猛執のアルカディア_本編
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250:猛執のアルカディア PHASE3.覚醒
プロローグ
アルカディアには未知の結界が張られており、一定以上の力を持つ魔族が立ち入ることはできない。
しかし、人間はこの結界の影響を受けないため、予選を勝ち抜いた魔族達はパートナーとなる人間をアルカディア内部へ向かわせ、運営側であるネルガルが用意した“召喚の呪符”を人間に使わせることで、初めてアルカディアに降り立つことができる。
「予選を勝ち抜いたのは五組……ウワサによると、その全員が“魔王”の名を持ってるんだって!くぅ~腕が鳴るね、アリルちゃん!!」
人間達は運営側に指定された初期位置につき、呪符を用いてさっそくパートナーの魔族を呼び出した。
「うむ。まぁ、正直言うとちょっぴり緊張しているが……おっと、そろそろ試合が始まる時間みたいだな」
各ペアは散り散りになっているため、いきなり鉢合わせになる可能性は低い……が、この戦いはトーナメントではなくバトルロイヤル形式であるため、乱戦となることが予想される。
「あ、そうだアリルちゃん!一つ疑問なんだけど、他の魔族達は二人一組なのに、あたし達は***さんも含めると三人一組だよね?これ、ルール違反にならないの!?」
「問題ないそうだ。元々、参加者の魔族達は“運営側が指定した魔法陣”を使って人間を呼び出している。つまり、参加者全員が同じ魔法陣を使っているということなのだが……」
本来、アリルは魔法陣でココだけを呼び出す予定だった。が、何らかの事象が生じ、***もアリルの下へと呼び出されるという結果となった。
「魔王ネルガル直筆のルールブックには、あくまで“魔族と人間が組んで戦う”としか書かれていない。そう、よく見ると二人一組とはどこにも書かれていないのだ。」
「つまり、***がここにいることは何の問題もないということだ!!」
「おおおッ!さすがアリルちゃん!ちょっとセコい感じがたまんないね!!」
「フ、褒めるでない!とはいえ、正式なパートナーは呪符で私をアルカディアに召喚した者……つまりココ、基本的には私とお前の二人一組で戦わねばならんということらしい。」
「つまるところ、***はマネージャー……いや、秘密兵器として温存する作戦でいくとしよう!」
……マネージャー扱いされかけたが、ひとまず***はアリル達の後ろをついていくだけでいいようだ。
「むっ、この音は……どうやら試合が始まったようだな。よし、ひとまずは見晴らしが良く、かつ死角が少ない場所へ向かうとしよう!下手に動いて他の参加者に見つかれば、不意打ちでサクッとやられてしまう可能性があるからな」
「了解だよ、アリルちゃん!えへへ~、なんかサバゲーっぽくてテンション一気に上がってきたよ~!」
ひとまずアリル達は、死角の少ない岩場へと移動する。
すると……
「……ッ!?まさか、こんなにも早く敵と鉢合わせることになるとは。さしずめ、余と同じように安置となる場所を確保しようと考え、ここに訪れた……といったところか」
そこには、なんと……以前***が共に冒険をしたことがある魔王の姿が。
「むっ。お主はプーアル国の……。衰退の一途を辿っていた小国を建て直したという実績を持ち、最近は政治において巧みな手腕を見せ、観光名所盛りだくさんのステキな国作りを行っていると評判の魔王、セイアスか!」
アリルには魔王オタクな一面があった。
「詳しいな……。どうやらこちらが自己紹介をする必要ないとみえる。しかし、見ない顔だな。名はなんと言う?」
「私は極小国カイドナを治めている魔王、アリル。領土も資源も足りていない自国を建て直すため、この闘技大会に参加している!」
「……なるほど。以前の余と同じような境遇にあるというわけだな。とはいえ、国のさらなる発展のために余も負けるわけにはいかぬのでな」
セイアスは杖を抜くと、その先端をアリルへと向けた。
「出会ってしまったからには戦いは避けられん。準備はいいか、魔王アリルよ!」
「……いきなり有名人と当たってしまうのは予想外ではあったが、負けられぬ理由があるのはこちらも同じ!いざ、尋常に勝負……!」
>>激闘を制する<<
ランキングに関係なく、一定数の【アルカディアメダル】を集めると役立つアイテムが貰えるようだぞ。
腕を試すいい機会だな!
アイテムショップで手に入る「アレスの鍛錬書」を使えば、一気にLv80になれるらしいぞ!
「土地力」は魔界でも重要なエネルギーとして注目されている!積極的に溜めていくぞ!
組み合わせ次第、といったところだな。
ザ・魔王!といった外見になりたいものだ!
強い敵を倒せば多くの【アルカディアメダル】が貰えるようだな。敵の情報は、他のプレイヤー達がイベント掲示板に書き込んでくれる。こまめにチェックだぞ!
ほう、クエストか。
勝利へ繋がる一歩となるのであれば、こなすのもアリだと思うぞ!
