有名人だからな。俺としても、君とは一度戦ってみたかったんだ。そして……可能であれば、このカジノを君に潰してほしい」
「……?どういうことかしら?」
尋ねると、男はやや周りを気にしながら声を小さくした。
「カジノは常に神聖な場であるべき、というのが俺の主義主張でね。しかし、このカジノには薄汚い“裏の顔”がある。俺はその一部を知っているがゆえ、このカジノを潰したいと思っている。とはいえ、詳細についてはタダでは教えられない」
「別にいいわ。興味ないもの」
「……。見たところ、君達はこのカジノの最高級景品であるドラグァの竜頭を狙っているようだが、アレは絶対に手に入らない仕組みになっている。それでもなお挑むのならば、このカジノの裏の顔について知っておいた方がいい」
「……ふぅん。それで、私があなたに勝てばその情報を教えてくれる、と。そういうことね?」
「その通り。君がウワサ通りの人物かを確かめるには、勝負をするのが手っ取り早い。ただし、君が負けたら会員カードを没収させてもらう。このまま何も知らずに勝ち進めば、おそらく君達は死ぬ。レディを見殺しにするのは、俺の主義主張に反する」
リアネは男に悟られないようコゼットの顔を見る。すると、コゼットは首を縦に振った。それはつまり、彼の言っていることが全て真実であり、彼が本心からリアネ達の身を案じているということを意味していた。
「わかったわ。それで、なんのゲームで勝負するの?ミスター……」
「ギレムだ。俺はオールラウンダーでね。カードにダイス、ルーレットまでなんでもござれだ」
「そう。じゃあ、全部で勝負しましょう。その方があなたも満足するでしょ?ギレムさん」
「フッ、魅力的な提案だ。その勝負を断ってしまうのは、俺の主義主張に反する」
今度はコゼットの能力に頼ることなく、リアネはギレムと真剣勝負に挑むことになった……。
連戦する
異聖天使バトル
ギャンブルに勝利したリアネはギレムに案内され、コゼットと**と共に裏口を抜け、人けのない通りへとやって来た。
「さて。君が手に入れようとしている最高額の景品、ドラグァの竜頭だが……うちのオーナーは、あれを何がなんでも手放したくないらしい。なぜなら、あれは“アーティファクト”と呼ばれる禁忌の古代遺宝の一つだからだ」
「…………。やっぱりね。けど、取られたくないのなら、なぜそれをカジノの景品なんかにしているの?」
リアネはドラグァの竜頭がアーティファクトと呼ばれる危険アイテムであることを予想していたのか、あまり驚いた様子をみせなかった。
「取られたくないからこそだ。このカジノのセキュリティは魔界でもトップクラスの技術・術式で構築されている。下手に自分で保管するよりよっぽど安全なのさ。それに、景品として見世物にしておけば、より多くの集客を望めるだろう?」
「……アーティファクトを客寄せに使うなんて、とんでもないオーナーね。とはいえ、この調子でいくと私は普通に景品を手に入れてしまいそうなのだけれど?」
「それはあり得ない。なぜなら、オーナーの息が掛かった刺客達がそれを阻止しに来るからだ。文字通り、どんな方法を使ってでもな……。まぁ、俺が知っているのはここまでだ」
あとのことは君に任せる……と言い残し、ギレムはカジノへと戻って行った。
「…………。ミス・クラッシャー。彼の言っていたアーティファクトとは、一体なんなのですか?感情の色から察するに、貴方は以前からアーティファクトという存在を知っていたようですが?」
言いながら、コゼットは訝しげな視線をリアネに送る。
「……そんなことより、今日はもう遅いしホテルに戻りましょう。私はもう少し情報収集をしてから戻るわ。旅人さん、メイドさんをお願い。疲れてるみたいだから、丁重にエスコートしてあげてね」
その視線に込められた意図に何らかの危険性を見出したのか、リアネはわざとらしく話題を変えると共に、ひとまずコゼットと**を先にホテルの部屋へと帰した。
