時の契約者と漆黒の炎_prologue
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261:時の契約者と漆黒の炎 翠緑の狼火
プロローグ
どうやらここは、草木が生い茂る森の中……と認識する前に、+++は何者かの殺気を感じ、大きく横へ飛んだ。
「ほう。このオレ、バオルの矢を避けるとはな。先ほどの銀髪の剣士といい、ギャーギャーとうるさい赤の一族の精といい、妙な連中が一気に現れたものだ。やれやれ、森の獣達も怯えてしまっているではないか……」
バオルと名乗った狩人風の男は再び矢をつがえ、その先端を+++に向ける。
「我々“牙の民”が住むこの森は、いにしえの時代より不可侵の領域として守護されてきた。」
「許可なく足を踏み入れた者は、何人たりとも逃がすわけにはいかぬ。森と獣達のために……その命を散らせッ!」
放たれる矢。しかし……
「なっ!?貴様は、さっきの……」
その矢は、+++の前に現れた一人の男の剣によって、地へと叩き落された。
「……久しぶりだな、+++。まさか、こんなところで再会するとは思わなかったぜ」
+++の前に現れたのは、以前共に旅をした剣士、ローランだった。
「語りたいことは多いが、ひとまず後にしよう。とにかく、今は牙の民とやらの攻撃をやりすごしつつ、イフリータと合流することを優先したい。お前も……来るか?」
……このままあてもなく森を歩くのは、あまりにも危険のようだ。ひとまず+++は、再会したローランと行動を共にすることにしたのだった。
「フッ、お前が一緒なら心強いぜ。とはいえ、俺達は牙の民達の警告を破っちまった侵入者だ。できれば、彼らを無暗に傷つけることは避けたい」
どうやら、ローランは相応の理由があってこの森を訪れたらしい。敵と距離をとりながら、+++はその理由を彼に尋ねてみる。
「覚えているか?この世界には赤の一族という精霊の部族が存在する。そして、赤の一族は“マスターブック”を守護する役目を担っている」
マスターブック。物語世界の核であり、物語世界の全てといわれている、謎多き本。以前のイフリータ達との冒険で、かいちょはこのマスターブックを巡る戦いを目の当たりにした。
「久々にこの世界に戻ってきた俺達を待っていたのが……イフリータの妹のマテリアが、マスターブックを持ち出して姿を消した、という情報でな。イフリータの話じゃ、赤の一族の里は今、てんやわんやの状態らしい。」
「一族の過激派からは、悪用される前にマテリアを討伐するなんて物騒な話も上がっていると聞いた」
くだらない、と一蹴しながら彼は続ける。
「何かの勘違いか、或いは理由があってのことだろう。そんなわけで、俺とイフリータはマテリアが通ったらしいこの森までやって来たわけだ。」
「だが、不思議なことに……一緒にいたはずのイフリータが、気が付くといなくなっていてな」
真面目な表情で悩んでいるローラン。
それは、もしかして……
「他の世界を冒険していた時も、イフリータが急にいなくなるという現象は何度も発生していた。」
「やれやれ、どこをほっつき歩いているのやら……ああ、心配するな。はぐれた時の合流場所は北東の岩場と決めてある。ところで、北東はどっちかわかるか?」
……もしかしなくても、彼の方向音痴が原因のようだ。
「待て!森を脅かす不届き者どもめ……逃がさぬぞッ!」
「……っと。どうやら、彼をやり過ごすことに集中した方がよさそうだな。よし、行くぜ……!」
>><合流を果たす!><<
エピローグ
「あぁもう、ようやく見つけたわ!あら?なんで+++も一緒なのよ?」
「イフリータか。ふう、ようやく合流できたな……。しかし、もしやとは思っていたが……お前、方向音痴なのか?」
ピキッ、という音がイフリータから聴こえた……気がした。
「……待て、イフリータ。なぜ火の玉を俺に向ける?」
「自分の胸に聞いてみなさい……この大バカ剣士ッ!!」
「うおっ……!?」
感情に任せ、イフリータは手元に作った火の玉をローランに向かってぶん投げる。が、ローランはすんでのところでそれを避けた。その結果――
「……どうやら、連中はこちらに気付いていないようだな。よし、この位置から狙い撃てば確実に…………ん?ご、ごぶはあっ!!?」
……火の玉は、+++とローランの背後にある岩陰に身を潜めていたバオルに直撃した。
「きゃああっ!?ご、ごめんなさい、大丈夫!?ていうか、どちらさま……?」
「……気絶している。ひとまず、そこの木に縛っておくとするか。彼には申し訳ないが、俺達も急ぐ身だからな」
気絶したバオルを安全な場所で捕縛したあと、改めてローランはイフリータに現在の状況を伝える。
「……そう。事情は+++にも伝えてあるのね。なら、早く行きましょ。気配から察するに、マテリアはこの先の遺跡に向かったみたいなの」
「マテリアの気配?俺にはわからんが……」