激闘を制する
剣閃翼撃バトル
セイアスは幻術を唱え、パートナーの人間と共に煙のように姿を消した。
「……!わーーっ、アリルちゃん!後ろ、後ろーー!」
「む……?のわっ!!?」
ココの声に反応し、アリルは背後を振り向くと同時に大きく横に飛んだ。
「おや、意外とやるじゃないか。フッ、猿みたいな動きでなかなか滑稽だったぞ?」
剣圧による衝撃で、アリルが先ほどまで立っていた地面は大きく抉れていた。
そして、その剣圧を放った人物は大きな翼を動かしながら、パートナーの人間を背中に背負い、ゆっくりと空から地面へ下りてきた。
「お、お主は……!その好戦的な性格で積極的に各国に戦争を仕掛け、たとえ国が疲弊しても単身で敵国へ突っ込んでは戦果を上げてきた名のある剣士にして、アグラッドの西方に位置する国、ウェスタイナーを治めている魔王……タリオンか!」
アリルは魔王オタクな一面があった。
「いかにもその通りだが……しかし拍子抜けだな。この闘技大会には魔界の猛者達が募っているものだとばかり思っていたが、貴様のような無名の魔族まで参加しているとは。主催者のネルガルの器も知れるというもの」
タリオンは余裕気な笑みを浮かべ、アリルのことを嘲笑う。
「わあぁ……!まさにザ・女魔王って感じだよ!ていうかバカにされてるよ!?何か言い返さないと、アリルちゃん!!」
「落ち着くのだ、ココ。怒りに身を任せてしまっては必ず隙が生じてしまう。それに……」
アリルはチャクラムを構えると、お返しと言わんばかりにニヤリと微笑を浮かべた。
「あのような安い挑発に乗ってしまっては、それこそ魔王の名が廃るというものだ」
「ハハッ、これは傑作だ!貴様のような矮小な存在が魔王を名乗るとは……魔界も落ちたものだ」
「…………。そういえば、魔王タリオンよ。お主、アグラッドの魔王ジルドーとは決着をつけたのか?」
ジルドーの名を耳にした瞬間、タリオンの顔から笑顔が消えた。
「確かお主は、アグラッドの特産物にして秘石であるラビリンストーンを手に入れるため、ジルドーとその従者達に戦いを仕掛けたのだったな。しかしお主は返り討ちに遭った。しかもその後、アグラッドは国として急速に成長。結果、アグラッドを攻める機会を失った……違うか?」
アリルは魔王間の事情にやたら詳しかった。
「……口を慎め、三下。元よりジルドーとはこの大会で決着をつけるつもりだ。そして私はこのアルカディアを手に入れ国力を増強し、今度こそアグラッドを攻め落とす」
静かに怒気を放ちながら、堂々と大剣を構えるタリオン。
「私の気分を害した罪……その命で償うがいい。我が剣の錆になれ、矮小なる魔族よ!」
怒りに身を任せれば必ず隙が生じる……ならば、タリオンには必ず隙ができるはず。
しかし……
「ね、ねえアリルちゃん!怒らせたのは作戦通りなんだろうけど……なんだかあの人、オーラというか気迫みたいなのがグングン上がってる気がするよ!?大丈夫なのこれ!?」
「……う、うむ。ちょっと怒らせすぎたかもしれん。しかし、今さら後には引けぬ!ココ、魔力供給を頼む!」
連戦という状況にやや疲労の色を浮かべつつも、アリルは戦闘態勢に入るのだった。
連戦する!
魔帝強襲バトル
「ぐっ……。しまった……!」
「ふん、口ほどにもない。どうやらここまでのようだな……疾く、消えるがいい。矮小なる魔族よ!」
トドメを刺すため、膝をついたアリルに剣を振り上げるタリオン。
しかし、その瞬間……ぼんやりとした青白い靄が、アリルの体をふわりと覆う。
「…………消ス。全テ……破壊、スル」
「……?な、なんだ。この異質な力の気配は……うッ!?ぐ、あああ……!」
アリルはチャクラムに集約させた魔力を猛々しい炎へと変え、渦巻く火炎をタリオンへと放った。
そして、炎が晴れた時……そこにはもう、タリオンの幻体の姿はなかった。
「す、すごいアリルちゃん!もぉ、そんな切り札を隠し持ってるならあたしにも教えてくれれば……って、アリルちゃん?なんか目がいかついよ?」
「破壊……消ス……破壊、破カイ、ハ壊」
「……えと、***さん。これってもしかして、アリルちゃんが正気を失っちゃってるパティーンなのでは?敵味方区別なく襲ってくるみたいな……わ、わわわわッ!?」
虚ろな瞳をギョロリと動かすと、アリルはチャクラムから巨大な火の玉をココと***に向かって放ってきた。***は咄嗟にココを抱え、なんとか火の玉を避けることに成功する。
「あ、ありがとうございます、***さん。でもこの状況って非常にマズイですよね……?うーん……。とにかく、こういう展開の時の王道パターンはひたすら声を掛け続けることだと相場が決まっているので、声を張って名前を呼び続けましょう!アリルちゃん、正気に戻って!カ~ムバ~ック!」
「…………。む、ぅ?わ、私は今まで一体なにを」
「おお、元に戻るの早い!さっすがアリルちゃん!!」
どうやらアリルは正気に戻ったようだ。しかし、話を聞いてみると、アリルはタリオンに追いつめられてから今までの記憶が欠落しているらしい。
「……そ、そんな。私はココと***に……襲いかかった、のか?」