「……盗み聞きだなんて趣味が悪いわよ。レートー」
一人になったのを確認したあと、リアネはきまりの悪そうな表情で腕を組みながら、物陰に隠れている者の名を呼ぶ。すると、一人の天使らしき少女が満面の笑みを浮かべながらリアネの前に姿を現した。
「ありゃ、バレてた~みたいな?けど、聞き耳を立てるのは情報屋にとって必須スキルだも~ん!それに、リア姉のいるところに悪事の気配アリって言うじゃ~ん?みたいな」
「変な常識を作らないでほしいわ。はぁ、どうしてあなたは私の行く先々に現れるんだか……」
「またまたぁ。あたしの情報が役に立ったことも一度や二度じゃないでしょ~?ああでも、今回は本当に偶然っ。あたしが憧れてるバトルアーティストのアルマ様がこのカジノに絡んでるっていうウワサを耳にしたから、個人的に調査しに来ただけ~みたいな?」
「ってあなた、まだ彼女の追っかけをしているの?飽きないわねぇほんと……」
でも、丁度よかったわ……と言いながら、リアネは情報屋であるレートーに“ある調査”の依頼をする。
「なるほどね~。そのぐらいの調査ならあんまり時間はかからなそうだけど。ただ、あたしが依頼を受けるかどうかは……」
「一戦交えてから決める、でしょ?堕天しているわけでもないのに戦いが好きだなんて……。ほんっと変わった天使よね、あなた」
「えへへ~それほどでも~♪」
「褒めてはいないのだけど」
誰もいない閑散とした路地裏に移動し、リアネとレートーはお互いに戦闘態勢に入った。
「悪いけど手短に済ませるわよ。早く戻らないと、メイドさんが私のことを疑い始めそうだし」
「手短に終わるかどうかはリア姉の戦いぶり次第~みたいな!ぃよ~し、今日こそはリア姉をギャフンと言わせちゃうんだから♪」
一戦交える
暗部奇襲バトル
「私はいつだってありのままよ。そんなことより、例の調査の件……」
「わかってますよ~だ。二、三日もあれば終わると思うから、依頼料た~っぷり用意して待ってて~みたいな。またね~リア姉♪」
リアネの“とある依頼”を引き受けたレートーは、鼻唄を口ずさみながらその場をあとにした。
……一方、その頃。
「あの。**様は、ミス・クラッシャー……リアネ様のことを、どう思いますか?」
カジノの広大な敷地内にあるホテル。そのホール内で、コゼットはおずおずといった様子でかいちょに疑問を投げかける。
「実は……アーティファクトという言葉を耳にした時、リアネ様の感情の色に赤黒い靄がかかったのです。赤は、怒りなどの強い感情の色。そして黒は……何か、秘め事がある時の色」
ギレムの話では、コゼットが取り戻したいドラグァの竜頭という秘宝は、アーティファクトと呼ばれる危険アイテムらしい。
しかし、コゼットはそのことを知らなかったどころか、アーティファクトという言葉すら耳にしたことがなかったようだ。
「私がかつて仕えていた主が、なぜアーティファクトという代物を所持していたのかは理解しかねますが……。たとえどんなに危険な物だったとしても、私は主のためにドラグァの竜頭を取り返したいのです」
なぜ、そこまでドラグァの竜頭に執着するのか?反射的に、**はコゼットに尋ねていた。
「……私には、主との絆以外に何もありません。帰る場所も、生きる理由も。そして、主を失った私にできることは、主の最期の願いを……ドラグァの竜頭を取り返すこと以外にないのです」
だから……と、コゼットは遠い目をしながら言葉を続ける。
「疑いたくはありませんが……もし、リアネ様がドラグァの竜頭を持ち去る、或いは壊そうとした時は……あの人を止めて頂けませんか?すみません……こんなことを頼めるの、**様しかいなくて」
その提案に対し、どう返事をすればいいのか迷っていると……突然、ホールから人の気配が消えた。そして数秒後、殺意の気配と共に武器を持った者達が颯爽と姿を現す。
「……っ!心の色が視えない。この者達はおそらく、幻体と呼ばれる存在……かと」
