砕幻の夢界ダイバー_プロローグ
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story by 間宮桔梗
225:砕幻の夢界ダイバー 潜士採用編
開始前
オフィスという名の
精神世界!?
精神世界!?
プロローグ
「ん?君は……ああ、もしかして君も“スターク”とやらのメンバーの一人かい?」
声のした方に振り向くと、そこにはどこにでもいそうな一人のスーツの男が立っていた。***は何か勘違いをしている男に事情を説明し、軽く自己紹介を済ませる。
……話によると、彼は妙な白昼夢を頻繁に見るようになったので、不安になり病院を受診した。すると、その医者に謎の施設へ案内されたのだという。
「その施設で長官って名乗るちっさい金髪娘に会ってさ。“その夢は覚醒の兆候だ!”“試験を始める!”とかワケわからんこと言われて。んで、ひとまずベッドで寝ろだのなんだの言われて寝てみたら、気が付いたらここにいたって感じなんだ。ワケわかんないだろ?俺もさっぱりわからんのよ」
「ク~ックックック!ちっさいは余計だぞ、清水剣太郎くぅん。“ご町内秘密超能力組織スターク”の長官であるこのキャンディちゃんをディスったコト……いつか後悔することになるだろう!」
廊下の奥から堂々とした様子で現れる少女。どうやら彼女が、男の言っていた金髪娘のようだ。
「ん?なんだか知らない人がいるが……まぁ、心の世界では不思議なことが起こるからな。害意もなさそうだし、ひとまず置いておくとしよう」
***にそう言うと、キャンディと名乗った少女はコホンとわざとらしく咳払いをする。
「状況を説明しよう。要点は三つ。一つ、ここは君の無意識下にある領域……わかりやすい言葉で言うと精神世界というヤツだな。君は今、自分の精神世界の中にいるのだ!」
「精神世界……?って、ここ俺が勤めてる会社のオフィスなんだけど」
「精神世界とは、その者の心の内層が反映される世界。つまりだ、清水くぅん。君の心は会社という環境に染め上げられているということだ。人はそれを社畜と呼ぶ」
「い、いやいや。確かに毎日残業してるし休日出勤もザラだし、タイムカードが定時に打刻されたりって不思議なこともあるし、後輩から“妹が病気で”“母が危篤で”とか言われて仕事を引き受けることもあるけど、キツイと思ったことは一度もないぜ?ていうか思ったら負けっていうか」
「それを社畜と言うのだよ。まぁ君の労働環境のことはひとまず置いておくとしてだ。要点二つ目。君は今……超能力に目覚めようとしている!」
ビシッと人差し指を男に向けるキャンディ。が、男はポカンとした様子で***の顔を見たあと、キャンディの頭を優しく撫でた。
「誰にも構ってもらえなくて寂しいんだな。大丈夫、俺でよければ少しぐらい遊んでやるからさ。なに、ちょっと昼休みを削って…………ごぼっ!?い、いてて……って、え?ヌ、ヌイグルミが、動いてる?」
突然、キャンディの持っていたボクシンググローブをはめたカンガルーのヌイグルミが動き出し、アゴにカエル跳びアッパーを決めた。いきなりのことに、男は驚愕の表情を浮かべる。
「これで信用したかね?そう、私はいわゆるテレキネシス能力を持っているのだ。もっとも、動かせるのはこのヌイグルミだけだが。さて、そして要点三つ目。今から君の超能力をちょっぴり強引に目覚めさせる!そのために鬼ごっこをしようじゃあないか!」
「お、鬼ごっこ?なぜにホワイ……?」
「君、今ものすご~く体が重いだろう?それもそのはず、君はまだ精神世界で動くことに慣れていないのだ。なので、まずはこの世界で自由に体を動かせるようになることだ。そして私を捕まえてみたまえ。あ、ちゃんと10数えるんだぞ?あと、ちょいちょい妨害もするから覚悟するよーにっ!」
そう言うと、キャンディは全力疾走で廊下の奥へと消えていった。
「よ、よくわからんことになっちまったな。うーむ、どうするべきか……」
「まぁ、ひとまず長官を追いかけた方がいいと思いますよ。あの人、言い出したら聞かない人ですし」
「そうなのか……。ってあれ!?キ、キミ、イツカラソコニ……?」
後ろを向くと、そこには一人の女性の姿があった。理由はわからないが、彼女の体はキャンディとは違い、なぜかぼんやりと半透明になっている。
「さっきから後ろにいましたよ。あ、私カリンって言います。長官と同じスタークのメンバーで、今回はあなたのサポートをまかされてます。あと、適度に妨害しろとも言われてて……って、どうしたんですか清水さん?固まっちゃってますけど」
「エ、エット。イヤ、ソノデスネ……」
男はぎこちない動きで、ひとまず***の肩に手を置く。
「す、すまん***君。とりあえずあのキャンディとかいう子を捕まえるのを手伝ってくれないか。あと、このカリンって子からはなるべく距離を離したい。いや、知り合いってワケじゃない。俺が一方的に知ってるだけというか……と、とにかく頼む!」
***は男の提案に首を縦に振った。すると、男は***に礼を言いながら、深く頭を下げた。
「っと、自己紹介が遅れたな。清水剣太郎だ。ケンタローって呼んでくれ。名刺は現実世界に戻ったら渡すよ。よし、そうと決まれば行こうぜ!」
……こうして、***はケンタローと共に彼の精神世界を探索することになったのだった。
>>オフィスを走る<<
うし、エナドリ補給バッチリだ!