「いやぁ、そりゃすごい気迫だったよ!でもほら、か***さんが助けてくれたし、そんなに気にしなくても……って、アリルちゃん?わっ、なんかネガティブオーラがすんごい……」
アリルは……見るからに意気消沈していた。
「また、やってしまったのか」
「また?どゆこと、アリルちゃん?」
「…………。すまない、二人とも。私は……試合を棄権する」
「え……ぅええええッ!?な、なんでなんでなんで!?優勝しないと国がなくなっちゃうんでしょ!?」
突然の宣言に、ココは驚愕の表情を浮かべる。
「実は……以前にも何度か、私は力を暴走させてしまったことがあってな。それがきっかけで民を負傷させたこともある。そして、私を恐れて多くの民が私の下を離れていった……。この暴走が起こると、必ず良くないことが起こるのだ」
「そ、そうだったんだ……。でも、なんで暴走なんかしちゃうの?」
「原因はわからぬ。ただ、一つ言えることは……このアルカディアという大地に足を踏み入れた瞬間から、やけに胸がザワついているということだ。最初はただ緊張しているだけだと思っていたのだが、これは……暴走の予兆なのかもしれん」
そう言うと、アリルは武器を懐にしまった。
「このままここで戦い続ければ、私はまた二人を襲ってしまうかもしれぬ。だから、もう……」
「くだらん。仮にも魔王の名を冠しているのであれば、己が力と向き合う覚悟を示せ!応援してます!」
「……!お、お主はアグラッドの魔王の……!?」
岩場の方向から力強い声と共に現れたのは、宝鉤レンクロールを携えたジルドーだった。
「その覚悟すら持ち得ぬというのなら、貴様には国を憂う資格も魔王を名乗る資格もない。国を捨て、一人孤独に生きるのがお似合いだ!ククッ、それはそれで大変でしょうけど、がんばってください!」
「……!そ、そこまで言われる筋合いはないぞ、魔王ジルドー!私は誓ったのだ……。我が国を愛していた父の遺志を継ぐと。自分の力を国のためだけに捧げると」
「フッ、どうやら敗者の目をしているわけではないようだな。ならば、その誓いが本物であると我に示してみせろ。まぁ、そちらから来ないのであれば……こちらから仕掛けさせて頂きますので、覚悟してくださいねっ!」
ジルドーは不敵な笑みと共に、遠慮なく攻撃を仕掛けてきたのだった……。
覚悟して挑みます!
強奪魔王バトル
「ねえ、アリルちゃん……。私、あの人の喋り方が気になって仕方がないよ」
戦いに満足したのか、ジルドーは武器を下ろし、これ以上争う意志がないことを表明する。
そして、ジルドーはアリルに意外な提案を口にした。
「共闘……だと?優勝候補である魔帝ジルドーが、なぜ私と?」
「組んだ方が単純に勝率が上がるだろう?ならば、最後の二組になるまで共闘するのは賢い選択といえる……というのは建前だ。」
「時にアリルよ……今は亡き貴様の父の名はパルト、で間違いないか?」
「……?その通りだが」
「やはりな。結論から言おう。貴様の暴走の原因は……おそらくその血筋と、このアルカディアにある」
「むっ……?そ、それはどういうことだ?」
「本戦開始前にネルガルが調べた情報によると、このアルカディアという地には太古の魔族が封印されている。そして、アリル。お前はその魔族の血と力を受け継いだ、遠い子孫である可能性がある。びっくりですよね」
……ウソを言っている様子はない。どうやら根拠があっての発言らしい。
「ま、待つのだ。理解が追いつかぬ……。そもそも、父上は力を暴走させたことなど一度もなかったぞ?なぜ、私だけが……」
「ネルガルに渡された古文書によれば、封印されたという貴様の先祖は破壊神と恐れられていたようだ。」
「そして、貴様の先祖は当時の魔族達が用いた大規模な超魔術によって大地ごと……つまり、このアルカディアと共に次元の彼方に封印された。だが、永き時を経て封印が弱まり、アルカディアは再び魔界に戻ってきたのだ」
妙な結界がこの地を覆っているのも、その封印の影響によるものだろう……と、ジルドーは推測を織り交ぜながら続ける。
「貴様の暴走は、この地に眠る貴様の先祖と、その子孫である貴様の血が共鳴し合った結果なのかもしれん。」
「次元の彼方に追放されていたアルカディアが魔界との距離を詰めるたびに、その共鳴がより強いものになっていった……といったところだろう。話を聞いてくれてありがとうございます」
「……!確かに……暴走する時、私はいつも他の何かが自分の中に入ってくるような感覚に蝕まれるのだ。あり得ない話ではない、のかもしれん。し、しかしジルドーよ。それがなぜ私と共闘する理由になるのだ?」
「フッ、いい質問ですね!実は、我はネルガルよりとある密命を受けている。それを果たすために、貴様にも協力を求めたい……が、詳細を話す前に、まずは目の前の邪魔者を排除するとしよう」
そう言うと、ジルドーは少し退屈そうに視線を背後の大木へ向ける。
すると……大木の上から、一人の魔族がひらりと地面に舞い降りてきた。
「姿は隠していたが、見抜いていたか。久しいな、ジルドー。あの時の屈辱を晴らしに来たぞ」