コゼットの言葉を耳に入れながら、ギレムの話を思い出す**。
ドラグァの竜頭を手に入れようとすれば“オーナーの息が掛かった刺客達”に阻止される……つまり、この幻体達はカジノ側からの刺客ということ。
「……ここは、ミス・クラッシャー抜きで切り抜ける他ないようです。直接の戦闘は得意ではありませんが、眼の力でフォロー致します、**様」
**はコゼットを庇うように立ちながら栞を取り出し、幻体達との戦いに挑むのだった。
ピンチを切り抜ける
裏闘技場バトル
「……**様、申し訳ございません。幻体達との戦いに夢中になるあまり、周囲の敵の気配に気が付きませんでした」
疲弊しきったコゼットと**は、幻体がただの囮であったこと……そして、幻体と戦っている最中に、カジノ側の武闘派構成員らしき者の集団が自分達を包囲していることに気が付かなかった。
――これ以上、コゼットを守りながら戦うのは難しい。
そう判断した**は、コゼットと共におとなしく敵に捕まることを選んだ。
「まあ。あなた達も捕まっちゃったのね」
地下の独房室へと連行された**とコゼットは、すでに鉄格子の中にいたリアネと再会を果たした。どうやら、彼女はかいちょ達よりも早く捕まっていたらしい。
「……すみません、ミス・クラッシャー」
「あら。なぜ謝るの?」
「あなたの腕なら捕まることなく敵を追い払うことができたはず。なのに、あなたはここにいる」
「ああ、そのことね。敵さんはご丁寧にこう説明してくれたわ。『仲間の命が惜しければおとなしく投降しろ』ってね。古いセリフよねぇホント」
「……私のせいです。**さんだって、私がいなければ一人で逃げおおせることができたに違いありません。そもそも、私が……私が、ついて来なければ……こんなことには……」
肩を落としながら、両手をぎゅっと握りしめるコゼット。爪が食い込んだその手からは、じんわりと赤い血が滲んでいた。
「ねえメイドさん。一つ教えてほしいことがあるの。あなた、人の感情が視えるのよね?なら、私のことをちゃんと視て。私の感情の色は今、どんな感じ?」
リアネにそう問われ、コゼットはゆっくりと顔を上げる。そして、改めてリアネを視界に入れると、ハッと息を呑む。
「緑と黒が合わさった、深い緑。これは……好奇心の、色?」
「フフ、本当にすごい眼ね。まぁ、理解してくれたのならゆっくりしましょう?ここ、そこまで居心地悪くないし」
「…………。まさか、こうなることは予測済みだったのですか?」
「ギレムの情報が確かなら、正攻法ではドラグァの竜頭は手に入らない。なら、潔く虎穴に入った方が手っ取り早いでしょう?でも、この作戦が成功したのはあなたのおかげよ、メイドさん。あなたがギレムは白であることを教えてくれたから、彼の情報が正しいことがわかったのだから」
私一人だったら、彼を信用することはなかったかもしれない……と、リアネはコゼットにウィンクをしながらお礼の言葉を口にする。
それからほどなくして、武装をした複数人の係員らしき者達が**、リアネ、コゼットの三人を独房から連れ出した。そして、三人が連れてこられた場所は……
「ふぅん……だいぶ趣味の悪い場所ね。まぁ、ちょっと私好みだけど」
広々とした劇場のような空間。その舞台の真ん中にある円形のリングに通されたリアネ達は、こちらと同じ三人編成の一団と向かい合う形になる。
「ようこそアリーナへ!あなた達は命をチップとして(強制的に)私達と試合(という名の殺し合い)をしてもらいます!あなた達が(万が一にも)勝てば莫大な量のチップを!負ければ(無様に)死んでもらいます!なお、逃げることは(絶対に)許されませんのでご注意を!」
リーダーらしき女性が小声で本音を交えながらルールを説明すると、身なりの良い観客達から野太い歓声が湧き上がった。どうやらここにいる観客達は、今から行われる試合に金を賭けているようだ。