「まぁ、人間が感知するのは難しいと思うわ。精霊同士っていうか、姉妹だからこそわかる感覚みたいなのがあるのよ……それにしても、なんでマテリアはマスターブックを持ち出して、あの遺跡に向かったのかしら?」
「あいつがマスターブックを持ち出した、というのは里の者達の憶測なんだろ?俺達が知っている情報は、マスターブックが消え、同時にマテリアも姿を消したということだけ。」
「確かに、マテリアが持ち出したという可能性もあり得るが、第三者がマスターブックを持ち出したという可能性もある」
「……そうね。もし後者だとしたら、マテリアはマスターブックを持ち出した第三者を追っているってことになるけど……」
そこまで言うと、イフリータは翳りのある表情で溜め息を吐く。
「なんとなく後者な気がする。あの子、一人で抱え込んじゃうところあるから」
呆れている様子ながらも、彼女の声色はどこか優しい。どうやら、マテリアのことを本気で心配しているようだ。
「なに、遺跡に向かえばわかることさ。よし、行くか……もうはぐれるなよ、イフリータ。無駄に森を彷徨うのは、金輪際勘弁願いたい」
「…………。ねえ、+++。もし私が背後からローランを攻撃しそうになったら、止めてもらえるかしら……?」
……そうならないことを心から祈りながら、+++は真顔で首をかしげるローランと、満面の笑顔で怒気を放つイフリータと共に、マテリアを追うことになったのだった。
262:時の契約者と漆黒の炎 真紅の閃火
プロローグ
「ああぁ、マテリア様ァ!ここにいらしたのですね!このカーマイン、心配のあまり里を飛び出してきました!ええっ、来ましたとも!」
カーマインと名乗った少女はイフリータと似た外見をしている。どうやら、彼女もイフリータやマテリアと同じ、赤の一族の一人のようだ。
「げっ。あ、あんたは……」
「おや?マテリア様、いつもの麗しすぎるツインテールはやめてしまわれたのですか?」
「まぁ、そのポニーテールもお似合いではあります、が…………ッ!?マ、マテリア様じゃない!?あなたは、マテリア様の姉の……イフ太!!」
「イフリータよ!どんな間違い方してんのよ、もうッ!」
どうやら、イフリータとカーマインの二人は、すでに面識があるようだ。
「で。なにしにきたのよ、カーマイン。まぁ、さっきの発言から察しはつくけど……」
「あなたはマテリア様の姉に相応しくありませんッ!ええ、そうですとも!」
「あ、相変わらず唐突ね」
……状況がわからず、ローランと+++はイフリータに解説を求める。
「えっと、彼女はカーマイン。赤の一族の一人で、私とマテリアとは古くから付き合いがあるんだけど……」
「やはり、あなたはマテリア様の傍にいるべき存在ではありません!考えてみれば、あなたはもう部外者です!」
「異世界を旅しているとのことですが、それはつまりマテリア様の傍にいる権利を反故にしたということに他なりません。ええっ、他なりませんとも!」
首の後ろをこすりながら、イフリータはがっくりとうなだれる。
「……この通り、言葉のキャッチボールが困難な相手よ」
「みたいだな……」
呆れるイフリータとローランをしり目に、カーマインは両の拳に炎を纏わせた。
「丁度いい機会です……。この際、どちらがマテリア様の傍にいるのに相応しいか、勝負しましょう!」
「ちょっ。なんでそうなるのよ!?」
「……マテリア様は、あなたとローラァンとかいう剣士がこの世界を去ってから、どこか寂しそうな様子でした。あのお方は、本当はあなた達と一緒に旅がしたかったのです。」
「ですが、マスターブックを守るという役目を果たすために、あなた達と一緒にいることを諦めたのです、ええッ!」
ローラァンじゃなくてローランなんだけど……と、イフリータが返すも、カーマインは無視して続ける。
「そんなあなたが、今さら姉貴面で戻ってくるなんて……そんな勝手、あたしが許しません!」
「ええ、あなたにマテリア様の姉を名乗る資格はありませんとも!というか、ちゃんとお姉さんらしくしなさいッ!」
「どっちなのよ!言ってることメチャクチャよ、あんた!だいたい、どっちがマテリアの傍にいるのが相応しいとか、そんなのはマテリアが決めることであって」
「問答無用ッ!さあ、構えなさい!ええ、尋常に勝負ですとも!」
「…………はぁ、わかったわよ。ローラン、+++。ちょっと下がってて。こうなったらテコでも動かないヤツなのよ」
やれやれといった様子で、イフリータは全身に炎を纏わせる。
「加勢は……必要なさそうだな」
「うん、大丈夫。ここは私にまかせて……!」
イフリータとカーマインは空高く飛翔し、戦いを始めたのだった……。
>>拳を交える!<<
位置登録はこまめに、な。
しかし、妙な雰囲気が漂っている場所だな……。
赤の一族にしては珍しく、拳で戦うのか……。
適材適所ってやつだ。
手を貸してくれるやつがいるってのは、いいもんだ。
チャンスを見逃す理由なんか、ないだろ?