「ほう。誰かと思えば、小動物に敗北したとウワサのタルタロスか。その様子だと、マウッスに与えられた傷は癒えたとみえる。もっとも、強奪魔王という看板についた傷は瘡蓋にすらなっていないようだが」
「理解しろ。今の私はあの時とは違う。貴様を斃すために虎視眈々と力を蓄えてきたのだ……。加えて、今この場にはお前の臣下であるあの魔剣士もいない。これが意味するところは、私が語るまでもないだろう?」
「ロックハルトがいなければ、我は貴様にすら劣ると?クク……理解が足りていないのは貴様の方だ、タルタロス。その様子では、蓄えたという力も些細なものなのだろうな。ちょっとがっかりです」
「相変わらず口だけは達者だな。まぁいい……。この槍はあらゆる生命を打ち貫く。そちらの小娘ごと、この私が屠ってやろう」
槍を構えるタルタロス。それに対し、ジルドーはニヤリと微笑を浮かべる。
「さて、アリルよ。かの強奪魔王は我々を敵とみなしたようだ。となれば、もはや迎え撃つ他あるまい。我と共に戦うのであれば、共闘の提案は承諾されたとみなすが。どうする?」
「ま、待ってくれ……!先ほどの話が確かなら、私が暴走する可能性は非常に高いのだろう?もし、再び仲間を傷つけるようなことになったら、私は……」
「先ほども言ったはずだ。己が力と向き合う覚悟を示せ、と。そもそも、貴様の隣にいるのは魔帝ジルドーだぞ?貴様の暴走など、赤子の手をひねるように収めてくれる。安心してもらって大丈夫ですよ!」
……その言葉を受け、アリルは自分の心臓が大きく脈打つのを感じた。
「……一つだけ聞かせてくれないか、ジルドーよ。お主は先ほど、私に修行をつけるような戦い方をしていた。目的のために私が必要だというのなら、力で私を従えることもできたはず。なぜ、そうしなかった?」
「簡単なことだ。我が目的は単独での達成が困難。ならば、協力者は少しでも強い方がいい。」
「それに……我が国アグラッドも、かつては衰退の道を進んでいたという過去がある。貴様を見ていると、昔の自分を少々思い出してしまうんです……じゃなく、思い出してしまうのだ」
端的に言えば……なんとなく放っておけない、とのことらしい。
「そうか。ならば、共闘の提案は断らせてもらう。そのうえで……こちらから共闘を申し込ませてほしい。構わない、だろうか……?」
「……悪くない提案だ。いいだろう、一緒にがんばりましょう!」
こうしてアリルは、ジルドーと共にタルタロスと一戦を交えることになった。
共闘する
魔襲激戦バトル
アリルとジルドーの猛攻を防ぎきれず、タルタロスの幻体はアルカディアから消滅した。これで五組のうち二組が脱落。残るはアリルのペアとジルドーのペア。そして、セイアスのペアが残っているはず……。
「実力は申し分ないようだな。となれば、我が目的に協力してもらうぞ。この闘技大会の勝敗などよりも遥かに重要な任務だ。心して聞いてもらえると本当に助かります……」
ジルドーは語り始めた。
――そう、あれは……二日前にネルガルの城へ呼び出された時のこと。
「なるほど。貴様は騒乱を避けるための処置として……かつ魔界のルールに従い、アルカディアを闘技大会の会場として選んだわけか。しかし、咄嗟の判断だったがゆえに、次元の歪みより現れしアルカディアという大地が、そもそもどういった場所なのかを把握しきれていない、と」
――アルカディア。古い言葉で理想郷という意味だったか。マナと自然が豊富な地であるがゆえに、暫定的にネルガルがそう名付けたと聞いている。
「あえて言おう。魔界は様々な次元と隣接している世界。次元の歪みから新たな大地が出現すること事態は別に珍しくはない。しかし、古文書や稀覯本をあたった結果、判明した事実がある」
――ネルガルは語った。アルカディアという地は、破壊神と呼ばれた太古の魔族を封印するために大地ごと封印された場所であること。加えて、その太古の魔族の子孫が魔王アリルだということ。そして、その封印が解けかけたことで、アルカディアが再び魔界に姿を現した……ということ。
「破壊神の目覚めは、おそらく魔界全土に混乱をもたらす。しかし、今さら闘技大会を取り下げたところで魔界の者達は納得しないだろう。それほどにこの闘技大会は注目を集めている。そこで……アグラッドの王ジルドー。参加者であるお前に、アルカディアの調査と脅威の排除を秘密裏に依頼したい」
「ほう?つまるところ、体裁を取り繕うために想定外の事態の火消し役を担え……ということか。ずいぶんと都合のいい話だな。事情はわかりますけど」
――皮肉を込めて返すと、ネルガルは深いため息を吐いた。よく見ると顔色も良くない……。おそらく、アルカディアのことを調べるのにかなりの体力を費やしたのだろう。
「…………。アルカディアは結界によって遮断された大地。現在、こちら側が用意した呪符を使う以外に魔族が立ち入る方法はない。その呪符も数が限られているがゆえ、無暗に使うことができないのが現状だ」