「ミス・クラッシャー。この三人、変です。感情の色が見たこともない複合色で塗りつぶされている。まるで、何かに操られているような……そんな感じがするのですが」
「そのようね。しかも、三人とも身を滅ぼさんばかりの異常な魔力を有している……。何かによって操られ、その結果として膨大な力を得た。そんなところかしら」
「……こちらは丸腰です。勝算があるのなら、ぜひお聞きしたいのですが?」
不安げに尋ねるコゼット。するとリアネは、微笑を浮かべながら指輪をはめた手を伸ばした。そして、次の瞬間……彼女の指輪は、一本の煌びやかな杖へと姿を変えた。
「質問の答えは行動で示すわ。旅人さんも、ここは私にまかせて。メイドさんのこと、よろしくね」
杖を片手に、三人の猛者達の方へ一歩踏み出すリアネ。それを合図にしたかのように、試合開始を告げる太鼓の音が鳴り響いたのだった……。
命を賭ける
直属私兵バトル
「……っ。どうやら、私達三人は今まで心を操られていたようですね。しかし、あなたの力で元に戻ることができました。心より感謝致します」
「どういたしまして。ところで、あなたに一つ聞きたいのだけれど……どのようにして心を操られてしまったのか、思い出せる?」
「……。ぼんやりとした記憶ですが、竜の形をした物体の双眸を見た瞬間からだと思います。実は、私達三人は元々、旅の傭兵団でして……」
話によると、彼女達は数週間前にカジノ側から護衛の依頼を受け、オーナールームへ通されたのだという。そこで彼女達は、竜の形をした物体を手にした男に出会い……そこからの記憶は、ブツリと途切れてしまっているらしい。
「貴重な情報をありがとう。あなた達の契約がどうなっているかは知らないけど、可能ならすぐにこのカジノから立ち去ることをオススメするわ。じゃあ、ね」
試合を終えたリアネ達は係員に控室へ案内され、しばらく待つよう指示される。どうやら、試合はまだ続くようだ。
「ミス・クラッシャー。先ほどの戦いですが……あなたの持っている杖からは、尋常ではないほどの魔力が感じられました。ですが、今は全くといっていいほど魔力を感じません。その杖は、一体……?」
一息ついたあと、コゼットは先ほどの戦いについてリアネに尋ねる。
「古杖アンドヴァリ。対アーティファクト用のアーティファクトよ。普段はただの杖なんだけど、アーティファクトの力を感知した瞬間、強大な魔力を宿す仕組みになっているの。今回はドラグァの竜頭によって操られたあの三闘士に反応して、真の力を発揮したといったところね」
そう説明したあと、リアネは決意を胸に、改めてコゼットと向き合う。
「メイドさん。私はドラグァの竜頭を破壊するわ」
「ダメです」
「……さっきの人達を見てわかったでしょう?ドラグァの竜頭は人の心を操ってしまう危険なアーティファクト。この世界にあってはならないものよ」
「約束が違います。私の依頼はあくまで、ドラグァの竜頭の回収です」
「なら、一度渡したあとに破壊する。それなら依頼は関係ないでしょう?」
「……っ。あなたは…………ひどい人です」
「自覚はあるつもりよ。けど、アーティファクトは必ず人々に不幸をもたらすの。そして、それを破壊するのが私の使命なの」
リアネは胸に手を当て、目を閉じながら静かな声で続ける。
「……幼い頃に、一つのアーティファクトがきっかけで家族を失ったわ。だから私はアーティファクトを破壊する旅をしている。同じような被害者を増やさないために、ね」
コゼットの瞳には、リアネを覆うディープブルー……哀しみの色が写っていた。ゆえに、リアネの言葉と決意が本物であると、コゼットは容易に理解することができた。
「でも……でも、ドラグァの竜頭は、私の全てなのです。今は亡き主と私とを繋ぐ、唯一の絆……。それを失ってしまったら、私には何も残らない。だから」
「メイドさん。その“主との絆”なのだけれど。きっと、その絆は」
言いかけた時、係員が控室へとやって来た。リアネ達は話を中断し、再び闘技ステージへと降り立つ。