凱旋にはまだ早いよな!
準備はいいか?俺はいつでも行けるぜ!エピローグ
「さ、さすがはマテリア様の姉、といったところですね……。認めたくはありませんが、あたしの……負けです。ええ、負けですとも」
先に膝を折ったのは、カーマインの方だった。
「……本当はわかっていました。イフ太とマテリア様は、それぞれ固い信念の下、自らの道を選んだのですよね。だから、マテリア様は孤独を覚悟で、マスターブックを守る役目を請け負った……」
「いや、イフ太じゃないから……」
目を強く閉じ、カーマインは拳で地面を叩く。
「……あたしは、マテリア様を孤独から救ってあげられない自分に苛立っていました。その苛立ちを、イフ太。あなたにぶつけたかっただけなのかもしれません」
「だからイフ太じゃないからっ」
「けれど、結局あたしはあなたに負けてしまった。もう、マテリア様の傍にいる資格はありません……ええ、ありませんとも。敗者はただ、去るのみ……です」
「去る……?なによ、一緒に来ないの?」
何気ないイフリータの言葉。カーマインは子犬のように目を丸くし、顔を上げた。
「い、今、なんて?ワンモアプリーズ……?」
「だから、一緒に来ないのかって聞いたの。マテリアが心配なんでしょ?なら、来ればいいじゃない。別にいいわよね、ローラン?」
ローランは+++と目配せをしたあと、首を縦に振る。
「俺と+++は構わないぜ。実力も申し分なさそうだしな」
「……だってさ。ほら、わかったなら立ちなさいよ。その……し、しょげてるあんたなんて、あんたらしくない、し」
耳を赤く染め、カーマインから視線を逸らすイフリータ。
「よいのですか……?じ、実を言うとあたし、イフ太がこの世界からいなくなったことも、本当はそこそこ寂しいと感じていて、ですね……」
「え?そ、そう……だったの?」
「はい。寝床で夜な夜な毛糸でイフ太の人形を編むぐらいには、イフ太ロスに陥っていました……」
「重いんだけど!?なに奇行に走ってんのよっ!?」
「か、勘違いしないでくださいっ。イフ太人形を作っているといっても、マテリア様人形の方が倍以上作ってるんですから!ええ、作ってますとも!」
「フォローになってないから!ていうか複数体作ってるわけ!?帰ったら全部捨てなさいよ、それ!」
「いーやーでーす!捨ててほしかったら、イフ太も里に戻ってくればいいんです!」
大きな声で罵り合うイフリータとカーマイン。そんな二人の様子を見て、ローランはうっすらと微笑を浮かべる。
「マテリアは姉にも、友人にも恵まれているようだな。きっと、マテリアもお前達に会いたがっているはずだ。さぁ、そろそろ行こうぜ」
すると、カーマインは眉をひそめ、ローランにビシッと人差し指を向けた。
「ローラァンさん!あたしは、イフ太を連れていってしまったあなたのことが、そんなに好きではありません!今回はマテリア様を探すために、仕方なく手を組むだけです。そこのところ、勘違いしないようにっ!」
「ああ、俺にどんな感情を向けもらっても構わない。目的が同じならそれでいいさ。あと……」
軽くあしらうと、ローランは無表情のまま背を向け、言った。
「……ローラァンではなくローランだ。そこのところ、勘違いしないでくれ」
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