「……かと言って、本戦の参加者以外の人物がアルカディアに立ち入ってしまえば、闘技大会の正当性が失われる。そうなれば血に飢えた魔族達がアルカディアを求めて無秩序に暴れ回り、争いが起こる。さらに破壊神とやらの復活が重なれば……状況は最悪になるだろうな」
――確かにそれは我も望むところではない。それに、引き受ければ恩を売ることもできる、か。
「しかし、ネルガルよ。なぜ、任務の遂行者に我を選んだ?よければ聞かせてくださ……聞かせてはくれないか?」
「……あえて言おう。この任務に相応しいのはお前かセイアスのどちらかだと私は判断した。しかし、いくら考えても決められず、面倒になってあみだくじで決めたのだ」
――投げやりなネルガルの言葉に呆れながらも、我は依頼を引き受けた。
――そして本戦が始まり、我は参加者としてアルカディアに降り立った。まずは、今回のキーとなり得る魔王アリルと接触……する前に、我は破壊神が封印されたといわれている大樹のある地点へ向かうことにした。
「……確かに、この地は明らかに異質のようだな。しかも招かれざる客を呼び寄せてしまったらしい」
――大樹の近くまで来た我を待っていたのは参加者ではなく、おそらくこの地と所縁のある、強力な力を持つ古き者達の情報体だった。
「目覚めつつある破壊神の魔力の残滓によって具現化した襲撃者、といったところか。やれやれ……力が制限されたこの状態で相手をするには骨が折れるな。困ってしまいます……」
――我は襲撃者を退けるため、レンクロールを引き抜いたのだった。
迎撃する
魔縁三衆バトル
――こうして我は襲撃者達を退けたあと、アルカディアを駆け……
「……そして、先に貴様を見つけ、今に至るというわけだ。わかってくださいましたか?」
ジルドーの話を聞きながら、アリル達はセイアスを探していた。
「うむ、事情は把握した。しかし、セイアスは政治に本腰を入れ始めてからは、かなり慎重な性格になったと聞く。しかも私は一度セイアスと戦闘を行ってしまった。果たして仲間になってくれるかどうか……」
「セイアスさんって、最初にアリルちゃんが戦った男の子だよね?うーん、大丈夫な気がするけどなぁ。あの人、かいちょさんを見た時にちょっと嬉しそうな顔してたもん!」
ココの言葉を聞き、ジルドーは改めて***を視界を入れる。
「もしやと思っていたが……やはり貴様、あの***であったか。フッ、妙な縁だ。確か貴様は、セイアスとも旅をしたことがあったのだったな」
そう言うと、ジルドーは***の肩を軽く叩いた。
「そして今、貴様と縁を持つ魔王が一同に介し、新たな脅威に立ち向かわんとしている。魔界は……いや、あらゆる世界は貴様の作った縁を中心に回っているのかもしれませ……しれんな」
「な、なぬっ!?ジルドーやセイアスと共に旅を……?***、お主……一体何者なのだ?」
「それは聞いてやるな、アリルよ。この者にはこの者の事情が…………ッ!?この力の気配……大樹の方向か。誰かが交戦しているようだな。すぐに向かうぞ!転ばぬよう気を付けてください!」
この場にアリルとジルドーがいる以上、戦っているのはセイアスで間違いない。つまり……セイアスは今、参加者以外の者と戦闘中ということになる。
「……!アリルちゃん、あそこ見て!なんかすっごいゾロゾロいるよ!?」
驚きの声と共に、ココは大樹の真下を指差す。
「くっ……。なぜ、このようなことになっているのだ!?」
そこにいたのは、杖を構えているセイアスと……
「す、すまない。妙な二人組が放った術を受けてしまい、体が勝手に……」
「うぅ、どうしてこんなことに……!なんとかならないの!?」
「……不覚だ。死神として、いっそのこと死んでしまいたい」
ラムゼフ、ローゼリー、ロスティ……。各々の魔王の関係者達が、セイアスに攻撃を加えていた。
どうやら三人は、何らかの術によって体の自由を奪われてしまっているらしい。
「……闘技大会の名目を保つのが早くも困難になったな。まぁいい。魔王セイアスよ、我々も加勢させてもらうぞ!一人でよくがんばりましたね!」
「お、お前はアグラッドの?それに***と、カイドナのアリルまで。なぜ揃ってここに……」
「説明はあとだ。まずはこの者達を助けるぞ。しかし……見たところ、ラムゼフ達は我々と違い、幻体というわけではないようだな。一体、どのようにしてアルカディアに立ち入ったのだ?」
ジルドーの言葉が聞こえたのか、ラムゼフとローゼリーとロスティは苦悶の表情を浮かべながらゆっくりと口を開く。
「実はだな。試合をもっと間近で見ようと思い、観客席から離れて立ち入り禁止区域に入ったのだ。すると、結界がやけに弱い箇所を見つけてな。ティーを片手に結界をくぐってみたら、見知らぬ二人組に術をかけられ、この有様……というわけだ」
「一人だけズルイと思ってこの人を追いかけたら、私も術を受けちゃって……」
「……運営側として二人を連れ戻そうとしたら、追いかけた先で術を受けてしまった」
……元凶は“見知らぬ二人組”にあるようだが、こんな状況になってしまったのはだいたいラムゼフのせいらしい。