「かの三闘士を打ち破るとはな。その功績に敬意を表し、美学のある戦いを挑みたいところだが……オーナーの命令だ。悪いが一瞬で詰ませてもらうぞ」
……様子からして、この二人も先ほどの三闘士と同じように、ドラグァの竜頭によって操られているようだ。
「フフ、丁寧なおもてなしだこと。いいわ……そのご厚意、快く受け取るとしましょう」
もてなしを受ける
竜頭威圧バトル
リアネ達が二人の闘士を追いつめかけた、その時。オーナーを名乗る小柄な男が颯爽と姿を現した。そして、彼の手には……
「それは、ドラグァの竜頭。私が仕えていた主、カシム様の形見……!」
「……ん?貴様、かの悪逆非道なる大盗賊、カシムに仕えていたというのか?」
「……?カシム様が、大盗賊……?どういうこと、ですか?」
「フン、説明する必要などない。どのみちお前は我が傘下へ下るのだからな」
ガルドはドラグァの竜頭を高く掲げる。すると、竜頭の双眸から禍々しい光が迸った。
「……!ダメ、メイドさん!竜頭から目を」
背けて……とリアネが言い終える前に、コゼットはその光を視界に入れてしまっていた。しかし……
「……っ!?バカな、なぜ効かない!?」
……コゼットに操られた様子はない。そんな彼女の姿を見たガルドは、ある一つの結論に達する。
「その眼……そうか、お前は……かの民族の生き残りか。それならば竜頭の力が及ばないのも頷ける」
「……?ど、どういうこと、ですか?」
「知らぬのか?このドラグァの竜頭は元々、クォリア族という少数民族が、その危険性ゆえに古くから封印・管理していた秘宝なのだよ。察するに、お前には“人の心を色として視る力”があるはず。それこそ、クォリア族である何よりの証拠」
だが……と、ガルドは続ける。
「クォリア族はカシムという悪党が率いる盗賊団によって滅ぼされ、竜頭は一度カシムの手に渡った……そして、余が率いる私兵隊がカシムを討ったことで、竜頭はこうして余の手に降り立ったのだ」
「……っ。そんなの、信じません。主が……カシム様が、そんな人であるはずが」
しかし、無意識だったのか意図的だったのかはわからないが、コゼットはかつて仕えていた主、カシムの心の色を一度も視ようとしなかった。真実を知ることを恐れていたがゆえに。
「皮肉な話よ。何も知らず、一族を死へと追いやった者に仕えていたとは。カシムがお前を拾ったのも、おそらくはお前の能力が目的だったのだろうさ。ヤツは血も涙もない、冷酷な男であったからな。しかし、今際の際にすら秘宝に執着するとは……噂通り、とことん業腹なヤツよのう。お前が仕えていた主は」
「やめて……!それ以上、主を貶すような発言は……」
「水を差すようでめんご~。申し訳ないんだけどぉ、そこの服の趣味が微妙なオーナーさんが言ってることは全部事実~みたいな」
話を遮りながらリアネ達の前に現れたのは、リアネの依頼で情報収集をしていた異天使レートーだった。
「あら。早かったわね、レートー。というより、わざわざアリーナの会場に飛び込んで来るなんて、命知らずってレベルを超えてるわよ?」
「だって~リア姉が死んだら情報料もらえないし~みたいな。あ、結果はリア姉のお察しの通り。オーナーさんが今話したのと全く同じ結果だった~って感じ。一応、ノートにまとめてあるけど見る?」
「大丈夫よ。そんなことをしなくても、メイドさんなら私達を視るだけで全てを理解できると思うから」
……ガルドもレートーもリアネもウソは言っていない。それが、コゼットの瞳に写った答えだった。
「……そんな。じゃあ、私と……私と、主との絆は……」
「ハッ。絆などという不確かなものを拠り所にするなど、とことん愚鈍なヤツよ。さて、お喋りはおしまいにしよう……。集え、ドラグァの竜頭に導かれし我が軍よ!」
ガルドの掛け声と共に現れたのは、十人を超える彼の部下である戦士達。その全員が、ドラグァの竜頭によって心を操られていた。