行くとしようぜ!
まずは500kmぐらい軽く行ってみっか!
こいつを持っててくれ。
君になら託していいような気がするんだ。
ラクロスグローブを1個手に入れました。
労働者の本気、見せてやるぜ!!
行くとしようぜ!
まずは500kmぐらい軽く行ってみっか!
こいつを持っててくれ。
君になら託していいような気がするんだ。
ラクロスグローブを1個手に入れました。
労働者の本気、見せてやるぜ!!
オフィスを走る
エピローグ
「ク~ックックック!この短時間でここまで動けるようになるとは、やはり君には才能があるな。これなら“潜入(ダイブ)”も可能なはずだ」
キャンディは満足げな様子で、うんうんと首を縦に振る。
「ぃよし、では最終試練を始め……いや、今日はここまでにしておこう。これ以上は君の精神に負担をかけてしまうかもしれないからな。目が覚めたら一度家に帰って、また明日同じ時間に基地へ来てくれたまえ」
「あ、明日もやるのか?というか、そもそもどうやったらここから出られるんだよ?」
「安心したまえ。私がここから出れば、君は自動的に現実世界で目を覚ます仕組みになっている。んでは、さらばだ!」
そう言うと、キャンディの体はすぅ……と透明になり、やがて完全に姿を消した。
「せ、せっかく捕まえたと思ったら、次は何をやらされるんだ……?ていうか俺、別に超能力とかいらないんだけどなぁ」
「まぁまぁ、そう言わず。強制ってわけじゃないですけど、長官は清水さんの力を必要としているんです。勝手ながら、私も清水さんには実は期待していて……」
「ヌオオオオッ!?ア、ェ、エット……」
カリンに背後から声を掛けられたケンタローはこめかみから汗を流しながら、緊張のあまり固まってしまう。
「……?あの、清水さん。さっきも私を見た瞬間に固まってましたけど……。もしかして、どこかでお会いしたことがある、とか?」
疑問符を浮かべながら、カリンはケンタローの顔をまじまじと見つめる。ケンタローは根負けしたのか、カリンから視線を逸らしながら、ゆっくりと口を開く。
「た、立花果鈴選手……です、よね。数年前、高校女子ラクロスで全国大会に出場してた……」
「え?そうですけど……。あ、もしかして関係者の方とか?」
「い、いや。その、俺も昔、大学でラクロスやってて。つっても全然ヘタクソで、めっちゃ落ち込んでて。それで、練習の一環として高校生大会のビデオを観る機会があって。その時にあなたの勇姿を見て……」
頭を抱えながら、ケンタローは必死に声を絞り出した。
「か、勝手に勇気づけられたというか。フ、フ……ファンだったと……いうか。す、すんません、気持ち悪いっすよね!いい歳した男が何をほざいているのかと!バカじゃねーのって話っすよね!なぁ***君!?」
なぜか***の名を呼んだあと、頭をガンガンと壁に叩きつけるケンタロー。そんな彼の様子を見て、カリンは驚いた表情を見せたあと、頬を少し紅くしながら微笑みを浮かべた。
「……えへへ。そう言ってもらえると、すごく嬉しいです。そっか……私、知らないうちに誰かを勇気づけてたんだ。だったら、ラクロスやってた意味も少しはあったのかな」
「……?そういえば、今はラクロスやってないん、ですか?」
「はい。家庭の事情っていうか、大学では勉強に集中しろって親に言われちゃって……あ、失礼しました。私のつまらない身の上話なんかより、今は体を休める方が優先ですね」
あ、それと……と、カリンは続ける。
「清水さんの方が年上なんですし、敬語はナシでお願いします。もしかしたら長い付き合いになるかもしれないわけですし。それじゃ、また現実で会いましょうね」
そう言い残し、カリンもまたケンタローの精神世界から姿を消した。
「な、なんていうか、すごいことに巻き込まれたもんだな」
……憧れていた相手が、大学に通いながらご町内秘密超能力組織で仕事をしているという衝撃の事実。気が付くと、ケンタローは超能力の存在をすんなりと受け入れていたのだった。
「そういや、結局***君は何者……いや、聞いたところで多分わからないだろうな。まぁ、その……なんだ。もし現実世界でも会うようなことがあったら、よろしく頼むよ」