「“見知らぬ二人組”か。おそらくは破壊神の……いや、考えるのは三人を助けてからだ。アリル、セイアスよ。準備はよいか?」
「うむ、承知した。極力傷つけぬよう、無力化すればいいのだな」
「この状況が何を意味しているのか、余はとても知りたがっている……。あとでちゃんと教えてもらうぞ」
魔王達とかいちょは各々の武器を手に取り、戦闘態勢に入った。
三人を止める
使徒決戦バトル
「おお、体が動く……!感謝するぞ、者ども。あとでティーでもおごってやろう」
そして、ラムゼフ達は完全に体の自由を取り戻したのだった。
「やれやれ、面倒をかける……。して、ラムゼフよ。先ほど妙な二人組がどうとか言っていたな。詳しく教えてくれないか?疲れているところをすみませんね」
「……気を付けるのだ、ジルドー。あの二人組はかなり強いぞ。実に形容しがたいのだが、力そのものの次元が違うとでも言うべきか」
ラムゼフの話によると、その二人組は“実験”と称してラムゼフ達に術をかけてきたらしい。そして、嬉々とした様子で「レギス様の目覚めは近い」と口にしていたという。
「レギス……。この地に封印されている破壊神の名か?となると、その二人組とやらは破壊神と何らかの関わりがある者達といったところか……わかった。ひとまず、貴様達はアルカディアを離れるのだ。三人とも、歩けるか?無理しないでくださいね?」
ジルドーの問いに、ラムゼフ達は首を縦に振り、急ぎ足でその場をあとにした。
「……結界が弱まっている場所から入ってきた、とローゼリー達は言っていた。つまり、アルカディアを覆っている結界は今、その力を失いかけているということだ。破壊神とやらの目覚めは近いのかもしれんぞ」
事情を知ったセイアスは共闘を受け入れ、アリル達に力を貸してくれることになった。
「さて、どうする。我が先ほど語った通り、破壊神とやらはあの遠くにそびえている大樹に封印されている可能性が高い。目指す場所は大樹になるとは思うが、例の二人組とやらも気になるところだ」
それなのだが……と、アリルは表情を曇らせながらジルドーの言葉に続く。
「その二人組は大樹の近くにいるとみて間違いない。強い気配を感じるのだ……。私の内に潜む力と同じような、並々ならぬ気配を」
「……!ア、アリルちゃん大丈夫?汗、すごいよ……?サウナにがっつり入ったあとみたい……」
「例えはよくわからぬが、今のところは大丈夫だ。ただ、ジルドーの言う通り、これが破壊神とやらの覚醒と同調してのことなのだとしたら……やはり、暴走は避けられないのかもしれん。***よ。もし私が再び暴走した時はココのことを頼む。それと……ジルドー。いざという時は」
「二度も言わせるな。その時は必ず我が貴様を止めてやる。安心しろ」
「……すまぬ。面倒をかける」
こうしてアリル達は、目的地である大樹の方へ向かった。
「あれれ?風のような速さで同士討ちになると思ったんだけどなぁ。ざ~んねん♪」
そこには、鞭のような蔓の剣を携えた少女と……
「だから言ったでしょう、ラシーヌ。あの場で直々に排除しておくべきだったと……。我々の仕事は、レギス様の目覚めの妨げになるものをあらかじめ排除することなのですから」
ゴツゴツとした岩を操る一人の少女が、大樹を守るように立っていた。
「お堅いなぁロッシュは。ほら、あたし達だってさっき目覚めたばっかりなんだからさ。どんな力が使えたか~とか、楽する方法ないかな~とか、色々確認したくなるでしょ。なるでしょ?」
「なりません。まったく……レギス様に仕える同じ使徒だというのに、どうしてここまで性格に差が……」
「そういうところがお堅いんだって。でもまぁ、今回は面白くなりそうだね。すごい力を秘めた男の子魔族二人と、なぜかわからないけどレギス様やあたし達と同じタイプの魔力を持っている女の子魔族が一人。多分、さっきの三人組にかけた術を解除したのは女の子の方かな?」
「なるほど。我々と同じ魔力を持っているというのなら、あの術を相殺できてもおかしくはありません。何者なのか気になるところではありますが……今は仕事を優先しましょう」
言葉を交わす間もなく、臨戦態勢に入るラシーヌとロッシュ。
どうやら、こちらの言葉に耳を傾ける気はないようだ……。
「……矛先はアリルに向いているようだな。セイアス、***よ。我々はアリルのフォローに回るぞ。ラムゼフ達との戦いから察するに、あの二人に決定打を与えられるのは、同じ質の魔力を持っているアリルだけだろうからな」
「承知したぞ、ジルドー。余の幻術は元々、補助や妨害に特化した力。必ずや突破口を切り開いてみせよう。そこから先は……お前に任せるぞ、アリル」
アリルは小さく頷き、武器を構えたのだった……。
使徒と戦う
共鳴覚醒バトル
「そうですね。となれば、この身全てをレギス様復活のために捧げるのみ……」
戦いが長期戦に入ろうとした、その時。呪文を唱えたラシーヌとロッシュの体は無色透明の輝きに包まれると同時に、ふわりと浮き上がる。そのまま二人の体は大樹へと吸い寄せられ――
「……!大樹が二人を吸収した……いや、違う。あれは」