「……結局、最後は数で攻めてくるってワケね。レートー、旅人さん。くれぐれもオーナーが持つドラグァの竜頭に視線を合わせないようにね。メイドさん、準備はいい?」
「…………」
放心状態のコゼットの身を案じながらも、リアネ達は最後の戦いに挑むのだった……。
竜頭を破壊する
エピローグ
「な……っ!?く、くそ、竜頭を返せ小娘!それはお前のような下賤な者が触れていい物ではない!」
「あらら。すっかり所有者気分なのね。元を辿るならメイドさんの物じゃないの、これ」
リアネは竜頭を片手に、俊敏な動きでコゼットの元へと戻る。
「依頼通り、ドラグァの竜頭は取り返したわ。そして宣言通り、私はこれを破壊する。いいわね?」
「……ご自由に、どうぞ。私にはもう、何もありません。生きる糧であった唯一の絆も失ってしまった……いいえ、元からそんなものは存在しなかった。私には……最初からずっと、何もなかった」
「そんなことないわ。だって、新しい絆があるじゃない。私とあなたの間に。ね、コゼット?」
「……!」
「これは元々コゼットのもの。だから私、あなたの了承が欲しいの。他でもない、あなた自身の言葉が」
リアネがそう口にした瞬間、コゼットの虚ろげな瞳に光が宿った。
「竜頭を破壊するだと……?ハッ、できるわけがない!アーティファクトは完全なる物質!たとえ魔王クラスの力を持ってしても破壊することなどできんぞ!」
自信げな様子で言い放つガルド。だが、コゼットは惑わされることなく一つの答えを見出す。
「……私の一族は、その危険性ゆえに竜頭を封印し続けていた。そう、ですよね?」
「ええ。その通りよ」
「…………。では、きっと……私の一族は、竜頭を消滅させることを望んでいたはず。そして、貴方にはそれができる」
顔を上げ、コゼットは迷わず言った。
「リアネ。竜頭を……壊してください」
首を縦に振ったリアネは、空高く竜頭を放り投げた。そして、凝縮した魔力を弾丸状にして放ち……竜頭を粉々に破壊した。
「バ、バ、バカな!?なぜ……なぜ破壊できる!?こ、小娘!その杖は、一体……!?」
「目には目を。完全には完全を……ってね。さぁて、用も済んだし、さっさとおさらばしましょ。旅人さん、レートー」
「オッケーオッケーりょうか~いって感じ~みたいなっ」
リアネはコゼットの片手を握り、逃走を開始した***とレートーの後に続き、迅速にカジノをあとにしたのだった。
「お、追え!ヤツらは余の崇高なる目的を水泡へと帰した大罪人だ!追え、追うのだっ!」
しかし、竜頭が破壊されたことで正気を取り戻した者達は、誰一人としてガルドの言葉に従わなかった。むしろ、彼らはガルドに敵意を向け……
「ま、待て。いや、待て待て待て。話そう。話せばわか――――」
――――その後、カジノ“ブギーナイツ”はオーナー不在となり、数か月と経たぬうちに潰れた……らしい。
そんな一報が世間に出回り始めた頃、リアネとコゼットは小さな町の小さな宿で、次の旅へ出るための支度をしていた。
「それにしても……ねえ、コゼット。旅人さんって一体何者だったのかしらね?カジノから一緒に脱出したあと、気が付いたら別れの言葉もなくいなくなっていたけど……」
「私にもわかりかねます。しかし、***さんは……ずっと、綺麗で優しい心の色をしていました。まるで、私達を見守っていてくれていたような。そんな感じがしました」
「……もしかしたら、幸運の神様だったのかもね。実際、あの人がいなかったら色々とキツかったし。だからこそ、ちゃんとお礼をしたかったのだけど……そうね。いつ会ってもお礼ができるように、ちょっとカジノでひと稼ぎしていこうかしら」
「……リアネ。まずはレートーさんから届いている請求書の山をなんとかするのが先かと」
「……………………。さあ、冒険に行くわよ、コゼット!」
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