こうして、ケンタローは自分の精神世界から現実世界へと戻っていったのだった。
226:砕幻の夢界ダイバー 潜入試行編
プロローグ
昨日、ケンタローに何か大きな運命を感じた***は、引き続きケンタローと共に行動をすることを選び、“ご町内秘密超能力組織スターク”の基地へ向かうことにしたのだった。
「ぃよし。では、最終試練の舞台は私の精神世界だ。立花君!彼とかいちょ君とやらを、私の精神世界に“潜入(ダイブ)”させてくれたまえ!」
「了解致しました!おまかせください、長官!」
基地へ辿り着くと、そこには昨日と同じくキャンディとカリンの姿があった。そして、カリンは不思議な光を放つラクロススティックを大きく振り上げ……ケンタローの背中を全力で叩いた。
「うおっ……お…………ぉ?」
すると、ケンタローの魂らしき塊が体から抜け、スティックの中の網へと収まる。そして、彼女はそのままケンタローの魂をキャンディに向かってぶん投げた。同じ手法で、カリンは***の魂もキャンディへと飛ばす。
…………。気が付くと***とケンタローは広々とした空間に立っていた。そして、目を開いたケンタローが最初に放った一言は……
「誰だよ」
であった。
「ク~ックックック!ここは私の精神世界。つまり……ここにいる我々は霊体。霊体であるならば、理想の自分に姿が変わっても不自然ではない!わかるかね?清水くぅん!」
「さっぱりわからん」
「そうか。では死にたまえ」
大人の姿になったキャンディが片手を前にかざすと、彼女の背後に立っていたカンガルーが凄まじい勢いでケンタローに接近し、豪快なジャブを放った。
「あ、あっぶねぇな!ていうかもうヌイグルミですらねぇし!完全にただのカンガルーじゃねぇか!」
「ガルたんと呼びたまえ。あ、言い忘れてたな。最終試練はガルたんを倒すことだ。気を付けたまえよ、精神世界で命を落とすと、廃人になってしまう可能性がちょっぴりある」
「諸々先に言えよ!つーか、俺は別に超能力なんか欲しくないんだって!それなりに仕事して、一緒に住んでる妹が健やかに育ってくれれば俺は……」
「……ふむ。では、その妹さんが超能力が絡んだ事件に巻き込まれる可能性がある、と言ったら?」
キャンディの言葉に、瞳を大きく見開くケンタロー。
「君も知っているだろう?今、君が住んでいる街の近辺で多発しているイタズラ事件のことを」
「あ、ああ。ピンポンダッシュとか、ポスターに鼻毛書いたりとか、ファミレスの紙ナプキンが全部取られたりとか……小さなイタズラが最近になって局地的に多発してるやつだろ?」
「うむ。今はまだ小さい事件で大事にならず済んでいるが、その規模はどんどん大きくなってきている。そして、捕まった犯人達は口を揃えてこう言っているのだ。“急にムシャクシャした”とな」
加えて、捕まった犯人達は本来イタズラをするような性格ではなく、ある日突然、何の前触れもなくイタズラを起こしたのだという。それを聞いたケンタローは、一つの推論を立てる。
「それって……誰かが何の罪もないヤツの心を超能力で操って、悪さをさせてるってことか?」
「ご名答。我々“ご町内秘密超能力組織スターク”は、超能力によって起こる異変や事件を解決するために活動している。そして、今回の脅威に立ち向かうため、我々は君の力を欲している……というわけだ」
「……な、なんでそれが俺なんだ?俺以外に適任はいないのか?」
「超能力は素質がモノを言う。君は偶然、その素質を持っていた。超能力を使える人間というのはそういないからな。君を見つけられたのは、我々としてもこのうえない幸運だったのだよ」
キャンディの話を聞いたケンタローは、ひとまず大きなため息を一つ吐く。
「まだ色々と半信半疑だけど、メグに……妹に危険が及ぶ可能性があるとなっちゃ放っておけねぇわな。とりあえず、まずはこの試練とやらをやってみるよ」
「ほう……君、シスコンなんだな。まぁよい。そうと決まればこちらも本気で行こう」
こうしてケンタローと***は、キャンディが操るカンガルーと一戦を交えることになったのだった……。
>>ガルたんを倒す<<
仕事の前に位置登録!基本中の基本だな!