セイアスが驚愕の声を上げた瞬間。凄まじい地響きと共に、大樹から一人の少女が現れた。
『…………破壊。全テ』
少女は宙に浮き、じっとこちらを見下ろしている。
「な、なーんだ。破壊神だなんて言うものだから、てっきり目が血走ってるムキムキのオジサマでも出てくるのかと思ったけど、あたしよりもちっちゃい女の子じゃん!」
「ねぇアリルちゃん、本当にあの子が……ア、アリルちゃん?さっきよりも汗すごいよ……?」
アリルだけではない。ジルドーもセイアスも、少女を前にして一歩も動けずにいるようだ。
「ネルガルの言葉は間違っていなかったようだ。こいつは魔界全土に混乱を……否、必ずや破滅をもたらす。なんとしてもここで食い止めなければ……。セイアスよ、この状況をどう見る?」
「……余の見解を述べよう、ジルドー。不幸中の幸いとでもいうべきか、かの破壊神レギスは目覚めたばかりであるがゆえ、まだ完全に覚醒しきっていないようだ。」
「とはいえ、こうしている今もヤツの力は増していっている。ならば……!」
「速攻あるのみ、か。付き合うぞ、セイアス!」
武器を構え、レギスに飛びかかるジルドーとセイアス。しかし、レギスが指をパチンと鳴らした瞬間、透明な魔力がジルドーとセイアスを覆い、二人の体の自由を奪った。
「ジ、ジルドー!セイアス……ぐ、うァ……ッ!?」
「きゃあ!?ア、アリルちゃ……あ、ぅ……?」
さらに、アリルや人間達、***も体の自由を奪われ、身動き一つできなくなってしまった。そして、レギスはほんのりと微笑を浮かべ、開いた両手をこちらに向ける。
「魔力を……凝縮している?まずいぞ、あんなものを受けてしまえば我々は……いや、この一帯全てが焦土と化してしまう!くそっ、誰か動けるものはいないのか!?」
……この力を前にして動けるはずがない。わかっていながらも、ジルドーは声を掛け続ける。間近にまで迫っている圧倒的な絶望に逆らうかのように。
「……ココ、***よ。巻き込んでしまって……本当にすまない。すべて、私一人の責任だ」
アリルは弱々しい表情で、ココと***に謝罪の言葉を口にした。
「……何が魔王アリルだ。何が国を建て直すだ。結局、私はお前達を巻き込んだだけの疫病神だ。私の無力さが、お前達を……」
「ち、ちょっとアリルちゃん!死亡フラグ作らなくていいから!ほら、あのタリオンって人を倒した時の力を使えば逆転できるよ!絶対!」
「……言ったであろう。あの力は暴走によって起こるもの。自分の意志で使えるものではない。それに、仮にあの力を引き出せたとしても私一人では」
「あー、もうッ、うるっさい!アリルちゃんのおバカ!!」
後悔の言葉を口にするアリルを、ココは大声で一喝する。
「さっきから“私一人”だとか“無力”だとか弱音ば~っかじゃん!そうだよ、確かにアリルちゃん一人じゃ無力だよ!」
「だって、あたしから魔力を貰ってようやく他の魔王と戦えるぐらいだもん!弱っちぃったらありゃしない!ザコ!弱小魔王!」
「……むぐっ。か、返す言葉も」
「でも!アリルちゃん今一人じゃないじゃん!そもそも、自分一人で全部何とかしようってのが業腹なんだよ!」
「ほら、周りをよく見て!名立たる魔王がいて、そんな魔王達と共に死線をくぐった***さんがいて、ついでにオカ研のあたしだっているよ!いっぱい仲間いるじゃん!」
「……!」
「ね!?わかったら落ち込んでないで、いつもみたいに諦めが悪いとこ見せちゃいなよ!」
――私は自分の力を、自分の国を守ることだけに使う。その覚悟のもと、私はアルカディアでの戦いに挑んだ。だが……実際は私一人の力では何もできなかった。
――そう。“私”は無力。“私”だけでは何も守れない。“私”だけでは絶対に勝てない。だが……
「“私達”は……無力などでは、ない……!」
声と共に、アリルの体から力強い魔力の波が放たれた。すると、拘束されていた者達全員が体の自由を取り戻した。さらに、レギスの体にも異変が生じる……どうやら、内包している魔力量が一気に減少したようだ。
「***、ジルドー、セイアスよ!私がレギスの力を食い止めている間にヤツを倒してくれ!ココは私に魔力の補充を全力で頼む!」
「……そうか。アリルはレギスによって強制的に魔力を同調させられ、力を暴走させていた。しかしそれは、アリルからレギスに干渉することも可能であるということ……。」
「フッ、いいだろう。その指令、このジルドーが確かに承った!行くぞセイアス、***!共にがんばりましょう!」
「ああ。プーアル国の存続のため……いや、魔界の存続のため、この力を振るうとしよう……!」
……古代の魔族と現代の魔族。最終決戦が幕を開けた。
決戦に挑む
エピローグ
「……!くっ、うぁ……!」
そして、光の塊と化したレギスはジルドーの真横を通り過ぎ、アリルの体の中へ入っていった。
「なっ!?レギスめ、アリルの体と意識を乗っ取るつもりか!えぇい、アリルよ、正気を保て!貴様ならできますよ!」
悲鳴を上げ、頭を抱えながら苦しみ出すアリル。やがて、アリルの意識は遠のいていき……
『破壊。消去。消滅。破壊。破壊。破壊。消去。破壊。破壊。消去。破壊。消滅。破壊。破壊』
…………気が付くとアリルは、自らの精神の中でレギスという存在と対面していた。
「……そう、か。お主は古代の魔界に存在した大国を滅ぼすために、呪術師によって破壊衝動を植え付けられた、一人の魔族に過ぎなかったのだな。その破壊衝動は後天的に得たものだったのか。そして、大国を滅ぼしたあと、お主はお主を恐れた者達によって封印されてしまった」
レギスの意識が混入したことで、アリルはレギスの辿ってきた過去を自分のことのように“視る”ことができるようになった。
「悪戯に意識を捻じ曲げられたうえに破壊神として忌み嫌われ、さらには強制的に眠らされた……ひどい話だ。しかし、封印されて眠っている間も、お主は次元の海を彷徨いながら魔界への憎悪を昂らせていった。その執念が架け橋となり、ついにお主は魔界へ戻ってきたというわけだな」
『破壊。消滅。滅スル。破壊スル。全テ』
「…………。怨恨と破壊衝動だけを原動力に、お主は永遠にも近い時を彷徨い続けた。今、こうしてお主と一体になった私には、その辛さが……痛みが、よくわかる……」
アリルは顔を上げ、改めてレギスと向き合う。
「ずっと一人だったのだな、私と同じで。一人きりは……ちょっと、しんどいものな」
『破壊。全テ……破カイ』
「わかるよ。私も民を傷つけてしまってから他者と関わることを避けていた。だから自分一人で国をなんとかしようとして、結果として一人ぼっちになった」
ただ……と、アリルは続ける。
「こんな私にも仲間ができたのだ。支えてくれたり、共に戦ってくれたり、導いてくれたり、時には糾弾してくれたり……短い時間ではあるが運命を共にした、かけがえのない存在がな」
『…………』
「私は今、お主の過去を知った。過去を知るということは責任を持つということだ。だから、レギス……私はお主の全てを受け入れよう。破壊衝動も憎悪も孤独も、全て私が飲み込んでやる!」
レギスは何も言わなかった。しかし、その表情は、ほんの少しだけ――――
「……あっ!***さん!アリルちゃん起きましたよ!アリルちゃん、あたしだよ、ココだよ!わかる!?」
……気が付くと、アリルはどこかの部屋にある大きなベッドの上で寝ていた。
「む、ぅ……。ここは?」
「ジルドーさんのお城の中!アリルちゃん、あれから四日間ず~っと寝てたんだから!あ、ジルドーさんお抱えの宮廷治癒師さんが精密検査をしてくれたんだけど、体は異常ないって。むしろ以前よりも魔力量が増えて健康体ですらあるって言って……っと、その前に状況を説明しないとね!」
レギスの魂がアリルの中へ入ったあと、アリルはしばらく苦しみ悶えていたが、やがて安らかな表情を浮かべると共に意識を失った。その後、アリルはここに運ばれ、この部屋で四日間眠り続けていた。
「あとね!アルカディアは最初からなかったみたいに消えてなくなっちゃったの!封印の力が解けたことで、アルカディアの大地を保っていた力も一緒に消えたから~ってセイアスさんが言ってたよ!」
「……そうか。うむ、それでよかったのだろう。レギスにとっても、あそこはもう必要のない場所だ」
なお、闘技大会は予期せぬトラブルにより中止ということになったが、魔界中の魔族達がレギスの圧倒的な殺気を感じ取ったことで委縮し、ネルガルが危惧していた暴動などは起こらなかったという。
「んん?アリルちゃん、顔つき変わった?落ち着いてる感じがするっていうか。なんか魔王っぽい!」
「どういう意味だそれは……。ところで、ココよ。そこのテ―ブルにある本と書類は一体……?」
「お、よくぞ気が付きました!これはね、ネルガルさんの国から届いた書類だよ。難しいことはよくわかんないけど、国の運営とか貿易を一緒にやりませんか~?ってものみたい!」
「……!そ、それは我が国の存続のためにも非常にありがたい申し出だが。しかし、なぜ急に?」
どうやらアリルは今回の一件を収めた人物として、かなりの有名人になったらしい。
そして、闘技大会の主催者であるネルガルからその栄誉を称えられ、国の復興に必要なものがあれば惜しみなく提供する……という契約を結ぶ権利を手に入れていた。
「で、本の方はジルドーさんとセイアスさんから!『迷宮作りに必要なたった5万個のコト』『デパート経営のすゝめ』『テーマパーク大全』とかとか!うーん、どんな風に国を作るか迷うっちゃうね!」
「待て待て。ココよ、お主は人間界に帰らなければならないだろう」
「えええっ!?せっかくだし、この際最後まで協力させてよ!ていうか、まだ打ち上げも何もしてないし、せめて乾杯ぐらいしようよ~!!」
「……フッ。今さらだが、変わった人間だなココは。うむ、わかった!となれば、ひとまずは国の存続を祝って宴を開くとしよう!***、お前も付き合ってくれるか?」
……ひとまず、魔界はしばらく大丈夫だろう。
***は宴に参加したあと、アリル達に別れを告げ、次の世界へと旅立ったのだった。
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