精神世界ねぇ……。どういう構造なのかさっぱりわからん。
やると決めたからにはとことんやってやる!
シナジー効果ってヤツだな!
大きな仕事を成し遂げるなら、皆で協力しないとな!
チャンスを掴んで一気に昇進!ってな!
エナドリを飲んだ俺は止まんねーぜッ!
うし、ちゃちゃっと始めるか!まずは何事もやってみないとな!
<ガルたんを倒す>!!
エピローグ
「落ち着いてください。強いイメージがあれば、あなたにも必ず力が宿るはずです」
「うおっ!?た、立花サンいたんすか!?てか前回もそうでしたけど、なんで体が半透明なんすか……?」
「私、ちょっと特殊な力を使ってて、姿だけをこの世界に投影しているんです。なので、ここにいる私は立体映像みたいなもので……っと、説明はまた今度にしましょう。いいですか、清水さん。あなたにはスタークの基地に訪れることになった“きっかけ”があったはずです。まずはそれを思い出してください!」
カリンの問いに、ケンタローは記憶を遡る。そもそも自分は“妙な白昼夢を頻繁に見るようになった”から病院を受診した。そして、医者に案内されてスタークの基地へとやって来た。その白昼夢の中で、彼は……
「剣を、持ってた。二本の…………剣」
次の瞬間、ケンタローの体は風と共に輝きに覆われる。そして、光が晴れた時……彼は、二本の剣を持っていた。
「む。ついに覚醒したようだな、清水くぅん!その剣が見かけ倒しでないことを祈るぞ……ゆけ、ガルたん!リミッター解除!」
号令と共に、キャンディの操るガルたんが轟々しい闘気を纏う。そして、目にも止まらぬ速さでケンタローに殴りかかった。
「…………遅いな」
ケンタローは無表情のまま、舞うように剣を振るう。刹那……ガルたんの体は細切れになり、真っ白な綿を飛び散らせながらバラバラになった。
「うああっ!?わ、私のガルたんがぁ。うぅ、これは修復に時間がかかりそうだな……。しかしまぁ、合格だぞ清水くぅん。どうやら君は、私が思っていた以上の素質を持っていたようだ」
「そりゃよかった。ということは、これで俺も“ご町内秘密超能力組織スターク”とやらの一員ってことでいいのか?」
「逆に聞こう。この仕事は、命の危険を伴う可能性もある……。それでもやるかね?」
「ああ。話を聞く限りじゃ、この仕事は俺にしかできないことみたいだしな。それに、俺にも人としての正義ってモンがある。人の心を捻じ曲げるようなひでぇヤツがいて、そいつを止める力を俺が持ってるってんなら協力させてくれ。妹のためにもなりそうだしな」
「……わかった。協力に感謝するぞ。では、一旦現実世界に戻るとしようか」
すると、カリンは嬉々とした様子で、現実世界へ戻ろうとするケンタローに歩み寄る。
「かっこよかったですよ、清水さん!これからは仲間ですね。どうか、よろしくお願いしますっ」
「ハ、ハイ。じャなくテ……よ、よろしくな、立花君」
「カリンって呼んでください。そうだ、私もケンタロー先輩って呼んでいいですか?他人行儀なの、あんまり好きじゃないんです」
「ワ、ワカリマシ……じゃない。わ、わかった。好きに呼んでくださ……よ、呼んでくれていいですゼ?」
いまいち決まらないケンタローだったが……こうして彼は、会社員兼超能力剣士として町で起こる異変に挑むことになったのだった。
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